インフィニット・ストラトス ~栄光のオリ主ロードを歩む~   作:たかしくん

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いわゆる繋ぎ回


第37話 戦いのために

「さて、調整はこの位でいいだろう。ボクは帰ってラグナロクに向けての準備を進めなければ……」

「そうっすね、じゃ俺はこれで宿舎に帰ります」

「そうはいかないわ藤木君、あなたにはこれからイグニッション・プランの運営委員会のお偉方と懇談会よ」

「マジっすか……」

 

翌日、せっちゃんがやっているヴァーミリオンの調整の手伝いも終わり宿舎でのんびり過ごそうとしていたら楢崎さんからお仕事の指令が舞い込む。

 

明日から3日間イグニッション・プランの選考会が始まる。その一環で模擬戦が組まれているため、俺はこうしてヴァーミリオンの調整を手伝っていたわけだ。

 

今回の選考会で全てが決まるわけでもないし、模擬戦に勝ったからといってそのままイグニッション・プランとしての主力機が決まるわけではない。

しかし、今回の結果は大きなウェイトを占めているのも事実だ。気を抜いていいわけでもない。

 

「お偉いさんだけじゃなくて、その後来場者との記念撮影会やサイン会も予定してるからそのつもりでね」

「またサイン会ですか……」

 

そしてこの選考会、単にイグニッション・プランの選考機体を決めるだけではない。

ISに関わる各部品メーカーや武装メーカーの関係者や欧州以外の軍関係者も多く来場しており、その人々に自分達のISを売り込むことも重要な要素になる。

 

彼らにアピールしてISの強化パーツや新武装を作ってもらうってのも選考会にプラスになるのだ。

そんなわけでその人々に対するアピールの一環も兼ねて俺の記念撮影会やサイン会が行われるわけだ。しかも俺の自伝まで販売するという……もうやめて……

 

そんなこんなで俺は楢崎さんに連れられお偉方との懇談会に出席することとなった。

ちなみにシャルロットだが、徐々に普段の調子を取り戻している。有希子さんを見ると怯えるのは変わらないんだがそれでも大きな進歩だ、いい精神科医を紹介してくれたクラリッサに感謝……しねぇよ馬鹿が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

懇談会はジジババ共の話に適当に相槌打ってるだけで終わったので、まあ楽な仕事だった。

しかし、続く写真撮影会がきつい。整理券が配られ1000人までってことになったのだがその1000人を俺一人で捌かなくてはならないのだ。しかもこの後にはサイン会が控えている、腱鞘炎になったらどうしよう……

 

そんなこんなで始まりましたサイン会、今現在約300人を捌き終えたところだがもう手首が痛い。

しかし、そんな痛みは慣れきってしまった営業スマイルで隠す。おっ、次のお客さんだ。

 

「わぁ、私ノリ君のファンなんです。嬉しいな~」

「…………」

「あれ? ノリ君大丈夫?」

「何でここに居るんだよ……たっちゃん……」

 

次のお客さんはIS学園最強の更識楯無会長だったのである。

 

「私はロシアの国家代表だからね。視察ってことで来てるの」

「そんなことより俺のサインなんか欲しくないだろうに……」

「そう? ノリ君のサインって結構いい値段で売れるのよ?」

「そんなしょうもない小遣い稼ぎするんじゃねーよ国家代表、給料いいんだろ?」

「そんな事より早くサイン書いてよ、後がつまってるんだから」

 

その言葉を聞いてたっちゃんの後ろに続く行列を見る。

そうだ、こんなことで時間を食っていたらいつまでもこのサイン会は終わらない。

 

俺はたっちゃんが差し出す色紙に『たっちゃんへ』と名前入りでサインを書いてやった。これで売るのも面倒になるだろう。

 

「あーっ、名前入りで書かないでよ」

「うるさい。ほら、書いてやったんだから場所空けてくれ」

「うーっ、この恨みは学園に帰った後に晴らしてやる……」

「はいはい、そうですか」

 

その言葉を背にたっちゃんはどこかへ行ってしまった、それでも俺のお仕事は終わらないのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やっとサイン会も終わり基地に集まった関係者は各々基地から帰っていき、基地内もなんだか静かな雰囲気に包まれる。

現在基地に居るのはイグニッション・プラン選考に直接関係している関係者と基地関係者だけであり、その数は500人くらいしか居ないということだそうだ。

 

