●終局の予感
遥か地球上空、ユーラシア大陸への突入ポイント。
そこに戦いの終焉を告げる、最後の鍵があった。
「どうして降下させてはならんのだ兄貴! 今、ガルマは少しでも増援が欲しい状況なんだぞ!」
「今は止せと言っている」
宇宙軍と親衛隊から抽出した精鋭部隊。
その使い道に置いてジオンの首脳陣では荒れていた。
正確には宇宙軍が捻出した戦力で降下ポイント周辺をこじ開けた後、即座に降ろそうとしたドズルをギレンが止めたのである。
「増えた所で当たり前の戦略に組み込まれるだけだ」
常識的な戦闘では増援など大した意味は無い。
50対100が、60対100になっても差は縮まらない。
仮に包囲すれば、背を突くことで攻撃力は上がるかもしれない。
だが数の前に戦果は平均化し、防壁を頼れぬ増援は即座に攻め潰されるだろう。
「だが戦闘が膠着した後であれば、例え十機でも戦局を分ける。それが判らぬお前でもあるまい」
仮に戦線が膠着し、痛み分けになったとしよう。
この時に増援が挟撃を行えば、連邦は下がって立て直す事が出来なくなる。
あるいは全ての戦力を投入するという強引な策が使えなくなる。自分達の司令部が危うくなるからだ。
仮に辛勝で連邦が勝利したとしても、ヨーロッパを攻めることが出来なくなるし……停戦が可能かもしれない。
逆にジオンが勝てば、包囲殲滅を仄めかし、降伏勧告すら可能な場合がある。
そうなればどちらの場合であっても、ここで戦いは終了だ。
「そんな事は判って居る! だが戦いは数だよ兄貴! 十機がなければ敗北するやもしれん!」
ランチェスターの法則は文明誤差もあるが、基本的には今でも十分に通用する。
正面決戦なら大軍相手に少々の増援は意味が無いが、戦場分割が可能な要塞戦では意味が大きい。
特に今から降ろす予定の部隊は先行量産機ではなく、最新鋭の機体と慣熟訓練を終えた精鋭部隊。
それこそ後ろを突くことが出来れば、一個中隊であっても司令部を粉砕する事が出来る可能性すらあった。
「これで戦いが終われば戦争は終わる。そう思えばこそ、闘い抜けると言うものだ。少しはガルマの事を信用してやれ」
「それはそうだが……」
ここでギレンはドズルの性格を利用する事にした。
そもそも事前の作戦段階では、十分に勝てるだけの切り札を用意して居ると豪語したのだ。
どちらかといえば自分の才能を誇示せず、消極的な物の見方をするガルマが……である。
「それにな。停戦となれば連邦は父上と私の引責辞任を求めて来る。……未来の総帥となるには試練が必要だろう」
「本気か? いや……本当なのか、兄貴?」
ギレンは最後の切り札を切ることにした。
連邦官僚……正確にはそのスポンサーである企業群からの提示を告げたのだ。
ジオンが本気で守る場合、彼らの基盤であるヨーロッパと北米は、このままいけば来年以降も確保できる。
ハービック社やヴィック・ウェリントン社のような大規模軍需産業はともかく……いや、彼らのCEOですら今の地位が怪しくなってくる。
ゆえに彼ら経由で停戦条件を確認し合っており、オデッサ戦の経緯如何で妥協の可能性が出ていたのだ。
「無論だとも。財政的な問題もあるが、これで勝てるならば権力に固執する必要も無い。業腹だがキシリアのでっちあげた宇宙政策もあるしな」
「……判った。兄貴がそこまで言うならば信じよう」
ギレンはようやく受け入れたドズルとの通信を切り、待機していた者たちに声を掛ける。
今告げた、表向きの話ではない……本来の話をする為だ。
「オデッサは核で吹き飛んで居ないのだな?」
「はっ。連邦は卑劣にも核弾頭を用意して居た様ですが、中断した模様です」
イザとなれば核で連邦主力ともども消し去る。
それがギレンが用意しておいた保険であった。
