インフィニット・ストラトス ~栄光のオリ主ロードを歩む~   作:たかしくん

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ふくせんまきまき


第43話 夏の終わりの風物詩

「畜生っ……やはり間に合わないのか……っ」

「諦めたまえ刻印よ、そもそもこれは自業自得だろう」

「自業自得だと? 俺をこんな状況に追い込んだのはお前達三津村の責任でもあるだろう!」

「それは楢崎君に言ってくれたまえ、少なくともこの件に関してはボクに責任は無い。むしろこうして君を手伝ってやっているんだから感謝して欲しいものだがな?」

「ぐっ……確かに……」

「しかし手伝ってやるのはいいのだがこれほどとは……ボク達二人で現状を打開するには少々厳しいな」

「でもなんとかしないといけないんだ、この問題を解決できないとなれば俺に待っているのは死の未来だけだ」

「……遺書の用意をした方が手っ取り早くないか?」

「童貞のまま死ぬわけにはいかない、そして一応策はある」

「お得意の増援かい?」

「それしかない、俺がこの先生きのこるためには……」

 

今このピンチを切り抜けるには仲間の力が必要だ。仲間に頼るという事、それは決して恥ずかしい事ではないはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏休みも終わりを迎えようかという今日この頃、僕は紀春から呼び出しを受けていた。

もしかしてデートのお誘いかと思ったのだが、呼び出しのメールの文面はやたら悲壮感を感じるものだったし、待ち合わせ場所も三津村商事の本社ビルだった。

 

受付で名前と紀春から呼び出しを受けた事を言うとすぐさま案内されビル中層に位置する小さな会議室に案内された。

多分ここで紀春が待っているのだろう、ちょっと緊張しながらドア開けると僕を迎え入れてくれたのは紀春ではなく一夏と箒だった。

 

「あれ? 二人とももしかして」

「ああ、俺達も紀春に呼び出されたんだ」

 

とりあえず椅子に座り待っていると、遅れて鈴、セシリア、ラウラが入ってきた。

 

「で、どういう事なのよ? みんななんで呼び出されたのか解らないの?」

 

そんな鈴の疑問に答える人は誰も居ない、みんな呼び出しの理由を聞かされてないようだった。

 

10分くらいみんなで待っていると、部屋に紀春が入ってくる。

その容貌は悲壮感丸出しであり、髪はボサボサで目の下には濃い隈が出来ている。

 

「紀春、どうしちゃっ「助けてください!!」……えっ?」

 

紀春は部屋に入るなり土下座をしてそんな事を言う、早速だが訳がわからない。

 

「このままだと殺されてしまう、俺はまだ死にたくないんだっ!」

「どっ、どうしたんだ兄よ!? 訳がわからんぞ!?」

 

震えながら土下座の体勢を崩さない紀春にラウラが駆け寄る、そんなラウラに紀春は縋り付く。

 

「ラウラっ、助けて……」

「話の内容が全く理解出来ないが、妹が兄を助けるなんて当たり前の事だろう。兄よ、何があったんだ」

「それは……」

 

話の内容を聞かれて紀春が口ごもる。僕達は紀春の何を助けて欲しいのかまだ聞いてない、そんな状況では助けるも何もあったものではないのだ。

しかし、そんな僕の思いとは裏腹にセシリアが口火を切る。

 

「話しづらいのならそれでも構いませんわ、わたくしとしてもドイツでもプレゼントのお返しをしていませんでしたし協力させて頂きますわよ」

「セシリアさん……」

 

紀春は顔を上げてセシリアを見つめる、その目にはうっすらと涙が浮かんでいた。ってプレゼント? 

 

「何だかよく解らないが紀春が助けて欲しいって言うなら助けるに決まってるだろ、俺達友達じゃないか」

「ああ、そうだな。藤木、私達は友達だ。何でも言ってくれ」

「一夏……篠ノ之さん……」

 

紀春の目から涙が零れる。会議室が徐々におかしな雰囲気に包まれていく。

 

「仕方ないわねぇ、これであたしだけ帰りますじゃ悪者にされちゃうじゃない。紀春、あたしも協力するわよ。一向に内容が見えてこないけど」

「鈴……ありがとう……」

 

紀春は俯いて体を震わせている。あっ、そういえばこの流れに完全に乗り遅れてしまった。とりあえず便乗しておこう。

 

