インフィニット・ストラトス ~栄光のオリ主ロードを歩む~ 作:たかしくん
「夏だねぇ」
「夏だなぁ」
海沿いの国道を走るバスの窓からは潮風も流れ込んでおり、もういかにも夏って感じだ。
海が見えてから騒ぎ出したクラスメイトたちも今は幾分落ち着きを取り戻しており、思い思いに雑談をしている。
バスの席決めは事前に決まってはいなかったので、一夏の隣の席を巡って激しい対立が起こるものかと思っていたが、一夏がすんなりと俺の隣に座ったためその争いは有耶無耶のまま終わってしまった。
「しっかし、暇だ。もうトランプも飽きたよ。一夏、他に何かないのか?」
「じゃ、UNOでもやるか?」
「またカードかよ、もっと他のはないのか?」
「あとは人生ゲームかクトゥルフ神話TRPGしかないな、ちなみに昨日買って来たものだ」
「クトゥルフ!? お前そんなもの買ってきたのかよ!?」
「いやー、こういうの久しぶりだから張り切っちゃって。ちなみにシナリオはオリジナルを考えてきたからな」
「初心者が一晩で考えたシナリオなんぞ絶対に面白くないだろ、そもそも張り切りすぎだろお前」
「いやいや、中々面白いのが出来たぞ。自分で言うのもアレだけど名作だぞ。それに俺は初心者じゃないからな、昔は弾たちとよくやってたなぁ」
そう言えばレゾナンスから帰ってきてから一夏は机でなにやら分厚い本を二冊広げてうんうんと唸っていたが、勉強じゃなくてシナリオ書いていたとは……
「お前さぁ、その頑張りをもっと別のところに生かせよ。勉強とか」
「つまらないこと言うなよ、学生の本分は勉強だけじゃなないだろ」
「少なくとも夜通しクトゥルフのシナリオ書くことじゃないとは思うけどな……」
「固いこと言うなって、今夜はお前のSAN値を削りきってやるからな」
「俺、参加する流れなのか……」
学生が臨海学校の夜にクトゥルフ神話TRPGなんて不健康すぎると思う。しかもこんなに女の子に囲まれているというのに……
そんな俺達を尻目にバス内ではカラオケ大会が開催されていた、ついさっき谷本さんが天城越えを熱唱し終わり次のターゲットが探されていた。
天城越え、喘ぎ声……
「藤木君、次歌ってよ」
「俺か? いいだろう。久々に俺の美声を響かせてみるか」
そう谷本さんに言われ、俺はバスの前まで移動する。
カラオケの機械が置いてある所には布仏さんが座っており、彼女に頼めば曲を入力してくれるという寸法だ。
布仏さんは何故か黒い帽子を被っており、その帽子には小文字の『h』のマークの刺繍が入っている。
なるほど、そういうことか。
しかし、この年齢の女子がdj hondaの帽子持ってるとは……やはり布仏さんのファッションセンスは理解不能だった。
俺は布仏さんに歌いたい曲をそっと耳打ちし、マイクを持つ。
「さて、夏なんだし夏っぽい曲歌いますよ~ dj honne! ミュージックスタート!」
「よ~! ちぇけら~」
「では歌わせていただきます。タイトルは『パチンコやってる間に産まれて間もない娘を車の中で死なせた…夏』!」
そうして俺の熱唱が始まった。
「おお! 海だ! 砂浜だ!」
眩い太陽は俺を照らしつい踊りたくなってしまう、左手には扱いにくいじゃじゃ馬こと打鉄・改の待機形態である銀色のブレスレット。
もうクラウドブレイカーにでも乗りたくなってくる気分だ。叢もX・BOXも持っていないけど。
ちなみに俺の熱唱の後のバスの空気はいい感じに冷めていて、少し静かになったのは言うまでも無い。
「藤木、静かにしろ」
織斑先生が俺を睨む、俺としてもまたアイクイット・マッチを挑まれたくはないのでそこは素直に言うことを聞いておく。
「それでは、ここが今日から三日間お世話になる花月荘だ。全員、従業員の仕事を増やさないように注意しろ」
「よとしくおねがいしまーす」
織斑先生の言葉の後、全員で挨拶する。
それに対応する女将さんは結構な美人さんだ。
「あら、こちらが噂の……?」
「藤木紀春です。女将さん、結構な美人ですね。今夜僕と一緒に――ほげええっ!?」
とりあえず女将さんの手を取り口説こうとしてみたのだが、織斑先生にまたしてもアイアンクローを食らう。
「プロレスごっこなら私が付き合ってやるぞ、但しシュートでな」
