インフィニット・ストラトス ~栄光のオリ主ロードを歩む~ 作:たかしくん
「……痛いよぉ、熱いよぉ」
「仕方ないでしょ、不動さん怒らせちゃったんだから」
不動さんがやってきた後、俺は正座で不動さんからのお説教を受けた。アスファルトの地面の上で。
アスファルトは太陽の光を受けてとても熱くなっていて、火傷するかと思った。
一応石井鉄工所から借りた作業服をISスーツの上から着ているのでアスファルトの上に直接座るということは避けられたが、それでも熱いことには変わりなかった。
唯一の救いは不動さんも説教をするのに慣れてないのか、説教が五分くらいで終わったということだろうか。
そして、俺達はまだここに居なければいけないということが不動さんから通達された。
ストーム・ブレイカーを運搬するのには専用の設備を持った船が必要で、それが来るまではまだ時間がかかるということだ。
「しっかし、いつまで待ってればいいんだ? いい加減暇になってきた……」
俺は桟橋の先端に腰掛けて脚をブラブラさせながら聞いた。
「船が来るのは三時頃って不動さんが言ってたね」
「遅いな、三津村なのに……」
今の時刻は十二時丁度だ、そろそろお昼時だがこの鉄工所の周りには何もない。少なくとも歩いていける範囲にはコンビニどころか民家すらなかった。お昼ごはんどうしよう……
「あの~、お昼に出前取ろうと思うんですが」
地獄に仏、鉄工所にミカちゃんとはこのことか、ミカちゃんが丁度いいタイミングで俺達に声を掛けてくる。
どうやら昼飯の心配は要らないようだ、ミカちゃんから手渡されたメニューは蕎麦屋のものだ。
蕎麦を食べるのなんて久しぶりだな、メニューを見るだけでもワクワクしてくる。
「じゃ、俺はカツ丼とざる蕎麦お願いします。あっ、ざる蕎麦は大盛で」
「僕は天丼で」
案外あっさりとメニューが決まり、俺はまた寝転がる。
「結構食べるんだね、やっぱり男の子は食べる量も違うなぁ」
「ああ、俺は男の子だからな。お前みたいに天丼一つで満たされる胃じゃないのだよ」
さて、出前が来るまで一眠りしよう。今日は朝から色々な事が立て続けに起きたもんだから疲れてきた。
「…………」
一夏が落とされた、全ては私の判断ミスによるものだろう。
あの時の篠ノ之は明らかに浮かれていた、しかしそれでも私は作戦を篠ノ之に託した。
何故か? それは私が心の中でなんだかんだ言ったって束の言うことなら間違いは無いと信じていたからではないだろうか?
篠ノ之束……ISの開発者にして私の友人、少々、いやかなりエキセントリックな所があるとはいえ私達はうまく友人関係を築いてきた。
その友人を殺人未遂のお尋ね者に仕立て上げるため警察に協力したのも私だがそこの所は話が違う。
現在私がIS学園の教師をやって一夏を養っていけているのも大本を辿れば束のお陰だ、モンド・グロッソでブリュンヒルデになり栄光を掴むことが出来たのだってやはり束のお陰だ。
だから束を信じた。いや、これでは責任の全てを束に押し付けているようなものだ。
そう、全ての責任は私にある。何も出来なくて束にすがり付いてしまった弱い私の責任だ。
ISがなければ私はどういう暮らしをしていたのだろう、そして一夏はどうなっていたのだろう?
しかし、ISがあるお陰で一夏が散々危ない目に遭っているのも事実だ。今回の一件がそれを如実に物語っている。
私は、どうすればいいのだろう? どうすればよかったのだろう?
