●インド奪還作戦、そして……
視点は一時、連邦側へ。
発表された大規模作戦に、士官食堂も騒然となる。
「変なの。なんで今更出動命令なんだろ。僕らが動けばインドだって最初から問題無かったのに」
「そりゃあ……おめえ。軍にも事情があるって奴だよ」
テリー・サンダースはこの少年が苦手だった。
曹長に昇進し、先任として士官食堂にも入れるサンダースだが……。
肉弾戦を除いて何一つ、この少年に敵う所が無い。
士官学校の候補生の中でも、アカデミィと仇名される特別コースで鍛えられている内の一人とは言え、立つ瀬が無い。
「そういう言い方、嫌いだな。何でもいいから教えてよ」
「戦いは数だよ。お前さんみたいな例外を除いて……基本的にはな」
いや、部隊内でも勝てる奴がどれほど居るのだろう。
まだ候補生だと言うのに、自分どころか部隊内で一番の、ユウに匹敵する腕を持っている。
あとは読み込み合い込みで、機動戦闘のフォルド、砲撃戦でエイガーくらいだろうか?
まあ、そうでなければ、繰り上げで戦場へ……などと呼ばれはしないだろうが。
「隊長、あとは頼んます。俺じゃあこれが限界で」
「はん? そんなのエイガーに投げるに決まってるだろ。って訳で頼むわ」
「……はあ」
サンダースに話題を振られたリド・ヴォルフは頼れる部下へ丸投げした。
立った者は親でも使えと言うが、役に立つならば、座って居ても使ってよろしい。
それが軍隊というやつである。
「腕前が左右するのは十機くらいまで。二十、三十と増えるに従って勝率は平均化して来る。
これは判るな?」
「ええ。ガンダムや僕らのような例外はまず存在しませんからね」
エイガーはそこで再び溜息をついた。
彼自身は砲兵出身なので、絶対に当たる攻撃で少年を追いこむ事は出来る。
だが読み合いが通じない状況で有れば、一方的に翻弄されるのは彼の方だ。
エースに成りきれない腕前であるのは自覚して居るし、少年が別格なのも理解して居る。
だが、それを認められても、社会秩序の問題で、放置できるかは別の事だ。
「上官からの言葉にはハイだ。命令じゃないから、厳しくは言わないが。……話が反れた。上層部はできるだけ数を揃えて挑みたかったんだ」
「じゃあ、なんで今更なんですか? インドを救うなら僕らで援軍に行けば良かったし、確実に勝ちたいならもっと待てば良いじゃないですか」
ここで話題は最初に戻る。
ジオンが一気に投入出来る戦力は、多くて三十機程とされる(通常戦力や守備隊を除く)。
それに対して連邦は、毎月の生産数だけで同じくらいはある。
では、何故今までは駄目だったか? どうして今回は良いのか?
「大人の事情があってな。ジムを欲しがる場所はインドだけでなく一杯あった。それが今回は妥協したんだ」
「それでみんな黙ってたんですね。……大人って汚いや」
結局のところ、政治取引だというダーティな言葉を使わざるを得ない。
少年は子供である自分が守られている事、そしてつまらない事情で他人の生死をやり取りする大人たちに呆れて居た。
「オレが聞いた所に寄ると、ジムだけで百機は揃うって事になったらしいな」
「百っ……」
「でも、良く許可出しましたね、うちの司令官」
ここでリドが内緒だと口にするのだが……。
サンダースも流石に百機とまでは想像して居なかったらしい。
いきなりそれだけの戦力が揃う事になった事態に、少年は理由を悟る。
反転攻勢に必要なだけの戦力が揃ったということは、反対して居た誰かが納得下に他ならない。
「あの人、人類が殺し合うのは良くない。戦うならその気も起きないほどの戦力でって、何時も言ってたじゃないですか」
「それはね、アムロ。負けて勝つということもあると、気が付いたからだよ」
「司令官閣下!? 失礼しました!」
士官食堂に顔を出した司令官に、一同は話を中断して立ち上がる。
それを制して、彼はこう続けた。
「他方の意見を認めることで、こちらの意見も認めてもらうということさ。他人の上に立とうとする傲慢な勝者よりも、謙虚に失敗を認められる敗者になりたいものだ」
「気持ちは判りますがね。敗者は止めてくださいよ、縁起でも無い」
直属ゆえにこうしたやり取りを何度もやって居るのか、リドは混ぜっ返す。
司令官の演技過剰な部分は仲間達も知っているので、和やかな雰囲気が流れた。
「もちろん、十分な戦力が揃うと判り、戦友が死ななくて済むと判ったからでもあるがね」
「それなんですが、なんでまた急に百機も?」
「差支えなければ自分も教えていただければ……。もちろん、軍機であれば不用です」
本来ならば秘密にすることだ。
だが此処に居るメンバーは、誰もが秘密にすべき戦技研の秘密プロジェクトに所属して居る。
そして、百機も集まる様な事など、そのうち公表されるか、暗黙の了解になるだろう。
「ここだけの話、ロシア戦線の停滞が決まったからだ。なら私の手持ちも加えれば百機が揃う」
「ジオンとも何らかの取引があったって訳ですかい。まあシベリアで殴り合ってもなんも良いこと無いですからね」
