やはり俺の思春期症候群はまちがっている。   作:N@NO

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青春欺瞞野郎は二重少女の夢を見ない。3

 

「…不本意ながらここの部員なので」

 

どうしてここにいるの?その問いに対して本当に不本意ながら答える。

というか、ヒッキーって何。

開口一番、自己紹介すらすることなくヒッキーだなんて言われるほど引きこもりオーラ出ちゃってんの俺?

 

「由比ヶ浜結衣さんよね?」

「あ、あたしの事知ってるんだ」

 

ピンク髪の女生徒を一目見ただけで名前を言えるとか、

 

「よく知ってんな。全校生徒の名前言えるんじゃないのか」

「そんなことないわ。だって、私あなたの事知らなかったもの。でもそれはあなたは悪くないわ。醜いものから目を背けようとしてしまう弱い心が出てしまった私の落ち度だわ」

「お前それ慰めてるつもり?さりげなく俺の事とぼしてるからな」

「ただの皮肉よ、分かってて聞くなんてもしかしてあなたドMなの?」

 

投げたら投げ返してくるとかキャッチボールの天才かよ。しかも、弾速が早くなって返ってくる分壁あてなんかの比にならんくらい面倒。

 

「なんか」

 

そこでようやく由比ヶ浜とやらが来ていたことを思い出す。

 

「楽しそうな部活だね!」

 

心底楽しそうな顔をしている由比ヶ浜に、心底理解できないという目を向ける雪ノ下。

そこに関しては禿同、もとい俺も同じような視線を送っているであろう。

 

「それにヒッキーよくしゃべるよね」

「…え?」

 

というか、そういえばこいつはなんで俺のことを知っているのだろうか。

 

「あ、いや、なんていうかさ、ほら、そのヒッキーもクラスにいるときと全然違うしさ。何つーかいつもはきょどり方キモイし、クラスに友達とかいないんじゃないの」

「なっ」

「あら、自覚なかったの?あなたここに来ると視線がいつもきょろきょろしていたけど、教室でもそうだったのね」

 

追い討ちをかけるように雪ノ下。

 

「はぁ、分かった、参った、これ以上死体蹴りするのはやめてくれ」

「そうね、ウイルスが飛び散って感染するかもしれないわ」

「そうそう、ってやかましいわ」

 

…うわぁ、と言葉が漏れる由比ヶ浜。聞こえてる、聞こえてるから。

オタク特有のネットスラングを会話の途中にぶち込んで反応が薄くて空気が死ぬ奴があるからみんなは気を付けような。俺らが思っているほどネタは通じないし、スラングを使っている奴らがいてもそいつらは断片しか知らないから、それに乗っかったネタをやっても空気が死ぬ。そこでにわかが、のように裏口を叩いてもオタクキモ、で死ぬので結局死ぬ。

やめて、ハチマンのライフはもうゼロよ。

次回、ハチマン死す。

 

「そんなことよりも、由比ヶ浜さん。平塚先生に言われてここに来たということは、何か奉仕部に依頼があるのではないのかしら?」

「あ、そうだった!」

 

× × ×

 

「クッキー?」

 

場所が変わって家庭科室。

目の前には二人の女生徒が各々エプロンを着用している。

相談をしに来た由比ヶ浜がエプロンを所持していたことはわかるが、よく雪ノ下が持っていたな。

 

「煩いわね」

「何も口に出していないだろ」

 

エプロンを結び終えた雪ノ下が振りかえった。

 

「煩いのは目の動きよ。エプロンがあったのは調理実習が偶々今日あったから。これでいいかしら?」

「説明ご苦労さん」

 

最近の女子高生は、超高校級のアイドルでなくても人の考えていることが分かるらしい。

 

「由比ヶ浜さんは手作りクッキーを食べて欲しい人がいるのだそうよ。でも自信がないから手伝ってほしい、というのが彼女の依頼」

「なるほどな」

 

人の恋路ほど、どうでも良いものはないだろう。まして、他人の恋路。

 

「そんなの友達に頼めよ」

俺にはいないけどお前にはいるんだろ?と意味を込めて目線を向ける。

「うっ…。それは、その、あんまり知られたくないというか、こんなまじっぽい雰囲気友達とは合わないから」

 

由比ヶ浜が顔を背ける。

 

「それに平塚先生に聞いたんだけど、この部って生徒のお願い叶えてくれるんでしょ?」

 

違うわ、と雪ノ下。

 

「奉仕部はあくまでも手伝いをするだけ。飢えた人に魚を与えるのではなく、魚の捕り方を教えて自立を促すの」

「な、なんかすごいね」

 

“なんかすごい”

崇高な考え何て他人から見たらそんなもんだ。

俺が何を考えて生きても、それは他人には理解して貰えないだろうし、して欲しいとも思わない。下手な自己肯定のために他人の評価など要らない。

だから何を言われても気には止めない。

それはきっと雪ノ下も同じなのだろう。

 

「で、俺は何をしたらいいんだ」

「あなたはただ味見をして感想をくれればいいわ」

「さいですか…」

 

―――

 

「―理解できないわ」

 

雪ノ下が額に手を当てているのを見るのは、これで本日二回目。

 

「どうやったらあれだけのミスを重ねることができるのかしら」

 

雪ノ下の正確な指示のもとの、由比ヶ浜のてきとうな作業。

砂糖と塩を間違えるという古典的なミスから始まり、卵の殻の混入やオーブンの設定温度ミスなどを重ね、完成したのがジョイ本に売ってそうな木炭。

 

