インフィニット・ストラトス ~栄光のオリ主ロードを歩む~ 作:たかしくん
「くっ、これは……」
「なんぞこれ!?」
篠ノ之さんと共に扉を潜る、その先で俺達を待ち構えていたのは異空間だった。
陰鬱さを感じる灰色の空の下には無数の墓標が雑然と並んでいる。まるでファンタジーRPGの墓地ダンジョンのようであり、いつその墓標の下から腐った死体が出てきてもおかしくないとさえ感じる。
警戒しながらあたりを見回すと、背中に位置していた扉がバタンと大きな音を立て閉じられる。どうやら俺達は歓迎されているようだ。
「やぁ! 藤木君の方から来てくれるなんてね。隣に居るのはお友達? それとも彼女?」
「え、えーと。こんにちわー」
その声と共に俺達の前にIS学園の制服を着た二人の女の子が現れる、一人は茶髪のショートカットでいかにも活動的な感じでもう一人は黒髪ロングでお淑やかな印象を受ける。ちなみにどちらも美人だ。
「彼女なわけないだろ、それよりあんたらが幽霊二人組みか。何故あんたらは俺に付き纏うんだ?」
「私達には未練があるの。藤木君、君なら私達の未練を解消してくれるかもしれないわ」
「未練だと?」
幽霊の言葉に篠ノ之さんが疑問を投げかける、戦う気マンマンでここへ来た俺達だったがその未練とやらを解消してやれば彼女達はおとなしく成仏してくれるかもしれない。
出来る事ならこの一件は穏便に済ませておきたい、幾ら準備していようとも人外と戦うのはどんなリスクがあるとも知れないし、一度ヴァーミリオンを倒した彼女に勝てる保障なんて一切無いのだ。
「そう、私達の未練それは……」
「それは?」
「いっぺんヤリたい!」
ヤリたい? えっ、やりたいってもしかして。
「処女のまま死にたくない! ということで藤木君、私達とヤリましょう!」
「死にたくないって、あんたらもう死んでるじゃん!」
「ちっちゃなことは気にしない!」
「それ! わかちこわかちこ~」
「お断りだ! 何が悲しくて幽霊で童貞喪失せにゃならんのだ!?」
あの二人と話している時、よく下ネタを振られたものだが彼女らが俺の貞操を狙っていたとは予想外だ。
「ヨイデハナイカ! 私達も知識だけなら凄いからきっと気持ち良いわよ?」
「うるせー! 知識だけで何とかなるんなら俺も童貞じゃねーんだよ!」
「藤木……お前童貞なのか、以前花沢さんに聞いたのだが童貞が許されるのは小学生らしいぞ」
「なんてヒデェ事教えてるんだよあのビッチは」
以前言ったこともあったが我が幼馴染一号は超恋愛体質である、あと喧嘩負けなしの格闘少女だ。言い換えれば格闘最強スーパービッチだ。そして一夏の幼馴染は篠ノ之さん、言い換えればぼっちヤクザ霊脳巨乳巫女である。これも主人公とオリ主の差なのであろうか……ちょっと悔しい。
「とっ、とにかく! あんたらの願いは叶える事が出来ない、というわけで除霊させてもらう!」
俺は両手のファブリーズを構える、篠ノ之さんも懐から数枚のお札を取り出した。
「そう……やはり力ずくで頂くしかないようね、藤木君の童貞は!」
「絶対に守りきってやる! 俺の童貞は幽霊にやれるほど安くはねーんだよ!」