「いやー、やっちまいましたなぁ」
一夏のことなどまるで意に介さないように束が言う、ここ風花の間に居るのは現在私と束だけだ。
「お前はこんなことがあってもまるで気にも留めていないんだな」
「うん? いっくんのこと? まぁあれくらいなら大丈夫でしょ、別に死んじゃったわけでもないのにみんな気にしすぎだよ」
「束、お前……」
「大丈夫大丈夫、なんてたっていっくんはヒーローなんだから。そんなことよりあのクソガキだよね、どう始末してやろうか」
その言葉を聞いた私は束の胸倉を掴み、壁に叩きつけた。
「束……お前何を考えている? お前なぜ警察に突き出されずにここに居るのか解ってないのか?」
もしかしたら役に立つかもしれない、そんな理由で私は束がここに居ることを許している。
しかし束がこういう態度を改めないのなら仕方ない、コイツを警察に突き出そう。
「ちょ、ちょっとちーちゃん。訳がわからないよ、束さんが何か悪いことでも言った?」
「何がヒーローだ、何が始末だ。あいつらは普通の人間だ、何故そこまで固執する?」
「普通じゃなんかないよ、あの二人は男なのにISを動かせるんだよ。いや、あのクソガキだけはありえないんだよ」
「ありえない? どういう意味だ?」
「いっくんがISに乗れるのは別にいいんだよ、そういうものだからね。でもあのクソガキまで乗れるのが全く解らないんだ。」
「一夏がそういうもの? どういうことだ?」
束が薄ら笑いを浮かべる、その笑みに私は底知れないものを感じた。
「んー、本当はいっちゃマズイんだけどちーちゃんだけには特別に教えてあげようかな? 他の人には言っちゃダメだよ」
「…………」
「ISを動かせる条件ってなんだと思う?」
ISを動かせる条件? そんなの決まっている。
「女であることだ」
「ブブー、ざんねーん。正解は男でないことでした~。いっくんは例外ってことだけどね」
「男ではない?」
「そうそう、今じゃ無人機ってのが出来ているんだよ。知ってた?」
「そんなモノは知っている、アレはお前が作ったものじゃないのか?」
「んー、そこに関してはノーコメント。とりあえず話を進めるね、なぜ男がISを動かせないか。それはちーちゃんのためなんだよ」
「私のためだと?」
「うん、ISは世界最強の兵器、もちろん最初は宇宙開発用のパワードスーツってことで開発してたんだけどそれが軍事転用されることなんて最初から解ってた。ロケットなんてのがいい例でしょ、宇宙へ行くぞーなんてお題目を掲げていたけど現実にはミサイルとか軍事衛星のために作られたものだし。ちょっと話が逸れたね、兎に角兵器として運用するにあたって私は思ったわけさ。せっかくだから大好きなちーちゃんに活躍の場をあげたいってね」
「もしかして……」
「あっ、解っちゃった?」
理解してしまった……ISが女しか乗れない、いや男では乗れない理由を……
だから束はISが男には乗れないように作った、私は世界最強などではなかったのだ。
私は束の掌の上で踊っていただけに過ぎなかったのか……
「ならいっくんがISに乗れる理由も解ったかな? そしてあのクソガキが邪魔な理由も」
「もしかして、藤木は……」
「うん、あのクソガキは完全なイレギュラーだよ。邪魔なんだよね、知ってる? あのクソガキ、おっぱい星人にヒーローになりたいとか言ってたんだよ。これはもう死んでもらうしかないでしょ、なんてったってヒーローはいっくんの役目なんだから」
私の栄光は束に作り上げられたものだった、そしてそれは一夏にもあてはまる。これから一夏は栄光への道を束によって歩まされる、いや一夏がISを動かした時から栄光への道は始まっている。
その反面、藤木には栄光の影が牙を剥こうとしている。
「まあ、任せてよ。今回の脚本は物凄いよ、世界を巻き込んだ一大スペクタクル! アカデミー賞総なめは確定的! 全米が涙に溺れること間違いなしだね!」
「頼む! 藤木まで巻き込まないでやってくれ!」
「あれ? ちーちゃんだってあのクソガキ嫌いでしょ? だったら別にいいじゃん」