「これ、味見をするってレベルじゃねーだろ」

「どちらかと言えば毒味ね、それじゃあ宜しく。比企谷くん」

「毒味は頼まれてなかったはずだが?」

「どこが毒だし」

 

怒気混じりに木炭を掴み、一瞥。

 

「…毒。やっぱり毒かなぁ」

 

黒々とした物体を見つめる目は僅かに潤んでいた。

 

「というか、まじでこれ食うのか?」

「食べられない材料は使っていないのだから問題ないわ、たぶん」

 

消え入りそうなたぶんという言葉が背中を冷たくする。

それに、と雪ノ下が耳打ちしてくる。

 

「私も食べるから大丈夫よ」

「ほんとかよ、お前ひょっとして良いやつ?それとも俺の事好きなの?」

「…あなたが全部食べてそのまま死にたいのかしら?」

「すまん、気が動転しておかしなことを口走った」

 

お菓子だけに。

口に出してはいないはずなのに雪ノ下の目線がきつくなった気がした。

雪ノ下が意を決したように鉄鉱石もどきを手に取ると一言。

 

「…死なないかしら?」

「俺が聞きてぇよ」

 

× × ×

 

歯間に挟まっている木炭を取り除くため、トイレの洗面台で口の中をすすぐ。

目の前の鏡に写る自分の顔は心なしか疲れているように見えた。

美味しいクッキーを作りたいと奉仕部に相談しに来る由比ヶ浜。

美味しいクッキーを作れるよう試みる雪ノ下。

正直に言えば、彼女らは本質が見えていない。

勿論、あげるのならば美味しいものを志すのは当然であるが、それと喜ばれるクッキーはイコールにはならない。

所詮男なんぞ、女子から手作りクッキーを貰えたという事実だけで喜ぶのだから味なんぞ二の次で良い。ソースは俺。なんなら妹の小町からのバレンタインの家族チョコですら嬉しいまであるのだから、顔の良い由比ヶ浜から貰って喜ばない男はいないだろう。いや、知らんけど。

落とし所を何処に決めるか、本質を何と見るか、その疑問を奉仕部として相談するのがベターなのではないか、と柄にもなく考えつつ家庭科室に戻るため階段を昇る。

 

何故かこの特別棟には、各階に男女どちらかのトイレしかない作りのため家庭科室からは男子は降りるか昇るかしないとトイレに行けない。

「どうしたもんかな」

溜息混じりに言葉をもらした。

 

「どうしたの?ヒッキー」

 

見上げると、階段の踊り場に由比ヶ浜が立っていた。

さっき雪ノ下とまたクッキーを作り直す、とか言って作業を始めていたが一旦休憩でもしたのだろうか。先程までのエプロン姿とは異なり、着崩した制服が目に悪い。

 

「どうしたの、ってそりゃこっちのセリフだ。クッキー作りはどうしたんだ?」

「クッキー?」

 

まるで鳩が豆鉄砲を食らった、という表現とはこの事だというような反応を見せた。

それこそ予期していない言葉を言われたように。

 

「…あ、あぁ、クッキーね。うん、あー、…そうなのか」

 

運が良いんだか、悪いんだか。目の前の由比ヶ浜がぼそりとそう言ったように聞こえた。

 

「ヒッキーはさ、遠回しなことって好き?」

「は?」

「いいから、教えて」

 

それはクッキーにどう意味を込めているか、ということだろうか?というか、この問い自体が遠回しな言い方なまである気もするが。

 

「嫌いじゃない。嫌だ、とただ一言で済む言葉も誠に申し訳ないのですがうんたら、と長々しく言葉を繋げて有耶無耶にすることはよくするしな」

「そっか…」

「だが、それで自分を誤魔化そうとするのは嫌いだ。どんなことでも最後の自分の味方は自分だからな」

「そっか」

 

二度目の言葉には何処か喜びを感じさせる。

 

「それなら良いや、ありがとね」

 

また、会えると良いね。そう言い残し俺が昇ってきた階段を降りる由比ヶ浜の背中には、紐の緩んだ鞄が背負われていた。

 

鞄を持っていたということは今日の作業は終わったのだろうか。

さっきすれ違わなければ、何も知らずに俺は一人家庭科室で下校時刻まで待ち続けることになりかねなかった。

 

というか、せめて一言、否俺が戻ってくる程度は待ってくれてもいいのではないだろうか。同じ釜の飯を食うならぬ、同じ毒を食らったのだ。毒を食らわば皿まで、の通り俺を待っても悪くはないだろう。いや、これだと俺が毒同類になりかねんが。

 

ひたすらにくだらない一人問答をして、心の奥底から芽生えん思いに気づかないようごまかす。

そういえば家庭科室のカギは締められていないだろうか。調理台脇の椅子に自分の荷物が置いてあるのだ。

気を向けなければ死角となり、気づかない微妙な位置取りだった気がする。

カギを返すのはやぶさかではないが、カギをもう一度借りて返すというのは面倒だ。

億劫な気持ちとともに家庭科室に向かっていると、家庭科室から声とカチャカチャというボウルをかき回す音がもれてくる。

どうやら、まだクッキーを作っているらしい。雪ノ下も何か作りたくなったのだろうか。

 

そんなことを思いながらドアを開くと、目の光景で頭が混乱する。

 

 

そこにあったのは黒髪とピンクがかった茶髪の少女がお菓子作りに勤しんでいる光景だった。

 




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