インフィニット・ストラトス ~栄光のオリ主ロードを歩む~   作:たかしくん

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第40話 ワンサマー・イズ・ノットエンド

「ああ、ストーム・ブレイカーの事か。女神、説明してやってくれ」

 

翌日、基地の医務室から開放された俺はフランスのピットへと戻りせっちゃんに詰め寄る。

なぜあのテロリストがストームブレイカーを所有しているのかということだ。

 

「あのストームブレイカーは君が乗っていたものの二号機だね、打鉄・改の戦闘ログを見た政府から試作品の製作の要請があってメガフロートで作られていたものなんだよ」

「で、何でテロリストがそれを持ってるんですか?」

「盗まれたんだ、3日前に……」

 

今回のイグニッション・プランの選考会、参加した各国はそれぞれ醜態を晒した。

場所を提供したドイツはテロリストに基地の潜入を許し、イギリスはBT二号機を盗まれた。イタリアは選考会の対戦で負け続けたし、俺達フランスはストーム・ブレイカーを盗まれそれがテロリスト逃走の手助けになったわけだ。

 

「メガフロートの警備でなんとかならなかったんですか?」

「ストーム・ブレイカーは世界最速のISになるためのパッケージだよ、盗まれたって事に気付いた時にはもう空を飛んでたよ。メガフロート管理委員会直属のISが追撃に出たんだけど誰も追いつけなかったね」

「もしかして、三津村内部にテロリストのスパイが紛れ込んでいたって可能性があるんじゃないんですか?」

「その可能性は大いにありうるけど、メガフロートの研究所にいる職員全員に事情聴取が行われた結果怪しい人は居なかったって。盗まれた後に姿を消した職員も居なかったようだよ」

「結局真相は闇の中ですか……」

「まぁ、専門家が捜査を続けている事だし私達はこの件に関しては何も出来ないね」

 

メガフロートからストーム・ブレイカーを盗み出し、さらにはこの基地からサイレント・ゼフィルスを盗み出すなんてことは並大抵のテロリストでは出来る事じゃない。

奴らは何者なのだろう?

 

「あのテロリストに心当たりはありませんか? 俺はその手の事情に詳しいわけじゃないんで教えてもらえませんかね?」

「ボクだって知らないよ、しかしISを使うテログループとなればボクが知ってるのは一つしかないね」

 

せっちゃんが俺の問いに答える、ISを使うテログループとは……世も末だな。

 

亡国企業(ファントム・タスク)それが奴らの名前さ」

「ファントム……タスク……」

 

それが世界の歪みか、ヒーローを目指す俺にとって避けては通れない相手なのだろう。

ISを作った無職とクッソ強いテロリスト、この二つが俺の現在の敵だ。いつか奴らに落とし前をつけてやる。

 

「そうですか、ありがとうございました」

 

俺はフランスのピットを後にした、今日は色々な人に話を聞かなければならない。

次に目指すのはイギリスのピットだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいっす、どんな感じ?」

「あっ、紀春さんですか……」

 

ピット近くにある廊下のベンチに座っているセシリアさんに声を掛ける。

イギリスのピットは一日経った後とはいえ相変わらずの荒れ模様だ、そして黄色いテープに遮られ中に入る事は出来ない。

 

「あのテロリスト……絶対に許しませんわ」

 

セシリアさんの瞳に闘志の炎が宿る、今回の一件で最も被害を受けたのはイギリスだ。彼女の怒りも最もだろう。

 

「だろうね、しかし被害の状況はどうなんだ?」

「奇跡的に死者は居ませんでした、しかし重傷者は数え切れない程に……」

「死者が居なかったってのは不幸中の幸いだな、あの被害で誰も死んでいなかったってのは確かに奇跡的だ」

 

俺も救助活動をした甲斐があったってもんだ、自分の働きが結果に現れたという事は素直に嬉しかった。

まぁ、喜べる状況じゃないんだけどさ。

 

「サイレント・ゼフィルスを盗み出したテロリストについての情報はない?」

「そう言えば……顔は解らなかったらしいのですが体格の小さい黒髪の人だったらしいですわ」

「ふぅん……」

 

体格の小さい……黒髪……まさかねぇ?

