インフィニット・ストラトス ~栄光のオリ主ロードを歩む~   作:たかしくん

101 / 102
第86話 伝説を殺した男

「お邪魔しまーす」

 

そう言いながら俺はドアを開ける。ここはISLANDERSアメリカ出張所の司令室、つまり我らが司令であるせっちゃんの城と言える場所だ。

何故俺がここに来たかと言うと、織斑先生からせっちゃんに宛てた書類を届けるように言われたからなのだが、どうやら織斑先生はせっちゃんにあまり会いたくないらしく俺が届ける事になってしまったのだ。

しかし仮にも幼馴染というならもう少し仲良くして欲しいと思うところではある。しかし人と人の関係は十人十色、あの二人にとってはこの関係に落ち着いてしまったのだろう。まぁ、別に喧嘩をしているわけじゃないしISLANDERSの運営に支障をきたしてるわけでもない。ならこのままでいいのだろう、多分。

 

「どうした?」

「織斑先生からラブレターでーす」

「そんなわけがあるか」

 

俺の小粋なジョークにため息をつきながらせっちゃんは書類を受け取る。しかしこの司令室に入るのは初めてだ、何か面白い物がないかとこの部屋をぐるりと見回してみるが、そこにあるのは雑然と積まれた書類の山ばかり。ちょっと掃除とかしたらいいのにと思う。

 

「しっかし、天下のISLANDERSの司令室の割にはきったないですね。掃除とかしてるんですか?」

「いや、別にそういうのはしてないな。そもそもボクは掃除とか苦手だからな」

「だったら成美さんにお願いすればいいのに……」

「いや、これでもどこに何があるのかちゃんと把握してるんだぞ? 成美に掃除されるとそれが解らなくなってしまう、だったらこのままでもいいじゃないか」

「ああ、典型的な駄目人間の発想だ……」

 

そんな会話をしてる間もせっちゃんは織斑先生からの書類を読んでいる、どういう内容なのだろうか。

 

「で、そのラブレターの中身ってなんなんですか?」

「只の物資補給に関する陳情書だ、面白いものじゃないぞ」

「へぇ……」

 

書類を粗方読み終わったせっちゃんは、それを積まれている書類の山の一番上に置いた。しかし次の瞬間そのバランスを失った書類の山が崩れ落ち、書類が床に散乱する。

 

「ああ、言わんこっちゃない。やっぱりちゃんと整理とかしたほうがいいですよ」

 

そう言いながら俺はその書類を拾い上げる、ふとそれに目をやると見知った人物の名前が書かれていた。

 

「ええと……Laura Bodewig。ってラウラの名前か……これ、報告書かなんかですか?」

「ん? ああ、これはボクの趣味で取り寄せたものだ。学生のお遊びにしては出来がよかったのでな」

「学生のお遊び?」

 

そんな言葉が気に掛かりながらも俺はその書類をめくってみた、しかしそれは俺が思っていたよりもつまらないものだった。

 

「これ……ラウラの夏休みの自由研究ですやん。なんでこんなものを?」

「だから言っただろう、趣味だって」

 

それは今から20年以上前に活躍したと言われる伝説の傭兵のレポートだった。彼は戦場では鬼神の如き強さを発揮し多くの敵兵を殺害し、その力は世界の軍関係者を震え上がらせたそうだ。

その逸話は多岐に及ぶが、正直俺から見れば眉唾物だ。なんだよ生身でビームを撃つって、もう人間じゃないだろ……

 

「いや、待てよ……」

 

そこで急に思い出した、俺は生身でビームを撃つ人間を知っている。

そう、その名は寺生まれのTさん。彼女の撃つ『破』は見る人からすればビームにも見えるかもしれない、だとするならこの伝説の傭兵はTさんと同じ霊能力者であるかもしれないのだ。

 

「ふむ……そう考えれば辻褄は合うのか……」

「どうした?」

「いや、ちょっと考え事です。ところでこの伝説の傭兵ってのはどんな人物だったんですか?」

 

この伝説の傭兵と薄くはあるが俺と関係があると思うとちょっと興味が出てきた、そしてせっちゃんは趣味とはいえ確実に俺より彼について詳しい。なら聞いてみない手はない。

 

「なんだ、気になるのか?」

「ええ、少し」

「ふっ、なら仕方ない。少し長くなるぞ」

 

その時のせっちゃんは明らかに目の色を変えていた。あっ、これは長くなるパターンや……

 

