カリスマの無いガルマ【完結】   作:ノイラーテム

40 / 40
外伝:新しき宇宙移民の時代

●新時代の幕開け

 停戦から一年ちょっと、開戦から長く見積もっても二年というところだろうか?

不満と妥協を繰り返しながらも、ようやく和平交渉が完了した。

限定勝利とはいえジオンであり、連邦がクーデター側と正統政府側に割れているというのが決定的だったといえる。

ジオンと連邦正統政府どちらの陣営も、強硬派であるクーデター側を勝たせたくないと言う意味では一致していた

 

 その間に起きたことは色々あるが、影響を与えたのはプライベートで一つ、技術開発で一つ。

 

「ガルマ様。そろそろお時間です」

「もうそんな時間か。行ってくるよ」

「行ってらっしゃいませ。……お父様にご挨拶を」

 プライベートに関しては、時間の経過で当然のことながら子供が生まれた。

ついでのように二人目をIN。アイナは美人でスタイルも良いからな仕方無い。

先に入っておくが、爆発しろという言葉は聞けない。

「帰って来る頃にはデイルもお兄ちゃんだな」

「まあ気の早い。名前を付けるのにも一苦労だったではございませんか」

 確かに名前を付けるのは苦労した。

ザビ家の男子はデギン、ギレン、サスロ、ドズル、ガルマ、グレミー。女子はキシリアとミネバ。

なんかキシリアだけ四文字というのが浮いているが、三文字にしようというのだけは頭に在った。

悩んでる最中に目元の黒子がディルムットみたいだなとか言ったのがマズかった。気が着いたらデイルという名前になって居た。

 

 なお込まって居たのは跡を継ぐとか問題の出そうな男の子だけで、女の子の場合は既に決めていた。

アイナっぽく……そして戦死したノリスにあやかって「n」を取り、ノンナかナンナという感じで提案したのだ。

そしたら泣かれたので別の意味で困ったが、それも良い思い出である。

 

「それで、新型の軽巡は直接降下してきたのか?」

「はい。下賜される三隻とも問題ありません。ザンジバルの生産が打ち切られる筈ですな」

 技術開発で大幅な影響を与えたのは、軽巡洋艦の性能向上だ。

たかが戦闘艦の技術革新一つと言うが、説明一つで意味が変わってくる技術革新が起きたのである。

ベルファスト攻略時に分解して解析に回した、ペガサス級の技術がここにきてようやく実を結んだのだ。

 

 ムサイは元々抱えていた構造上の欠陥で、後期型や最終生産型の設計が始まる予定だったのも大きい。

砲門の改良や構造の修正のみならず、コムサイを基本装備から撤廃。

シンプルな本体だけの乙巡と、降下用または重戦闘用の増設ユニットを加えることを前提にした甲巡の、新型ムサイに切り替わった。

 

「それが平和条約に盛り込む妥協案に繋がったのだから、見方と言うモノは不思議な物だ」

「ハイ=メガ粒子砲の影響もありますが、大型艦の生産は当面停止しますからね」

 そこでジオンは条約の中に戦艦・重巡、そして地球侵攻作戦で活躍した機動巡洋艦の生産停止を盛り込んだ。

まるで連邦が勝利し、独立前の基準に逆行した様な条件だろう。

あちらの官僚たちが同僚を説得し易くなったと喜んだが、当然ながら負けたからではない。

 逆に、こちらが要求して居る独立に関する文章だとか、ベルファストを除く欧州や北米を引き渡す代わりに弁済金を大幅に減らす事に成功して居る。

こちらの官僚たち、特にコロニーサイドが納得する要件は全て抑えさせてもらった。

トランプの大富豪やモノポリーなど一部のボードゲームだと、相手とこちらの欲しい手札が違うので、一見高いカードを渡しても、こちらが欲しいカードをもらえば交渉が成立する様な物だ。

 

「増設ユニット……フライングアーマーで安定した飛行が可能ならば、当面の主力で決定だな。戦闘用のユニットもあるのだろう?」

「はい。何も追加しないパトロールタイプは既に大量生産が決定。各コロニーからの発注が止まらないそうです」

 技術ツリーで言えば、降下・飛行ユニットを付けたのがZZのエンドラに近く。

逆に重戦闘用ユニットを付けたのが、逆シャアのムサカに近いと言う感じだろうか?