シュートとはいわばプロレスにおける真剣勝負、ガチンコということだ。
織斑先生相手にシュートを仕掛けられたら体がいくらあっても足りない、ここは丁重にお断りしたいところだ。
「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! 女将さんはもう口説きませんから許してえええっ!」
「ちっ……」
俺は織斑先生のアイアンクローから解放され、地面に膝をつける。
「すいません、この馬鹿のせいで……」
「あらあら、元気があっていいじゃありませんか。そちらの子もしっかりしてそうな感じを受けますよ」
「両方とも何も考えてない馬鹿なだけですよ。おい、挨拶しろ、馬鹿者共」
「お、織斑一夏です。よろしくお願いします」
「藤木紀春です、先程は申し訳ありませんでした」
俺達馬鹿者共は女将さんに頭を下げる、それを見た女将さんは微笑んで俺達に挨拶を返した。
「うふふ、ご丁寧にどうも。清洲景子です」
女将さんは俺達に丁寧なお辞儀をし、俺達を旅館の中に案内する。
ぞろぞろと俺達IS学園御一行は旅館の中に入っていく、その時誰かが俺達に声を掛けた。
「ね、ね、ねー。おりむ~、のりりん」
この声は布仏さんだ、どうやら布仏さんによる一夏のあだ名は『おりむ~』らしい、おりむ~とオリ主は振り返る。
「二人の部屋ってどこ~? 一覧に書いてなかったー。 遊びに行くから教えて~」
遊びに行きたいか……しかし俺達の部屋に遊びに来た場合十中八九一夏のクトゥルフ神話TRPGに巻き込まれることになるだろう、果たして布仏さんはSAN値を守りきれることができるだろうか?
「いや、俺も知らない。廊下にでも寝るんじゃねえの?」
一夏がそう返した、俺に対するIS学園の仕打ちを考えれば強ち嘘にも思えない。
ちなみに俺は外でテントでも張らされてキャンプさせられると思っている。
「織斑、藤木、お前達の部屋はこっちだ。ついてこい」
織斑先生が俺達を呼ぶ、アイアンクローもボディブローも勘弁してもらいたいので俺達は素直に従う。
どうやら俺達の部屋も確保されてるらしい、廊下で寝るのは真っ平御免なのでありがたい。
それに板張りの床の上で布団を敷いて寝るのはもう嫌なのだ。
「織斑先生、俺達の部屋って何処なんですか?」
「喜べ、お前達には特別室が用意されている」
「とっ、特別室!?」
特別室、嫌な予感しかしない……
一夏も俺と同じことを想像したのだろうか、若干嫌そうな顔をしていた。
しかし、織斑先生に逆らうほどの度胸を俺達は持ち合わせていないためそれに従う以外に何も出来る訳がなかったのである。
「おお! これはすごいな!」
特別室は、確かに特別だった。しかもいい意味で。
「おい紀春、この部屋露天風呂まで付いてるぞ!」
「マジで!? 至れり尽くせりだな!」
織斑先生に案内された特別室は豪勢なものでとても俺達馬鹿二人に用意されたものとは思えない、この部屋からは以前三津村に用意された帝○ホテルとおなじような気品とでも言うのだろうか? そんな物を感じる。
「織斑先生、なんでまた俺達にこんな部屋を? 一夏は廊下で寝るつもりだったらしいし、俺は外でキャンプでもやらされるのかと思ってましたよ?」
「お前達、そんな事まで考えていたのか……あり得ないだろう、常識的に考えて」
IS学園の特別室を見る限り強ちありえないと思うのは俺だけだろうか、そんな感じのツッコミを俺は心の中で織斑先生に入れる。
「空いている部屋がこのクラスの部屋しか無いんだ、というわけでお前達はここに泊まってもらう。ちなみに大浴場は女子専用なので行かないように」
「いや、こんな部屋を用意されたんじゃ文句なんて言えませんよ。な、一夏」
「大浴場か……俺、入りたかったな……」
俺は思う、一夏が大浴場に行けば絶対ラッキースケベなイベントが起こるに違いないと、そんな事を織斑先生も思っているようで頭に手をやりやれやれといった感じで溜息をつく。
「ここの風呂で我慢しろ。さて、今日一日は自由時間だ。荷物も置いたし、好きにしろ」
「えっと、織斑先生は?」
一夏がそう聞く、俺達がレゾナンスに行った時山田先生によって一夏と織斑先生は二人っきりにさせられ、一夏は織斑先生の水着を選んだらしい。一緒に海にでも行きたいのだろうか?