「もちろん僕も協力させてもらうよ、僕達は仲間でしょ?」

「ありがとうシャルロット。ああ、俺はこんなにいい友達に囲まれて幸せ者だなぁ……」

 

そんな事を言ってるが僕達に紀春が何について助けて欲しいのかは一向に教えてはくれない、僕はそんな紀春に不信感を抱き始めていたのだが、このおかしな空気の中でそんな事を言い出せば確実に『空気読めない』のレッテルを貼られてしまう。

兎に角、紀春が抱えている問題はなんなのか。それが気になるところだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、何について助けて欲しいって話だったな」

 

俺は会議室の前方にあるホワイトボードの前でみんなを見据える、俺を見返す全員の視線は真剣さを帯びていて俺としては頼もしい。

 

「ああ、最初に死ぬとか殺されるとか言っていたな。何かヤバイ事件にでも巻き込まれたのか?」

「でも安心しなさい紀春、ここに居るのは全員専用機持ちよ。あんたも合わせれば専用機持ち七人も居るわけだかあんたに幾ら命の危機が迫っていようと絶対に守り抜いてみせるわ」

 

代表して一夏と鈴が口を開く、改めて俺はいい友達にめぐり合えたと思う。

 

「ありがとう、でも誰かと戦うとかそういうのじゃないんだ。お前らにはある事を手伝ってもらいたい」

「あれ、そうなの? 紀春の口ぶりからして何らかの荒事かと思ってたけど」

「それでも俺の命が危険というのには変わり無い、そしてお前達に手伝ってもらいたいことなんだが……」

 

全員が唾を飲み俺に視線を集中させる、俺もそんな視線を受けちょっと緊張してきた。

 

「それは……」

「それは?」

 

全員が俺の言葉を繰り返し俺の緊張を煽る、俺の心臓も高鳴りやけにうるさく感じる。

 

「な……」

「な?」

「夏休みの宿題だッッッ!!」

「……………………え?」

 

全員の顔が真剣なものから急激に変わり、会議室内部の時が止まった。

 

「だから夏休みの宿題だって! 俺の夏のスケジュールが過密すぎて全く出来てないんだ」

 

会議室の面々はまだ固まっている、その中で最初に鈴が動き出した。

 

「あほくさ、あたし帰るから」

 

すたすたと入り口のドアを目指す鈴、しかし俺はドアの前に立ちその行く手を阻む。

 

「どきなさいよ」

「酷いじゃないか鈴! さっきは助けてくれるって言ったじゃないか!?」

「こんなしょうもない事だとは思ってなかったかったからよ! そんなの自業自得じゃない」

「しょうもないって……俺の命が懸かってるんだぞ!?」

「なんで宿題やってないくらいで命懸けの状態になってんのよ!?」

「いや待て鈴、紀春の命が懸かってるってのは強ち間違いじゃないんだよ」

 

言い争う俺と鈴の後ろから一夏が声を掛ける。そう、俺が命懸けなのは一組ならではの事情があるのだ。

 

「一夏……どういうことよ?」

「お前は二組だから知らないのは当然なんだが、俺達一組は千冬姉から夏休みが始まる前にこう言われてるんだ。『夏休みの宿題を忘れたら殺す』って」

「はぁ? 常識的に考えなさいよ、幾ら千冬さんだって殺すとかありえないでしょ? そんなのただの脅しよ」

「いや、そうでもないな。あの台詞を言った時の教官の顔は本気だった、それに兄は特に念押しされていたからな」

「ああ、あの時はめっちゃびびったわ。っていうか少し漏らした、確かに殺すとかは無いにしろ精神的に殺される可能性は捨てきれないな。少なくとも確実にSAN値を削ってくるはずだ」

「そんな事言われてもねぇ……夏休みの宿題って……」

 

やはり鈴は不満なようだ、確かに俺の命が懸かってるとはいえやることが夏休みの宿題と言われればテンションが下がるのは否めないだろう。

しかし、こんな時のために用意しているものがある。

 

「しかし、鈴のいう事も最もだ。俺が命懸けだろうとやる事が夏休みの宿題ではテンションが下がるのは否めないだろう。ということで今回一番頑張ってくれた人には景品を用意してある」

「景品っ!? そういう事は早めに言いなさいよ!」

 

途端に鈴の顔が輝きだす、こいつが金や物に弱いのはリサーチ済みだ。

しかし、この態度の変わりよう。現金な奴だ。

 

