●発想の転換
ブリーフィング・ルームに主だったメンツを集め、作戦の詰めを行っていく。
その前に基本的な考えを示しておくことにした。
「話し合う前に頭の体操をしておこうか。此処にチェスボードと袋があるとする」
「チェスはともかく、袋ですか?」
前もってサクラを頼んでおいたジャコビアス・ノードがニヤニヤと応じる。
こちらも頷いて、仰々しく手を広げた。
「袋には何か一つ、一度だけ使える好きなイカサマを書き込んで良い。君たちならば、何を書いておく?」
「そうですなあ。一度に二回動かしてチェックメイトとか」
「周囲に居る駒を全て獲れるのでも良いでしょうな」
突拍子もない話だが、まあ頭の体操というのものはそんなものだ。
それぞれに自分なりの思考、ドクトリンに応じたイカサマ案を考慮し始めた。
「司令ならばどんな手を打ちますか?」
「私ならばそうだな。チェックメイトが決まった時、白と黒の担当を入れ換えるとでもしておくよ」
「そいつは酷でえ」
ハハハ……と周囲から笑いが巻き起こる。
他愛ない話をした後で、本題に入るとしよう。
「今回の作戦案は、相手の利点を逆用するという点にある。ベルファストの特徴を逆手に取り、地上戦力を分断するのだ」
「人数を連れて行けませんからね。納得です」
陸戦隊や戦車を載せるにしても限界がある。
モビルスーツを減らすにしても、減らし過ぎると制圧戦で大負けしてしまう。
だからといって、モビルスーツ満載でも拠点制圧は無理だ。あくまで人間こそが基地の施設を閉鎖して行ける。
痛し痒し、適度な具合にする必要があった。
海軍基地であったベルファストは、その構造上が分割構造になっている。
船のドックなどに利用し、同時に地上戦力を足止め出来るようになっているのだ。
逆に言えばこちらが上手く利用する事で、相手の陸戦隊や戦車を足止めできるだろう。
「ですがこちらの艦が足りません。また敵が大陸から戦力を戻したりした場合は?」
「未知の戦力が居る可能性があります。その対処は?」
「当然の懸念だな」
容量の大きいガウやケルゲレンで、人数や戦力の多い場所を抑える。
そこまでは良いにしろ、全ての場所を封鎖する事は難しい。
少なくとも五か所程度抑える必要があるし、分断を前提とする以上は移動を繰り返す訳にも行かないのだ。
「ソレには五隻目のザンジバルを当てる。『パープル・メイデン』はギリギリまで参加せず、隠れて総予備となる」
「そいつが増援を足止めするなり、未知の戦力を抑えると?」
「ですが信用出来るのですか? こういってはなんですが、判らないからこそ危険なのです」
五隻目……と驚きが拡がると同時に、それだけで可能なのかと首を傾げる者も居る。
当たり前だが懸念が杞憂である可能性があると同時に、未知の脅威は本当に想像以上である可能性もあるのだ。
秘匿戦力はザンジバル。
それ以上でもないが、載って居るメンツが素晴らしい。
「実際に肩を並べて戦ったウルフ・ガー隊に詳細は確認してくれ。だがノリスが三人加わると思って間違いが無い」
「はっ!? オヤジが三人?」
「本当だ。お前達も顔を合わせれば一目で納得する」
なんの冗談だよ……と呻くうちの問題児を、ヘンリー・ブーンが抑える。
そして同じ様な問題児であるトーマス・クルツに視線を向けると、「けっ」と舌打ちする姿が見られた。
「それほどの人材なのですか?」
「無論だ。だが彼らは此処には居ないことに成って居る。ザンジバルもだが、乗組員に関しても緘口令を敷かせてもらうぞ」
教官であるイアン・グレーデンをして驚くほどの相手。
ノリスはそれだけの腕前を持って居るし、彼に匹敵する人間が三人も居るとは信じられなのだろう。
同時にそれだけの戦力で有れば、未知の脅威に対抗できると信じられるだろう。
「では割り振りを発表する。申し訳ないが、リリーマルレーンはトーチカの制圧。場合によっては艦を捨てても構わん。必ず生きて帰れ」
「はっ! 必ず艦と共に帰還いたします」
最も装甲の厚いリリーマルレーンに対空砲座への対処を任せる。
海兵隊ならば揚陸作戦に慣れているし、そのまま周囲を制圧してくれるだろう。
それに損傷を突貫工事で直しているので、無事であっても近代化改修に回す必要があるだろう。
「ウルフ・ガー隊はドックの封鎖。他は討ち漏らしても構わないので、木馬を浮かせるな」
「はっ! 改修中のMS母艦を抑えます!」
やっぱりペガサス級のコードは木馬に成った。
ガルマの事を考えると不安だが、誰もが考える事は同じなので仕方あるまい。
ただ直接戦闘は少ないと思われるので、アイナやシローを比較的に安全な場所に回すと言う意味でも此処にしておきたい。
「ケルゲレンは兵器工廠。中に新型が居る可能性がある。二機一組で確実に制圧せよ」
「はっ! 可能ならば動く前に叩き潰します」
最悪、RXシリーズがが出てくる可能性がある。
手持ちの手札で最も強力なノリスを当てれないので、数が必要になる。
初期ジムの集団が居る可能性と、故障した場合に反応炉を利用するならばケルゲレンが妥当だろう。
「そしてガウは主要施設に乗り込む。留守はグレーデン、対空戦闘込みでお前に任せるぞ」
「はっ! 背後はお任せください!」
四方にある小拠点や周囲に散った防衛隊は、各隊が持つマゼラトップ砲にでも任せるしかない。
内側に居る部隊だけでもかなりの物量が居ると思われるので、万全とは行かないのが残念だ。
五隻目のパープル・メイデンを最初から使えたらと思わなくもないが、それでは予備戦力として相手の予備に備える意味が無い。
ちなみに本隊は最も危険な場所を抑えるので、手持ちはかなり豪華だ。
指揮小隊兼・制圧交渉用に私が率いるが、客将であるノリスとロイ・グリンウッドが花を添える。
第二小隊は捜索索敵小隊で、後にキマイラ隊に加入するジャコビアス・ノードが問題児達を率いる。
第三小隊は火力支援小隊で、イアン・グレーデンが率いて、マゼラトップ砲で援護する。
「あの……」
「なんだ? 手短に頼む」
アイナが居るのはギニアスの代理でもあるのだが……。
ここで提案する様な事があっただろうか?
