インフィニット・ストラトス ~栄光のオリ主ロードを歩む~   作:たかしくん

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第8話 ドロップアウトチャイニーズ

教室に入り、席に着く。しかし誰も俺に話しかけては来ない。

てっきり昨日の晩のことを聞かれると思っていたので肩透かしを食らう。

しかし、それは間違いだった。優しくしてあげようだとか、そんな感じの生暖かい視線が教室中から俺に注がれる。

針の筵に座るような気持ちだ、正直逃げ出したい。

 

「そういえば藤木君は知ってる? 二組に転校生が来るって」

 

俺の気持ちを知ってか知らずか谷本さんがそんな話題を振る。しかし今の状況から逃げ出せるのならありがたい、この話に乗っかろう。

 

「いや、知らないな。しかし今の時期に転校生ってどうなんだ?まだ四月だぞ、いきなり転校ってちょっと訳ありな感じがするな」

「なんでも中国の代表候補生なんだってさ」

「へぇ」

 

あれかな?中国の訓錬施設で馴染めなくて問題起こしてIS学園に飛ばされたのかな?こんな時期に転校させられるなんて相当な問題児に違いない。

 

「あら、わたくしの存在を今更ながらに危ぶんでの転入かしら」

「それはどうだろう」

 

俺はイギリスの代表候補生であるセシリアさんに言葉を返す。

 

「あら、どういうことかしら?」

「これは俺の推理……いや、全く根拠が無いから妄想になるな、しかし聞いて欲しい。今の時期に転校するなんてセシリアさんのことを危惧してやったにしてもやっぱりおかしいよ。それなら初めから普通に入学すればいい、セシリアさんのIS学園行きも急に決まったことではないわけでしょ?」

「ええ、そうですわね」

「だからさ、俺はこう思うんだ。その代表候補生はきっと本国で問題を起こしてこのIS学園に飛ばされたんじゃないかと。本国に居させるのは厄介だけど、多分優秀で国としても手放したくはない。だからIS学園に面倒事を押し付けてやろうって。そんな感じかな、一応筋は通ってると思うんだけど」

「確かに、それもありえますわね」

 

セシリアさんが納得したような顔をする。

 

「同じ代表候補生なんだからセシリアさんもその中国の子に優しくしてあげないとダメだよ。きっと彼女だって辛い思いをしてここにやってきてるんだから」

「確かに……そうですわね。代表候補生にしか解らない苦労やしがらみというものというのもあるでしょうし、わたくしが彼女を導いてあげなければいけませんわね」

「頑張って!」

 

この一連の俺とセシリアさんの会話で、このクラスの中に新しくやってくる中国の代表候補生はかわいそうな問題児というイメージが定着した。

そのお陰で俺に対する生暖かい視線も幾分か解消された。もし間違ってたらごめん、名も知らぬ中国の代表候補生よ。

 

「しかし、このクラスに転入してくるわけでもないのだろう? 騒ぐほどのことでもあるまい」

 

篠ノ之さんがそう言う。まぁ、二組に在籍するわけだから彼女のことは二組の人たちがなんとかするべきだ。頑張れ、二組。

 

「どんなやつなんだろうな」

 

一夏がそう言うと篠ノ之さんは急に不機嫌そうな顔をする、彼女は随分と嫉妬深い人間のようだ。

 

「今のお前に女子を気にしている余裕があるのか? 来月にはクラス対抗戦があるというのに」

「そう! そうですわ、一夏さん。クラス対抗戦に向けて、より実践的な訓錬をしましょう。ああ、相手ならこのわたくし、セシリア・オルコットが務めさせていただきますわ。なにせ、専用機を持っているのはまだクラスでわたくしと一夏さんと紀春さんだけなのですから」

 

そう言われた一夏は不満そうな顔をして返事をする。

 

「えー、いいよ。訓錬なら紀春にやってもらうし」

 

そう言われたセシリアさんはキッと俺を睨む。セシリアさんの睨みは以前散々受けて耐性が付いていたつもりだったが、今回のは以前に比べて眼力が桁違いだ。以前、篠ノ之さんが花沢さんに反逆したように、恋の力はセシリアさんも強くしていた。

 

「ごめん、俺は付き合えないわ」

 

俺がそう言うと、とたんにセシリアさんの視線が優しいものへと変わる。むしろ俺に微笑んでいた。

 