「というわけで景品カモン!」

 

俺がそう言うと会議室入り口のドアが開かれ大きなパネルを持ったせっちゃんが部屋に入ってくる、そしてせっちゃんがパネルを会議室の面々に見えるように掲げた。

 

「景品は明日の東京デスティニーランドのペア特別招待券&宿泊券だ!」

「えーっ」

「あれ? 不満か?」

「当たり前でしょ、夏休みのデスティニーランドなんて人でごった返して碌にアトラクションにも乗れないじゃない。それにそれ位であたしを釣れると思ったら大間違いよ、あたしだって軍から給料出てるんだからね。ペアチケットを買うお金なんて幾らでも持ってるわ」

 

確かに鈴の不満も最もだ、しかし明日のデスティニーランドは一味違うのだ。

 

「ふっ、甘いな鈴。確かに普段のデスティニーランドなら人だらけだろう、しかし明日のデスティニーランドはちょっと違うのだ」

「? 何よ?」

 

俺は会議室の中を歩き出す、会議室の面々は俺の一挙手一投足に釘付けだ。

 

「明日、東京デスティニーランドは三津村グループの福利厚生として全館貸切される! 事前にチケットの予約が行われているのだが予約者は約2500人! 予約チケットは一枚で4人まで連れて行けるから明日のデスティニーランドの来場者数は1万人を超える事はない! デスティニーランドは一番暇な時期の平日ですら一万五千人を超える来場者数があるから明日のデスティニーランドは滅茶苦茶空いてるということになるぞ!」

「なっ、なんですって!?」

「アトラクションは乗り放題! レストランに並ぶ必要はないし、パレードだっていい場所で見る事が出来る!」

「それは……中々……」

 

そして俺はそっと鈴に耳打ちする。

 

「ああ、どうでもいい事だけど明日の一夏の予定はフリーらしいぞ」

 

その言葉を聞いた鈴の目が輝く。

 

「更に更に! 忘れないで貰いたいのはこの宿泊券! デスティニーランド近郊の三津村系列のホテルの最上級スイートルームを押さえております! しかもデスティニーランドからハイヤーでお出迎えしてくれますよ! 疲れた体を存分に癒しちゃえばいいじゃない!」

 

そこで俺はもう一回鈴に耳打ちをする。

 

「もちろんもっと疲れる事してもええんやで。っていうか、YOUひと夏の思い出作っちゃいなよ」

 

その言葉を聞いた鈴の顔が赤く染まる。

 

「紀春……」

「なんだい?」

「あたしはどれをやればいいの?」

「ありがとう鈴、とりあえず漢文お願いしようか」

 

そう言って漢文の問題集と筆記用具を渡す、それを受け取った鈴は席に着き猛スピードでペンを動かしていった。

 

「おお、早速やる気を出してくれているようで俺も嬉しいよ。このままだったら鈴が圧倒的な差で景品ゲットですかな? 頑張れよ鈴、ひと夏の思い出が君を待っているぞ!」

「ひと夏の思い出……そういう事ですか!? 紀春さん! わたくしには英語の問題集を!」

「あいよっ! 英語一丁!」

 

そう言ってセシリアさんに英語の問題集を渡す、その後篠ノ之さんとラウラも後に続いた。

 

「さて、そこの二人。君達は協力してくれないのかな?」

 

そう言って一夏とシャルロットに視線を移す、二人はこの流れにいまいち乗り切れてないようだった。

 

「いや、協力するのは別に構わないんだが景品にいまいち魅力を感じないと言うか。しかし、なんでこいつらはこんなにチケットに夢中なんだ?」

「僕は大体想像がつくけど……」

「そうなのか? どういう事か教えてくれよ、あいつら全員デスティニーランド大好きっ子だとか?」

「いや、言うのはやめておくよ」

「なんだよ」

 

何だか二人のやる気がイマイチらしい、一夏には地理歴史をシャルロットには科学をそれぞれ担当してもらいたいのでこのままじゃよろしくない。

ちなみに現代文は俺が担当する予定だ、最初は一夏にやってもらおうとおもったのだが朴念仁のあいつでは恋心はおろか作者の気持ちも理解できないだろう。

 

「仕方ない。というかお前がそんな感じになるのは俺だってお見通しだ、一夏の景品は他に用意してある」

「おっ、気が利くな。それで俺の景品ってなんだんだ?」

「見て驚け、というわけで景品二号カモン!」

 

