インフィニット・ストラトス ~栄光のオリ主ロードを歩む~   作:たかしくん

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今回は夏休み前編ということで40話までやります。
オリ展開です。


第34話 ああ、夏休み

あれから一週間、紀春は病院を無事退院しIS学園に戻ってきた。まだ肋骨の骨折は直ってないようだが脇腹の抜糸も済んだし、期末テストも近いということで退院を早めてもらったらしい。

紀春の復帰後すぐに期末テストが行われ、それも終わりもうすぐ夏休みというビックイベントを控えたIS学園の様子はどこか浮き足立っているように思える、それは僕も例外ではなかった。

 

現在、紀春との関係性はいい感じだ。出来ればこの夏に一気に距離を縮めておきたいところだ。

一夏の影に隠れがちだが、紀春もなんだかんだ言ってもてる。この時期になると色々な子から夏の予定を聞かれていて、色々なお誘いを受けているらしい。

 

しかし、彼女らの現実は厳しい。お誘いを受ける紀春は毎回このような言葉を返す。

 

「夏休み? 俺には無いよ、仕事があるからね」

 

そう、紀春は夏休み中ずっと仕事の予定が入っているのだ。

テレビ取材やら雑誌取材、それに新専用機の開発とテスト。紀春の夏の予定はほぼ埋まっていた。

 

しかし、運のいいことに僕も紀春と同じ三津村だ。紀春の仕事についていくことが出来れば一緒に過ごすことが出来そうだ。それからなら充分に時間がある、焦ってはいけない。

以前焦った僕は紀春に拒絶されてしまった、あんなのは二度とゴメンだ。

兎に角、時間はたっぷりある。

 

ああ、夏休みが楽しみだ。早く来ないかなぁ? そんな事を思っていると楢崎さんから電話が掛かってきた。

 

「デュノアさん、今時間いいかしら?」

「はい、別にいいですけど……」

「夏休みのことで言いたい事があってね」

「はい、なんでしょう?」

 

夏休みの事で言いたいこと? 何だろう?

 

「デュノアさん、夏休みが始まったらあなたにはフランスに戻ってもらうわ」

「……え?」

「イグニッション・プランの選考会が八月の序盤にあるのよ、あなたはそれまで提出機体の模擬戦の相手をやってもらうわ」

「ちょ、ちょっと待ってください! 僕にも予定が……」

 

僕の夏の計画がいきなり崩れ去ろうとしている、コレはなんとしても断りたいところだ。

 

「予定? そんなものはあなたが決めることじゃないの、あなたも三津村から給料貰ってるんだから働きなさい」

「いや……しかしですね!」

「デュノアさん、わがまま言ってるとクビにするわよ? 碌な仕事もしないで給料貰おうだなんて許されると思っているの?」

「うっ!?」

 

僕は三津村に入社して以来碌な仕事をした覚えが無い、精々臨海学校でフルブラストの試射をしたくらいだろうか? 

三津村からクビにされれば給料はなくなり、最悪IS学園を退学することになるかもしれない。

それに三津村は僕と紀春の最大の繋がりだ、それを失うことはとても怖い。

クビをちらつかされれば、僕は楢崎さんに逆らうことは出来ないのだ。

 

「……解りました」

「そう、それならいいのよ。夏休みが始まったら早速迎えを寄越すから荷物の準備をしておいてね」

「……はい」

 

その言葉を聞いた楢崎さんは電話を切った。さようなら、僕のなつやすみ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

飛行機ってのはあまり好きじゃない、気圧の変化で耳をやられる感覚が嫌いだ。

ISに乗っていればそういう人体に不都合なことはIS自体が遮断してくれるのだが、現在俺はISを持っていない。

現在、8月2日の早朝。太平洋から昇る朝日は今までの何より美しく見えた。

 

「楢崎さん、目的地はどこでしたっけ? ええと、メガ……メガなんたら……」

「メガフロート」

「そうそう、メガフロート。俺は何しに行くんです?」

「一応、名目は視察ということになってるわ。新型のね」

「新型!? もしかして……」

 

もしや、俺の新専用機が完成したのだろうか? 一ヶ月前はまだ時間が掛かると言われていたがもう完成していたのか!? さすが三津村、早い。

 