「あなたと合体したい!」
「このオレの童貞! やらせはせん! やらせはせん!! やらせはせんぞぉー!!! 」
天野幽貴が俺に向かって突撃してくる、俺は躊躇なくファブリーズのトリガーを引く。
ここにIS学園史上初の人間VS幽霊のタッグマッチがはじまったのである。
「イヤーッ!」
「イヤーッ!」
「ンアーッ!」
以外や以外、この戦いの機先を制したのは俺だった。突撃してきた天野幽貴に俺のファブリーズがクリティカルヒットしたのだ。
効いてる! そう確信すると共に俺は天野幽貴に向かってファブリーズを連射する。しかし、その追撃を彼女は大きく飛び上がって回避した。
「くっ、思ったよりやるわね」
「無いよりマシだと思って持ってきたんだが、まさかファブリーズが効くなんて予想外だったよ」
彼女は空中に静止し、俺を睨みつける。俺も下から睨みつける、主にスカートの下から覗く純白のおパンツを。
「ちぃっ! ちょこまかと!」
「あらあら、そんな紙切れで私は倒せませんよ」
横を見ると篠ノ之さんの周りを聖沢霊華は縦横無尽に飛び回っており篠ノ之さんは苦戦しているようだ、彼女は百万円分のお札で武装しているが千円分の武装をしている俺より苦戦しているとはこれいかに。
「篠ノ之さん、ISを展開しろ! それなら五分に戦えるはずだ!」
「くっ、解った!」
俺と篠ノ之さんはISを展開し灰色の空へと飛翔する、そんな俺達を邪魔するかのように地面に生えてきた墓標が俺達に向かって飛んでくる。
「そんな物がISに通用するはず無いだろう!」
篠ノ之さんは墓標を気に留める事もなく聖沢霊華に接近する、しかし墓標の突撃を受け篠ノ之さんは吹っ飛んだ。
「ぐあっ!? ……ダメージを受けただと!?」
「スマン! そいつらの攻撃シールド削ってくるの言い忘れてた!」
「そういう事は先に言え! しかし、ISのシールドを削る攻撃とは一体どういう原理なんだ?」
「俺も全く解かんね」
「あちらの攻撃が通るという事は、もしかしたら私達の攻撃も通るかもしれない」
「そうなのか? 試した事も無いからどうなるんだろうか」
篠ノ之さんは持っていたお札を仕舞いこみ空裂を抜く、そして斬撃を幽霊二人組みに放った。幽霊二人はその斬撃をいとも簡単に回避する。
「ちっ、避けられたか」
「しかし、避けたという事は避けなきゃマズいってことか」
「ということはこちらの攻撃もあちらに通るという事だな」
「つまり俺の百万円は全くの無駄という事だな!」
「……ドンマイ、残ったお札返そうか?」
「いらねえよそんな紙切れ!」
俺は怒りや悔しさやなんやらを込めファブリーズを地面に叩きつける。畜生、この恨みはあの幽霊共に百倍にして返してやる。
俺は右手にガルムを、左手にレイン・オブ・サタディを展開、幽霊に向かって突撃していった。
「天野さんは俺がやる! 篠ノ之さんは聖沢さんを倒してくれ!」
「天野? 聖沢? どっちが天野でどっちが聖沢だ?」
「髪の長い方が聖沢さんだ!」
「そうか、戦い方はISと戦うのとあまり変わらないようだし全力で戦わせてもらう!」
さて第二ラウンドだ、今度こそあの二人を仕留めてやる!