俺がそう言うと、またしても会議室の扉が開き不動さんがワゴンを押して入ってくる。

ワゴンには布がかかっており、ワゴンに何が乗っているのかは見る事が出来ない。

 

「お前に用意した景品はこれだ!」

 

俺が布を取り払う、そこには大小さまざまなビンが並んでいた。

 

「こっ、これは!?」

「お前に用意したのは、世界のスパイス&ハーブコンプリートセットだ! 中華からイタリアン、果てはアフリカンまで主に使われている香辛料の類はほとんど揃っているぞ!」

「素晴らしい!」

「更に更に、今回は特別に新鮮謎野菜の詰め合わせもお付けしよう! これでM○C○'Sキッチンを完全再現可能だ! 一夏、お前も今日からモコニキだ!」

「これは……欲しい……」

「ちなみに塩、胡椒は大目に用意しているからな。思いっきりファサーってやってくれ」

「紀春、俺やる気出てきたぜ!」

「そうだろうそうだろう、しかし最後にもう一つあるぞ。オリーブオイル4リットルもつけさせてもらおう! これでオリーブオイルの量を気にせず存分に使えるな、もちろん揚げ油に使ったり直飲みしてもらっても構わないぞ!」

「至れり尽くせりだな。紀春、俺にも問題集をくれよ」

「ああ。一夏、頑張ってくれ。少々出遅れはしたものの、挽回のチャンスは充分にあるからな」

「任せろ、期待していてくれ」

 

そう言って、一夏はペンを動かしていく。

さて残るはシャルロットだけか。

 

「シャルロット、頼む。協力してくれないか?」

 

俺が切れるカードはデスティニーランドとM○C○'Sキッチンだけだ。それでも説得が出来ないならもう頭を下げるしかない。

 

「はぁ、まあいいよ。協力するよ」

 

以外にすんなりと協力してくれるシャルロットにちょっとびっくり。

 

「そうか、ではシャルロットはデスティニーランドとM○C○'Sキッチンどっちがいいんだ?」

「どっちも要らないよ、僕達は仲間でしょ? 助け合うのは当然じゃない、本当なら物で釣る必要だってないんじゃないの?」

 

その言葉にペンを動かす仲間達が一瞬ギクッっと動きを止める、自分達は物で釣られている事を自覚しているのか苦笑いをしている。

 

「シャルえもん……やっぱりアンタいい人や……」

「シャルえもんはやめてよ、それで僕は何をすればいいのかな?」

「では、科学を頼む」

「了解」

 

俺は生物の問題集をシャルロットに手渡す。さて、俺も宿題の続きをしようか。

 

「あ、せっちゃんと不動さんは帰っていいよ。ご苦労様」

 

その言葉を聞いた二人は会議室から出て行く、二人を見送った後一夏が不意に口を開く。

 

「俺、不動さんは知ってるけどもう一人の男の人は……せっちゃんさんだったか、あの人は誰なんだ?」

「俺の新専用機の開発リーダーの人、俺もよく知らないけど三津村一の天才なんだってさ」

「三津村一の天才ってこと相当頭良いんだろうな、そんな人をパシリに使うなよ」

「俺の命には代えられん、ついでにせっちゃんには自由研究もお願いしてある」

「益々扱いが酷いな、高が高校生の自由研究にそんな人使うなんて」

「しかし、高校生になって自由研究やらされるなんて思わなかったよ。一夏、お前自由研究何やった?」

「おいしい家庭料理の作り方」

「うわっ!? 所帯染みてて内容もショボイ!」

「高1の自由研究なんてそんなもんでいいんだよ、みんなはなにやったんだ?」

 

その声にまず篠ノ之さんが答えた。もちろんこんな会話をしている最中も俺達のペンを動かす手は止まっていない。

 

「私は実家の歴史をまとめてみた、資料だけなら充分にあるからな」

「実家に歴史があるとそういう所で迷わなくていいよなぁ」

「それでも結構大変だったぞ。古いものばかりだから書物を読むのにも気を使うし、字が達筆すぎて解読する必要があるしな」

「ああ、それがあったか。良い事ばかりとは限らないと」

「そういうものだ」

「そういうものか、セシリアさんはなにやったの?」

 

折角だから全員に聞いてみようと思いセシリアさんに話を振る。

 