「さて、どうでしょうね?」

「何ですか楢崎さ~ん、焦らさないで教えてくださいよ~」

「それは着いてからのお楽しみよ、待ってなさい」

 

なんということだ、新専用機と早速ご対面とは……もうワクワクが止まらない。

 

『まもなく当機は着陸態勢に入ります、シートベルトをお締めください』

 

キャビンアテンダントの声がスピーカー越しに聞こえる、待ってろよ俺の新専用機!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メガフロート、それは技術系企業が共同して作った公海上に浮かぶ巨大な構造物だ。

管理はメガフロートに居を構える企業の各代表から構成されたメガフロート管理委員会によって管理されているという。

各企業の研究所やそこに住む人たちのための居住エリアや大きな公園、果てはショッピングモールや繁華街や空港などここに居ることに関してのストレスを一切感じられない作りになっている。

それらを収容するためにその大きさも破格だ。楕円形のこの人工島は長半径約10キロ、短半径約五キロ。

 

空港から迎えの車に乗せられ、そんな事が書いてあるパンフレットを読みながら考える。

 

これを作るには考えるだけでも気が遠くなりそうな莫大な金が掛かっているのだろう。

しかし、ここで疑問が生まれる。

 

「なんで、こんなにも金を掛けてこんな人工島を作ってるんですか?」

「それはね……」

「国家に縛られない研究をするためだよ」

 

助手席に乗っている女性が楢崎さんを遮り俺の質問に答える。

彼女の名前は水無瀬成美(ミナセナルミ)、三津村重工の研究員で不動さんの上司に当たる人だ。しかも俺の新専用機の開発チームの副リーダー、ちなみに人妻だ。

 

「国家に縛られない研究?」

「うん、本来のメガフロートは倫理的に危ない研究をするために生まれた場所なんだよ。クローンとかそういう研究はキリスト教圏とかでは禁止されていたり忌避されたりするからね。最初はそんな感じだったんだけど、今じゃ技術交流の場になっているね。研究所同士が近いと結構便利がいいからね。さらにそうなるとココに住む人が増えてきて居住エリアが整備されたり。南の人工島ってことで観光用の設備まで整備されてきて今じゃ科学と観光の島になってるんだよ。結構儲かってるらしいよ」

「へぇ、それでこんなパンフレットも作られたって事ですか」

「そういうこと」

 

現在、俺達を乗せた車はメガフロート内を走る高速道路を走っている。三津村の研究所は島内でも中央付近に位置しており、こんな所でも三津村は結構な発言力をもっているんだなと感じさせる。

 

しばらくすると、車が高速道路を下りる。その後一般道を二、三分走ったところに三津村総合研究所という看板が立っている建物に到着し車は停車した。

 

車から降りると、3人の男性が俺の事を迎えてくれる。2人はスーツ、1人は白衣を着ている。

 

「やぁ、君が藤木紀春君だね? 私は三津村重工社長の安田仁だ」

「社長直々にお出迎えですか、恐れ入ります」

 

安田社長が差し伸べた手を握る、この社長見た目は結構若い。50歳位だろうか? その歳で三津村重工の社長にまで上り詰めるのだから結構有能な人物なのだろう、そんな感じのオーラを漂わせていた。

反面、三津村商事の社長であるジジイは見た目からして80は超えている。その差にもびっくりだ。

 

「いや、私は丁度ここから出る所でね。早速で悪いのだが失礼するよ」

「あっ、はい。お気をつけて」

 

その言葉を背に安田社長はもう一人のスーツの男を引き連れて俺達が乗ってきた車に乗り込もうとする。しかし、何かに気付いたような仕草をした後俺の下に戻ってきた。

 

「ああ、忘れてた。娘に君のサインをねだられててね、一枚書いてくれないか?」

 

安田社長は苦笑し、もう一人のスーツの男がカバンから色紙とペンを取り出し俺に渡す。多分この人は安田社長の秘書なのだろう。

俺も苦笑いしながら色紙にサインを書く。サインの練習は群馬でやっていたので俺のサインも結構それらしい雰囲気が出てると思う。しかし、普通じゃこれ読めないよね? なんでこんな感じで書かないといけないのだろう? かのラーメン王は思いっきり読めるサインを書いてたぞ。

安田社長に色紙を渡す、「ありがとう」の一言の後今度こそ社長は車に乗り込み、車は動き出した。

 

「ああ、もう一人の紹介するね。水無瀬清次(ミナセセイジ)博士、君の新専用機開発のリーダーだよ」

 

成美さんがそう言い、白衣の男を紹介する。水無瀬……もしかしてこの人が成美さんの旦那か!?

