やはり俺の思春期症候群はまちがっている。   作:N@NO

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青春欺瞞野郎は二重少女の夢を見ない。8

「一つ気づいたことがある。あー、口頭だとわかりづらいから図で整理しながら説明する」

 

ルーズリーフを一枚取り出し、三人に見えるよう机の真ん中に配置する。

 

「まず、現状として由比ヶ浜は二人いるのではないだろうか、というのが今回の思春期症候群の症状だ。一人は、今学校に来ていて家に帰っている髪を結わいているガ浜さん。そんで、もう一人が雪ノ下の家にいる髪を結わいていないガ浜さんだ」

「そうね。けど、比企谷君。その呼びわけは何とかならないかしら、長いし分かりづらいわ」

「よし、じゃあ、登校しているほうがゆいゆいで、雪乃ちゃん家にいるほうがガハマちゃんで」

「はぁ、まあ他に案もないのでひとまずそれで」

 

志貴さんの提案を採用し、紙に書き込む。

 

「昨日俺が由比ヶ浜の携帯に電話をして、通話できるかを確認したことが一つ。雪ノ下の家でガハマちゃんが風呂に行ってスマホを触っていないことを雪ノ下が実際に確認をした状態で電話を掛けたんです」

「そうね、きちんと私もガハマさんのほうのスマホが鳴っていたのを確認しています」

「のんのん、雪乃ちゃん。ガハマさんじゃなくてガハマちゃんだよ。比企谷君だってそうしてるんだから」

「いや、それはちょっと」

「何度も言うようだが雪ノ下。こういうことに関して、志貴さんが折れることはまずない。あきらめろ」

「…はぁ、分かったわよ。ガハマちゃんのスマホをこの目で見て確認したわ。これでいいですか、喜界島先輩」

「うん、おっけー。それで、比企谷君続きは」

 

話の腰を折ったのは志貴さんなのだが...。当の本人はきゃるんという擬音が今にも聞こえてきそうな表情で続きを待っている。

 

「はぁ」

「比企谷。ため息をつくと幸せが逃げていくぞ」

 

私のようにな…はぁ、なんで結婚できないんだろ…。はぁ。と二回繰り返す平塚先生の声は聞こえていない。いや、聞こえちゃいけない。

本当に早く誰か貰ってあげて。じゃないと、俺が隣にいる未来がうすら見えてきちゃってるから。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「さて、気を取り直して。今回の話のポイントはガハマちゃんのスマホを、俺がゆいゆいとガハマちゃん両方に向けて電話をかけているということを知っている雪ノ下が見ていたということだ」

「ちょっとややこしいな、比企谷」

「コペンハーゲン解釈という考え方があるんです」

「私が教えたやつだね」

 

志貴さんがニコリとする。その笑みに不思議と嫌な予感がよぎった。

 

「比企谷君以外には説明していないだろうから、ここで私から簡単にコペンハーゲン解釈についてお話させてもらおう」

 

そう言うと人差し指を立てた手を頭の上に掲げるやいなや、指を無作為に閉じたり開いたりした。

 

「さて、平塚先生。今私の頭の上にある指は何本でしょう」

「喜界島いったい何を…いや、そうだな、1本だろうか」

「いや、平塚先生。あくまで指の本数を聞かれたのだから5本では?」

「比企谷、君はよくもそんなひねくれたことを思いつくな」

 

あきれ顔の平塚先生をみて、ケラケラと笑う志貴さん。

「二人の答えは実際にはどっちでもいいんだけどね。私が言いたいことはそこじゃない。例えば、今のを見て平塚先生が1本とおっしゃったのを基にすると、はい」

 

志貴さんの頭上の指が1本立てられる。

 

「平塚先生が見たことによって私の上の指は1本に確定しました」

「え、えっとすまない。私の理解力が足りていないのかね」

「いえ、私もいまいち話が掴めていないですが…。喜界島先輩が説明しているのは見たものが答えになるということでしょうか?」

「微妙に違うかな。分かりづらくてごめんよ。そもそもマクロな世界では成り立つものではないとされているし…。簡単に言うと平塚先生の見るといった行為によって不確定だった揺らぎが一つに定まった、といったイメージかな」

 

なるほど、なるほど…。前回志貴さんに説明されたけど何となくでしか理解していなかったからなぁ、いや、今も何となく分かったような気になっているだけだが。

 

「つまり、観察することで事象が定まった、といった感じでしょうか?」

「簡単に言えばそういうこと。正しくいうのであれば、人間が勝手に定めた、ほうかな」

「人間が勝手に…」

 

その言葉に雪ノ下がなるほど、と頷く。

 

「結局のところ議論の余地のある理論ではあるんだ。コペンハーゲン解釈自体は実在するものしか存在しない、ということを軸にしているから、客観的実在に対してどのように議論するのか、などの問題もある」

「ふむ、また話の腰を折って申し訳ないが客観的実在とはどういったものだろうか?国語の教師をしていることからも分かるように、私はそういう科学的知識には疎くてね。言葉の意味から推察すると観察することが主観とすることに対する客観性ということかね?」

「まさしくその通りですよ、流石現国の先生!」

 

志貴さんは素直に驚きの声を上げる。

 