以前も思った事に関連することだが、織斑先生が一夏を愛してるように一夏も織斑先生を愛しているのだろう。しかし近親相姦ダメ、ゼッタイ。
そう思ったとき、またまた織斑先生のアイアンクローが俺に炸裂する。
「アイエエエエ! アイアンクロー!? アイアンクローナンデ!?」
「お前また失礼なこと考えていただろう?」
「相変わらずエスパーですね織斑先生」
この暴力教師のエスパー振りも相変わらずだ、早くテレビに出てもらいたいものだ。
床に膝をつく俺を尻目に織斑先生は一夏に告げる。
「私は他の先生との連絡なり確認なり色々とある。しかしまぁ――軽く泳ぐくらいはするとしよう。どこかの弟がわざわざ選んでくれたものだしな」
「そうですか」
部屋の中がなんだか甘い雰囲気に包まれる、この姉弟はこの俺を差し置いてイチャイチャしようというのか。流石にこれは嗜めなくてはなるまい。
「あの、織斑先生……」
「何だ? 藤木」
「姉弟でイチャイチャするんなら他所でやってくれませんかね、疎外感しか感じないんで――ぐぼぁ!?」
俺が話し終わる前に織斑先生のボディブローが炸裂する、昨日といい今日といい俺は織斑先生にやられっぱなしだ。
そして以前そうだったように、相変わらずこみ上げるものが抑えきれない。あっ、今回は我慢できないや。
俺はトイレへ駆け込んだ。
「……はぁ、昨日に続き今日も災難ばっかりだ」
「自業自得だろ、千冬姉にあんなこと言えば怒るに決まってるだろうに」
紀春は更衣室に向かう途中で愚痴を溢す、紀春が俺達をイジることはよくあることだが今回は流石に相手が悪すぎた。しかしそれでも果敢に千冬姉に向かっていく紀春はある意味漢なのかもしれない。
「あっ、篠ノ之さん。ちーす」
紀春が箒を見つけたようだ、紀春が居る方に目をやると箒が旅館の庭で立ち尽くしていた。
紀春が声を掛けたにも関わらず箒はそれに気付かないようで、ある一点を見つめている。
俺達が箒の傍まで近づくと、俺達も箒が見つめているものに目を奪われた。
「…………」
「…………」
「なんだこりゃ?」
紀春の問いに俺は心の中で答える、ウサミミだ。
地面にはウサミミが生えており、『引っ張ってください』という張り紙がしたある。
「なぁ、これって――」
「知らん。私に聞くな。関係ない」
ああ、そういうことか。『アレ』に間違いない。
俺と箒の問答を他所に紀春がウサミミに近づく。
「『引っ張ってください』? これ、抜いていいのかな?」
「好きにしろ。私は関係ない」
そう言い箒はすたすたと歩き去ってしまう。
「? 篠ノ之さん何か心当たりがあるのか? まぁ、いいか。これ抜くぞ」
「ああ、いいんじゃないかな?」
俺の言葉を受け、紀春がウサミミを引っ張る。
「何だ? 何も無いじゃないか。何かお宝でも出てくるのかと思って期待したのに……」
紀春が残念そうに言う、その時セシリアがやってきた。
「あら? 一夏さんに紀春さん。何をやってますの?」
「ああ、セシリアさんか。何をやってるかって聞かれると返答に困るな」
紀春がウサミミを掲げセシリアに返答する、その時俺は不吉な音を聞いた。
甲高い、何かが高速で接近してくるような音を……
その音源を捜そうと俺は空を見上げる――って、ヤバイ!
「紀春! 上!」
あまりに時間がなさ過ぎて俺は紀春に声を掛けることしか出来なかった。
「上? なに――」
紀春が上を見上げた瞬間に轟音が響き渡り、紀春の姿は土煙にかき消されてしまった。
土煙が晴れたとき、そこには直径三メートル位の機械で出来たにんじんが刺さっていた。
そして、紀春の姿はどこにもなかった。
「のり……はる?」
「…………」
俺の隣に居るセシリアは口に手を当てて青ざめている、そして機械のニンジンの一部が割れ地面に向かってタラップのようなものが伸びる。
その機械のニンジンのタラップの上に立つ出つ人は俺のよく知る人だった。
「おいーっす、いっくん! 元気にしてた? 私は元気だよ! あのムカつくクソガキも始末できたことだしね!」
ISを開発した稀代の天才、篠ノ之束さんがそこには居た。