まったく増設しないシンプルな本体だけだと安価なので、各コロニーなどのパトロール用に使うことが出来る。

とはいえ製造段階でエンジンを決める必要があるので、都合良くユニット一つで変更とはいかないのだが。

「しかし降下ユニット・打ち上げユニットがないと大気圏移動が出来ないのは、不便だと思うのですが……」

「それは考え様の問題だよ。逆に考えて見るんだ。……下賜したとしても、全て我々でコントロールできる」

「なるほど。航路設定こみで伝えておけば、事故や勝手な出動も起きなくなりますね」

 もちろん双方共にZZや逆シャアのソレには遠く及ばない。あくまで私の知識として近いと言う程度だ。

だが、それでも便利なのは間違いが無い。

特に降下作戦に関して、条件付きとはいえ、十隻でも二十隻でも降ろせるようになったのは大きい。

 

 そして、ここで重要なのが地球方面に送られた新型艦が配備ではなく、下賜されると言う点だ。

 

「しかし兄上の知略には驚かされるな。新型艦を地上軍にではなく、彼らに下賜するとは」

「最初は見向きもしなかったコロニー権益の管理どころか、実際の移住も視野に入れているようです」

 新型は解放戦線の中で、総合貢献度の高い連中に渡されることになった。

元から権益として幾つかのバンチの管理権を与えると言う話があったが、自由意思での大気圏脱出・降下が出来る用になれば話が変わってくる。

宇宙に移住して楽な生活を送り、時々、祖先の地として故郷に降りてくれば良いのだ。

当初は机上の空論であったが、こうして劣化ザンジバルと言える軽巡が生産されると大幅に前提が変わる。

「ということは難民たちの目も変わるな」

「はい。自在に戻れることで、宇宙への移住に弾みがつくでしょう。先に手を上げれば好きなコロニーに住め、緊急避難の場合はその権利が無いと言うのでは尚更です」

 ギレンは宇宙移民問題を、完全に権益化することで解決してしまった。

自分から移住を宣言すれば、様々な権利が付いてくる。

流石に高級住宅地とはいわないが、好きなコロニーの好きなバンチの空きを待てるし、仕事も優先的に回してもらえる。

逆に戦闘に巻き込まれて避難する場合は、あくまで難民として扱われるのだ。

もちろんそこでも自由意思で宇宙移民になるといえば、それなりの便宜を図ってもらえる。

最後まで地上に残る場合、ジオンは必要以上の協力をしない。そのまま連邦政府に投げて終わりだ。

 

 移民同士の問題?

そんなのはガンダム・ファイトで勝った方が、一時的な決定権でも握れば良いのではないだろうか。

以前に連邦の介入者であるグリーン・ワイアットがそんな事を口にして居たが、ギレンは本気で検討しているというから笑えない。

しかしどちらにも良い顔をして決まらないよりは、戦闘で勝った方が決めるのはそれはそれでアリなのだろうか?

とりあえず将来に丸投げして、今は宇宙移民を推進。地球の限界が来る前に対処するとのことである。

 

「おお! ガルマ様! お待ちしておりましたぞ!」

「ガルマ様!」

「みなも息災な様で何より。着席してくれ、コーヒーでも飲みながら話そう」

 解放戦線の連中が一斉に立ちあがって挨拶を送って来た。

部下の問題児は相変わらず問題児なのに、この連中からの神聖化が激しい。

戦術的に勝っても戦略で負けて撤退して居るのに……。

(「問題児と違って話を聞いてくれるのはありがたいけど、この連中はこの連中で過信や戦闘中毒があるからな」)

 場所を捨ててでも勝ちに行っている訳で、ゲリラ基本の彼らの基準では仕方無いのかもしれない。

加えて事前準備を聞いて無い彼らからすれば、インドでは雨が味方し、オデッサへ攻め行ったら大地が崩れるとか……。

見た目だけだと私に天が味方してるように見えるしな。

 

 しかし、一部の目が異様に輝いて居るのが判る。

もらえると判ってる部族のメンツはともかく、ボーダーラインの連中は焦りもするだろう。

だがここで将来の供給を安易に保障するのも、煽って功績を競わせるのも良くない。

ティターンズの連中のみならず、和平相手にまで馬鹿な突撃をしかねないからだ。

 