そんな夜の基地を散歩しているとまたまた見知った人物が俯いて屋外のベンチに座っているのを見つける。

 

「あれ? セシリアさん。日本に居るんじゃなかったの?」

「ああ、紀春さん……こんばんわ……」

 

なんだかセシリアさんのテンションが低い、こういう見知らぬ異国の地で偶然知り合いに出会えると嬉しく感じるものだがセシリアさんはそうではなかったようだ。

 

そもそも、セシリアさんは現在日本に居るはずだ。イグニッション・プランの選考会代表はセシリアさんではなく別の人がなっていたはずなのだ。

それに、夏休みは一夏と過ごすとか言ってたはずだ。何があったんだろう?

 

「で、なんでこんな所にいるのさ?」

「わたくしだってこんな所に居たくはなかったのですが……急遽予備のパイロットが必要になりまして……」

「なにがあったのさ?」

「選考会の代表が急に風邪に掛かったらしくわたくしにお呼びが掛かったんですの……」

「はぁ、それはご愁傷様」

 

この夏真っ盛りに風邪とはなんとも情けない人だ、そんな人のとばっちりを受けたセシリアさんは確かに可愛そうだ。

 

「ということはセシリアさんが模擬戦出るってこと?」

「ええ、そういうことになりますわね。しかし、わたくしも国家に忠誠を誓っている身。やるときはやりますわよ」

「はぁ、そうなんだ……益々ご愁傷様」

「どういうことですの?」

 

俺はシャルロットの身に何があったか、そして現在どういう状態であるかを話した。

それを聞いたセシリアさんの顔が青くなる。

 

「そんなわけでシャルロットは心にトラウマを抱えて現在療養中だ。セシリアさん、頑張ってね」

「…………マジですの?」

「うん、マジだよ。折角だから見舞いに来てやってよ、シャルロットも喜ぶだろうから」

「もう嫌ぁ……」

 

セシリアさんのテンションは俺と会う前よりもっと下がっていったようだ。余計なことをしてしまったかな?

 

そんな感じでドイツでの二日目の夜が過ぎて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、ノリ君。こっちこっち」

「そこに居たのか。しかし、流石は国家代表だね。模擬戦観戦するのにもVIP席か」

 

今日からイグニッション・プランの選考会の模擬戦が始まる。模擬戦は総当たり戦になっており一日二回行われそれが三日続くのだ。

今日はたっちゃんにアリーナのVIP席に招かれ俺もVIP席で観戦することとなった。

たっちゃんの居るVIP席は個室になっており、そこに用意された椅子は三つ。一つは俺が座り、もう一つはたっちゃんが座っている。だとしたらもう一つは誰が座るのだろうかと考えていると個室のドアが開くいた。

 

「お邪魔するわね」

「ああ、ようこそいらっしゃいました。席へどうぞ」

 

やってきたのは金髪の軍人さん、多分制服から見てアメリカ軍の人だ。

たっちゃんはその人の応対をし、席に座らせる。軍人さんは俺に会釈をした後を眺めている、なんだか落ち着かない。

とりあえず、話を振ってみよう。

 

「ええと、どちら様でしょうか?」

「紹介するわね。こちら、ナターシャ・ファイルスさん。見ての通りアメリカの軍人さんよ」

「初めまして、ナターシャ・ファイルスです。以前はお世話になったわね」

 

そう言って手を差し出してきたのでとりあえず握っておく、ナターシャさんは美人だしもういかにも大人って感じの色気やら何やらがムンムンでちょっとドキッとしてしまう。

しかし、以前お世話になったとはどういうことだろう? こんな美人さんをお世話したのなら確実に覚えているはずなんだが……もしかしてやられた記憶の中にナターシャさんの記憶もあるのだろうか? だとしたら非常にマズイ、思い出すためにももう一回お世話させてもらえないだろうか、主にアッチ系のお世話を。

 

「ええと、お世話ですか……正直覚えてないんですけど何かありましたっけ? 俺記憶喪失体質で忘れっぽいんですよ」

「記憶喪失? 大丈夫なの?」

「まぁ、よくあることなんで気にしないでください」

「気にするわよ、もしかしたら私のせいでそうなったかもしれないんだし……」

 

そんな事を言うナターシャさんの顔が曇る、俺この人と何かあったんだろうか?