嫌な予感がしたので話を打ち切ろうと、手早く済ませようとした。
「連邦よりも先にビーム兵器を示すのはいかがでしょうか? また私は兄の元でテストパイロットを務めておりました。イザとなれば、出力の管理や代用の技術があります」
「それはそうだが……」
確かに以前に頼んだ武装がケルゲレンには眠って居た筈だ。
宇宙で使ったビームランチャーの小型試作用を持って行き、敵司令部への扉を焼き払う。
そうすれば基幹技術でも遅れを取ってしまったと、モグラ供も恐れを為すかもしれない。
ギニアスの事だからアプサラスに搭載する為に、改良を続けた可能性もある。
ルナチタニウムを貫く様な威力はともかく、少なくともサビついて動かせないとか、壊れていることは無いだろうから示威行為には十分な筈……。
しかしソレでは、アイナを危険な場所へワザワザ連れて行く事になりかねなかった。
「兄は常々言っておりました。病で戦場に立てない自分の技術を役立てたいと。そして私も無用な戦いは一刻も早く終わらせたいと思います」
「しかし……」
正論で言えばノーならばノーと言えた。
ただ技術を誇示したいだけならば、具申など切って捨てれば良い。
だがこの戦いを優位に進める手段であり、秘匿戦力であるパープル・メイデン隊を隠したまま使える切り札である。
戦局を確かにし、司令官が降伏を考えるような手段を捨てられる訳がない。
「だがそれでは君を危険に晒す事に……」
「戦場では何処でも危険だと聞き及びました。それに一介の兵士であれば躊躇う必要もないでしょう。……サハリン家のアイナとしては、一緒にお連れくださいと申し上げます」
核が欲しい。
一発の核弾頭があれば、ゲームのOPで見たムービーの様に焼き払って済ませられるものを。
自分は少女の望みを止められない、死地に向かうのを不要だと言い切る気概も能力も無いのだ。
愛して居るかはともかくとして、親戚だとか近所に可愛い子が居るな……程度の気持ちはあった。
もし愛であれば来るなと言えただろうし、知人だと割り切ることができれば戦力として見なす事も出来たろう。
結局は中途半端で済ませたことが、この事態を招いたと言える。
「司令。アイナ様は必ずや、このノリスがお守りいたします」
「ここでは駄目だと言うのもどうかと思いますよ。おい、お前らの誰か、マダガルカルに移れ」
「仕方ねえなぁ。勝率が上がるなら仕方ねえよなあ。終わったら酒でも奢ってくれるんだろうし、仕方ねえよなぁ」
クソ問題児がこの時ばかりに、素直に頷きやがった。
ニヤニヤと笑いながら、何度も仕方無いと言っているのが憎らしい。
「判った。敵司令部の前を薙ぎ払う以上は対策される可能性がある。その事は忘れないで居て欲しい」
「はい! 絶対に足手まといにはなりません!」
こうして押し切られる形で、アイナを伴って突入作戦を行うことにした。
キャノンザックを専用のビームキャノンザックに置き換え、電源を兼ねた予備のシールドをアイナと合わせて二枚用意する。
サイサリスのシールドに似ているが、本体が華奢なのが不安な所だ。
●ベルファスト攻略作戦の開始
三々五々、バラバラに出発して現地集合。
ガウはこれ見よがしにユーリが陣を下げた場所まで移動しつつ、途中でUターン。
どのみち基地に他の隊が突入した所へ突っ込むので、多少遅れるのは構わない。
ミノフスキー粒子の散布濃度を上げたおかげで、こちらの居場所が探知できないのはありがたい。
奇襲攻撃を掛けることは見透かされている筈だが、まずはパリを確実に守る為に、連中は戦線を動けないからだ。
まさか厳重に守られている筈のベルファストを目指すとは思いもよらないだろう。
(まあジャブローをマッドアングラー隊が攻めた時と比べて、かなり有利なんだけどな)
ジオン水泳部があれば楽勝だったのにと思うが、無いモノは仕方が無い。
今回の作戦にしろ、北米を優先せずに原作通りオデッサを先にすれば、今頃はパリから直接ドーバーを渡った可能性すらあるだろう。
だがマスドライバーで対空砲火を潰すのを早めに止めたので、コロニー落下の影響が少ないと判った時点で迎撃されたかもしれない。