「ぐぉっ!?」
しかしながら俺はダメージを受けてしまう、散弾で破砕された墓標の破片が俺に襲い掛かったのだ。散弾銃を放ったのは俺だというのに散弾を食らうのも俺だとは予想外だ。そして天野さんは散弾を受けて動きを止めてしまった俺の隙を見逃す事はなかった。
「セイヤーッ!」
「アババーッ!」
高速での突撃からのライダーキックが俺の胸を打ち抜く、その衝撃で肺の中の空気が全て吐き出されちょっとパニックになってしまう。そして、そこから容赦ない連撃が俺に襲い掛かる。
俺は天野さんより体格面で大きく勝っており更にISを装備しているのでその身長差は二倍近くある、しかしその差などまるで無いように俺はやられっぱなしになってしまう。
流石日本代表候補生、死んだとはいえその技に衰えは一切無い。ちなみにその連撃を受けまくってる最中はおパンツは丸見えだ、眼福眼福。
もちろん俺だってただ黙って連撃を受け続けているわけにもいかない、シールドだって無限じゃないのだ。
鋭い左ミドルキックを脇で抱え込み反時計回りに自分ごと一回転、いわゆるドラゴンスクリューを敢行する。ドラゴンスクリューでうまく反撃するとそのまま天野さんの左足を持ったまま俺は自分ごと回りだす、お次は片足のジャイアントスイングだ。そして相変わらずの純白のおパンツに目を奪われる、いい感じに遠心力もつき名残惜しさも感じながらも俺は地面に向けて天野さんをブン投げた。
物凄い轟音と共に土煙が上がる、天野さんはいくつかの墓標を巻き込んで転がっていく。しかしこれで勝った訳でもないようだ、天野さんは見事な跳ね起きを見せ俺に自分の穿いているおパンツと同じくらい白い歯を見せ付けるように笑い掛ける。
「へぇ、思ってたより強いのね」
「そりゃどうも、元代表候補生の御眼鏡に適ってるようで俺としても嬉しいよ」
「でもまだまだね、その程度の格闘センスじゃ私は倒せないわよ」
「だったら、コイツでっ!」
右手にガルムを左手にバズーカを展開し乱射する、その弾幕に天野さんは猛然と突っ込んで行った。
突っ込むと言っても俺の射撃はことごとくかわされ、地面に落ちたバズーカの砲弾が空しく爆発するばかり。俺は射撃を中止し、突突を展開。突撃してくる天野さんに突撃で対抗する。
天野さんは幽霊でパワーもスピードも技量もISを装備している俺に引けを取らない、ってかあっちの方が性能的には格段に上だ。しかし、俺が絶対的に勝ってる部分が一つだけある。それは近接戦におけるリーチの差だ、拳を突き出して飛んでくる天野さんとISを装備している事で伸長している俺の腕プラス突突の長さによってその差は歴然だ。このままぶつかれば天野さんの拳が俺を捉える前に突突が天野さんを突き刺すことになる、俺は勝利の予感をひしひしと感じながら天野さんに向かっていった。
「何ッ!?」
「ざーんねん」
突突は確かに天野さんの胸を貫いたはずだ、しかし手ごたえが感じられない。そして右を向くともう一人の天野さんが佇んでいた。
「残像だ」
「はっ?」
そんな謎現象が天野さんの言葉によって解決した瞬間に襲い掛かる肘撃、天野さんは踊るように身を回転させ更に延髄切りを繰り出す。
意識が飛びそうになるのを堪えるのに必死な俺は更にもう一発背中に蹴りを食らう、そして今度は俺が地面へと吹っ飛んで行く。そしてついさっきの彼女と同じように墓標をふっ飛ばしながら地面に叩きつけられた。
「なんて強さだ……」
「ありがと、でも代表候補生ならこれ位は当然でしょ」
「俺の友人に代表候補生が何人も居るんだが確実にアンタより弱いぞ」
その代表候補生とはもちろんセシリアさん、鈴、ラウラのことである。現在の俺の実力はセシリアさんと鈴とは五分五分位だ、ラウラには劣ってるがココまで圧倒的な差ではない。
「あれ、そうなの? 全く嘆かわしいわね、専用機持ちの癖にその程度ってのは。私だって専用機貰ってなかったってのに、というか専用機はあったんだけど開発中に私が死んじゃったんだけどね!」
「男だからって理由だけで専用機貰って悪うございましたね」