「それで戦力がこちらに来るというなら、皮肉なもんですね。うちは助かりますが」
身近な大人達の会話を聞きながら、少年は僅かに首を傾げた。
それは当然の疑問であるが、圧倒的な大戦力の前には無視されることもある可能性だ。
「でも相手も知って居る事ですよね? 偶然の出来事じゃなかったら予想されてるんじゃ」
「幾らなんでも問題無いだろ。ジムだけで百機って全部で三百は超えるぞ?」
それまで上官同士の話題に口を挟まなかったサンダースも、候補生のアムロには口出して来た。
あるいは緩くなって来た雰囲気に触発されたのかもしれない。
「……アムロは賢いな」
「っ!? まさかワイアット司令!」
ワイアットと呼ばれた司令官は、あえて言葉を選んだ様子だった。
芝居掛った事を口にする男だが、それでも軍全体の事に冗談を入れるとは思えない。
「当然、予想して居るだろうね。他の将軍たちの反応は、『今直ぐ攻めれば準備も出来まい』という程度なのが、もどかしくはある」
「連邦が負ける可能性も?」
ワイアットは憂いを帯びた表情で首を振る。
大戦力に負けは無く、大戦略に敗北は無い。
その事自体に間違いは無いし、まともな方法で負けるとも思えないのだ。
「それ以上の用意をするつもりだし、これからも口を酸っぱくして対処を求めるつもりだよ。当然ながら、引き分けや敗北に持ち込まれた場合もね」
「犠牲が出るのは止むを得ないと言うことですかい」
「そんな……」
リドは肩をすくめておどけて見せるが、サンダースは唖然としてしまった。
それで死ぬのは自分たちなのだ。
だからこそ、司令官であるワイアットの顔は憂いを帯び、可能な限り死者を出すまいとしている。
「しかし、これだけの戦力差をどうやって……まさか戦略核じゃあ」
「ですが中尉。南極条約で禁止されているのを使ったんじゃあ、絶対非難されますよ?」
エイガーの懸念にゾっとしつつも、もう挟むまいと思っていたのに口を挟んでしまう。
核や毒ガスだけはないと信じたい。
だが百機のジムを何とかする方法が、他にあるのだろうか?
その懸念を打ち払ったのは、他でも無いワイアットである。
「いや、それだけはない。
ガルマ・ザビは水爆や欧州中にある核廃棄物をシベリアに送り、こう伝えたそうだ」
「敵の司令官が……?」
「あの甘ちゃんか」
敵の司令官が水爆を送って寄こした?
それは意外な出来事であり、核を使わないというのも意外だった。
だからこそ、ワイアットが紡ぐ予定の言葉を待つ。
「これで二十世紀から続く、人類の宿題が一つ片付きますね。……と。私は地球人類の一人として、それを信じたい」
「味方の大人よりも、敵の大人の方を信じれる社会ですか……。嫌な世の中です」
そうだね、寒い時代じゃないか。
そう語るワイアットの言葉は芝居掛って居ても真実だった。
だからこそ洞察力に優れたアムロも、幾つかの事を見逃す事になった。
「とはいえこれも戦争だからね。発言力を確保して最大限の対策はする。だからこそ負けるが勝ち、謙虚さが重要だと言ったのだよ」
そう、ワイアットという男が……。
最後の最後まで、舞台の上で心からの演技をしているということを。
と言う訳で、インド奪還からオデッサに向けての話です。
それを連邦視点で語りつつ、伏線の消化になります。
本当はガルマが色々と手配するのも書こうと思いましたが、一日経っても迷っていたので中断。
分割してしまうことにしました。
●連邦側の介入者
その正体はグリーン・ワイアットで、憑依者は重度のガノタ(ただし宇宙世紀に限らない)。
士官学校に色々と才能ある子を放り込み、アカデミィと呼ばれるエリートコースを創設。
おかげでアムロの腕前は既に上がって居ます。
『オメガであり、ツエットである最終解決部隊。特殊部隊オズ』を目指して居る。
なおプロレスのファンではなかったので、女子プロレスにオズ・アカデミーという集団が合ったのは知らない摸様。
自分専用の決闘用モビルスーツを用意して居る可能性は高い。
当初はトレーズ様をファン対象の一つにはしていても染まって居なかったが……。
アムロ達に受けが良いので浸食されつつあるというか、洞察力で見抜かれても困らない様にしている内に、止めることが出来なくなったと言うか。
それはそれとして、彼もまた現代からの介入者なので、核問題でガルマと同意見なのは本当。
(だからこそ、アムロも気が付き難い)
●スーパー死神戦隊RX
とうとう完成したRX77とRX78数機で主力が構成されている。
サブは陸戦ガンダムと陸戦ジムという豪華な部隊。
一番の新兵は、腕の良い候補生が繰り上げで入ったアムロという頭のおかしい戦力をもつ。
一個中隊で一個大隊分の戦力だとワイアットは語るのだが、周囲はソレを冗談だとか、ふかしだと思っているらしい。
母艦はペガサス級六番艦スタリオンで、コードネームはブラックプリンス。
原作と違ってホワイトベースの修復素材にはならず、例の事件のように核で沈む事もないはず。
「ジャーンジャーンジャン♪」
「アフロだ、逃げろ!?」