 

「ナターシャさんは銀の福音のパイロットなの、覚えてる?」

 

たっちゃんが俺に説明をしてくれる、そういう事だったのか……そりゃ覚えてないはずだわ。

 

「ああ、あの福音のパイロットさんですか。結構派手なドンパチだったらしいですね、俺は全く覚えてませんが」

「なんだか他人事みたいに言うのね、お陰で入院する羽目になったっていうのに」

「覚えてなけりゃそんなもんですよ、それに俺が怪我したのはあなたのせいじゃないんですから気にしないで下さい」

「そう言ってもらえると気持ちが楽になるわ」

 

ナターシャさんの顔も明るくなる、美人には笑顔でいてほしいものだ。そんな事を思っているとたっちゃんが俺達の会話を遮った。

 

「そろそろ一回戦が始まるみたいよ」

 

その言葉に釣られ俺はナターシャさんからアリーナ内部へと視線を移す、VIP席はアリーナの最上部に位置するため内部に居るISが小さく見える。

しかし、たっちゃんが手元の端末をいじると空中に立体スクリーンが飛び出す。これならISの姿どころか操縦者の表情も見える。一回戦第一試合はセシリアさんとイタリアの人らしい、ということは二回戦は有希子さんとクラリッサか。どちらを応援すればいいのだろう? 

 

一方は俺のISの先生だし、もう一方は俺の年上の妹なわけだ。

いやいや、今回の俺はフランス陣営の人間だ。流石に今回は有希子さんを応援しよう。もしドイツの代表がラウラだったら多分違っていただろうけど……

 

そんな事を考えながら悩んでいるといつの間にか戦いの火蓋は切られていた。

 

「ねぇノリ君、このイグニッション・プランどこが選考に選ばれると思う?」

 

一進一退の攻防を繰り広げているセシリアさん達を尻目にたっちゃんが聞いてくる。

俺の立場的にはフランスと即答すべきなのだろうが、ちょっと考えてしまう。しかし、ここは身内ばかりのVIP席だ。余計な気遣いは必要ないのだろう。

 

「うーん、どうでしょう?」

「フランスって即答するもんだと思ってたけど違うのね」

「ヴァーミリオンのことを知り尽くしているわけでもないからね、しかし一つだけ言えることがある」

「へぇ、なに?」

「セシリアさんには悪いけどイギリスは選考に残らないだろうね」

 

その言葉を聞いたたっちゃん、ナターシャさんは眉を動かすこともない。多分二人ともそう思っているのだろう。

 

「やっぱりイギリスはないわね、一応聞いておくけどその根拠は?」

「この戦いは欧州の次世代主力機を決めるためのものだ、いくら開発が進んでるとはいえティアーズは主力機にするには特殊すぎる。っと、こんなところでいいかな?」

「うん、解ってるようで安心したわ」

 

主力機、それに求められるものとは一にも二にも汎用性である。その点、ティアーズ型の売りであるBT兵器はまるで汎用性があるように思えない。

そしてある意味問題のBT兵器、それはブルー・ティアーズの搭乗者であるセシリアさんでもまだ使いこなすことが出来ていない。

現在、BT兵器搭載型のISは二機しか作られておらずその一機を専用機に持つセシリアさんはBT兵器を使う能力に関しては世界でもトップクラスの人間だ。

しかし、そのセシリアさんの実力は俺達IS学園一年生専用機持ちの中でも中堅レベル、っていうか俺とどっこいどっこいだ。これは正直マズイ、セシリアさんが俺達の中でもトップの強さを持つラウラと同レベルの強さを持っているのならば話は違うのだが現実はそんなもんだ。

 

まるで汎用性のない扱いにくい武装に、強いとは言いがたいパイロット。イギリスの未来は昔のロンドンと同じように霧に包まれている。

 

「まぁ、あえて言うならフランスかイタリアかな? でも、レーゲンのAICは強力だから少数生産はされるだろうね」

「そんな所でしょうね」

 

そんな会話の最中も戦闘は続く、戦闘はどうやらセシリアさんが優勢のようだ。

俺の予想は勝敗じゃなくて選考の結果の話だからね、仕方ないね。

散々こき下ろしてきたがセシリアさんだって代表候補生だ、世界中のISパイロットの中でもトップクラスの腕前を持っているのだ。そして、そのセシリアさんとどっこいどっこいな強さを持つ俺も世界でトップクラスな訳だ。両隣の女性二人はそれを更に上を行く存在なわけだけど……