「イギリス料理は何故不味いのかについてですわ」

「あ、マズイって自覚はあるんだね。自覚があるんなら自分の料理も……」

「? わたくしの料理は不味くはありませんわよ? 一夏さんも美味しいって言って食べてくださいましたし」

「一夏、何でもかんでも優しくするのは本当の優しさじゃないと思うんだが?」

「……俺もそう思うよ」

 

この話を必要以上に引っ張り続けるとピストル・オルコットにお見舞いされる可能性がある、さっさと次の人に話を振ろう。

 

「じゃあ次行くか、鈴はなにやったんだ?」

「あたし? あたしは火力の神様ヨン・タウロンについてのレポートね」

「ヨン・タウロン? だれだそりゃ?」

「火力の神様か、どこかの武器職人か何かか?」

 

一夏とラウラがそれに答える、他のみんなもピンと来ていないようだ。

 

「お前ら知らないの? 中華料理のシェフなら誰でも知ってる人だぞ」

「俺中華料理のシェフじゃ無いし、お前も中華料理のシェフじゃないだろ」

 

すかさず一夏の突っ込みが入る、しかし鈴は元々中華料理屋の娘なんだから知っていたとしても不思議はないな。

俺は、あまり料理はしないがチャーハン作りには一言ある男なので知っている。オリ主といえばチャーハン、そういうものだろう? いや違うか。

 

「しかし意外と料理ネタが多いな、次は……シャルロット行ってみようか」

「僕? 僕は……」

 

シャルロットに振ると彼女はなにやら言葉を詰まらせる。

 

「何だ? 秘密にする事でも無いだろ、教えてくれよ」

「ええと、僕の自由研究は……」

「自由研究は?」

「デュノア社の凋落」

「重いっ! なんでそんなモノ選んだんだよ?」

「たまたま手近に資料があったから……」

 

たまたま手近に資料があったからという理由で実家が凋落していく様を自由研究にしてしまうのはどうかと思う、しかも俺もその凋落に一枚噛んでいるものだからどう突っ込んでいいものか解らない。

 

この話題は危険だ、次のラウラで最後だしとっとと終わらせてしまおう。

 

「でだ、ラウラは何やったんだ?」

「私か? 私は伝説の傭兵についてのレポートだな」

「伝説の傭兵? ゲームの話か?」

「知らないのか? 約20年前に活躍した実在する人物だぞ」

「へぇ、伝説ねぇ。どんな事やったんだ?」

 

俺がそう聞くと、ラウラが伝説の傭兵の偉業を説明していく。

その内容はにわかには信じられないものであった。要約するとこんな感じになる。

 

全盛期の伝説の傭兵の伝説

 

・ライフル3連射で5人殺害は当たり前、3連射8殺も

・敵の投げたグレネードでホームランを頻発

・彼我戦力差100対1、味方全員負傷の状況から1人で逆転

・戦場に立つだけで相手投手が泣いて謝った、心臓発作を起こす敵兵も

・敵兵を一睨みしただけで敵兵の首がどこかに飛んでいく

・戦闘の無い日でも敵が死ぬ(ストレスで)

・武器を使わずに素手で殺したことも

・敵兵の韓国人のヤジに流暢な韓国語で反論しながら殺害

・グッとガッツポーズしただけで5人ぐらい死んだ

・湾岸戦争が始まったきっかけは伝説の傭兵の仕業

・自陣の深い位置から狙撃で敵の指揮官を仕留める

・敵兵の頭をボーリングの球代わりにして楽しんだ

・グレネード投擲のスイングによる衝撃波で体が真っ二つになった敵兵がいた

・生身でレーザービームを放つらしい

・戦場の伝説の傭兵と目が合った敵兵は死と同等のショックを受けた。廃人になった者も

・その無双振りに全米が泣いた

・伝説の傭兵の居る都市は犯罪率が下がる

・実はノドンを一度打ち落としてる

・いつも店先のトランペットを 物欲しそうに眺める少年にシカゴタイプライターを買ってあげたことがある

 

…………どう考えてもありえない、特に生身でレーザービームを放つってもう人間じゃないだろ。

 

「いや嘘だろ」

「嘘みたいだが本当の話だ」

「いやいやいやいや、信じられないって」

「そうでもありませんわよ、伝説の傭兵の存在は我が国イギリスを始めEU各国やアメリカでも公式に認められていますわよ」

「えっ?」

 

俺とラウラの話にセシリアさんが割り込む、どうやらこの話は国家のお墨付きらしい。

 