 

「やぁ、君が神の刻印を受けし者だね?」

「神の刻印? 何ですかそれは?」

 

『神の刻印』そのキーワードにぞくっとする、拡大解釈をすれば確かにこの人の言うとおり俺は『神の刻印』を受けし者だろう。この人はもしかして俺の本質を知っているのだろうか? もしかしたらラウラに続く新たな転生者かもしれない。

 

「ああ、気にしないで。せっちゃんは厨二病なんだよ、ちなみに私の旦那さんだよ」

 

成美さんがフォローを入れてくれる、彼はせっちゃんと呼ばれているのか。俺的にたっちゃんと被るな……

しかし、厨二病ならば問題ないか……いや本当のところはどうか解らない。しばらくの間警戒が必要だ。

そして、やはり成美さんの旦那か……成美さん趣味悪いな。

 

「ええと、水無瀬博士……」

「そんなダサい名前で呼ばないでくれたまえ、僕の本当の名前は朱雀院羅刹(スザクインラセツ)、または混沌を従えし者とでも呼んでくれ」

「うわぁ……」

 

思いっきり邪鬼眼系だ、そしてむしろそっちの名前の方がダサい。つーか元々の名前は結構格好いいと思うぞ?

水無瀬博士の容姿はいい感じでお耽美な感じで結構もてそうなのだが、これでは台無しだ。

しかし、こんな人とよく結婚する気になったな。成美さんは。

 

「二人っきりの時は結構カワイイ所もあるんだよ、この人のことはせっちゃんって呼んでもいいから」

「女神よ、恥ずかしいことを言わないでくれたまえ」

 

成美さんの笑顔が眩しい、なんだかんだでこの二人は愛し合っているのだろう。そしてせっちゃん的には成美さんは女神なのか……もうわけがわかんねぇな。

 

「さて、研究所に入りましょう。せっちゃんもお仕事の続きがあるんだからね」

 

そう言い成美さんがせっちゃんの襟首を掴み引き摺っていく。

 

「また僕に人殺しの道具を作らせるつもりなのかい?」

「なに言ってんの? また囚われの天才博士ごっこ? この部署には希望して入ったんだから文句言わないの」

 

文句をいうせっちゃんを成美さんは気にも留めない、なんだかんだであの二人はお似合いなのだろう。

 

「お~い、藤木君。はやくついておいで~」

 

成美さんが振り向き俺に声を掛ける、俺と楢崎さんはその言葉に従い研究所に入っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが……」

「ええ、これが我が三津村が総力を結集して製作したISよ」

「おお……かっこいい」

 

三津村重工メガフロート研究所、そこには真っ赤なISが鎮座していた。

全体的にスマートでヒロイックなその外見はやたらゴテゴテした打鉄・改とは大違いだ、これが俺の新専用機になるのだろうか……

 

「機体名、ヴァーミリオン君の新専用機の……」

「新専用機!?」

「……量産型よ。しかも二号機」

「へっ?」

「君の新専用機がガンダムだとしたらこっちはジムね」

 

成美さんが説明をしてくれる、これは俺の新専用機じゃないのか……

 

「へぇ、そうですか。だったら俺の新専用機を見せてくださいよ」

 

その言葉を聞いた成美さんが目を伏せる、もしかして……

 

「君の新専用機、まだ出来てないの……」

「はぁ!?」

 

出来てない!? えっ!? 何で!?

