インフィニット・ストラトス ~栄光のオリ主ロードを歩む~   作:たかしくん

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第38話 イグニッション・ファイア

「いよぉっし! これでドイツも一敗だ!」

 

選考会三日目第一試合、セシリアさんとクラリッサの対戦は序盤から圧倒的な猛攻を見せたセシリアさんがクラリッサを下し、イギリスとドイツはそれぞれ二勝一敗で選考会を終えた。

やはり昨日の贈り物が効いたのであろう、勝利したセシリアさんの顔は晴れやかだ。

 

「さて、次は俺達の出番ですね。頑張ってくださいよ有希子さん」

「ああ、任せろ。ドイツには後れを取ったが今回の相手は負けっぱなしのイタリアだ、絶対に勝つ」

 

我々フランス陣営は初戦にドイツと戦いAICの前に黒星を取ってしまったが、続く二日目にはセシリアさんを圧倒して現在運命の最終戦の直前だ。勝利が選考の基準ではないことは百も承知だが、出来る事なら勝ちたい。それは俺達フランス陣営の共通の認識だ。

 

「有希子さん、そろそろピットの方へ移動してくださいとの事です」

 

フランス陣営のブースにシャルロットが入ってくる、シャルロットも心の傷が癒えた様でいつも通りな感じに戻っているし有希子さんを前にしても怯えるようなことはなくなった。

 

そんなこんなでやってきましたフランス陣営のピット、フランス陣営だがそこに居る人物の大半は日本人でなんだか奇妙な光景だ。

このアリーナはIS学園にあるものと同型のアリーナで、内部に通じる四つのカタパルトの傍にピットが設置されておりそれを各陣営に振り分けられている。

 

我々のピットの隣にはイギリス、向かい側にはドイツ、対角線上にはイタリアのピットがある。

おっと、そろそろ戦闘開始の時間のようだ。

 

無言の有希子さんがカタパルトに移動する、その表情は真剣そのもので普段とは大違いだ。

俺達もピットにあるモニタールームへと移動し、有希子さんの姿を見守る。

 

カタパルトが動き出す、俺達の最後の戦いが今始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヘイヘイヘイ! びびってんのか!?」

「くっ……」

 

有希子さんはアサルトライフルを両手に持ちテンペスタ二型に対し弾幕を張り、有利な状況を作り出す。

テンペスタ二型の持ち味である機動力は狭いアリーナでは封じられたも同然で牽制にライフルを撃つことしかできない。

 

俺達のヴァーミリオンの売りは汎用性であり、近中遠の各武装を切り替えながら常に有利な状況を作り出すことを目的に作られている。ラファール・リヴァイヴの後継というのは伊達ではないし、イメージインターフェースは武装展開にも効果を発揮していてシャルロット程とはいかないものの高速で武器の切り替えが出来るのも強みだ。

 

相手は今回いいとこなしのイタリア陣営、パイロットも挽回しようとして気負っているのか戦術選択で焦りが見える。

そんな様を有希子さんは見透かしているようで、飽くまで自分のペースを保ち急ぐことなく試合を進めている。なんだかんだで彼女も一流のパイロットなのだ。

 

その時、一か八かとでも思ったのだろうか、テンペスタ二型が有希子さんに向かって突撃を決める。

しかし、その突撃を迎え撃つ有希子さんの表情からは余裕が見える。とっつきを高速展開し、襲い掛かるテンペスタ二型に対しカウンター気味に一撃を決める。

 

カウンターとっつきを食らったテンペスタ二型は吹っ飛び、アリーナの壁に激突した。

 

「悪い機体じゃないはずなんだがな。お前、焦りすぎだよ」

「……」

 

激突の衝撃で起こった粉塵が晴れテンペスタ二型が姿を現す、その機体は各所から火花が散っておりまともな戦闘が出来そうにないことは素人目にも解る。俺はもう素人じゃないんだけどね。

 

有希子さんが展開領域から大型のバズーカを取り出す、どうやらこれでトドメを刺すらしい。

 

「すまんな、これで終わりだ」

 

その時だった。

 

耳を引き裂くような爆音と衝撃が俺達の居るピットを襲った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きゃぁっ!? 何があったの!?」

「女神! 大丈夫か!?」

 

成美さんとせっちゃんの声が聞こえる、爆音と衝撃があったものの俺達のピットには被害はない。

フランス陣営のピットでは状況確認のために不動さん成美さんせっちゃんたち開発の人間がせわしなく動く。

 

俺は何があったのか調べるために、モニターを眺めアリーナに設置されているカメラから各所の様子を探った。

 

「これは……イギリスのピットで何かあったのか?」

 

イギリス陣営のカタパルトから黒煙が漏れ出している、その時カタパルトから二機のISが飛び出した。

 

「あれは、セシリアさんともう一人は……誰だ?」

 

二機のISが激しい攻防を繰り広げている、その時ピットの通信機から通信が入る。

 