「確かに藤木は問題児だ、しかし私の生徒なんだ、私には自分の生徒を守る義務がある」
「んー、それはちーちゃんのお願いでも聞けないなー ……ってヤバイ! もうすぐミスター味○子の再放送の時間だ! ということで束さんは帰るからね!」
そう言うと束は窓を突き破りどこかへ飛んで行った。
「遅い!」
「遅いね」
遅い、遅すぎる。
昼飯も終わり、夕方もも過ぎ空も段々黒くなり始めているが迎えの船が来ない。
鉄工所の従業員も定時が過ぎ、社長と事務員のミカちゃんを除いてすべて帰ってしまった。
俺達が帰れないものだからあの二人も帰れない、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「不動さん、どうなってるんですか? 幾らなんでも遅すぎますよ」
「ちょっと連絡取ってみるね」
そう言って不動さんが携帯電話で誰かと話をはじめる。
「おいーす、不動でーす。えっ、あ、はい。……マジっすか。……うわぁ」
携帯電話で話す不動さんの顔色が優れない、嫌な話を聞かされているのは確実だ。
1、2分の会話の後不動さんが通話を終了させる。
「藤木君……」
「なんすか?」
「今日はここでお泊り!」
「マジかよ……」
不動さんによると、IS学園により周辺の海域が封鎖されており花月荘から直線距離にして10キロしか離れていないここもばっちり封鎖されていているとのことだ。
だから三津村の船も封鎖海域の手前でばっちり足止めを食らっているという。
ストーム・ブレイカーで船まで直接出向くという案もあったが、封鎖海域から出ることも禁止されているらしく俺達にはもうどうしようもなかった。
「IS学園……どこまで俺の邪魔をすれば気が済むんだ……」
俺は誰も居ない海を睨みつける、その瞬間俺はピンクの光がこちらに向かってくるのを目撃した。
次の瞬間、ピンクの光が俺に直撃した。
「紀春っ!?」
シャルロットの声が聞こえる、しかし俺は
「大丈夫だ、ヤバイと感じたらとりあえずISを展開する癖ができててよかったよ」
ピンクの光を俺は打鉄・改のシールドで受け止めた、ハイパーセンサーの視界からあの黒い無人機の姿が確認される。
状況から言って確定的だった、この無人機はあの無職兎からの刺客に違いない。
「俺がアイツを落とす、シャルロット、不動さんと社長とミカちゃんを守ってくれ」
「でも!」
「大丈夫だ、アイツは一度落としたことがある」
今回はたっちゃんの増援が来ることもないだろう、しかし俺もあの時から格段に成長した。
いまさらあんな奴に遅れを取るほど弱くはない。
そして何より無職兎への怒りをぶつけるには丁度いい相手だ、無人機なんだから手加減は一切必要ない。
俺は大きくジャンプし、ストーム・ブレイカーの背に着地する、ストーム・ブレイカーの背部IS脚部固定装置を作動させ俺は黒く染まりつつある空に飛び立った。
「ハハハハハハハッ、遅い、遅いぞポンコツ! そんなんで俺に勝とうだなんて100年早いわ!」
そう言いながらヒロイズムを連射する、ストーム・ブレイカーの上に居るので俺はきちんとした姿勢を保つことが出来、この飛行しながらの戦闘でも的確に射撃を当てることができる。
ストーム・ブレイカーに搭載されたイメージインタフェースもいい感じだ、考えがそのままダイレクトに機動に反映され、射撃しながらでも複雑な戦闘機動を描くことができる。
そして何よりの強みはこの速度、この圧倒的な速さに無人機は全くついてけてない。
そのため俺は、適正な距離、射撃を一番叩き込みやすい角度を常にキープし続けていられる。
時たま奴から反撃が行われるが、その度俺は無人機をぶっ千切って安全圏まで退避する。
戦闘開始から五分程しか経ってないが、誰から見ても俺の勝利は確定的だった。
「さて、早速で悪いがもう終わりにさせてもらうぞ」
俺はストーム・ブレイカーの脚部固定装置を外し、ストーム・ブレイカーから大きく飛び立つ。
無人機は満身創痍でまともに動くことも出来そうにない、最後は格好よく決めてやろう。