「何でだよ。お前、セシリアより強いだろ?」

「打鉄・改の習熟訓錬が終わってないんだよ。俺はお前のことより打鉄・改のことで精一杯なんだ。それにセシリアさんに勝ったのは、あくまで奇策が通用したからだ。次やったら多分負けるよ」

 

その言葉を聞いたセシリアさんは上機嫌だ。

 

「そういうことですわ!というわけで訓錬はわたくしにお任せください」

「まあ、やれるだけやってみるか」

「やれるだけでは困りますわ!一夏さんには勝っていただきませんと!」

「そうだぞ。男たるものそのような弱気でどうする」

 

男たるものか……篠ノ之さんのその発言で、俺はたっちゃんのことを思い出す。冷静になって考えるとあれはただの八つ当たりだった。たっちゃんには本当に申し訳なく思っている、今度会ったらもう一回謝ろう。

 

「織斑君、頑張ってね!」

「フリーパスのためにもね!」

「今のところ専用機を持ってるクラス代表って一組と四組だけだから、余裕だよ」

 

俺の気も知らないクラスメイト達がそんな感じで楽しそうに騒いでる。その時聞きなれない声が聞こえた。

 

「―――その情報、古いよ」

 

教室の入り口を見ると、見慣れない小さいツインテールが立っていた。

 

「鈴……お前、鈴か?」

 

一夏が席から立ち上がりそう言う。どうやらその鈴とやらは一夏の知り合いらしい。

 

「そうよ。中国代表候補生、凰鈴音。今日は宣戦布告に来たってわけ」

 

ビシッという音を立てながら凰鈴音は一夏を指差す。

中国代表候補生。そうか、彼女があのかわいそうな問題児か。

俺は凰鈴音の指先を眺める、そして指先からすっと肩のほうへ視線を移す。

肩と脇が露出していた。IS学園は制服の改造が認められているが、脇露出は初めて見た。

あれかな? 臭いのかな? もしかしたら本国での問題ってワキガなのかな?

彼女はワキガを気にして蒸れるのを防ぐためにあんな脇露出制服を着ているのだろうか?

そうだとしたら涙ぐましい努力だ。今は四月だが冬になったら寒さで大変だろうに。

頑張れ凰鈴音、俺は君を応援するぞ。

 

一夏と凰鈴音が二、三言会話をしていると、鳳鈴音の後ろに織斑先生が現れた。

 

「おい」

「なによ!?」

 

その瞬間、凰鈴音は織斑先生の拳骨を食らった。

 

「もうSHRの時間だ」

 

その後、凰鈴音と織斑先生が二、三言言葉を交わし、凰鈴音は一夏に捨て台詞を吐き二組の教室に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ、視線が痛い。

いや、SHR前の生暖かい視線ではない。篠ノ之さんとセシリアさんの突き刺すような視線が俺の隣の一夏を襲う。

一夏の隣に居る俺はそのとばっちりをもろに受けていた。そして一夏はこの視線に気づかない。

一夏とやたらと仲の良さそうにしてた鳳鈴音のことで怒ってるのだろうが、二人は授業をまともに聞いていないらしく織斑先生から出席簿を頭に食らう。

その度に一夏への視線は強くなる。誰か助けてくれ。

 

「藤木、この問題に答えろ」

「ああ、誰か……」

「…………」

 

俺も出席簿を食らった。気絶?もちろんしたよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前のせいだ!」

「あなたのせいですわ!」

「そうだよ」

 

昼休みにいきなりあの二人が一夏に文句を言っていたのですかさず便乗する。ちなみに今回は記憶喪失はなかった。

 

「なんでだよ……」

 

そんな昼休みの始まりだった、そして俺達は食堂へ向かった。他にもクラスメイト達が数人ついてくる、ってか谷本さんと鷹月さんと布仏さんだ。

 

今日は凰鈴音を見たせいかなんとなく中華の気分だった。俺はラーメンを選ぶ。

そんな時その鳳鈴音が現れた。どうやら一夏を待っていたらしい、そして一緒に食堂のおばちゃんが待ち構える列に並んだ。

 

凰鈴音がおばちゃんからラーメンを受け取る。なんか嫌なバッティングだ、一夏が日替わりランチを受け取ると、俺もおばちゃんからラーメンを受け取る。

 

