●補充兵
時計の針を止め、二階級特進した部下の荷物に掛けた。
死体ごと後送し、時間があればサイド3に送れるだけまったく恵まれている。
キリがないので後ろ向きな考えはそこで止めておいた。
司令官の立ち場として残念なネタとしては、良い話題と悪い話題のネタが使えないことだ。
基本的には両方判るように成って居るものだし、部下に聞いても面白くもなんともない。
「先日の部隊は新編だったそうだぞ。道理で不慣れな連中も混じって居る筈だ」
「ということは旧パキスタンで出逢った連中はそのままですか? 良いん話なんだか悪いんだが」
あれ全部御代りかよ。
相変わらず連邦の国力は頭おかしい。
まあガンダムの世界は銀英伝以上に国力差が酷いからな。仕方無い。
「それでこちらの補充は?」
「ロシア戦線の停滞が決まった。海兵隊の機種転換訓練に合わせて、連中のザクがこっちに来る」
その話題をしたとき、ハッキリとシローの顔色が変わった。
それもそうだろう、我軍の主力が将来的にフリーになるということだ。
ユーリ達の戦力を引き抜いておくれば、キリマンジャロと北米は安泰になるだろう。
「おめでとうございます! これで懸念の一つが晴れましたね。……しかしアレを使ってしまって良かったのですか?」
「騙し打ちで核を使う様な戦術に頼るのは好かん。どうしても必要になれば、貯金箱を逆さまに振るだけの事さ」
マ・クベ貯金と言うべきか。
奴が確保して居た水爆二発を送って、連邦の交換立会いの元で封印施設を作ることになった。
昔から色んなストーリーで出て来る、シベリアに核貯蔵庫を作って永久に封印しようと言うアレだ。
地上にたまりきった各プラントの燃えカスも、ついでに仕舞っておくことになっている。
完全に戦線が止まるとは言わんが、余波を与えない為に場所が限られてくるだろう。
冬場の間に陣地を構築しておいたこともあり、かなり停滞する筈だ。
「パイロットの方も喜んでいいぞ。ブーンの査問が終わって復帰する」
「ブーン隊長が!? それは朗報です。キシリア派には腕を買われていただけでしょう」
それなら良いなと心から思う。
政治取引で前線で死んで来いとか、そういうのもあるので油断はできない。
だが腕の確かなブーンと、彼の選んだパイロット数名は重要な補充要員だ。
しかも本国の兵力だから、アフリカやヨーロッパの防衛力低下を嘆かなくても良い。
「ともあれこれで一安心ですね。連邦とは比べ物にはなりませんが……本当にオデッサに向かいますかね?」
「来るさ。戦争には流れと言うモノが存在する。歴史と一緒で一つ二つの差では大戦略は覆らん」
真面目な話、キリマンジャロ辺りを落とされても直ぐには困らない。
これはロシアも同様で、確かに痛いが……。
オデッサを中心とした鉱山・工業エリア、および欧州の裏口から続く穀倉地帯を取られる程の痛みではない。
それこそ戦線を縮小し、ヨーロッパに籠ってしまえば同じことだ。
もう一つ北米という考え方もあるが、水泳部が完成した以上は、やったら自殺行為である。
ユカタン半島だか南部の海岸線が、血とオイルで濡れるだけだろう。
「と言う訳だ。しばらくこのインド亜大陸の上で陣地戦を行うぞ」
「はっ!」
ちなみにヘンリー・ブーンの他に、トーマス・クルツほか数人の補充が来る。
政治上の問題でこっちに違和感ないメンバーを頼んだら、本当にラカン・ダカランが来た。
もっともこの時代は筋は良いが、それほどの腕では無いらしい。
新生ウルフ・ガー隊のコア・メンバーに育ってほしい物だ。
●二度あることは三度ある
連邦の重要基地を避けつつ、インド中央部へ進出。
東部と沿岸部への侵攻は始まっているので、これで亜大陸制覇に見えなくもない。
ゆえに勝利する必要があり、連邦も必死で防衛して来るのは当然の帰結だった。
「グリンウッドも出逢った? ということはこいつらも新編か」
「まったく、どのくらい此処に投入したんでしょうね」
もっとも事情を知らない連邦からしてみると、インドを失う手前なのだから仕方が無い。
実は逆進したら簡単に取り戻せるなんて思う筈も無いから、今はとにかく数を投入して居るのだろう。
