やはり俺の思春期症候群はまちがっている。   作:N@NO

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青春欺瞞野郎は天才少女の夢を見ない。
青春欺瞞野郎は天才少女の夢を見ない。1


―――あの時、俺と先輩は出会っていたんですね

潮風が吹き付ける夕暮れのなか、彼女は微笑む。

 

この日を境に俺の前から彼女は消えた。

 

× × ×

 

ある晴れた3月のことだった。

春休みという長期休暇により、暇を持て余していた俺はなんとなく千葉駅をふらついていた。今日の暇つぶしルートを何となく描きながら東口改札を抜け、広場に出る。

 

昼はなるたけか、武蔵か、なんて考えていたところで、ふと足が止まった。

俺の目線の先には、艶やかな亜麻色の髪を風に靡かせた少女。

その背には、少女の身長に見合わない少し大きめのリュックサックが背負われていた。

 

青空の下、彼女の一挙一動に何故か目を奪われる。

平日の千葉駅東口の雑踏の中、彼女の存在はまるでどこからか切り抜いた景色を張り付けた様な違和感を与える。かと言って悪目立ちをしているわけでもない。

その立ち振る舞いには迷いがなく、白く美しい肌を包む袖の長い桃色のワンピースは細いウエストを強調するようにベルトで締められ、モデルのような印象を与えていた。

俺と彼女との距離は直線距離で10メートルほど。

勿論、その間を限られた時間で昼食を取るため慌てて走る会社員や、せわしなく会話をし続ける女子高生らが横切っていく。

 

冬の空気は薄れ、春の温かさを含む風が肌を撫でた。先程まで心地よく感じていた風が、今はじんわりと首元にかいた汗を急激に冷やす。

ゴォウ、と俺の後ろに止まっていた千葉大学病院行きのバスが唸った。

 

その瞬間、少女と目が合う。彼女はにこりと微笑むとこちらに足を向けた。

向かい合う距離おおよそ1メートル。先ほどとは異なり、歩行者が遮ることもない。

 

「ねぇ、こっち見てたよね」

 

ドクンと心臓が脈打つ音が耳のすぐ傍で鳴り続ける。

しまった、見すぎた。

普段の自分からはあり得ない行動に自分自身が驚きを隠せない。なぜ、これほどまでにこの少女が気になってしまったのか。

 

「他所は他所、自分は自分。他人なんて気にすんな」

 

そんなことを妹の小町に言ったのはついこの間のことだった。今の八幡からこんな言葉が出たとはだれも思わないだろう。

 

「ねぇってば」

「…あっ」

 

驚きのあまり停止していた八幡の言語野にようやく思考が回り始めたその瞬間、

 

「比企谷八幡君」

 

 

予想だにしない言葉により再び思考が停止した。

 

「…どうして俺の名前を知っているんですか」

 

どうにかして言葉をひねり出す。すると亜麻色の髪の少女は不思議そうな顔をし、そして寂しげな表情に変わった。

 

「そうか…。…いや、私のことを知っていたから見ていたんじゃないの?」

 

少しの冷静さを取り戻した八幡は、微かな情報から現状を思考する。

いくらホームタウンの千葉だからといって俺の交友関係なんてたかが知れている。

 

そして目の前にいる少女の外観から考えるに、高校生か大学生。4月から2年生になる自分より年上である可能性が高い。

となると、この人は

 

「総武高の先輩…ですか?」

「ふむ、私のことは知らなかったと見られるね。けれど、その状況から私と比企谷君の関係性を考察できたのだとすればなかなかやるじゃないか、比企谷君」

 

満足そうにうなずく総武高の先輩は俺の言葉を待たずに続ける。

 

「比企谷君の考察通り私は総武高2年生…といってももうすぐ3年生になるけれど、ともかく比企谷君の先輩、喜界島志貴だ。気軽に志貴先輩って呼んでくれて構わないよ」

 

そういう喜界島先輩は一瞬握手をとるような動きを見せたが、即座に何事もなかったかのように振舞った。

ほんのわずかにだが顔が歪んでいたってことはそんなに俺とは握手したくなかったのか。

 