「既に聞いている者も居ると思うが、陛下より新型艦を下賜される事と成った」

「おおっ……」

「地上を自在に移動する事も、宇宙に上がる事も出来るのですな」

 まずは権利としての面をあげ、これまでの功績を説明して行く。

最初の一番艦を誰がもらうのか、何故、その部族がもらえたのかを説明しておく。

命だけで民族独立の為に活動したのは皆同じだとした上で、流した血の量ではなく、求める情報や工作の方が重要だったと説いておく。

(まあ、実際に突撃バカで困る連中も居たからな。引きずられて大変だった時もあったし)

 命を捨てて守らねばならないモノがあると認めた上で、やたらに戦おうとして足手まといになった例を上げておく。

そして一通り説明して、何処の部族がもらえるのか基準が判った段階で、以前の様に駆動させる為のキーを渡した。

 

「本国に掛けあっておくが、私の権限を持ってしても全ての部族への早期配備は難しい。そのことは理解してもらいたい」

「まあ新型艦ですからな。格別の恩賞と言うことで」

「ガルマ様の指揮下にも無い様ですし……仕方ありますまい」

 予め頼んでおいたサクラ役の連中が頷く。

ここで我も我もと手を上げられは無しが中断しても困るので、手持ちとして配備される予定の艦で交渉しておいた。

重要なのは此処からなのだ。

「次の二つを順守する限り、諸君らの名誉の証だ。一度引き渡せば滅多なことでは取り上げられることは無い」

「それは……いかなる条件なのでしょうか?」

「我らならば直ぐにでも乗りこなして見せますぞ。腕前であれば直ぐに」

 サクラを用意して居ても湧き上がる問題に苦笑するしかない。

まあ一時の興奮状態だと思えば問題児に比べれば可愛いものだ。

 

「宇宙は自由に見えて危険も多い。連邦内の同盟勢力、敵対勢力がある以上、迂闊に戦うと問題が起きるのだ。勝つのは難しくないだろうがな」

「それは確かに……。味方を撃って褒められる事ではありませんからな」

 危険だと言えば自分ならば問題ないと言うだろうが、勝っても意味が無いと伝えておけば話が変わってくる。

無謀に精鋭に挑んで負けるのは構うまい、問題が起きるのは味方との争いなのだ。

「ゆえに航路を守る事、申請などの手順を守ることだ。その二つを守らない場合は、海賊として私であっても周囲から袋叩きになる可能性もある」

「ははは。ガルマ様のガウを知らぬ者などありますまい」

「ガルマ様ならば囲まれても片付けなさろう。冗談がうまいですなあ」

 何、その無用な信仰。

そのノリで無謀な戦いを挑まされるのは困るんですけれど。

 

 ……冗談はさておいて、重要視せねばならないのは海賊行為だ。

略奪などしなくても、自由に航行するのは危険行為になる。

それこそ味方識別信号を出さずに航行して居れば、警告の必要はあるが、誰でも撃って良いと言いのは確かなのだ。

また、好き勝手に商売しにコロニーに行ったり、勝てるからと本当に海賊に成られても困るからな。

 

 色々と問題が起きそうだったが、宇宙移民そのものは推進されるだろう。

地球連邦も二つに別れたが、スペースノイドよりの月面政府に少しずつ、勝ち過ぎない程度に協力することになっている。

時間は掛るがゆっくりと平和になって行くのではないだろうか?

 




 と言う訳で、このシリーズも無事に終わりました。
最後に新世紀ガンダムっぽく、テロな大事件でも起こして、ガルマが解決とか考えましたが、長くなり過ぎそうなので止めておきました。

●子供達
 男の子がデイル・ザビ、女の子がノンナ・ザビ。
FE聖戦の系譜に登場する、カリスマ兄妹のデルム・ナンナから取って居ます。
理由としては古代英雄のディルムットとか、ノリスから一字とってとか適当に言っていますが。

