やはり俺の思春期症候群はまちがっている。   作:N@NO

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青春欺瞞野郎は二重少女の夢を見ない。7

比企谷八幡は葛藤していた。

 

手に握るスマホをあと数回タップするだけで由比ヶ浜に電話がつながる。

便利で酷な時代だ。

近くて遠い、すぐ隣とはこのことを指すのかもしれない。マンションポエムを添えるので電話するのは勘弁してくれないだろうか、くれないか。

これまで同級生の女子に電話したことのない俺からすれば電話とはなかなかしにくいもので、メールやラインのほうがまだ気楽。ただ、比較したら気楽というだけで女子にラインするのも意外と精神をすり減らすのだからしょうがない。

5分ほど前に来た雪ノ下からの連絡にあった予定時刻まであと1分を切った。どうやら、風呂に入る準備をしていたらしく5分もあれば湯船に入っているだろうと。正直その連絡すら年頃の男子高校生からすれば色々と思うこともある。

いかん、変なことを考えるな。もういい頃だろう。さっさと電話してしまおう、それが良い。

意を決して由比ヶ浜のトーク画面を開くと目に飛び込んできたのは志貴さんの水着姿。

だーーー、そうだった。

忘れてた。

心臓やら諸々に悪いので後で変えておこう。

…その前に一応スクショをするのは忘れない。

 

こほん。さて、気を取り直して。

 

ワンコール、ツーコール…

 

かれこれ1分くらい呼び出し音が鳴り続けるが電話に出る気配はない。

もちろん電話に出る気配も何もないのだが。

そして強制的に呼び出しが終わった。

ふむ、タイミングが悪かったのだろうか。

ひとまずこの事態を雪ノ下に連絡をする。

 

『私がこっちの携帯で呼び出しが続いているのはずっと確認していたから、こちらの由比ヶ浜さんが出られないのは当然として、もう一人のほうの由比ヶ浜さんも出られないのは運が悪かったわね』

 

送ったコメントにすぐ返信が来る。

まだ8時なので時間的に既に寝ているとは考えられないが、他のことをしている可能性は十分にある。当然電話に気づかないような習い事や、それこそお風呂に入っている可能性だって…と思考を巡らせている最中、ひゅぽんと気の抜けた音が俺を現実に引き戻す。

 

『そうね、私だったらあなたのような得体のしれない人間から連絡先を交換してすぐに夜電話がきても無視するから当然かもしれないわね』

 

くっ、俺がわざわざ別の可能性を必死に探ってるなか一番考えたくないことを平然に言ってのける雪ノ下…そこに痺れたりなんてしないんだからねっ。

SAN値がゴリゴリに削られ今にも正気を失いそうになっている中、手元のスマホが唸り出す。

 

由比ヶ浜結衣。

 

雪ノ下の文面から考えるにまだ雪ノ下側の由比ヶ浜が電話してきたとは考えにくい。

だとすると、

 

「…も、もしもし?ヒッキー?ど、どうしたのこんな夜にさ」

「悪い、忙しかったか?」

「う、ううん。全然。というよりいきなりヒッキーから電話きてびっくりしてた」

「…悪い」

「え、えへへ。それで何か用事あったんでしょ?」

 

そういわれて時が止まる。

用事はあった。もう一人の由比ヶ浜が実際に存在しているかどうかを確かめることだ。だが、これは電話に出るかどうかを確認するだけで終わってしまう用事なのだ。つまり、電話をした理由はあれど話す内容はない。というか、何も考えていなかった。

まずい。ここで正直に話すのはないとして…。実際夜に電話をしているのだ。リア充たちはどうなのかは知らんが、俺個人として電話なんぞは理由なしにするものではない。ここで特に理由はないんだけどさ、何ていうのはイケメンだから許されるのであって、俺がしたらストーカーか何かだ。

だとすれば、ここは安牌をとる。

 

「いや、少し由比ヶ浜の思春期症候群について気になったことがあってな。あの後何か変わったこととか気づいたこととかなかったか」

「あー、なるほどね。うーん、特にはなかった、と思う。多分。あ、そうだ。あたしね、あの後ドッペルゲンガーって何だろうって気になって調べたら、その」

「どした?」

「もう一人の自分に会ったら死んじゃうって書いてあったんだけど、これって本当なの?」

 

そりゃあ、そうだ。ドッペルゲンガーという現象に対して客観的にみているから気軽にとらえてしまっていたが、当の本人からしてみれば得体のしれない何かがあり、ましてそれが自分の命に関わるかもしれないと知れば平常心ではいられないだろう。

 

「あくまで伝聞としてのドッペルゲンガーはそうだな」

「じゃあ、あたしも…」

「だが、ドッペルゲンガー現象による死の多くは脳の障害によるものとされるものが多い。これは、脳に何らかの腫瘍などができることによって幻覚障害を併発し、自己虚像を見ているのではないか、というのが最近のセオリーだ。だとすれば、思春期症候群によって実際にもう一人存在していると考えれば、由比ヶ浜はこれに当てはまらないだろう」

「な、なるほ…ど?」

「そうだな、まぁ、心配するなってことだ。俺だけじゃなく、雪ノ下や喜界島先輩だっている。もし不安なことが出てきたら遠慮なく言え。きっと力になってくれるさ」

「…やっぱり、ヒッキーは優しいね」

 

電話越しに由比ヶ浜が何か言っていたが、その意味までは聞き取れない。

 

「ヒッキーありがとね。ちょっと安心したよ。また、何かわかったら連絡するね!」

「おう、悪かったな。こんな時間に電話して」

「ううん、全然。なんなら、またしてくれてもいいんだよ?」

「まぁ、用事があればな」

「うん、待ってる」

 

優しさの音色が無機質な電子音に変わり、現実に引き戻される。

さて、頭の整理でもするか。

 