「マジなのか」

「マジですわ」

「だから何度も本当の事だといっているだろう」

「悪い、あまりにファンタジーな出来事過ぎで中々信じ切れなかったんだ」

「私達が乗っているISも中々ファンタジーな代物だと思うぞ」

「確かに、そう言われればそうだな」

 

生身に装着するだけで自由に空を飛ぶ事が出来、どこからともなく武装を取り出したり収納したり。第三世代の特殊兵装も中々ファンタジックだ。

 

翌々考えてみれば、俺達の住む世界は想像以上にファンタジーだ。

織斑先生や次郎さんは明らかに人間の限界を超えているし、オリ主である俺や踏み台転生者であるラウラも神からこの世界に遣わされたファンタジックな存在である。

 

「うーん、ファンタジー……」

 

俺はファンタジックな空想に思いを馳せ、その間も中間達は俺の夏休みの宿題を消化していく。

仲間達の協力もあり、俺の宿題はその日に終わらせる事が出来た。

 

そして一番頑張ってくれた人への景品だが、面倒だったのでジャンケンであげる人を決めたところ一夏が圧勝しスパイス&ハーブと謎野菜セットを持ち帰っていった。

 

こうして俺の夏は終わって行った。

 

しかし夏休みが終わり新学期が始まったった時、俺は改めて実感する事になる。

この世界が想像以上にファンタジックだという事を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園も夏休みという事で普段の業務も幾らかは軽減され私も家に帰ってくる機会が多い、そういう時は決まって一夏も家に帰ってきており夕食を共にするのが我が家の慣例だった。そして今日もそんな日だった。

 

一夏は今日の夕方まで藤木と遊んでいたようで、夕方六時頃に家に帰ってきてその後夕食の準備を始める。藤木という存在に思うところが無いわけではないのだが、それでも奴は学園内ではただ一人の一夏の同姓の友人だ、仲良くするのは悪い事では無いと思いたい。奴の腹の中やその後ろに付く人間達が真っ黒であるということを考慮してもだ。

 

一夏に家事を押し付けてしまっているのは正直申し訳なくも思う、しかし私に炊事洗濯の才能は全く無いし手伝おうとするとあからさまに邪険にされる。もうこの手の事は諦めた、悲しくなんてない。

 

そしてテーブルに出される夕食の数々、しかし今日の食事はいつものとは少し毛色が違っていた。

 

「なぁ一夏」

「なに? 千冬姉」

「これは……何だ?」

 

私は最初に出できたサラダボウルを指差す。

 

「それはリガトーニとルッコラのサラダと数種のオリーブのポテトサラダだよ。あっ、そうそう」

 

一夏はそう言うとキッチンに戻りボトルを手に戻ってくる、そして今私の目の前に置いているサラダにおもむろにボトルの中身をぶちまけた。

 

「なっ、なにをするんだ一夏!」

「なにをって……追いオリーブに決まってるじゃないか」

「なん……だと……!?」

 

さも当然のように言い放つ一夏、しかし料理素人の私からしてみればサラダに直接オリーブオイルをかけるなんて狂気の沙汰にしか思えない。一般のご家庭ではこれが普通なのだろうか?

 

「メインは大豆のコロッケだよ~」

 

いつの間にかキッチンに戻っていた一夏がまたやってくる。大豆のコロッケか、悪くない。コロッケといえば通常ポテトコロッケだが夜に炭水化物を多く摂取するのは避けたいところだ。しかも今日はポテトサラダがあるので尚更だ、見た目はポテトサラダというよりオリーブサラダだが……

それに大豆というのは低カロリーで高タンパク、体にいい栄養素が多く含まれている。栄養の面から見てもいい。

 

「そしてオリーブオイルだば~」

「なにぃ!?」

 

そしてまたしてもかけられるオリーブオイル、いくらオリーブオイルが体に良いからってかけすぎだろう。

 

「お次はこれ」

「なっ!?」

「で、次は」

「はっ!?」

「…………」

「……!」

「……」

「……」

 

そんなこんなで私の夜は更けていく、出される食事は見たことない野菜とオリーブオイルのオンパレード。正直脂っこくて仕方が無い、しかし一夏の腕も流石なものでどれもこれも美味しいものばかりだった。

 

食後に一夏に聞いてみた、なぜこんな料理を作ったのかと。

……やはり原因は藤木だった。


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