「ならばガルマの追悼演説は止めておこう。……勝利する算段も出来上がったようだしな」
「勝利なさいますか? そうであれば良いのですが」
ガルマはシベリアに核封印施設を作る交渉をすると言った時、ここまで見据えて許可を出したのだ。今吹き飛んでも、ガルマがやるとは思えない。やるとしたら連邦の強硬派だと宣伝できる状況になるからだ。
「インド以降の戦いでガルマの部隊が連邦に対し、キルレシオで上回ったのは奴らが狙う拠点を捨てたからだ。オデッサを捨てて罠を仕掛けるつもりがあるならば、今回も勝てるだろうよ」
「……そういえば核は地下の廃抗でしたか。なるほど、足元から崩すのであれば勝てましょう」
地下を掘り進めて、侵入して来たところを足場崩し。
その作戦ならば勝てる可能性は高い。いや、味方の被害を考えず囮に使用し、適当な所で実行すれば確実に勝てる。
そこまで話が進んだところで、新たな話題に移った。
「しかし、本当にガルマ様を総帥になさるおつもりで?」
「お前達は天下三分の一という策略を知って居るか?」
「確か……東洋の政略家が唱えた政策だとか」
ギレンは部下達が首を傾げた所で、ニヤリと笑って温めていた考えを披露することにした。
ソレは今までの価値観をひっくり返し、連邦からの譲歩案を意味の無い物にする方策である。
「ギレン王国の国王として、ジオン公国やコロニー群の盟主と成る。ならば総帥という地位にいかほどの価値が残ろう」
「っ!? 確かに総帥職による執権制度はジオン公国としてのもの。新たな王国に意味などありません」
「国王親政の前には、首相よりマシという程度に過ぎますまい。場合によっては……キシリア派に公王位を譲っても構いませぬな」
ギレンは片手をあげて部下達を制した。
あくまで案の一つであり、交渉次第では別の見方もあるだろう。
それに……。
「キシリアに関しては奴の抱えている策次第だ。本当に宇宙の新時代のみを考えている訳でもあるまい」
「月に建設中の施設があるそうですが、ニュータイプ研究所の拡充や、モビルスーツなど様々な実験施設を更新とのみ伝えられているそうです」
「当人達も何をするのか知らされていないようです。目下の所、エンジェル=ハイロウという計画名のみ判明しております」
そこまで聞いたギレンはどんな天使が眠っているのやらと苦笑したと言う。
●混迷するオデッサ
連邦の航空艦隊は壊滅し、航空指令は爆装を捨てさせてでも立て直しを図った。
その影響で空中は予定通りの制圧が出来ず、地上は爆発から逃れるために特攻じみた攻撃がなされている。
お陰で作戦の推移が早回しで行われており、数日は保たせるはずの作戦が一気に加速した。
「撃破数は既にバッケンレコードの連続です!」
「それに伴い、我方の損害も拡大! 連邦の突入ペースが早過ぎます!」
「このままでは数日も保ちません!」
次々と投入して来る戦車とモビルスーツ。
その勢いは猛威というレベルを越えており、こちらの迎撃速度を越えて居た。
「やはりビーム撹乱膜で迎撃不能な時間があったのが致命的です。今もまだ残っている区画がありますし……」
「連邦もこの機に突入を決意したようです。なし崩し的な突撃を援護する為に、援護が始まって居ます」
「仕方あるまい。第二線での移動が完了し次第、作戦を第二段階に移す」
メガ粒子砲による砲座が、ビーム撹乱膜によって遮断されてしまっていた。
ソレは一度空中でハイ=メガ粒子砲を遮断した後、一部が地上に降り注いでいたのだ。
ミサイルで敵もろとも吹き飛ばそうにも、誘爆を避けるために予備兵器にしてしまって居る。
ビーム兵器に頼り過ぎたということだろう。
「移動は完全ではありませんが、許容範囲内です。損傷機は全て第三線へ」