× × ×

「うーん、なるほどなぁ、そうきたか」

 

奉仕部室にて豪快に座った平塚先生は文字通り頭を抱える。

理由は簡単。由比ヶ浜結衣が二人いて、そのうちの一人が家に帰れていないという問題だった。

今は髪を結わいてないヶ浜さんは雪ノ下の家にてそのまま待ってもらっている。

下手に外に出て結わいてるヶ浜さんと接触するリスクは避けたほうが良いだろう。

というか、ドッペルゲンガーさんの呼び分け面倒すぎるな。

 

「確かに教師として、たとえドッペルゲンガーだとしてもネカフェなどに泊まるのは見過ごせないな。雪ノ下、伝えてくれてありがとう。君のそういう思慮深さには頭が上がらないよ」

「いえ、どうせ一人では持て余す広さはありますので。それで、今後についてですが」

「そうだな。正直この問題は君たちだけに任せたままにしておくわけにはいかない」

「ドッペルゲンガー、というか二人のうちどちらが本物で、どちらが偽物なのかわからないということでしょうか」

 

という雪ノ下の問いにううん、と喜界島先輩が首を振る。

 

「どちらかが本物でどちらかが偽物ならもう少し話が単純なのさ。今回の問題点は、どちらも本物である可能性が非常に高いってことかな」

「喜界島の言う通り今回の現象を鑑みると、そうだな、例えば同じ携帯を持っていてデータも一緒など圧倒的な人知を超えた現象だな、このことからも思春期症候群可能性が示唆される。となれば、こちら側としてはどちらも由比ヶ浜結衣として動くのが妥当だろう」

「えーっと、つまりどういう問題があるんですか。ちょっと俺にはその辺の事実がどう影響してるのか話がつかめていないんですが」

 

そうだな、平塚先生が一拍置くように紙コップに注がれた紅茶を口元に運ぶ。

 

「どちらの由比ヶ浜も本物で、私の生徒である以上、それを無視することはできない」

「はい」

「今、自分の家にいる由比ヶ浜のほうは大丈夫だ。しかし、今雪ノ下の家にいる由比ヶ浜のほうは、望む望まぬは置いておいてほぼ家出状態だ。この問題を雪ノ下に任せ続けるわけにもいかない」

「だから、平塚先生に匿ってもらおう、ってのが比企谷君と雪乃ちゃんの案だったよね」

「そうです」

「だが、教師が個人的に家に生徒を招くということはあってはならない。今すぐ思春期症候群に理解がある由比ヶ浜の親族を見つけるのは不可能だろう。となれば、由比ヶ浜は私の家に来るのが一番なのだろう」

 

そういうことか。

平塚先生は由比ヶ浜のことをそのままにしても問題、家に連れて行っても問題なのだ。

 

「すみません、平塚先生に下手に伝えないほうがよかったかもしれないですね」

「いや、比企谷。さっきも言ったが伝えてくれて正しいよ。流石だ、自慢の生徒と言ってもいい」

 

ふっと微笑む。その優しさが余計に申し訳なさを助長した。

思春期症候群による現象は世間一般に認知されていない。つまり、法律やルールにおいて、思春期症候群が起こった際の対処法やそれにおける適応などは想定されていない。

いわゆるオカルト話の類である弊害。

ギリリと奥歯が軋む。

 

「残念ながら、この世は科学という盲目的な偶像世界に縛られているんだよ。比企谷君」

 

志貴さんは窓の外を見つめる。その瞳に映っているのはおそらく外で野球をしている生徒ではないのだろう。

 

「科学は勿論立派だ。私だって少しは科学というものに身を置いている。しかし、これまで解き明かされてきたことだけを科学として、その認知の外は非科学として切り捨ててしまう人が多いのが現状なのさ。幽霊や超能力、妖怪だって実際にはいるのかもしれない、あるのかもしれない。だが、それを今は証明できないから、無いものとしてしまうなんて非常に科学的じゃないと思わないかい?」

 

その科学的な考え方こそ非科学的とはなんとも皮肉めいているね。

どこか自虐交じりの言葉がゆっくりと落ちていく。

思春期症候群は存在するのに、科学というフィルターによって除去されているのかもしれない。仮にそうだとするならば、これは思春期症候群という枠組みで考えていること自体が見当違いなのだろうか。志貴さんの言葉がリフレインするごとに胸のズキンとした痛みが増していく。

 

何かを感じ取った平塚先生がわざと明るい調子で話を変える。

 

「暗い話はやめたまえ。何、もしもの時は私の首が飛ぶだけだ。教え子に何か起きるより百倍ましさ。それよりも、今は前を向くべきだ」

「そうですね…。できないことを語るより、今は由比ヶ浜さんの思春期症候群について考えるのが先ですね」

 

雪ノ下が続く。

 

「それで、比企谷君。何かわかったことはあったかしら」

 

昨夜の出来事、そしてこれまでの思春期症候群を整理するため、俺はボールペンを握った。

 




皆様、お久しぶりです。
先日、活動報告のほうで一応の生存報告なんてしていましたが、ようやく次話投稿することができました。

今回のお話は区切りが悪いのでできるだけ早く次話投稿します。
次回は挿絵(図)を交えた感じで少しややこしいお話になっているのですが、雰囲気を楽しんでもらっても、考察していただいても楽しめるように誠意制作中です。

今更ですが、思春期症候群については完全に独自解釈です。
一応、俺ガイルも青ブタも最新刊&.5巻は押さえています。多少のネタバレを含んでいたりいなかったりするのでお気を付けください。

それでは、また次話でお会いできるのを楽しみにしております。

感想や意見などたくさんコメントしていただけると創作の励みになります。ぜひ一言でもよろしくお願い致します。
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