とはいえここで付き合ったらスリ傷では済まない。
本格的な戦いはもう一ヶ月くらい、先延ばしにしてドムの先行量産を待ちたい所だ。
「よし、撤兵する。速やかに撤収して、ジャコビアスの部隊の元へ急ぐぞ」
「挟み討ちですか? しかしあの連中はどうしましょう?」
当然の追い掛けて来るよね。
後方に十分な数のミデアがいれば、こっちがファットアンクル数機を呼んでも追いつくだろうし。
それに兵士たちの指揮も問題だ。
「罠に嵌めたと思わせるしかないな。……ファットアンクルと一緒に直衛に残したグレーデンの隊も呼んでおけ」
「撤収準備を行いながら、曲射攻撃ですか?」
頷きながら地形を選定する。
ファットアンクルが着陸出来て、かつ視界もそれなりに遮られた場所が良いだろう。
そう思った時、原作に似た様なシチュエーションがあるのを思い出した。
(ホワイトベース隊にガルマがやられたシーンが良く似てるな。……よし、流用させてもらうか)
ガルマが死んだシーンを流用するというのも不謹慎な気がするが、忘れよう。
立った者は親でも使えと言うが、役に立つ作戦は自分のキャラでも利用する。
「あそこの丘を利用しよう、小さな林のある場所だ。必要数ギリギリのファットアンクルを呼んでグレーデンを伏せさせる。乗って逃げると思わせておいて伏撃」
「頭数が合って居れば安心しますからね。了解です」
それはそれとして、作戦が上手く行くかは別だ。
球場跡地を利用したホワイトベース隊のネタに近い形になるように考えただけで、細部は違う。
相手もミデアを呼ぶとは思えないし、そのまま突っ込んで来るにしても、速攻を掛ける可能性がある。
「急襲に備えて殿軍を編成する。私とシローと……」
「俺も参加するぜ!」
問題児が随分と素直になったもんだ。
よほど部下の戦死が応えたというか、何かやらないと気が済まないのだろう。
「判った。私達三人だけならば、イザとなればホバーモドキを利用できる。場合によっては飛び移ると思わせるぞ」
「了解!」
「任せとけ!」
ホバーモドキでショートカットしながら移動すれば、相手も逃走だと思い易いだろう。
それに装甲厚からいっても、試作型ドムx2と専用ザクというのは悪くない。
腕前の問題でもグレーデンと合わせてかなりの密度だ。
相手が全機で追いすがって来ても、まあなんとかなるだろう。
「では全期行動開始! 一足先に私の班からだ」
「アマダ大尉、お先に失礼します!」
撤退信号を上げて、隊を二つに割って後退を始める。
二頭の蛇が片方の頭を下げもう片方を下げる様に、徐々に下がっていく。
その間はもう片方が援護射撃を行い、ダメージの強力な白兵攻撃へ対処だ。
(あまりやり過ぎると警戒して追って来ないか……。いや、そんな余裕は無いな)
少しずつ下がりながらキャノンザックとマシンガンで迎撃。
こういう時に限って、いきなり直撃して判断を迷わせてくれる。
これが急いで倒さねばならない時に出来るなら苦労はしないのだが、世のままならないものだ。
「シローの班が戻って来るまでここで待機! 後ろを取らせるな!」
「了解です!」
私はザクマシンガンとシールドを僚機に渡すと、バックパックに取りつけたマゼラトップ砲を展開。
キャノンザックと一緒に連射して、弾幕を張ることにした。
その間にシローの隊が徐々に下がり、一定の距離を開けたところで、一気に走り始めた。
「ファットアンクルが見え始めました!」
「よし。第二段階に入る。私達三人を残して先に行け!」
「御無事で!」
丘陵の陰に隠れる為に、ファットアンクルが旋回して着陸態勢に入る。
先行して物陰に入り込むのは、おそらくグレーデン機が搭載されたやつだろう。
その場所が目立たない様に、そしてその位置から曲射攻撃できる場所を今の内から選定しておく。
「では二人とも、準備はいいな? にげ……いや、後ろに向かって突撃する!」
「ははっ。後ろに突撃かよ。こいつはいいや!」
すまんがパクリだ。
私にギャグのセンスはない。
タイミングを図って一気に加速。
ホバーモドキを吹かして、三機は一度直進してUターンを掛ける。