 

「いやいや、おかしいですよカテジナさん! なんでガンダムが出来てないのにジムが出来上がってるんですか!?」

「私もおかしいとは思うんだけどね……せっちゃんが気合入れすぎちゃって開発期間が思いっきり延びちゃったの。このヴァーミリオンは基礎以外はせっちゃんの手が入ってないし、基礎は君の新専用機によって完成していたから結構早くに出来たんだよ」

 

せっちゃん、諸悪の根源は奴だったのか!? しかし、こちらとしては我が儘で専用機を作ってもらってる身だ、あまり強いことは言えない。

 

「はぁ、俺の人生はいつだってこうだ……期待してたものに裏切られてきたことなんて数え切れない……もういいよ……新専用機なんていらないよ……」

「まぁ、あと少しの辛抱だから。あと二ヶ月くらい」

「二ヶ月も掛かるんですか……」

「とにかく、今から機体テストをお願いね。君の新専用機と基礎部分は一緒だから君が頑張れば頑張るほど君の新専用機の開発が短くなるはずだし、フランスで調整中の一号機のクォリティアップにも繋がるんだからね」

「はぁ、そう言われれば頑張るしかないですね」

 

現在、シャルロットはフランスでヴァーミリオンの模擬戦相手をさせられ早速イグニッション・プラン提出用の機体、つまりはヴァーミリオン一号機にコテンパンにされたらしい。昨日そんなメールを貰った。

シャルロットが今の待遇を得ているのはひとえにイグニッション・プランがあるからだ、彼女のためにも頑張らないとな。

 

ISスーツに着替えヴァーミリオンを装着する、打鉄・改とは違いこの機体の挙動は素直だ。イメージインターフェースのお陰だろうか?

 

「さて、お仕事頑張りましょうか」

 

その言葉と共にメガフロート共用のIS試験場のアリーナへと飛び出して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃ、ありがとね~次に合う時はイグニッション・プラン選考会の会場かしら?」

「ええ、確かドイツでしたね。またその時に」

 

翌日になり、俺のメガフロート訪問は今終わろうとしている。

前日のテストの後は、乗ってみてからの体感のレポートを書き夕食の海鮮ジョンゴル鍋を食べた後そのままホテルだった。

現在は成美さんとせっちゃんに見送られ楢崎さんと共に空港に居る。一応観光施設もあるんだから一日くらいオフが欲しいものだが俺の夏の予定は三津村に完全に決められている。

そしてイグニッション・プラン選考会が終わるまで休みの予定は全くない。俺まだ15歳なんだけど……

 

「では、これで失礼します」

「ええ、またね。そうそう、忘れるところだった。これお土産」

 

成美さんが紙袋を渡す。

 

「何ですか、これは?」

「お土産のお饅頭、これもメガフロート名物なんだよ」

 

紙袋から箱を取り出す、箱の包装紙にはでかでかと『メガフロート饅頭』と書かれている。

名前からして不味そうだ。

 

「あの、これ……」

「名物メガフロート饅頭、おいしいよ」

「はぁ、そうですか……ありがとうございます」

 

本当に美味しいのだろうか? かなり疑問が残るところだ。

 

「刻印よ……」

 

こんどはせっちゃんが話しかけてくる。

 

「? 何ですか」

「ラ・ヨダソウ・スティアーナ」

 

やっぱりせっちゃんは完全な厨二病だ、今の言葉で理解した。

 

「はぁ、ラ・ヨダソウ・スティアーナ」

 

そんな言葉を返すとせっちゃんは満足そうに頷いた。そんなこんなで俺はメガフロートを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「楢崎さん、俺のこれからの予定はどうなってるんです?」

 

飛行機の機内で楢崎さんに話を振る。

 

「ええと、これから藤木君にはフランスに行ってもらうわ」

「フランス? 何をするんですか、模擬戦の相手はシャルロットで充分でしょう?」

「主に取材ね、そしてそのままドイツ行きね」

「イグニッション・プランの選考会ですか」

「ええ、君には各国のお偉方と合ってもらうわ。君の力で選考を有利に進めるの」

「うわぁ、めんどくさそう……」

「これも仕事よ、頑張ってね」

 

藤木紀春15歳、俺の夏はお仕事まみれでいいことはなさそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うまいなこれ! メガフロート饅頭、侮ってた……」

 

ちなみにメガフロート饅頭はすごく美味しかった。


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