「お前もラーメンか、なんか運命的なものを感じるな」

「ねぇよ」

 

一夏がそんなことを言う、その声に反応してか凰鈴音がこちらを見る。

 

「あっ、二人目も居たんだ。って真似しないでよ」

 

二人目って、お前……自分が二人目って言うのはいいが、人に言われるとイラッとする。

確かに俺がラーメンを選んだのは彼女の影響だが、そこまで言われる覚えはない。

ワキガでも頑張ってる彼女を応援したいって気持ちはあったが、その気持ちはどこかに行ってしまった。

 

「ああ? 何お前、喧嘩売ってんの?」

 

俺のやさぐれハートに火が灯る、失恋のせいか最近の俺は短気なのだ。

そして、その時既に彼女に対し手に持っているラーメンをぶちまける準備は完了していた。

 

「喧嘩売ってるのはそっちでしょ?」

「ちょっと、やめろって。鈴、お前も突っかかるな」

 

すかさず一夏が仲裁に入る。どうやらラーメンをぶちまけるのは中止させられたようだ。

 

「一夏、行くわよ」

「おい、待てって!」

 

凰鈴音が空いてる席を目指し歩いていく、それを一夏が追っていく。

俺は二人の背中に中指を付き立て、それを見送った。

不意に篠ノ之さんが俺に声を掛ける。

 

「藤木、私達はこっちに行くぞ」

 

俺は篠ノ之さんに導かれ一夏と凰鈴音とは別のテーブルに行く。って言っても隣のテーブルだ。

そこから二人を監視するつもりか。

 

周りは二人の様子が気になって仕方ないようだが、俺には関係ない。俺は黙ってラーメンを啜る。

俺が一通り食べ終えた頃、篠ノ之さんとセシリアさんが隣の席に移動し一夏に詰め寄る。痴話喧嘩が始まるらしい。

 

テーブルには俺と谷本さんと鷹月さんと布仏さんが残される。今のうちにあの話を聞いておこう、人数も少なくなって幾分話しやすくなった。

 

「あのさ……」

「ん?何?藤木君」

 

谷本さんが受け答えをする。

 

「朝から俺を取り巻く空気がおかしいんだけど……」

「ああ、それは……」

「みんな俺に昨日のことを聞きたいんじゃないのか? 俺の自意識過剰だったらそれでいいけど」

「私が止めたんだよ、のりりん」

「のりりん?」

 

布仏さんがそう言った。しかしのりりんと呼ばれるのは初めてだ。俺のあだ名はいつもかみやんだったから違和感がある。

ってか、何で布仏さんが止めたんだ?聞いてみよう。

 

「なんで止めたんだ?」

「かいちょーが羽庭さんのことに関しては触れないであげて欲しいって言ってたから~」

「かいちょーって、たっちゃんか。ってかなんで布仏さんが羽庭さんのことまで知ってるんだ?」

 

布仏さんがたっちゃんと交流があるのは別にいい、しかし羽庭さんのことまで知っているとなるとその意味合いは変わってくる。もしかして彼女は更識の一味ではないのか?

 

「私は生徒会に入ってるんだよ」

「生徒会って、選挙か何かやってたっけ?」

「ううん、完全スカウト制だよ。ちなみにかいちょーは前のかいちょーを倒すとなれるんだよ」

 

何だその世紀末的な思想は、しかし完全スカウト制ならやはり布仏さんは更識の一味なのだろう。一応確認しておこう。

 

「完全スカウト制ってことは、そう考えていいのかな?」

「うん、そう考えてもらっていいよ」

 

このあやふやな質問に淀みなく答えることができるのはもう確定でいいだろう。布仏さんは更識の一味だ。このおっとりした外見からは想像できないが。

 

「なんか話が私達には訳がわからないんだけど」

「ああ、ごめんごめん。話を戻すよ」

 

谷本さんが疑問符を浮かべながらそう言う。ここは多くの人が集まる食堂だ、更識の話を気軽にしていい場所じゃない。

 

「まあ、布仏さんが止めたことは解った。でもこのままじゃ俺は針の筵から解放されない。だからあの日何があったか言うよ」

 

谷本さんと鷹月さんが喉を鳴らす。

 

