インフィニット・ストラトス ~栄光のオリ主ロードを歩む~   作:たかしくん

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第85話 織朱式戦闘理論

「…………」

「……おめでとう、と言うべきかしら?」

 

イーリと藤木君の模擬戦が終わった直後、私はイーリが居るピットを訪れていた。

しかし勝ったはずのイーリはまるで敗北者のようにうなだれている、まぁそれも無理のない話だろう。

 

「……全然めでたくなんかねぇよ、アメリカ国家代表があのザマだぞ」

「そうね、あなた終始藤木君のペースに乗せられっ放しだったものね」

 

藤木君の最後の一撃、それはイーリの喉元部分にあるスーツの一部を掴みスーツは無残にも引き裂かれた。

その後イーリが藤木君にトドメを刺し模擬戦はイーリの勝利として幕を閉じたものの周りの反応は些か冷ややかであった。これが俗に言う「試合に勝って勝負に負けた」というやつなのだろうか。

 

「でも、大丈夫? あんな目に遭って」

「大丈夫なわけねぇだろ……」

 

この戦い、一番の被害を被ったのは紛れもなくイーリだ。藤木君にいいように弄ばれ、最後にはほぼ全裸を晒されるという屈辱を味わう事になったのだから。

 

「……なぁ」

「なに?」

「あいつってさ、IS乗ってどれ位になるんだっけ?」

「あいつって……藤木君の事? 確か……男性操縦者適正試験があったのが3月で今が11月だから約8ヵ月って所かしら?」

「8ヵ月かぁ……」

 

8ヵ月、それだけの時間で藤木君はここまでやってきた。環境などの違いはあるだろうが彼こそ天才と呼ぶに相応しい存在なのかもしれない。

 

「なぁ、ナタル。IS乗って8ヵ月経った頃のアタシ達だったらあいつに勝ててたと思うか?」

「無理ね、今のあなたですらギリギリなのにあの頃の私達じゃ敵いっこないわ」

「だよなぁ……」

 

あの高速機動に反則技の数々、なによりも最後に彼が繰り出した土塊(つちくれ)のラッシュ。新兵の頃の私達がそれらを相手するのはどう考えても荷が重い話だった。

 

「……あいつも色々頑張ってやっとここまで来たんだよな」

「……えっ?」

「いや、あそこまでやらないと勝てないとでも思ってたのかなってさ」

 

まずい、なんだかイーリの精神がおかしな方向に向かってる気がする。

 

「だ、駄目よイーリ! ちょっと藤木君に調教されたからって即落ちなんて恥ずかしくないの!?」

「はぁ? 何言ってんだよナタル。そういうんじゃないって」

「だったら何だっていうのよ!?」

「ISLANDERSは色々問題を抱えてる部隊ではあるんだけどさ、やっぱり世界最高の精鋭が集う舞台なわけだよ。もちろん私達だってそれに値する実力を持ってるって確信してる。でも、あいつはISに触れてからたった8ヵ月でここまで来たんだ」

「それはさっきも聞いたわ」

「8ヵ月ってのは長いようで短い、そしてISLANDERSは世界最強の部隊だ。そしてその中にはたったの9人しか操縦者は居ない、つまりあいつは世界のトップナインにたった8ヵ月で上り詰めたんだ」

 

実はISLANDERSへの戦力供給という点において多くの国がそれを拒んでいるという噂を聞いたことがある、故にISLANDERSが世界最強の9人であるというのは大いに疑問の残る所である。

まぁ、話がこじれるだけなのでこの事はイーリには伝えないでおこう。

 

「確かに環境という点においてあいつは優遇されている、でもその環境を手に入れるためにあいつは何を失ったんだろうな?」

「藤木君が失ったもの?」

 

私の目からは彼は自由に生きてるとしか思えない、イーリは藤木君に何を見たのだろうか。

 

「あいつの目、死んだ奴と同じような目をしていた。それに戦闘中もぶつぶつと独り言言ってなんだかおかしかった」

「それが、藤木君の失ったもの?」

「ああ、あいつは既にまともな精神を失ってるよ。たかが16のガキだぞあいつは、どうやったらあんな目が出来るようになるんだよ」

「でも、私には普通に話しかけてくれたけど……」

「そんなもの演技だ、実際に拳を交わしたアタシになら解る。あいつは薄ら笑いの仮面の下にタールみたいにドス黒くて粘ついた何かを抱えてる」

 

