お塩さんが行く四方世界   作:|ω・`)

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小鬼殺しの噂

「あ、あの!手伝って頂き、ありがとうございました!」

 

 ────いえ、お気になさらず。通りがかっただけですから。

 

「それでも、何かお礼を…」

 

 ────お気になさらず。お礼とするならば、より一層効果の高い水薬をお作りください。それが、回り回って私に返ってくるでしょう。それでは。

 

「あっ…」

 

 

 

 

 

 

 

 ────ハートロールは、良いものだ。

 最近、いや常々そう思う。人智を越えた信仰は必ずその結果を返すと言うが、鉄の民らはあらゆる物にその信仰を捧げる。物、というより、人間が創るという行為そのもの、と言った方が良いだろうか。結果、彼らが作った物は通常では考えられない効果が付与される事があるのだ。

 その内の一つが、ハートロールである。かのパンは、何時であろうと何処であろうと、その熱を保ち続ける。出来立てほやほやの美味しいロールパンが何時でも何処でも食べられるなどと、素晴らしいの一言以外無いではないか。鉄の民のサンクチュアリに寄った時、必ずその信仰の器に跪き、ハートロールを分けて貰っていた。デヴァラに持っていった時には些か驚かれたものだが、そのパンを口に含んだ時、彼女が顔を綻ばせていたのも覚えている。

 

 神を信じない物達が作った物を云々、と他のパラダインに言われてしまいそうだが、本来デヴァラとは排他的な女神ではない。むしろその逆と言える。古き神とは、何もデヴァラのみを差す言葉では無かった。空の神や海の神、収穫の神、豊穣の神といった、総勢十二柱の神々を言う言葉だったのだ。いつしかそれらの神々の信仰は薄れ、古き神々の信奉者のことを《デヴァラの光の信者》と呼ぶようになっただけの事である。名はデヴァラであるが、その信仰も様々だ、という事だ。何時だったか、ミーナというパラダインが『偽りの神を信じるからだ』と気炎を巻いて、相対した騎士の頭部をメイスで粉砕したという話を耳にした。相対した騎士の信仰は《三神》という、騎士、王、審判者を神として崇める物だったが、何もそれが偽りなどという事はない。あの世界は、あらゆる信仰が力を持ち、それを信者に返したのだから。

 

 話は戻るが、やはりハートロールは良いものだ。巡礼の旅の最中に、暖かい食べ物が恋しくなる時がある。そんな時に、あのほやほやなハートロールがあるだけで、どんなに救いになることか。無論、焚き火でじゃがいもや野生の動物たちの肉を調理することはある。けれど、麦の出来立てなパンが醸す、あの芳醇な香りには叶うまい。パン作り等が出来れば良かったのだが、今のところ上手く出来た事はない。とかく信仰を込めれば良いのだろうと遮二無二やると、淡く光を放つごわごわなパンのようなものが出来上がった。これでは、鉄の民に限らずデヴァラに対しても顔向けが出来ない。先ずは何処かで、美味しいパン作りを教わろうと思う。

 

 

 

 そんな事を考えながら旅を続けていると、小さな村に着いた。なんということはない、何処にでもあるような、小さな寒村だ。少しだけ目立つ建物には、風車の御印があった。きっと、交易神の寺院なのだろう。

 

「あんたぁ、旅のモンかい?」

 

 まだ村に入ってもいないのに、私の横には村人と思わしき男が居た。見ると、なにやら柵と杭らしき物を撤去している人々が居る。…そして、仄かに漂う、血と臓物の臭い。

 

 ────はい。光の神の元、巡礼を。…何かあったのですか?

 

「ゴブリンだぁ。妙な冒険者さんがおいでなすって、全部やっつけてくれただよ。」

 

 小鬼どもは世に絶えず、致命的失敗(ファンブル)起こしゃ湧いて出るとは強ち間違いでもないのかもしれない。ぽかじゃか湧かれるとたまった物ではないが、幸いこの村はどうにかなったようだ。

 

 ────妙な、ですか?

 

「んだぁ。変にぼろっちい革鎧で、兜の角が折れたかっこしてたんべ。最初はちっと疑ってたんけども、こんとおり依頼はこなしてくれだだ。礼も言えん内に帰っちまったからよぉ…けども、いやぁ良かっただよ。」

 

 村人たちの顔には、忙しそうにしながらも何処か安堵の表情が浮かんでいた。

 

 

 ─────

 

「そうですねぇ、あの冒険者さんは何処か妙ではありましたが、けれど誠実な人だったと思いますよ。」

 

 寺院の院長のご厚意で一晩の恩に預かる事となった。流石に只で止めて貰う訳にもいかず、宿泊費として銀貨幾ばくかを渡した。この寺院は寄る辺を失った子どもたちを預り、育てているようだ。溜め込んでばかりで使う機会がないのだから、このような場で渡した方が私の懐に入り続けるより余程健全だろう。子どもたちが寝静まってから、私は院長にここへ来た冒険者について訪ねることにした。

 聞くに、みすぼらしいとまではいかずとも新品とは程遠い装備に身を包み、剣は中途半端な長さだったという。けれど対応は良好で、宿泊費や小鬼どもを防ぐ柵の設置にかかる費用等も全て支払ったという。小鬼どもに金を払ってまで倒す冒険者。なるほど、確かに異質と言える。そして、農村の事にも詳しかったという。

 

「彼は恐らく、この村と同じような所の出身なのでしょうね。農民の領主とのやり取りも、理解した風でしたから。」

 

 院長は少し困ったように微笑みながら語っていた。辺境とは辛いもので、税を支払えども領主が守ってくれる訳ではない。故にこそ農民は強かになり、領主を出し抜く事もしばしばあるのだとか。交易神の神官ともなればそれは喜ばしいことではないのだろうが、この村の実情を鑑みるに致し方なし、といった所なのだろう。

 

 しかし、件の冒険者、気になってきた。冒険者というのだから、何処かの冒険者ギルドに所属している筈だ。この辺りの冒険者ギルドなど、それこそ私がしばしば立ち寄っているあそこしかない。以前に訪れてから随分と経つが、その時には話のような冒険者はいなかった。となれば、新人だろうか。そろそろ、一度訪れてみても良いかもしれない。

 

 おもむろに、ソルトの内から《帰還の鐘》を取り出す。信仰の器たる《大地のつぼ》は、あの街の借り受けた家に置いてあるが…さて。

 

 

 村から出て、《案内人の石》を外れた山の、小さな祠に置く。ここはどうやら小鬼どもの巣にはならなかったようだ。この石は、《帰還の角笛》で移動する先への寄る縁だ。サンクチュアリは無いが、これは置いても無くなる事はないので少し得をした気分になる。

 危急の用は無いが…帰還の鐘を使うか否か、悩ましいところだ。むむむ…好奇の心に打ち勝つのは、なんとも難しい。

 

 

 

 

 

 

 

 結局私は、歩いて行く事にした。折角近くまで寄ったのだ。歩いて行ける距離ならば、顔を出さないのも少し寂しい。まだ見ぬ噂の冒険者に思いを馳せながら、街への道を行く。

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