「あの日俺は、確かに女の子を部屋に連れ込んだ。でも結局振られてしまったんだ、主に一夏のせいで」

「なんでそこに織斑君が?」

「それは言えない。あえて言うなれば、俺と一夏は殺し合いに発展しそうなくらい喧嘩したってことかな」

 

ISで殴ったんだから殺し合いって言ってもおかしくないだろう。

 

「その割には仲良いね」

「まぁ、すぐに解決したからな」

「もしかして……」

「何を想像してるのは知らんが、ホモ要素はないからな」

「ちっ」

 

谷本さんが舌打ちをする。彼女もそうなのか。

 

「というわけでこの話は終わり、これはクラスのみんなに話しておいてくれて構わない。俺は先に教室に戻ってるから」

 

そう言い、俺は一人で教室に帰る。みんなで帰って凰鈴音に何か言われたら面倒だからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

打鉄・改の習熟訓錬を終え、一人で寮まで戻る。外は暗く、俺のほかに人は全くいない。

そんな時だった。

 

「あれ、一夏。アンタ寮に帰ったんじゃないの?」

 

一夏と呼ばれることと、この声……マズイ、凰鈴音だ。暗がりで解りにくかったのだろうが、凰鈴音は俺と一夏を間違えていた。まぁ、背格好も結構似てるし仕方ないか。

 

「何無視してんのよ、こっちを向きなさい」

 

観念しよう。俺は凰鈴音に向かって振り向く。

 

「残念、一夏じゃなくて紀春君でした~」

「げっ」

「げっ、とは何だ?今度こそ喧嘩がしたいのか?と言いたい所だが……」

「……何よ」

「正直スマンカッタ。あの時はイライラしていて思わずお前に当たってしまった」

 

俺は凰鈴音に頭を下げる。この事といい、たっちゃんの事といい最近の俺は謝ることがいっぱいだ。

謝ることいっぱい。そんな芸人が居たのを思い出す、あいつつまらなかったな。

 

頭を下げてじっと待つ、凰鈴音は何も喋らない。早くなんとかしてくれ。

 

「解った、許す!」

「あれ?お前結構サバサバしてるのな。もうちょっと粘着されると思ってたんだけど」

「あと、お前はやめなさい。鈴でいいわよ。一夏もそう呼んでるし。って誰が粘着質ですって?」

「粘着質とは言ってねぇだろ。まぁ俺のことは好きに呼んでくれて構わないよ」

「好きに呼べって、そういうのが一番困らない?」

「ああ、確かに。じゃあ、俺のことは紀春でいい。一夏もそう呼んでるし」

 

ちょっとした意趣返しをしてみると鈴が笑う。

 

「なにそれ、私の真似をしたみたいだけど少しも面白く無いわよ」

「その割りには笑ってたような気がするがな」

「そういえばラーメンも真似したわよね 」

「あの時は、鈴を見たらなんとなく中華の気分になっただけだよ。別に深い意味は無い」

「なんだ、そんなことか」

「ああ、そんなことだ」

 

なんとか鈴と和解できたようでよかった。あっ、鈴のためにアレを用意していたのを忘れるところだった。せっかく楢崎さんに頼んで今日持ってきてもらったのに、忘れてしまっては楢崎さんに申し訳ない。

 

「そうだ、これやるよ」

 

そう言って俺は小さい茶色の紙袋を渡す。

 

「ん? 何これ? チューブ?」

 

鈴は紙袋を開け中にあるものを取り出した。中には軟膏を入れたチューブが出てきた。

 

「まあ、お詫びの印みたいなもんだ。是非受け取ってくれ」

「軟膏みたいだけど、これ何よ?」

「ワキガ用の軟膏だ。ワキガ、気にしているんだろう?」

「はぁ!? アンタ何言ってんのよ!」

「えっ?違うのか? 肩と脇丸出しにしてるから、俺はてっきり脇が蒸れて臭くなってしまうのを気にしていると思ってたんだが」

「ファッションよ! ファッション!」

「はぁ!? ファッション!? その脇丸出しが!? ありえねー――あべし」

 

その瞬間俺の顔面に鈴のドロップキックが炸裂した。

ああ、この感じ。威力もキレも足りないが花沢さんを思い出させる感触だ、懐かしいなぁ。

しかし俺を気絶させるのには充分だ!

 

俺は今、気絶しようとしている。しかし完全に意識が落ちる前に記しておかなければならないことがある。

ピンクだった。


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