●土地の引き渡しと弁済金問題
 連邦側は早く引き渡して欲しい、だが弁済金を差し引くとした以上は、直ぐに独立されても困る。
そこで問題が起きそうな地域を中心に、引き渡しは後日。
ベルファスト・ハワイ・アフリカをジオンが確保したまま、残りを引き渡すとしています。
(資材・工場の一部を利用することを許可、その分だけ弁済金が残るので独立は過ぎに起きない)
その状態で欧州はティターンズが攻め入っているので、ジオンも責任もって協力しろ、いや余計なことはするなという状態。
とりあえずは主導した月面政府の交渉成功と唄いつつ、ジオンは実利を一通り持って行く形になります。

●接収工場の技術問題
 次に勝手に改造した工場にある技術問題。
ドムの工場はベルファストにしかないので、ザク他の技術を月面政府に付いた企業に提供。
代わりに接収した技術の料金の相殺、ならびに進んだ小形ビーム・炉心の技術を追加購入。
この代金をジオン側のカスタム技術などで差し引きとかして、月面政府のジムに、様々なバリエーションが可能な様にして居ます。
まあゲルググのビームライフルと専用機・現地改修のノウハウとか交換しただけですが。

●ムサイⅡ
 ベルファストで接収したペガサス級を使うか悩んだものの、分解して解析して居ました。
そこで得た技術で炉心を改良。
ペガサスに近い高性能炉心と、大型なのに低出力だけど凄く安価な炉心を開発。
パトロール用の低コスト型は後者の炉心を使用し、降下用・重戦闘用のは前者をしています。

1:船殻・竜骨・砲門、その他の共通パーツを量産
2:高性能炉心、低出力炉心をほぼ同じサイズで製作
3:需要と供給+@で炉心を製作しておき、ガワに放り込んでいく
4A:高性能炉は甲巡とし、各種増設ユニットで用途に合わせた強化
4B:低出力の炉心は乙巡とし、増設不可能だけど安価
(乙巡を甲巡に変える為には、サイド3・月面などの大型設備でなければ不可能)

 と言う感じです。
ハイ=メガ粒子砲・ビームライフルの登場で、大型艦でも落ちる時は一瞬と判ってしまったので
グワジン・チベの生産は打ち切り、甲巡を偵察・砲撃・体ビームミサイル艦として使い分け
小戦隊を流動的に使った方が安全では?
大型艦は技術と戦略が安定してから、改めて設計し直す。と言う感じになって居ます。

●モビルスーツ
 ゲルググが停戦後に完成し、ザクに代わる新しい主戦力に。
とはいえ原作とは違った進化で、高機動のB型スタイル・重装甲のマリーネ・スタイルが多い感じです。
(余計な設計・製造はせずに、頭・バックパック、各種ハードポイントで再現というのは変わらず。
実弾キャノンザックやビームバズーカとかのオプションが充実したくらい)
その後はゲルググのハードポイントを使って、アクトザク・ケンプファー・ガルバルディとかの技術を検証。
本体構造を弄れてないのでアクトザクが上手くいかないのものの、ガルバルディをベースとした機体の設計が決まって居ます。

●没になったテロ『パイドバイパー事件』
 人知れず町や基地を襲撃し、速やかに片付く場合は拘束して人買いに売り飛ばし、そうでない場合は虐殺。
あらゆる勢力を敵に回したテロ事件で、ティターンズだとバスクを拷問したり、ジオンだとシーマ様が負傷したりガルマの子供が拉致されたり。
モビルスーツはルナチタニウム製のザクで、パイロットは現地調達した傭兵や恨みつらみの多い連中、主義者等が主力。

 その後にギレンとジャミトフが裏でこっそり手を組んだ、地球から人間を駆逐する計画だと予想。
現段階は恐怖をまきちらす段階だが、次の段階は、大規模な問題を引き起こし、地球脱出を目論ませるものだと推測。
ガルマが対処できる範囲だと、シベリアの核貯蔵庫が怪しい。
とはいえ宇宙も隕石落としの可能性があるので、ワイアットさんとかはそっちの対処で出られない。
 僅かな増援はテネス・A・ユングとヤザンのチーム大塚で胃が痛い。
せめてブラン・ブルタークとか居ないの? という状況で戦うことになります。
「この星の明日の為に、この星の未来の為に!
 一人は皆のために、皆で勝利のために!」
とか言いながら戦い、途中から逆シャアで出て来た名もなき歌を唄いながら戦闘。

 というかんじで考えていました。
明らかに長いので割愛しましたが。

 ともあれ長々と乱文をお読みいただき、ありがとうございました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。