「伝説の傭兵、彼の出自は未だはっきりしていない。少なくとも彼の存在が確認されたのは1970年代終盤のアフリカでの事だ、彼はその国の内戦で反政府軍の傭兵として活躍し、政府軍を震え上がられたと言う。結局のその内戦では反政府軍の内部崩壊で敗北を喫したものの、その後も彼は世界中様々な場所で戦いを続ける事になった」

「へぇ、やっぱり強かったんですね」

「そりゃそうだ、そのレポートに書いてあることは全て真実だからな。それに彼は兵士だけでなく工作員としても超一流だった。ある時、彼が居る拠点を爆撃し始末する計画が持ち上がったのだが、彼はそれを事前に察知し、敵基地は潜入後、離陸した爆撃機をジャックしそのまま基地を爆撃し100名以上の死者出しそのまま爆撃機を持ち逃げしたという逸話もある」

「スネークとルパンとゴルゴを足して3で割らないって感じだ……」

 

つまり超強いって事だ、現在の俺にとって強さの象徴とも言える織斑先生と戦ったらどうなるんだろうか? 織斑先生もなんだかんだ超人なのでいい戦いが出来そうな気がする。

 

「まぁ、大体そんな感じだ。そうそう、まぁその位の存在になればもちろん彼にも仲間と言われる人間が出てくるようになる。そんな仲間を引き連れて彼はPMCを興す事になったんだ」

「カリスマってわけですね」

「ああ、ここまで言えば解ると思うが彼は当時世界最強の人間だった。そんな世界最強の人間が率いるPMCは数々の紛争で活躍したわけだが……ある時事件が起こる」

「ん、事件?」

「ああ、彼はついに戦闘中に重傷を負ってしまった。その場はなんとか始末出来たらしいが、世界最強といえ所詮は人間、彼は前線から退き少数の手勢と共にとある任務を請け負うことになった」

「ほうほう、それは……」

「希望の船の護衛任務さ」

「希望の船? なんですかそれは?」

「メガフロートと言えば解り易いか? キミも知ってるだろう、メガフロートの前身がイリーガルな科学者が禁忌の研究を行うために乗り込んだ船だという事は」

「おお、意外な接点が……」

 

メガフロートが昔は非合法集団だということは俺も知っている。そうか、俺は彼と同じ海を見たことがあるのか。なんとなくだけど嬉しい。

 

「確か伝説の傭兵が希望の船の警備任務を請け負ったのが1993年の夏だったか」

「しかも俺が生まれた年ですか、なんか運命感じちゃいますね」

「運命……そうかもな。何せ彼はそこで死ぬことになるのだから」

「おっ、ついに年貢の納め時だったんですね」

「ああ、当時世界の鼻つまみ者であった希望の船は様々な組織に狙われていた、国家団体を問わずな。そしてジョージ・マッケンジー大尉率いる米国特殊部隊により殺害された、というわけだ」

「ジョージ・マッケンジー……聞いたことない名前ですね、でもなんだか名前から親しみを感じるような……」

 

というか玄界灘で魚釣ってそうな名前だ。

 

「だったら知っておいたほうがいい、彼はアメリカの英雄の一人でこのISLANDERS設立にも深く関わっている。知らないと恥をかくことになるぞ」

「へぇ、そうなんですか。しかし思った以上に伝説の傭兵との接点があってびっくりですよ。そうか……伝説の傭兵はメガフロートで死んでそれを殺したのがISLANDERSの設立者の一人か……」

「ふっ、資料ならいくらでもやるぞ? なにせボクは彼の大ファンだからな!」

「あっ、やっぱりいいです……でもせっちゃん。そのジョージ・マッケンジーって人の事はどう思ってんのさ? せっちゃんの大好きな伝説の傭兵を殺した人なんでしょ?」

「いや、別に彼を嫌ってるわけじゃないぞ? むしろ尊敬してるぞ」

「へぇ、どうして?」

「どうしても何も、ボクはISLANDERS作戦部の人間として彼に指導を受ける立場だし、そもそも彼は人間的魅力に溢れてる人だ。それにボクにとって伝説の傭兵は歴史上の人物みたいなもので、それを殺したからってそこに思うことは何もない」

「ふーん、そういうものですか」

 

せんちゃんやそのジョージ・マッケンジーさんが所属している作戦部とは言うなればISLANDERSの頭脳と言える場所で、そこにはもちろん織斑先生も所属している。そしてその作戦部が決めた作戦を実行するのが俺達ISLANDERS戦闘部隊なのだ。人間に例えると作戦部が頭脳、戦闘部隊が手足といったところか、そしてその他の人々は……臓器?