 

「何かお気づきの点でも?」

「いや、一昨日そんな感じの奴を目撃したんだけど」

「もしかして!?」

「いや、ないな。基地内の廊下を堂々と歩いてたし、流石にISを盗み出そうっていうテロリストならもうちょっとコソコソするんじゃないかなぁ? しかも黒髪のちびっ子なんてざらに居るし」

「そうですか……」

 

セシリアさんが落胆したような表情を見せる、そろそろ切り上げるか。

 

「じゃ、俺は行くよ。色々大変だろうけど頑張ってね」

「ええ、ごきげんよう」

 

その言葉を背に廊下を歩く、今度はラウラの所でも行こうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、にぃに!」

「おっす、ラウラ居るか?」

 

新井が声を掛けてきたのでラウラの居場所を聞いてみる。

しかし、新井はばつが悪そうな顔で俺に返した。

 

「隊長と副隊長は……今は基地司令部に出頭してる……」

「ああ、あいつらも大変だろうな」

 

あいつらは軍人であり今回の一件に関して全く責任が無いわけではないようだ、現在は司令部で今後の対応を協議している真っ最中らしい。

 

「責任ある立場ってのは大変だねぇ……民間人で良かったよ」

「私もそう思うよ、平隊員で良かった……」

「そう言えばさ、俺達はいつまでこの基地に居なけりゃならんのだ?」

 

今回の一件以降基地内の関係者は全員基地から出る事を許されていない、テロリストを手引きしている奴がまだ基地内に残っている可能性が高く全員に事情聴取が行われるらしい。

 

「二、三日は掛かるって。本当、嫌になるね……」

「全くだ、お前らの事情聴取は終わったのか? 俺はまだだけど」

「うん、終わった。基地の混乱がとりあえず収まった後にすぐだったからもうヘトヘトで……しかも聴取担当の奴がもう嫌らしい位にねちっこく話を聞いてきてさ、あれは結構キツイよ」

 

その時のことを思い出したのか、新井の顔に影が差す。俺もなんだかいやな予感がしてきた。

 

「うへぇ……それは嫌だなぁ……」

「まぁ、私と同じ奴と当たるとは限らないんだしそこまで悲観的になる必要はないんじゃない?」

「なんだが悪い予感がするんだよ、俺のこういう時の勘ってのは中々鋭いからな……」

「へぇ、そうなんだ……頑張ってね、にぃに」

 

さて、ラウラが居ないんじゃもう新井と話すこともないな。

 

「じゃ、俺も帰るわ。ラウラによろしく言っといてくれ」

「うん、じゃーね」

「おう、じゃーな」

 

新井と別れの言葉を交わす、そろそろ帰ろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう面倒くさいなぁ、だから言ってるでしょ! アイツとは二、三言話しただけで何も無いって!」

「いや、しかしな。関係者の中にあの黒髪の子供と一致する人物が居ないのだよ」

「例え奴がテロリストだったとしてもあの時の俺には解るわけないでしょう! それともアレか? 俺がテロリストの仲間だって言う決定的な証拠でもあるのかよ!?」

「いや、そういうわけではないのだが……」

 

フランスのピットに帰ってきた俺を待っていたのは事情聴取に訪れた基地の軍人だった。

今俺が話している内容とは、あの織斑先生似のちびっ子についてだ。奴は基地内のどこの関係者でもなかったらしく、俺とちびっ子が話している場面がばっちりと監視カメラに写っていたいたのでその事を重点的に聞かれている。

しかし、同じような話の連続に流石に俺もまいってきた。もう面倒で仕方がない。

 

「こんな事言いたくないが、俺は今回の混乱を収めた功労者の一人だぞ!? もうちょっと丁寧な扱いをして欲しいもんだなぁ!」

「しかし、あのテロリストは君たちのストーム・ブレイカーでこの基地を脱出したのだ。今は君たち三津村全員が最有力の容疑者なのだよ」

「そんな事俺の知った事か! ストーム・ブレイカーについて聞きたいんなら他の奴に聞け!」

 