「後はおっつけ移動可能な範囲です。これ以上は危険水域を越えます」
「よろしい。人造湖から水を引き込め! 時間を稼げるだけ稼ぎ、ついでに撹乱膜の残りも洗い流す!」
時間稼ぎの策として移動用の第二線に、工業用の人造湖から大量の水を引き込む用意をしていた。どうせ穴を掘って道路として固めるのだ、掘りとして有効活用すべきだろう。
そして、この水にはもう一つ意味がある。
「ゾック・ヴァサーゴ隊を出せ! 第二線に引き込んだ連中を殲滅せよ!」
「了解です! ゾック隊出ます! 砲戦態勢へ移行次第、順次砲撃開始!」
ガンダム・ヴァサーゴをモデルにした、射撃特化型モデル。
それがゾック・ヴァサーゴであり、水冷式エンジンに放熱ウイング、そして手足は最初から固定用のアイゼン代わりだ。
四つん這いで態勢を低くして、水中に半部以上体を沈めて砲撃を行う。
もちろん予め測量した場所に撃ち込む事を前提にして居るので、ほぼ必中。
……まあ相手の数が多い上に、水で動きを取られて居るから避けられることも無いけどな。
しかし水が無いと無理だけど、一機で中隊規模の砲撃力って本当だな。
あれだけ火力が大きいと、連続は無理でも休ませながら他でも使いたくなる。
その場合は空冷だけど大型エンジンを搭載した、専用ドダイかファットアンクルに載せた方が早いかもな。
名前は間違いなく、ドダイ・アシュタロンかファットアンクル・アシュタロンだ。
「ガルマ様! 連邦が第二線に砲火を集中! 底を破って排水を試みているようです!」
「廃抗を利用したと見抜かれたか。まあ定番だからな」
「予定通りですが保ちますかね?」
掘り尽くした鉱山を貫く形で穴を掘り、空掘りにしていた。
そこを通って通路にしつつ、今は水を引き込んで文字通りの堀にして居るんだが…。
実のところ、コレは連邦の作戦を誘導する為だった。
「それは連邦の運に期待しよう。……全体の補強工事なんかする暇なかったからな」
「こっちまで崩れたら笑えませんけどね」
第二線は上を通る為の補強した上で、そして下に罠としての穴を掘っておいた。
だが、大規模な地下空洞が構築できた段階で地下通路にも利用するか? と言うアイデアで止まってしまった。
そのまま罠として利用するか、それとも二重三重に使うか悩んだところで、敵が来襲してそのままになっているのだ。
……まあそこで四つ目の水爆が見つかって、安全に移動させる為の手配で時間が取られたのも影響しているんだけどな。
マ・クベは否定しているが、奴と腹を割って話していないので審議は不明だ。
とりあえず勝てたらシベリアに送るとしよう。
「ガルマ様! 損傷して居るペガサスが降下して来ます! 支援砲台として着底を狙う模様!」
「ちっ。こう言う時の悪い予想と言うのは、当たらない方が良かったのだがな」
「言っても仕方ありますまい。如何いたしますか?」
本来であれば、この形で戦うまでに航空艦隊は叩き潰して居る筈だった。
こちらの爆撃機で悠々と叩きつつ、少しずつ削って勝利する筈だったのだ。
それがあの狂乱突撃で御破算になってしまったのだが、放置する訳にもいかん。
「ゾック隊は人造湖まで下げろ。久しぶりにノリスの力を借りるとしよう」
「はっ! 存分に御覧に入れて参りましょう!」
損傷して居るからと言ってペガサス級でこちらの戦線に穴をあける必要は無い。
おそらくは空中での戦いがシフトしており、連邦からすれば急ぐ必要が出たのだろう。
航空指令の果断な決断で空中戦が続いているが、その神通力にも限度があると言うことだ。
「目標はペガサス級の抱える砲座だけで良い。アレを利用して連中が駒を進めると言うならば、精々利用させてもらうまでだ」
「承知いたしました!」
「久々にオヤジの活躍が見られるって訳だな! こいつは負けて居られねえ!」