そうすれば北米が失陥して居ない可能すらあるので、過去に戻れたとしても、入れ換えることができない選択だと言えた。
(やれることはやった。後は運に任せず、仁慈を尽くして自ら奪いに行くだけだ)
マイクを手に艦内放送をオン。
慣れないがこれで士気が上がるならばやるしかあるまい。
「かつて一つであったパンゲア大陸は、宇宙という一枚岩の新大陸によって再び一つと成る」
今頃はユーリが担当して居る戦場でも戦闘が始まったころだろう。
残しておいたファットアンクルやギャロップも、ミノフスキー濃度を重戦闘散布で維持したままゲリラ戦に移行して居る筈だ。
「……各員の奮闘に期待する」
ガウを副官や参謀に任せながら、信用できる相棒が必要だと感じる。
専用機が無い間は付けられた人事のままで良かったが、今思えば公私ともに相談できる相手は必要だろう。
アイナを秘書にするのは問題があるかもしれないが、シローを政治面込みの参謀役で呼ぶのは悪くないと思える。
カタパルトに移動してそんな他愛の無い……今更ながらの事を考えていた。
やがてベルファストの空に砲火が飛ぶのを確認しながら、アイナ機やノリス機を眺めて心を落ち着かせていく。
大空を舞い着地の振動を感じ、やがて出てきた戦車隊やせり上がって来る砲塔を眺めてザクにステップを踏ませる準備だけはしておいた。
「全員居るな!? 総員、突入!」
「「おー!!」」
品の良い連中も含めて怒号が飛び交った。
性格にはその筈だが、ミノフスキー粒子が散布されているのが聞こえはしない。
「グリンウッド。足止め部隊は任せる。グレーデンと一緒に適当に引っ掻きまわしてくれ」
「フハッハハハ! 地の利さえあれば何機でも任せてもらおうか!」
脇道から出てきたザニーを先行するノリスが切り捨てた。
グリンウッド機は迷わず反対側に進路を変更し、時折にブースターザックを利用してビルを飛び越えて行く。
代わりにアイナ機が前に出ようとするが、片手で押し留めて斜めに構えた陣形を維持する事にした。
「どうしてですか? 心配ならば……」
「逆だ。ランチャーを守るには後方からの襲撃が一番困るからね」
言い訳じみていたがアイナとしても理解はできたのだろう。
ビームキャノンザックにしがみつく様に、彼女としては、我身を盾にして後方からの視界を遮断する。
「ガルマ様。ビル陰に小形戦車とモビルスーツが居ますので、始末してまいります」
「任せる」
「ならば私も……」
ノリスはアイナの声を無視して、一気に駆け抜けた。
途中でワイヤーをビルに引っ掛けて、急制動を掛けると待ち伏せをスルー。
改めてステップを賭けて、次々に葬って居るのだろう……。
敵にしなくて良かったと思う反面、気を効かせ過ぎなんだよ爺やと思わなくもない。
多分、アイナも私の事は意識して居ないと思うぞ。
いいとこ親戚の御兄さんか、近所の御兄さんだろう。
まあサハリン家の没落が無くなって居るならば、ギニアスを迎え入れたキシリアの功績だしな。
……紫ババアが介入者でない限りは。
ともあれ今はベルファストの攻略に専念するべきだろう。
彼方にペガサス級が着床して軽く爆発するのをみながら、作戦が第二段階に達したことを悟った。
と言う訳で、何も無ければ本日二本目の予定です。
予約で来て居なければ、後で出し直します。
戦力の二つ目は、秘匿している五隻目のザンジバル。
もちろん新造艦が間に合う訳は無いので、修練用の一番艦。
ザンジバル級ザンジバルになります。
それに乗って、習熟旅行している人達が隠し玉になりますね。
その上で見返して居てすっかり忘れていたビームランチャー。
長距離用は本国で研究しているにせよ、小型用は自分で研究するであろうことを思い出しました。
その上で真面目に運用を考えたら、「あれ。アイナが近くに居ないと駄目だよね」と気が付いたので、話題をでっちあげております。
まあビームバズーカに、専用のザックと電源シールドが必要になった劣化モデルですけれどね。
それでも一年戦争の序盤に出て来ると効果は大きいかと思います。
威力の方では無く、将校を驚かせると言う意味で。