こんなにも頑張っていたのに容疑者扱いだ、俺はもう激おこぷんぷん丸である。

 

「こちとらアイツの相手にIS三機も出したんだぞ!? 三機だぞ三機! これがどれだけの事か解って言ってるのか!?」

 

IS三機、これは小国の軍事力を軽く凌駕する戦力だ。そして今回の一件で我々フランス陣営は最も多くの戦力を提供している。

 

「しかし、幾ら相手が強いとはいえ七対一で逃げられるというのは些か不自然じゃないか?」

「うるせー! ISに乗れない奴がたらたら文句いってんじゃねーよ! あんたはさっきから『いや』とか『しかし』とかそんなんばっかりじゃねーか!? そんなに俺達をテロリストにしたいのか!? そっちがその気なら俺にだって考えがあるぞ、今からでも三津村の全てを使ってドイツのネガティブキャンペーンでもやってやろうか? あんたらの脛は傷だらけなんだ、ウチの力舐めんなよ?」

 

ラウラのVTシステムの件や、この基地がテロリストに潜入された事、黒ウサギ隊は元々遺伝子強化試験体であることなどドイツには叩けば埃が出てくることがごまんとある。

それは世界中に知れ渡ってることだが、あくまで業界内での話だ。マスコミ各社も圧力をかけられていてそんな事は一般の人々に知れ渡っているわけではないのだ。

 

「そ、それは……」

 

勝った、思いっきり逆切れと脅迫でゴリ押ししたが俺はこの嫌らしいオッサンとの舌戦に勝利する事が出来た。あたいったら最強ね!

 

あれ? これって何の勝負だったっけ?

 

「とにかく憶測でモノを語る前にやるべき事があるでしょう? 俺達をテロリストにしたいんなら言い逃れできない証拠でも用意してくださいよ、そんなもの最初から無いですけどね」

「…………」

 

おっさんが俺を悔しそうに見つめる、しかし勝者の俺にはその視線は心地よいものでしかなかった。

 

「じゃ、そういう事でもう事情聴取は終わりでいいですね?」

「……ああ、いいだろう」

 

俺は余裕の笑みを浮かべ部屋から退出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからきっかり3日後、俺達は基地から解放された。

基地に篭ってた3日間は主に新井やテンペスタ二型の人と一緒に野球をして過ごした、テンペスタ二型の人はネットゥーノという所の出身でそこでは野球が盛んだという事を聞いた。

そういうわけか筋がいい、黒ウサギ隊とその他寄せ集めチームで試合を行ったのだがそこでも俺と共に寄せ集めチームを牽引し、寄せ集めチームを勝利へと導いた。

ちなみにスコアは33-4、俺はチームのエース兼四番として奈々得点を上げた。なんだかんだで圧勝したわけだ。

さらに余談だが、新井は黒ウサギ隊で三番サードを任され毎回ツラゲを行う大活躍を見せ試合に華を添えた。

 

そんなこんなで帰ってきました祖国日本、今回の欧州の旅は災難続きであった。

あの後のテロリストのについてだが、余計な事を喋られないように色々誓約書を書かされた。

しかし、あの大人数の前で起こった騒ぎはいずれどこからか漏れる事になるだろう。

 

現在、8月14日の夕方。12時間近くのフライトでバッキバキの体を車はIS学園まで運ぶ、しかしこれからお盆が終了するまでオフが貰える。

お盆の予定は一夏に誘われての神社での夏祭りしかない、それまでは体を休めよう。

 

「ああ、藤木君。明日の予定なんだけど……」

 

明日の予定? そんなものは俺には無いはずだ。

 

「明日、三津村重工の本社に来てもらえるかしら?」

「え? 明日は寝て過ごす予定があるんですが……」

「君の専用機にしばらくヴァーミリオンを使っていいって許可が出たから一次移行だけでも終わらせてもらいたいの、いいかしら?」

 

マジかよ……

 

「俺に休みは無いんですか?」

「無いわ」

「即答かよ!?」

 

そんなこんなで俺の明日の予定も埋まったわけだ、勤労少年藤木紀春の15才の夏はまだまだ終わりそうになかったのである。


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