何事もなく午前、午後の授業が終わり放課後になった。
和気あいあいと帰る人たちを眺めながら、カバンに荷物を入れていつもの部室へ行く準備をする。
そういえば、と思い隣を見るとすでにどこかへ行っているのか席にはもう居なかった。いつの間に消えたのだろうか。まだ終わってから二分経っていないがはやくないだろうか。
まぁ、彼女にも用事があるのだろう。
そう考えた俺は、早足に部室へ向かうことにした。
◇ ◇ ◇
平塚先生に言われた言葉に私は冷静さを保てないでいた。
『今日、君の妹が奉仕部へ入部する』
私の妹、夏乃とは数年前に喧嘩して以来久しぶりに顔を合わせる。そもそも帰ってきていることすら知らなかった。妹の連絡先を知らないというのもあるけどやはり少し悲しい。
姉さんのほうは妹が帰国していることを知っているのだろうか。
「ゆきのんどうしたの? なんか落ち着きがないみたいだけど」
そわそわしていた私に気付いたのだろうか、心配そうな目でこちらを見てくる由比ヶ浜さん。
「いえ、なんでもないわ」
そう答えると、一層心配そうな顔になる。
「本当に何でもないの?」
震えるような声、例えるならそう、親に見捨てられそうな子犬のような感じで私に言う。
「ええ、本当に大丈夫よ。……でも心配してくれてありがとう」
「ゆきのん!」
小声で言ったつもりだったけど、どうやら聞こえていたらしい。
由比ヶ浜さんが私に抱き着いてくる。暑いと言っても放してくれないからしばらくはこうなるだろうと覚悟していると、部室の扉が開く音が聞こえる。
扉のほうに視線を向けると、腐った目の生徒がこちらを見ながら突っ立ていた。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………失礼しました」
「ちょっと待ちなさい」
とりあえずあの男の誤解を解かねば。
◇ ◇ ◇
部室の扉が開く。
「失礼するぞ」
「先生、毎回言っていますがノックを」
何度言っても直す気がなさそうな平塚先生に注意をする。
「そんなことより、雪ノ下。新入部員だ」
先生のその言葉に、ドクンとする。
ついに来る。数年ぶりに妹と対面する。
そう思うと、鼓動が早くなるのを感じる。
「入ってきたまえ」
「失礼します」
記憶にある声と少し違う、少しだけ大人びな声が聞こえる。
開いている扉から入ってくるのは。
「……夏乃っ」
私の声に反応した夏乃は、びくりと肩を揺らしてからこちらを見つめる。
しばらくこちらを見たのち、平塚先生のほうに向き、ジト目で口を開く。
「先生、狙いました?」
どこか怒気を含んだ声だった。
まだ。夏乃はまだ数年前のことを許していない。
数年前に口に出してしまった言葉を、夏乃はまだ許してはいない。
「……帰らせてもらいます」
静かで、尚且つ敵意を含んだ声でそう言って夏乃は部室から去っていった。
◇ ◇ ◇
「うむ。やはりこうなったか」
口に手を当てながら平塚先生が口を開く。
「分かっててやったんですか?」
「待て。雪ノ下、そう怒るな。これも計算のうちだ。これでいわゆるフラグが立った」
無意識に怒気を含んでいたらしい。いや、正確には八つ当たりに近い何か。我ながらまだ稚拙だ。
それよりもフラグ? 何を言っているのだろうか。
「ゲームのやりすぎだろ……。そんな簡単にフラグが立つわけないだろ」
「そうでもないぞ。改めてここで雪ノ下夏乃の雪ノ下雪乃に対しての認識を確認するのは意味がある」
真面目にこちらを見ながらそういう平塚先生。
「では、私からの依頼だ。雪ノ下夏乃を奉仕部に入部させたまえ」
平塚先生は、そう高らかに宣言した。
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