 

「まぁ、伝説の傭兵の話は後々ということで……そろそろ俺は帰らせてもらいますよ」

「なにっ? ボクはまだ語り足りないぞ!?」

「いや、そういうのいいです。ということでさよなら!!」

 

そう言いながら俺は司令室の扉に手を掛けようとした瞬間、その扉が勢いよく開かれる。そしてその扉は俺の顔に直撃した。

 

「ぐわっ、痛ってぇ!!」

「おおっと! これは失礼、大丈夫かね?」

 

床に倒れ悶絶する俺に太い腕が差し出される、その腕を掴むとこれまた勢いよく俺は引き上げられた。

 

「大丈夫かい? 見たところ怪我はしてなさそうだが」

「え、ええ。大丈夫です……」

 

ちょっとくらっとした頭で前を見ると、金髪碧眼の異様に恰幅がいい中年男性が立っていた。胴回りは俺の倍はあるんじゃないだろうかと思わせるし腕も太い、しかしその分厚い脂肪の下には俺以上の筋肉があるのは容易に想像できた、俺を片腕で軽々と引きあげる位なのだから。

 

「そうそう、キヨツグ君。ビックニュースだよ」

「どうしたんですか大佐、また近所にうまいピザ屋でもみつけましたか?」

 

キヨツグ君、聞きなれない名だがたぶんせっちゃんのあだ名なのだろう。キヨツグを漢字で書けば清次、つまりせっちゃんの名前だ。実に解りやすい。

 

「というかこの人を紹介してくださいよせっちゃん。ええと、大佐さん? で、いいんですかね?」

「ああ、すまない。自己紹介が遅れたね。私はISLANDERS作戦部所属、ジョージ・マッケンジーだ。一応出向元のアメリカ軍では大佐という事になってる、よろしく頼むよ。藤木紀春君」

「なっ!?」

 

早速のご本人登場に流石の俺もビビる、年齢のせいか多少たるんではいるが道理で強そうなわけだ。

 

「驚いたか?」

「当然ですよ、ついさっき話題にしてたひとじゃないですか……おっと、ご存知かと思われますが藤木紀春です。お会いできて光栄です、マッケンジー大佐」

 

そう言って俺はマッケンジー大佐に手を差し出す、そしてマッケンジー大佐は強く俺の手を握り返した。

 

「こちらこそ光栄だ、君は全世界の男の希望なのだからね」

「よしてください、ここでは僕はただの新兵(ルーキー)ですよ」

「いやいや、それにしてはウチの跳ね返りに一泡吹かせたようじゃないか。ただのルーキーじゃあそこまでは出来んよ」

「……恐縮です」

 

マッケンジー大佐の言っている跳ね返りというのはイーリスさんの事なんだろう、そして大佐の口ぶりから多分大佐もイーリスさん手を焼かされているのだろうか。

 

「それより、今度はどうしたんですか?」

「ああ、ついさっき情報部がいいものを持ってきてくれた。見たまえ」

 

そう言いながら大佐はせっちゃんに書類を手渡す、最初は退屈そうにそれを眺めていたせっちゃんだったがとあるページを開いた瞬間目を見開いた。

 

「ほう、これはこれは……」

「なんかあったんすか?」

「ああ。藤木、喜べ」

「……だからなんなんすか?」

「亡国機業の拠点が発見された。つまりお前の初陣が決まったということだ」

「マジですか!?」

 

せっちゃんが俺に書類を見せる、そこには亡国機業の拠点らしき場所の所在が書かれていた。しかも四つも。

 

「……お、おお。つまりこの退屈な訓練漬けの日々もついにおさらばというわけですね!」

「藤木、織斑を呼んで来い。これから情報の精査と作戦会議を行わなければならんのでな」

「かしこまり! 行ってきます!!」

 

そう言うと俺は司令室を飛び出し、全速力で織斑先生の私室を目指す。

 

ああ、ついに待ちに待った実戦だ。そしてそれは俺の念願でもある虎子さんとの戦いに一歩近づくということでもある。

 

俺は期待に胸を膨らませて走り続ける、そんな中ある事に気づいた。

 

「あれ、俺が行くよりも織斑先生を電話で呼ぶほうが早いんじゃね?」

 

そんな疑問を抱きながらも俺は走る、きっとその先には明るい未来が待ってるはずだ。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。