無人機の頭上50メートルくらいの位置から俺は霧雨を展開し、急降下する。
今回も折角なので格好いい技名を付けてやろう。
「必殺! 霧雨ストライク!」
その掛け声と共に無人機の頭部に全力で霧雨を叩きつける、霧雨を叩きつけられた無人機の頭部は潰れ完全に動きを停止した。
落下していく無人機を海面スレスレでなんとかキャッチ、この無人機の残骸は不動さんのお土産にしよう。
これで少しは不動さんの機嫌も良くなるはずだ。
俺はストーム・ブレイカーと共に鉄工所へと帰っていった。
「不動さーん、お土産ー」
そう言いながら俺は無人機を地面に置いた。
「おおっ! マジかね!? これが噂の無人機か……たっちゃんからデータは貰っていたけど実物を見るのは初めてだよ!」
「これで機嫌直してもらえますかね?」
「うん! 直った! いやーデータと実物とでは全く違いますなぁ。そうそう、これってISコア付いてるんだよね? ちょっと取り出してみてくれない?」
「うーん、それってマズくないですか? 一応IS学園にも報告しないといけないでしょ」
そう言うと不動さんが考えるような仕草をする。
「いや、黙っておこう。そしてコレも三津村まで持って帰ろう」
「……それってばれたらやばくないですか?」
「ばれたらね、でもばれなきゃいいんだよ」
「いやいや、この海域は封鎖されているんですよ。流石に学園側のISが気づいてるんじゃないですかね?」
「それはないね、もし気付いてたら学園のISがここまで殺到してるはずだよ。気付いて無視したんならその事をネタにIS学園を強請ってやろうじゃないか。生徒のピンチにお前達は何をやってるんだってね」
「そこまでうまくいくかなぁ」
「うまくいかなかったときは、金でなんとかすればいいさ。それが三津村だ」
不動さんが黒い笑みを浮かべる、この人も完全に三津村に染まってきたな。
「だったら責任は全て不動さんが取ってくださいよ、それなら俺は何も言いませんよ」
「任せておきなさい! これで臨時ボーナス確定だね!」
やっぱり不動さんも金目当てか、確かに未登録のISコアを手に入れたんだからボーナス位は出るだろう。
ISコアの価値は計り知れない、なんせ世界に467個しかなくてこれ以上は増えないものなのだから。
そんなモノが転がり込んできたんだからコレは凄いことだ。
その時、俺のISに緊急通信が入った。
発信者はラウラ、俺を心配してるのだろうか? でも緊急通信ってちょっとやりすぎだ。
兎に角俺は通信を繋げる。
「どうしたラウラ、寂しくて眠れないのか?」
「兄……助けてくれ……」
ラウラの声の直後通信機越しに衝撃音が聞こえ、通信は切断された。
「どうしたの? 紀春」
シャルロットの呑気な声が聞こえた。
「ラウラが危ない、ちょっと行ってくる」
俺はストーム・ブレイカーのコクピットに乗り込みISを起動させた。
「ちょっと! どういうこと!?」
「俺にも解らん! シャルロット! ついてきてくれないか? どうやら戦闘をやってるらしい」
「……解った、僕も行くよ」
そう言ってシャルロットはISを展開し、ストーム・ブレイカーの背に乗った。
「それがお前のパッケージか」
「うん、パッケージ名『フルブラスト』この状態じゃあまり速く飛べないから乗せていってね」
「OK、全力で飛ばすから舌噛むなよ!」
「大丈夫!」
俺達は漆黒の空へと飛びだした。
フルブラスト:ラファール・リヴァイヴ用砲戦パッケージ
三津村重工がライセンス生産しているラファール・リヴァイヴの砲戦用パッケージ。
全身にストーム・ブレイカーと同種のマイクロミサイルを装備していてその瞬間火力は絶大、ミサイル発射後のパッケージはデッドウエイトにしかならないのでパージが可能。
しかし、非常に重くコレを装備したラファール・リヴァイヴの重量は一気に倍増する。
そのため飛行能力は絶望的。
不動さんが洒落でピエロの仮面をつけようとしたが邪魔なので却下された。
名前の元ネタ:デカレンジャーロボ フルブラストカスタム(特捜戦隊デカレンジャー THE MOVIE フルブラスト・アクション)