「正直、ついてこれなくてもいいやくらいのスタンスで話していたので理解してもらえるのは本当に楽しいですね。客観的実在とはまさしく平塚先生のおっしゃった通りで、観察をしなくても結果が一貫しているようなものを指したりしますが、実際にどのようなものかとは言えません」

「え、言えないんすか?」

「あぁ、仮に言えたとしたらそれは主観的実在になってしまうからね。リンゴのあまさが仮に存在したとして、それを確認するために食べて味を感じとり、伝えるのはそれはもう主観という他ないだろう」

「確かに…」

 

となると客観的実在自体の実在が怪しいものに感じられてくるのは俺だけなのだろうか。

それこそが客観的実在たらしめているのだとすれば、なんという無限スパイラル。

答えの見えない科学を考える人間がいることを踏まえると、敷かれたレールを歩く高校科学が何ともかわいらしく感じられてしまう。

ま、それでも俺は文系に進む。理系は修羅の道、タブンネ。

 

「さて、非常に脱線をしてしまったが、ガハマちゃんのスマホを見ていた雪乃ちゃんがいたことによる問題とそこへの比企谷君のコペンハーゲン解釈という言葉だったね」

 

そういえばそんな話からスタートしていたな。あまりに複雑な話が続いて忘れていたし、きっと何人かは読み飛ばしたまであるだろう。

 

「結論から言うと、比企谷君のにわか乙って感じかな」

「え」

「コペンハーゲン解釈はあくまでもミクロに対する考え方で、まぁ現実で考えるのであればほぼほぼ無視できてしまうからね。現に私のときもあれはコペンハーゲン解釈の問題ではなかったしね」

 

恥ずかし。聞きかじったばかりの知識を自慢げに披露するとか厨二病気この上ない。穴があったら入りたい。さっき感じた嫌な予感はここだったのか、ぴえん。

 

「それでも、重要なポイントと言いたいことは何となくみんなにも伝わったと思うから大丈夫だよ。なに、人間間違えて強くなるんだ。青春ラブコメも間違えたって大丈夫」

「何そのうれしくないフォロー」

「それにコペンハーゲン解釈ではないにしろ、比企谷君のその考えはかなり高いと思うから、説明してあげて」

「あぁ、比企谷。よろしく頼むよ」

「俺がこれまでいくつかの思春期症候群について考えていく中で共通している点があることに気づいたんです。それは、思春期症候群は認知が与える影響が大きいということです。自己や周囲からの認知のズレによって何かしらの問題が起きています。この仮定から、認知という行為に重点を置くと、昨夜の電話では俺がゆいゆいに電話していることを知った状態の雪ノ下が、ガハマちゃんのスマホを見ていたことによって、二つ存在するかもしれないスマホの存在の揺らぎが、雪ノ下の家にある一つのスマホに存在が一時的に確定したのではないか、と考えられます」

 

顔を上げると三人がほぼ同時に首を動かす。おおむね言いたいことは伝わっているのだろう。

 

「つまり、2人の由比ヶ浜に関する意識を持った状態で同時に二人を、もしくは二つのものを観測することは不可能である可能性が高いってことです。仮にあの瞬間にゆいゆいが電話に出れば、同時に二つの全く同じスマホが存在することが確定してしまうからです。例えば俺と雪ノ下が通話などをしながらお互いの状態を知ることができる条件下ならば二人の由比ヶ浜にそれぞれ会うことはできないはずです。シュレディンガーの猫じゃあないですけど観測するまでガハマちゃんかゆいゆいかは不確定であり揺らぎが起こっていることです。究極を言えば、自作自演の可能性は棄却できません。まぁ、その可能性は一旦おいておくとして」

 

1つ呼吸。

 

「認識することで、確率的に起こりうる可能性の高い状況が成り立つように強制的に周囲精されているのではないだろうか、というのが気づいたことです」

「なるほど。存在の揺らぎというものについてこれまで考えたこともなかったが、仮にそれが起こっているとするならばかなり筋の通ったもののような気もするな」

「私もおおむねその予想が正しいと思うよ。思春期症候群の発症および消失に伴う現実改変に関していえば、私は当事者として体験したしね。さて、それじゃあここまでを踏まえて君たちはこの件をどう解決することができると思う?」

 

誰かの座る椅子から軋む音がした。それは俺だったかもしれないし、別のやつかもしれない。

本題、そして難題。

自分の中で昨夜出た結論。いや、あれは結論とはならない。なにせ...

 

「そこがどうしても思いつかないってのが問題すかね。正直、そこの推察を進めたいと思って今回話を持ってきたってのもあります」

「志貴さん的にはどうしたらいいと考えていますか?」

「それは私には答えられないよ。だってこれは比企谷君と雪乃ちゃんに頼まれた依頼でしょ」

「まじすか」

「手伝うくらいはできるけど、けどね。私には答えは出せないんだよ」

 

志貴さんの表情に影が入る。その表情の真意は俺にはまだ分からない。

さて、どうしたものか。

 




少し間が空いてしまいましたが、無事続きの投稿です。
今回の話は結構ややこしいので何となくの雰囲気さえつかめれば支障はないと思います。
文中の理論とかその辺は専門外の人間が自己解釈でそれっぽくしてみただけなので、専門の方的にはそれちがくね?とかがあると思うのですが多めに見てください。(汗

何かご意見や感想等あれば是非よろしくお願い致します!
それでは
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