イーリはあの戦いで藤木君の何を知ったのだろうか、しかしイーリは今までの自分の考えを捨ててしまう位の何かを藤木君の中に見出してしまったようだ。

 

「近いうち、あいつの心は確実に砕ける。となると、大人としては放っておけないだろ」

「へぇ、あんな事されたのに随分彼の事を気にするのね?」

「どういう意味だよ?」

「さっきも言ったけど調教されたんじゃないかって……」

「うっさい!」

 

雨降って地固まるとはいかなそうであったが、この戦いでイーリと藤木君の関係もよくなるのかもしれない。いや、これはただの願望だ。

でも私はそう思わずには居られなかった、私達の試練はまだ始まってもいないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

その日の深夜、アタシはまだ寝付けずにいた。

無理もない、戦いの余韻は未だ残っているし。明日から藤木にどうやって接すればいいのかも考えていないのだから。

 

「……あぁ、どうっすかな」

 

初対面の時あれだけの啖呵を切り、今日の戦いも酷かった。

しかし、藤木との戦いであいつの歪みを知ってしまった以上大人としてなにかしてやらなければいけないとも思う。

そしてついさっき来たディアナからのメールで藤木の事について色々釘をさされてしまった。

もう後戻りは出来なさそうだ。

 

「しかしなぁ……」

 

腹を割って話そうって言ったってそんな機会も簡単に訪れるものじゃないし、なにか切欠を掴めればいいのだが……

 

「腹を割って話す……か……」

「腹を割って話そう!」

 

その瞬間、そんな大声と共に私の部屋のドアが蹴破られるような音がした。

アタシは咄嗟に枕元に置いてある拳銃を握り締め侵入者の居る方向に狙いを定めた。

 

「だっ、誰だ!?」

「イーリスさん、腹を割って話そう」

「はぁ!?」

 

侵入者の正体は藤木だった、アタシは少し安堵した後拳銃を下ろした。

 

「お前さぁ、今何時なのか解ってんのか? そもそも女の部屋に押し入るなんて非常識にも程があるぞ」

「だからその辺も含めて腹を割って話そう」

「だから帰れよ! おめーと腹を割って話す事なんて何もねーよ!」

 

ついさっき思ってた事はどこかに吹き飛んでしまった。それに明日も早いんだ、ただでさえ眠れないのにこんな奴が居たら益々眠れなくなる。

 

「いや、腹を割って話そう。お互い色々話すべき事があるだろう」

「あるけど! 明日にしてくれ!」

 

すると藤木が急に自分の腕時計を眺める、ちょっと嫌な予感がしてきた。

 

「……ええと、今が11時59分……あっ、0時になった。というわけで腹を割って話そう」

「明日になったー!!」

 

こうして私達の夜は更けていく、結局その後も藤木はアタシの部屋に居座り続け、アタシ朝までその話に付き合わされたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、何故あんな事をやったのか全て話してもらうぞ」

「ええ、勿論。と言いたい所なんですがその前に……」

 

模擬戦があった翌日、基地の会議室でのミーティングが開かれていた。議題は勿論昨日の模擬戦について、そして何故俺があのような策を取ったかという事についてでである。

 

「つかぬことをお伺いしますがみなさん、この中で男性と交際した経験がない方は挙手をお願いします」

「は?」

「重要な事なんだ、というわけで挙手!」

 

元気な俺の声とは裏腹に会議室の中は静まり返っている、そして手を挙げたのはただ一人、ラウラだけだった。

 

「わ、私だけか?」

「そんなわけないだろ。はい、まずそこのロシア。見栄を張らない」

「そ、そんな事ないもん! 幼稚園の頃同じクラスのマサ君と将来結婚しようねって約束したもん!」

「で、そのマサ君とやらは今どうなってんだ?」

「彼女が出来たってさ! 畜生っ!」

 

たっちゃんが悔し涙をにじませながら手を挙げる、彼女も色々大変そうだ。

 

「そしてそこの寝てるのヤンキー、起きたまえ」

「……ぐぅ」

 

俺に名指しで呼ばれたイーリスさんはこのミーティングが始まる前から机に突っ伏していた、そしてそんなイーリスさんをナターシャさんがゆすり起こす。

そして、イーリスさんは目を擦りながら俺を恨めしそうな顔で見上げた。

 