追い掛けようと前に出てきた相手に集中砲火を掛け、今度こそ下がることにした。
「構わん、準備の出来た機から上げろ!」
「せめて上空から援護します!」
先行した機体がファットアンクルから身を乗り出し、散発的にクラッカーをまいている。
こちらは二歩ステップ移動して一回射撃、次は全力走行してまたホバー。
発熱が収まったところでまたホバーステップと、苦労して居ることを演出して下がり続けた。
「こういう時は旧型がありがたいな」
「まさかこんな使い道で役に立つとは思いませんでした」
最後に残った一機に、私とシローの機体が先に載る。
そして残ったあいつが滑るようにホバーを掛け、丘を利用して飛び上がるのを両手を掲げて迎え入れるかの態勢を作りあげた。
まあ本当にソレをやっても良いんだけどな。
森の影でグレーデンが他の二機と共にマゼラトップ砲を構えている。
キャノンザックも展開済みで、いつでも撃つことが出来る態勢だ。
「三、二、一!」
「撃て!」
ファットアンクルが動き出した段階で、私は降下し直し。
シローも段階を追って降下予定だ。
そのころにはグレーデン隊は曲射砲撃を行っており、前段命中とはいかないがシールドを掲げて無い分だけ上手くダメージを与えていた。
「成功です! 追撃を掛けますか?」
「無用だ! グリンウッド達が気になる! もう二・三発撃ったら本当に撤収するぞ!」
逃走中の追撃がもっとも損害を出すのだが、たまに逆もあり得る。
今まさに追ってくるお調子者を倒したばかりで、名残惜しいがここまでだ。
倒した機体に弾丸とクラッカーを放り込み、睨みあっているもう一隊の援護に向かった。
先日と違って戦闘には発達して居ないが……。
だからこそ先ほど追撃しなかったことで時間という貴重な代価を得ることが出来たと言っても良い。
「残弾を分配しろ! もう一戦してインド亜大陸を獲る!」
「了解です!」
こうしてインド中部を巡る戦いが、そのままインド亜大陸を巡る戦いに移行する。
ここで連邦の派遣して来た大規模な部隊を有利な間に潰せば、表面上であろうとも占拠できるのだから。
と言う訳でサクサクとインドを攻略。
焦った連邦が逐次投入して居る間に、一気に制圧する事になります。
次回でインド制圧! 連邦が本腰いれてインド奪還!
という流れになる予定ですね。
まあ連邦が動かずに、ドムの生産が間に合ってもそれはそれで良いのですが。
ともあれ次回を終えれば、第二部の主目的である『ジオン主導のオデッサ戦』へと移行して行くことになるでしょう。
●現在の情勢
ロシア戦線:
核処理施設で連邦の官僚と取引。
戦力の一部をキリマンジャロと北米に振り分けて、要塞化の完了。
シーマ隊は先行量産されたドムを受け取り、訓練中(南下予定)。
北米・キリマンジャロ:
そろそろ要塞化終了。戦力も送られてくる予定。
ベルファスト・欧州:
通常戦力の生産中。モビルスーツ工場の設置完了。
おや、ルナタンクの様子が……。
闇夜のフェンリル隊:
インド中央へ?
新生ウルフ・ガー隊
旧パキスタンで連邦の部隊とお見合い
包囲態勢と思わせつつ、インド入り
マ・クベ
豚さん貯金箱状態。
水爆三発をボッシュート。
代わりに東欧司令に格上げ(執務を押しつけられたとも言う)
●ガルマの手持ち(精鋭一個大隊の機動戦力と、疑似的に存在して居る……額面上は数個大隊)
右翼中隊:
シローが副隊長。エースのうち最も小者もこちらに。
イアン・グレーデン他、火力小隊もこちらに。中隊だけど少し多め。
左翼中隊:
ロイ・グリンウッドが隊長、ジャコビアス・ノードが副隊長。
問題児の怪我して無い方もこちらに。捜索力は高めだが、火力はやや低め。中隊だけど少し多め。
増強中隊
闇夜のフェンリル隊、新生ウルフ・ガー隊、水泳部の一部。
現在は到着して居ないが、腕効きが多いので、三個小隊でも中隊と呼ばれている。
母艦はすべてファットアンクルとギャロップ。
ガウはニューデリーで、アイナ以下残存部隊と共に、ジオンがインド経営して居るフリを実行中。
(ロシア戦線から引き抜かれた部隊が一時的に通ったり、逆の輸送も此処を通るので大部隊に見える)