「兄よ! 大丈夫か!?」

「ああ、しかしこれはどういうことだ?」

「いや、私にも全く解らん」

 

通信の相手はラウラだ、状況が混乱しているので俺にはどうすることも出来ない。その通信にクラリッサが割り込む。

 

「今確認したところ、イギリス陣営にテロリストが紛れ込んだようです。テロリストはイギリスの予備機である『サイレント・ゼフィルス』奪取、現在は同じイギリスの『ブルー・ティアーズ』と交戦中とのことです」

「テロリストだと!? 有希子さん、聞きましたか?」

「ああ、とにかくあの蝶々をぶっ飛ばせばいいわけだな?」

 

その通信は有希子さんにも繋がっており、有希子さんが意気込む。それにラウラが反応した。

 

「そんな! 危険です!」

「テロリストを放っておく方が危険だろうが! 大丈夫、アタシにはまだ余力がある」

「今の状況なら仕方ないか……野村殿、お願いします。私もすぐに応援に駆けつけますので」

「ははっ、もたもたしてたらお前の分がなくなるかもな!」

 

有希子さんは通信を切断し、セシリアさんと謎のテロリストとの戦いに割り込みを掛けていった。

 

「そういうことで私も行ってくる。クラリッサ、黒ウサギ隊を率いてアリーナに居る関係者の避難誘導を頼む。以後は基地の司令部の命令に従うように」

「了解しました隊長、御武運を」

「ああ」

 

ラウラも通信を切る、その直後ドイツ軍のカタパルトからラウラが飛び出すのをモニター越しに確認した。

 

さて、多分これで大丈夫なはずだ。幾らあのテロリストが手練でも三対一の状況に持ち込まれたならば勝ち目はないだろう、俺は俺の出来ることをやらないと。

 

「シャルロット、イギリスのピットに行くぞ。あの爆発で怪我人も多いはずだ」

「うん、解った」

 

俺達はイギリスのピットへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地獄絵図とはこのことか、イギリスのピットは凄惨を極めていた。

鼻に付く血と何かが焼けるような匂い、耳障りなうめき声、そして視界に広がる赤と黒。

正直一般人である俺にこの状況はきついものがある。

 

救助隊も到着して怪我人の搬送も始まっているが瓦礫やらなんやらでまだ助けられない人も居る。

シャルロットが瓦礫の除去をやっているのだが、この空気に呑まれ青い顔をしていた。

結構デリケートなシャルロットの精神面は心配だがこの状況では俺が彼女に出来ることはない。

俺も救助隊と協力して怪我人の搬送を手伝っていた。

 

「兄上!」

 

その時クラリッサがやってきた。

 

「ああ、クラリッサか。早速だが瓦礫の除去の手伝いを頼む、瓦礫のせいでまだ助けられない人が居るしシャルロットがこの状況にやられている。出来るだけ早く済ませたい」

「了解しました」

 

クラリッサがISを展開し、シャルロットの下へ歩いていく。彼女らは二、三言葉を交わした後また作業を再開した。

出来ることなら変わってやりたいと思う、しかし現在の俺にはISがなく彼女らの力になってやることが出来ない。自分が情けなると同時に、自分の強さというものがISによって確立されてるのを再確認する。

世界で二人目のISを動かせる男、藤木紀春。そこからISの要素を差し引くと、普通の人より少々鍛えてるだけの野球好きだ。本当に情けない……

 

それでも俺は動くことをやめない、俺の働きによって人の命が救うことが出来るかもしれないのだ。

うん、大丈夫。これも立派なヒーローの仕事じゃないか。格好いいぞ、俺。

 

俺は自分を鼓舞し、作業に没頭していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

救助活動も一段落し、俺達はフランスのピットへと戻ってきた。

 

「……うぷっ」

 

シャルロットは限界を迎えたようでトイレに駆け込む、今回の欧州での出来事はシャルロットにとっては災難続きだ。心から同情したいと思う。

 

アリーナ内部の状況は有利に進んでいる、即席の連携ではあるが司令塔のラウラを中心にテロリストを徐々に追い詰めている。むしろテロリストは頑張っている方だろう、そこいらのパイロットではあの三人相手に瞬殺されてもおかしくないのだ。

 

「……ぐっ」

「三人相手に頑張ってはいるが、そろそろ終わりのようだな。テロリストにならなければもう少し長生きできただろうに」

 

そう言って有希子さんが、バズーカを構える。

 

「終わりだ、さようなら」

 

バズーカから砲弾が発射され、サイレント・ゼフィルスに着弾した。

スピーカー越しから断末魔が聞こえるのをバックに俺はせっちゃんに話しかける。

 

「終わったようですね」

「ああ、そうだな。全く、迷惑な奴だ」

 

せっちゃんには戦いの行方は興味の対象外のようでノートパソコンキーボードをせわしなく打ち続けている。

今度こそ、俺達の欧州の日々は終わろうとしていた。


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