ちょっと心が傷つくな。

 

「さて、比企谷君の言いたいことはなんとなくわかっているよ。まず一つ目、何故私が比企谷君の名前を知っていたか。そして二つ目が同じ総武高なのになぜ私のような美少女の存在に自分が気づけていなかったのか、だよね」

 

くっ、これがニュートン先生の万乳引力の法則か。

ふふん、と自慢げに胸を張る喜界島先輩の曲線に目を引かれるのを堪える。

 

「というかあんた自分で自分のこと美少女とか言っちゃうのかよ」

「お、口調がくだけてきたねぇ。いいね、そういうのはお姉さん好きだよ」

 

キュッと結ばれた唇にドキリとする。

 

「でも、あんたってのはお姉さん嫌い。私には喜界島志貴という名前があるの。名前は言語をもつ人間ならではの素晴らしい文化なんだ。そこはきちんと呼んでほしいし、私は極力そう呼びたいと思っている。勿論見ず知らずの人に対しては無理だけれどもね」

「すみません、喜界島先輩」

「うむ、よろしい。まぁ、本当は喜界島先輩じゃなくて前みたいに志貴さん、とかでもいいんだけれどもね。何はともあれ、比企谷君の突っ込みに反応しようか」

 

なんだか一瞬喜界島先輩の言葉に閊えを感じたが、それも喜界島先輩の言葉の波に流された。

 

「比企谷君は、自分がかわいいと思っている人間が、ほんと私ブスダカラーとか言っている人好き?」

「少なくとも俺はそういうやつは嫌いですね」

「うーん、まぁいいや。ともかくね、私は思ってもないことを平気で言って、他人から自己評価を得ようとする人が嫌いなの。この場合は他己評価が言葉的には正しいか。勿論それが一概に悪いとは言わないし、言えない。それは私の意見の押し付けだからね。そういうことでしか自分の存在を意識できない人だっているもの」

 

つまるところ、喜界島先輩は正直なのだろう。

この人は、自分が正しいと思っていることは決して曲げない。そしてこの人のすごいところはそれを他人に押し付けたり、強要したりしないことなのだろう。

正義を大義名分に他者に意見を押し付ける奴らなんてごまんといるし、実際に目にしてきた。

 

もしかすると、この人には…、とここまで考えてある事実が頭をよぎった。

 

「というか、喜界島先輩さっき俺に他人のことはきちんと名前で呼べって強要してなかったか」

「あ」

 

しまった、といった表情を浮かべた喜界島先輩はチロっと舌を出して、ゴメンねと謝る。

なんてあざといんだろうか、この先輩は。

 

コホン、わざとらしく咳ばらいを一つ。

 

「話を戻そうか」

 

そういえば何の話をしていたのだろうか。

ニュートン先生の万…ではなく、そうだ。確か俺が疑問に思っている二つのこと、についてだ。

 

「まず、私が比企谷君の名前を知っていたのは、簡単なことさ。入学式で君の名前はもちろん呼ばれていただろう?私は一度聞いたことは忘れないんだ」

 

比企谷君と違ってね。喜界島先輩は含みのある笑みを浮かべながら続ける。

 

「そして、二つ目。それは私が2年生の5月以降半分ほど学校に出ていなかったから、だ。それこそ学校行事なんてものはほとんど行ってないからね。比企谷君が学校内で私のことに気づかなくても何らおかしなことはない」

 

確かに俺の名前は入学式で呼ばれていた、はずだろう。

…だが。5月以降…か。その言葉が事実だとするのならば、ある矛盾が生じることに喜界島先輩は気づいているのだろうか。

目の前の先輩を名乗る少女は、その背に似合わないリュックサックを背負いなおすとこちらを向いて微笑んだ。

 

「まぁ、こんなところでもなんだし、どうだろう。食事でもしながら話の続きをしようじゃないか」

 

× × ×

 