敵はペガサス級を砲座であり、盾代わりにして戦線突破を狙ってくる。
こちらは砲座を潰してその意図を半減させつつ、敵戦力を一か所に集める予定だ。
砲座さえなければノーマルのドダイで爆撃が出来るし、そろそろ撹乱膜が消えてこちらの砲座の全力が出せる筈だ。
戦線が一か所に傾寄れば、潜んでいるシーマ隊が動く筈。
本隊もそれに合わせて連動し、敵司令部を狙うなり、固まった戦線を横合いから殴りつけるだけの事だ。
だが一つの誤算が生じる事になった。
敵ペガサス級はビーム撹乱膜の残りを保有しており、ゾック隊や砲座などこちらのビーム兵器を無力化し始めた事。
そしてこちらがもっとも恐れていたガンダムもまた、ソレに巻き込まれたことである。
戦いは次第に混迷の度合いを強めつつあった。
と言う訳で状況の説明であり、戦線の推移回でもあります。
とりあえずこのオデッサ戦が終了すると停戦、状況に合わせて有利な方にポイント。
その状況を造るために、ジオンは援軍をまだ降ろして居ません。
ちなみに宇宙軍と親衛隊の共同なので、どっちに所属して居てもガトーさんが指揮官です。
完全編成で疲労無し慣熟訓練済み、ホバーとビームバズーカ込みで完成したドム十二機。+@。
まともに降りてもガンダムが一瞬にして潰す戦力ですが、状況によっては一瞬でレビル閣下が降伏する戦力でもあります。
●ギレン王国
小説版から流用。
どう考えてもギレンの引退が状件に出そうなのですが、王様になるから良いよね。
これで権力者の総統じゃないよー。と言い訳しつつ、ガルマを名目の総帥に。
場合によってはジオン公国の名前は、キシリア派を分裂させる為にプレゼン予定です。
総帥が全ての権力を握ると言うのは、あくまでデギン公王から権力を取り上げる方便でもありますしね。
なお、ガルマがシベリアに核封印施設を造って、連邦の高官と取引するって話を許したのは、イザとなったらガルマごと吹っ飛ばすため。
別に殺したいわけではなく、単純に効率良いからですね。
●ゾック・ヴァサーゴ
手のクロ―を捨て、堀の中で四つん這いになって砲撃態勢。
さらに背中の砲座が必要ないと理解したので、改めて放熱板を追加。
ゾックの段階でビームライフルの射程・威力20%増しx4だとするならば、30%増し以上x4と言う感じですね。
これをミノフスキーで飛ばすとアプサラスやビグラングの小型化な感じですが、時間が無いと思われるのでドダイ・ファットアンクルで飛ばすのが流用方法。
そっち側に空冷式の大型反応炉を搭載して、合体用のアシュタロンにする感じです。
(なお、インドで六機居たのですが、逃げに徹してなお二機やられたため、今四機です。それでも四個中隊並みの火力ですが)
●戦線の推移
航空艦隊は前衛のファイター(対空)が全滅。
中衛のエスコート(護衛・撹乱膜)が半壊、ボンバー(爆撃機)が逃げたり対空戦闘中。
徐々に敗退して居ますが地上部隊がジオンの戦線突破を図る時間を稼いでいる感じです。
この為、本来であれば数日は時間を稼げたり、ドダイの爆撃で有利に立てる作戦が崩壊。
ジオン側は第二案を動かして居ます。
これは作中に在る通り、水を引き込んで時間を稼ぎつつ水中用モビルスーツで砲撃。
そして、連邦自身の手で廃抗に穴を開け、責任を押し付ける作戦ですね。
大穴が空いてトラップというのは、あまり外聞が良くないので。
とはいえそのトラップは規模が不明なのと、あくまで時間稼ぎ用。
本命は戦線が止まったところで、一番弱い部分をガルマの本隊とシーマ隊が突く為の物になります。
これが第三案の最終作戦案というところでしょうか。
と言う訳でガルマはオデッサを護るべき拠点では無く、敵主力を引きつけ固定し、司令部をガラ空きにする為の道具にしております。