 

その時、勝負は決した。セシリアさんが勝ったようだ。

 

「あらら。藤木君、予想が外れたみたいだけど」

「ナターシャさん、あれは飽くまで選考の結果の予想ですからこの勝敗は別に関係ないですよ」

「そうね、テンペスタ二型の敗因はなんだと思う?」

「見る限りですけど、機動力を重視しすぎて防御がおざなりになってるってところでしょうか。銀の福音とは大違いですね、あれは恐ろしいくらいにタフでしたから。それに、速過ぎる機体はアリーナの中では本領を発揮できませんからね」

 

その言葉を聞いたナターシャさんの顔つきが真剣なものへと変わる、なにか変なことでも言っただろうか?

 

「藤木君、実はその事で君にお願いがあるの」

「その事? どの事ですか?」

「あの子……銀の福音についてよ」

 

今回ナターシャさんが俺に会いに来た本当の狙いはこれだったのだろう、そのお願いとは……まぁ、俺にしてはよくある話だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は流れて翌日の夜、模擬戦二日目も順調に終わり、基地は相変わらず静寂に包まれている。

現在我々フランス勢の戦績は一勝一敗、初日にクラリッサに負け今日はセシリアさんに勝つことが出来た。

明日はイタリアとの対戦だ。イタリアは今回二戦二敗なので勝てるんじゃないかと思ってしまう。

二連勝のドイツに並ぶためには、明日どうしてもセシリアさんに勝ってもらわなければならない。

俺はそんなセシリアさんの下を訪れるため、イギリス勢の宿舎へと向かっていた。

 

人っ子一人居ない基地の廊下を歩く、ここの警備は大丈夫なのだろうかと疑いたくなってしまうがいたる所に監視カメラが設置されておりそれを通して警備されているのだろう。

 

そんな時一人のちびっ子に出くわした。

 

「こら、ここは関係者以外は立ち入り禁止だぞ。早くおうちに帰りなさい」

 

そんな声を掛けると、ちびっ子が黒髪をなびかせ振り向く。

 

「のっ!?」

 

驚いた、そのちびっ子は織斑先生に瓜二つだったのだ。

 

「私は関係者だ、邪魔をするな」

 

チビッ子は首からぶら下げている関係者用のパスを俺に見せつけ、踵を返す。

 

「アッハイ、スイマセンでした」

 

その言葉にちびっ子はまるで反応せずそのまま歩き出し、やがて姿を消した。

多分関係者の家族か何かなのだろう、しかし怖かった……あのちびっ子織斑先生と同じ顔して睨みつけてくるんだもん、おしっこちびるかと思った。いや、ちょっとちびった。

 

しかし、あのちびっ子も大変なんだろうな。あんなにそっくりだったら友達とかにさぞからかわれたりするのだろう。きっとあの顔のせいで苦労してるのだろう、だから態度が刺々しいのも頷ける。

 

「はぁ……」

 

俺も歩き出す、三津村から送ってもらった織斑一夏非公式写真集、『織斑一夏の軌跡』をセシリアさんに届けてやる気を出してもらわねば。

この写真集、一夏がIS学園に入るまでの写真をとある出版社が集めたもので幼い一夏が成長していく様子を見ることが出来る。しかも流通は裏ルートのみという犯罪スレスレというか完全アウトなファン垂涎の一品だ。

 

しかし、小学一年生より以前の写真が全く無い。これはどういう事なのだろう?

 

まぁいい、俺が気にしているのは一夏の過去ではなくセシリアさんの明日だ。

そんな感じで俺はセシリアさんの個室のドアをノックする、しばらくしてセシリアさんがドアを開けた。

 

「あら、紀春さん。こんな夜に何か御用ですか?」

「ああ、ちょっとセシリアさんに渡したい物があってね」

 

俺は写真集を取り出しセシリアさんに渡す、写真集を手にしたセシリアさんはページをぱらぱらと捲りその度に目を輝かせる。

 

「明日、絶対に勝ってくれ。これは俺からの気持ちだ」

「ええ、こんな贈り物をされたからには負けられませんわね」

 

俺は笑う、セシリアさんも写真集を抱きしめ笑う。

 

そんな感じでドイツ四日目の夜は過ぎて行った。明日はドイツでの最後の日だ、俺は応援することしか出来ないけど頑張ろう。


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