「……なんだよ」

「大事なミーティングの最中に寝るなよ」

「お前が寝かせてくれなかったからだろうが、朝まで付き合わされたこっちの身にもなれよ……」

 

その瞬間、会議室の空気が一変した。

 

「い、イーリ! やっぱり調教されてたのね!?」

「ノリ君……ハッスルするのはいいんだけど程々にね?」

「流石は兄だ、女一人落とすのに一晩もあれば充分ということか」

「ほう、兄上は中々のプレイボーイのようですね」

「やりますね、アニ」

 

やはり若い女というのはこういう色事話が大好きなようだ。しかし俺はイーリスさんと朝まで腹を割って話したりトランプしたりしただけなので別段そういう事をやったわけじゃない。

 

「なんでそんな話になってんだよ……」

「あなたが調教されたからに決まってるじゃない!」

「だから調教されてねぇって! というかナタル、お前最近おかしいぞ!」

「まぁまぁ、俺とイーリスさんは何もありませんから。というわけで話の続きなんだけど、イーリスさん彼氏とか居る?」

「……居ねぇけど」

「だよね!」

「やっぱりお前なんかむかつく」

「で、他の人は嘘ついてない? クラリッサあたりが正直怪しいんだが」

「失敬な、これでも一応……」

「居るのか? クラリッサ」

 

俺の問いをラウラが代弁する、部隊長という建前上部下の事を知っておきたいのだろう。

 

「その……今は別れてるんですけど、二年ほど前に……」

「なん……だと……!? 私が教官の下で血反吐を吐いてる間にクラリッサは男とねんごろになってたとは……」

「その……すみません……」

 

ラウラが見るからに落胆している、今度慰めてあげよう。

 

「ところでテンペスタ二型の人は……」

「あの、それより私の名前……」

 

ごめん、何度か自己紹介してもらった気もするけど覚えてない。たしがすっげぇ長い名前だった気がするんだが。

 

「あ、そう。居るのか。別にいいんだぜ、お兄ちゃん妹に欲情するような変態じゃないから」

「いや、それよりも私の名前……」

 

ここは誤魔化しの一手で行くしかない、というわけで他の人に話題を振ろう。

 

「ナターシャさんはどうだったんですか!?」

「もしかして……忘れてるとか?」

 

独り言のようにか細い声を俺は聞き逃さなかったがあえて無視する、無視するったら無視する。

 

「勿論居たわよ、これでもハイスクールの頃はチアリーダーやってたんだから」

「もしかして……俗に言うクイーンビー? ということはジョックと?」

「まぁ、そういう事になるわね。でも彼って乱暴だったから卒業してすぐに別れたわ」

「はぇー」

 

人に歴史ありという所だろうか、まさかナターシャさんがクイーンビーだったとは。

 

「でもイーリスさんは絶対バットガールですよね?」

「そうだよ、悪かったな!」

「いえ、別に悪いって事はないんやで。そして最後は……」

 

俺は織斑先生の方へと視線を向ける。

 

「あ゛?」

 

妙にドスの効いた声と共に鬼のような形相の織斑先生が俺を睨み返す、もう怖すぎて俺は織斑先生から視線を外した。

 

「え、えーと。織斑先生は乾く暇ない位にもてもてみたいですね。やっぱブリュンヒルデって凄いね、死が二人を分断つまで(ブリュンヒルデ・ロマンシア)だね」

「兄、声が震えてるぞ」

「というより兄上の恋愛遍歴の方が気になりますが、どうなんですか?」

「おっ、そうだよ。お前さっきから人の話ばかり聞きやがって、自分はどうなんだよ?」

 

ここに来て予想外の反撃がクラリッサとイーリスさんから飛んでくる。正直、自分の色恋沙汰はあまり言いたくはないのだが……

 

「ええ、そんなの全然ないですよー」

「今、あからさまな嘘ついたわねノリ君。シャルロットちゃんとはどうするのよ?」

「やっぱり居るのか! お前も隅に置けねぇじゃねーか新兵(ルーキー)!」

「あっ、いやその……」

 

額から脂汗がにじみ出るような嫌な感覚が俺を襲う、というか出てきてるのかもしれない。

 