千葉駅から千葉中央駅方面に歩くこと5分ほど、雑居ビルの立ち並ぶ景色が続くなか、通称ナンパ通りの入り口に立つ、最上階に見慣れた緑色の看板が掲げられたビルの中に入った。

 

エレベーターに入ると喜界島先輩は迷うことなく8階を示すボタンを押した。

ふむ、なかなかの千葉通だな。総武高校のある稲毛駅から少し離れた千葉駅のサイゼの位置まで覚えているとは。

 

「別にすごくはないだろう?乗り換えで私は千葉駅を利用しているし、それに千葉駅周辺で買い物だってする。覚えていても不思議じゃない。それともあれかな、比企谷君は私がそんなに引きこもりのボッチだと思っていたのかな?」

 

「脳内のぞき見すんのやめてもらえますか、普通に怖ぇよ」

 

ほんと、この先輩エスパーなの?超高校級のアイドルなの?

沈黙の中、エレベーターは目的の八階に到着し、出た先には学生のたまり場ことサイゼ。

いらっしゃいませ、と近づく店員さんに指を二本立てると、こちらへどうぞ、と店の奥のほうに案内される。

 

昼前とあってか、周りに人は思っていたほどおらず、なんとなくすっきりとした気持ちになる。

 

「さぁ、何でも好きなものを頼むといい、ここは先輩である私がおごるから」

 

テーブルの上に広げられたメニューをこちらに見せながら、屈託のない笑顔を見せる。

少しうれしそうに言う先輩の言葉を断るのは少し良心が痛むが、しかし俺にも譲れないものがある。

 

「すみませんが、俺は養われる気はあるが、施しを受ける気はないんで」

「面白いことを言うんだね。…そうか、それならしょうがないね」

 

残念だ、と喜界島先輩はがっかりした表情浮かべたまま、メニューを仕舞うとそのまま呼び鈴を押した。

 

「どうせ君はもう決まっているんだろ?」

 

勿論決まっていた。ミラノ風ドリアに辛味チキン、それにドリンクバー。いつもの黄金パターンなのだが、なぜ俺がサイゼでは期間限定メニュー以外は確認しないことを喜界島先輩は知っていたのだろうか。

 

「ハヤシ&ターメリックライスのターメリックライスを白飯に変更したものを一つ」

 

喜界島先輩が注文を促すようにこちらを向く。

 

「ミラノ風ドリアと辛味チキン、それからドリンクバーを…」

「2つで」

 

ウエイターのお姉さんが注文を繰り返し、キッチンにはいっていくのを確認した後、質問をしていいか喜界島先輩に確認すると頷きを返してくれた。

 

「では、質問を。…ハヤシ&ターメリックライスなのにターメリックライスじゃなくするんすか」

「おっと、その質問は予想外だ」

 

喜界島先輩は心底驚いた様子を見せた。正直、今日会ってから一番の驚き方をしているといってもいいだろう。

 

「もっと疑問点はたくさんあったんだと思うんだけれどもね」

「そうなんですが、直近だったこともあって」

「まぁ、いいんだけどね。理由は単純明快。こっちのほうがおいしいからさ」

 

元も子もない返答に思わず苦笑いを浮かべるしかなかった。

少しすると料理がテーブルに運ばれてくる。それらを喜界島先輩と他愛もない話をしながら食べ進めていく。

途中粉チーズをどう使うだとか、柔らか青豆は最強だとか、七海千秋がかわいいだとか、オリーブオイルの使い道など、サイゼトークに熱を帯びた場面もあったが、この後の話に比べれば、それは他愛ない範囲だった。

 

それほどまでに喜界島先輩の話は重く…、

 

 

そしてまぎれもなく俺の探し求めていた人物だった。

 




初めましての方、N@NOです。
俺ガイル×青ブタ、のクロス作品を始めました。ハーメルン自体に青ブタ作品がほとんどないのでこれからどんどん増えていくといいですね。

前から知っていただいている方、ありがとうございます。
どうしても書きたくなってしまい始めてしまいました。
アイマスのほうもちゃんとやれよ、というのは重々承知しているので、こちらのほうもよろしくお願いします。


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