「いや、まぁ……その……」

「どうした、はっきりしろよ。それでも男か?」

「まぁ、あいつとはまだ微妙な関係でして……」

「そんな事ないでしょ、ノリ君から迫れば一気に落ちると思うわよ。彼女」

「えっ、マジですか!?」

「そうだな、次会った時にでも告ってみればどうだろう。兄よ」

「お、おう……いやいや、そんな事じゃなくって。この話は何故俺があんなセクハラまがいの戦術を取ったかって話だろ、なんでこんなに話がずれてしまったんだ!?」

「明らかにお前のせいだろ」

 

そうだ、俺が悪かったんだ。というわけで話を戻そう、これ以上は聞かれたくない話を色々聞かれてしまいそうだ。

 

「というわけで話を戻そう、現在みんなは現在進行形で付き合っている男はいないという認識で間違いないだろうか? 織斑先生を除いて」

 

そう言うと、また織斑先生が睨みつけてくる。もうこの話はやめよう。

 

「兎に角だ、IS操縦者全員にアンケートを取ったわけじゃないんだか俺の知る限りIS操縦者ってのは男慣れしてない奴が非常に多いらしいんだ」

「ん、そうなのか?」

「ああ、そうだ。そもそもこの業界は始まった時から女社会、しかも一部の操縦者の間では『IS乗りに男は禁物』という言葉があるらしいってのも聞いたことがある」

「IS乗りに男は禁物? どうしてだ?」

「あー、そんな話を昔聞いたことがあるわ」

 

いまいちピンときてないラウラとは裏腹にイーリスさんは納得したように頷く、多分イーリスさんはこの言葉を聞いた事があるんだろう。

 

「IS乗りに男は禁物、それは何故か。由来は様々あるんだろう、男にかまけて訓練をおろそかにするとかな。しかしIS乗りにとって一番の危険、それは……」

「それはなんなんだ、兄よ?」

「妊娠だ」

「はっ?」

「ところで織斑先生、一般的に言われるIS乗りの旬ってのは何歳から何歳まででしたっけ?」

「個人差はあるが一般的には15から30までの間と言われてるな」

 

まぁ、そんな事は俺も知ってる。というかそれは授業で織斑先生から直接教わった話だ、15以前はまだ体が出来上がっていないのでIS操縦に不向きであるし30を超えれば若い操縦者とまともに張り合えなくなっていくらしい。

 

「そう、つまりIS操縦者の実質的な稼動年数はたったの15年。そしてそんな貴重な15年の間に妊娠するってのはどういうことだろう?」

「ガキを孕めばどんなに早くても1年、長ければ3年以上は時間を取られる事になるな」

「そう、最短でも1年。その時間、ISと離れて生活するってのはどれだけのブランクなんだろうな?」

「実際にどうだって言うんだよ?」

「あくまで個人的な意見だけど、1年って時間はかなり長いと思う。環境と才能にもよるが一年あればISに触ったことがないペーペーでも世界のトップに踊りだす事が出来る、まぁそれは俺の事なんだがな」

「うわ、自慢かよ」

 

そうだ、自慢だ。俺はたった8ヶ月でここまでやってきた。そしてそのために自身を三津村に売り、その犬として生きてきた。

しかしその成果は確実に出ている、精神すら削れそうな訓練の日々と命がけの戦いの先にはISLANDERSという輝かしい舞台が待っていたのだ。そしてそのISLANDERSすら俺にとっては栄光への踏み台に過ぎない。

まだだ、まだ俺は成り上がっちゃいない。もっと強くなり、目指すは世界最強。その時こそ、俺はオリ主の本懐を遂げる事が出来るのだろう。

 

「まぁ、そんな所ですかね。兎に角ここで言いたかったのは、IS操縦者は男慣れしてない人が多いって事です。という事は俺が男であるという事はかなり強力な武器であるってことって事でしょうか」

「そうだな、強力かどうかはさておき男であるという事はかなり珍しい武器になるだろう」

「ええ、なにせこの特性を持ったIS操縦者は世界にたった二人しか居ませんからね。そこで俺は考えた、この武器をフルに生かす方法を」

「それがセクハラってわけかよ」

「はい、ふざけているようにしか聞こえませんけどこれは実際にかなり強力なんですよ。少なくとも俺はこれで初めてのISでの戦いを乗り切りました」

「……真耶との戦いか」

 

そう、俺が初めて戦った相手である山田先生に対して行った作戦、それは見事に効果を発揮しその後もこの特性による戦いを仕掛けてきた。そしてその結果もお察しだ、我ながら今までうまくやれたと思う。

 

「そしてこれは今後の戦いにも役立つ、そりゃ相手は亡国機業なわけだしここよりもすれた奴も多いだろう。でも、それでも効果はあるはずだ」

「いや、実際効くのか?」

「断言しよう、確実に効く。戦士の神経というのは繊細だ、鎬を削るような真剣勝負ほどちょっとした違和感が戦いの邪魔をする」

 

少し前、バスケの試合中継を見ていたとき解説が言っていた事を思い出す。シュートを打つ時というのはちょっとした差によりその成否が分かれるらしいと。例えば指を少し怪我するだけ、もっと細かいことを言えば爪を切った事が原因でシュートを外すことすらあるらしい。たった少しの感触の違いがそこまでの影響を及ぼすのだ、ならば俺の戦術はそれ以上の効果を出すことになるだろう。

 

「ふーん、お前も色々考えてるのか」

「考えなしにセクハラをやってるわけじゃないんですよ、という事で俺の話は終わり! といいたい所なんですが最後にひとつだけ言わせてください」

 

そう言いながら俺は周りを見渡す、するとこの小さなミーティングルームの全ての視線が集まった。

 

「もう政治とかつまらないことでお互いに諍いを起こすのはやめませんか?」

「ちょ、ちょっと藤木君。それは……」

 

俺の言葉にナターシャさんが焦りだす、多分他のメンバーも内心いい気分ではないだろう。そもそもISLANDERSにいまいち結束がないのはお互いの国が信用しあってないからなのだ、そしてその国家の思想の違いが個人に伝播しこの部隊の空気を悪くしているのだ。

 

 

「ええ、解ってますよ。俺達ISLANDERSにとって政治は気っても切れない存在だって事は。ですがね、そんなつまらん事で一々いざこざを起こすのはもう沢山なんですよ! 俺達はこれから轡を並べてテロリストと戦わなきゃならんのです。でもね、その時横に並んでいる人間が信用出来ないとなれば俺は怖くて戦えませんよ。それは誰だって同じはずでしょう?」

 

吐き出すような俺の言葉にミーティングルームは静まり返る、そしてその中でたっちゃんが口を開いた。

 

「……そうね、私もそう思うわ。みなさん、確かに私たちは国家からお互い言えないような指示を受けこの部隊に参加しています。しかし、それは飽くまで国家間での事。少なくとも個人的にはもっと信頼しあうべきなんかじゃないかと思います」

「……そうだな、それに私たちドイツに関しては別に隠し立てするような事ではない。折角だからここで言ってしまおうか」

「駄目だラウラ、それだけは」

「えっ?」

「それはフェアじゃない、今お前がそれを言ってしまうと国からの密命を言えない人間に対して不公平感が出てしまう。俺たちは互いにフェアじゃないといけない、いい部分も悪い部分も含めてな」

「むぅ……そうか、兄がそう言うのなら……」

「悪いな、責めるつもりはないんだが我慢してくれ」

 

ばつがわるそうなラウラとは裏腹にミーティングルームの空気が少しだけ軽くなる、きっと俺の言葉にほっとした人間も居るのだろう。

 

「さて、これでミーティングは終わりですね。つかぬ事を聞きますが、みなさんこの後ご予定は?」

「いや、私達はねーけど。だよな、ナタル」

「ええ、今日はこの後は自由時間ね」

「えっ、ノリ君なにかやるの?」

「ああ、折角だから親睦を兼ねてバーベキューしよう。アメリカっぽくね」

「おっ、いいな。バーベキューの本場のアタシ達が一からレクチャーしてやろうか?」

「やめときなさいよイーリ、あなた食材を9割方炭にするじゃない」

「な、なにぃ! ウチの部下はいつもうまいって喜んで食ってるぜ!?」

「嫌々ながらね、正直あの時の彼らは見ててかわいそうだったわよ」

「なん……だと……!?」

 

そんなわけでミーティングルームはISLANDERS始まって以来の和やかな雰囲気に包まれる、きっとこれからはこの部隊もより良くなっていくだろう。

そう、俺達の戦いはまだ始まったばかりなのだ。だから頑張ろう、これから訪れる様々な試練に負けないように。


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