「何よそれ! イヤミか!?」
「イヤミだよ!」
こんな軽口を叩いているが今の俺は全く勝機を見出す事は出来なくなっていた。この戦いに負ければ俺の童貞は無残に散らされ、共に戦ってくれている篠ノ之さんの命もどうなるか解らないのだ。つうか実際俺の命もどうなるか解らない。
はっきり言ってマジヤバイ、しかしそんな時に限って俺達はご都合主義で生き延びてきた。今回もそうだったのだ。
「ちょ、ちょっと待ったああああ!」
そんな言葉と共に俺は部屋の中に飛び込んだ、はずだった。
しかし部屋の中の後継は異様なものだった、というか最早部屋ですらない。灰色の空と所々焼け焦げだ地面、そしてそこにはISを纏ったボロボロの紀春が行きも絶え絶えに灰色の空をにらみつけていた。
「え? あれ、ここは……」
「キャー!! 霊華、織斑一夏よ! これで仲良く4P出来るわね!」
「えっ!? 本当!?」
その瞬間、俺からやや遠い地面から土煙か上がる。土煙が晴れるとIS学園の制服を着た女の子がISを纏った箒の腕を絞り上げているのが見える。
えっ? 何で箒はISを装備しているのに普通の女の子に良いようにやられてるんだ? ISを装備しているのなら生身の人間に負ける可能性はゼロだ。あっ、千冬姉は例外ね。
「があああっ!!」
「もう静かにしてくださいよ、今いいとこなんですから」
訳がわからない、もしかして今箒の腕を絞り上げてる女の子は千冬姉と同類である規格外の人間なのだろうか。
いやいかん、こんな事を考えている間にも箒は苦しみ続けているのだ。とにかく助けなければ。
俺は箒の元へと走り出した。
「危ねぇっ!」
「のわっ!?」
紀春が俺を抱えて横に飛ぶ。その一瞬後、俺が今までいた場所に大きな土煙が上がる。その土煙が晴れるとそこには先程のとは違う女の子が立っていた。しかし、いま箒を締め上げてる女の子もそこに立っている女の子もIS初めて見る子だ。
俺も学園に来て結構な時間が経つ、全員とは言わないが今まで見た事ない学園の人なんて数える位しかいないだろう。今日も新しい人に会ったけど。
「なっ、なんなんだよこれ」
この謎空間に来て一つ解った事があ。今目の前にいる子は少なくとも千冬姉と同類、いやそれ以上の存在だ。少なくとも普通の女の子はキックでクレーターなんて作らない。
「おい危ないだろ! 一夏を殺す気かよ!?」
「ごめんごめん、ちょっとハッスルしすぎたわ」
クレーターの中で女の子はばつが悪そうに頭を掻いている、しかしそろそろ今の状況の説明が欲しいところだ。
「紀春、俺にはこの事態がさっぱり飲み込めてないんだが」
「とりあえずあの二人は敵だ」
「OK、よく解った」
実際はよく解らないのだがそういう事にしておこう、これは勘だが多分今の事態は俺の想像の範疇を遥かに超えているんだと思う。そもそも廊下のドアを開けたら異空間に繋がっていること事態おかしいのだ。気にしたら負けだ。
「しかし見る限りかなり苦戦しているように見えるんだが、大丈夫か?」
「見ての通り大丈夫じゃない、何とかしてくれ」
俺は白式を展開する。箒も紀春もISを展開しているし、目の前にいるショートカットの女の子はキックでクレーターを作っちゃう位の超人だ。多分ISで戦うのが正しいんだと思う。
「あらあら、か弱い女の子に男が二人掛りだなんて卑怯だとは思わないの?」
「今更卑怯とか言ってられるか! 一夏、俺に併せろ!」
「了解っ!」
紀春が女の子に向かって飛び出す、それに俺も続く……ことは出来なかった。
「あれ?」
推進翼を吹かしてみても一向に飛ぼうとしない白式、右足が何かに引っかかっているようで俺は足元を見た。いや、見てしまった。
「な……っ!?」
「ゴメンね、織斑君はそこでこの子達と遊んでてくれるかしら?」
遠くで紀春と戦ってる女の子が余裕綽々の笑顔を浮かべながら俺に言う、そして俺の右足に絡みつく無数の手。俺は叫び声を上げるのを抑えるだけで精一杯だった。
俺の周りの地面から出てくる人、人、人。その人達は土気色の肌で体の一部がなくなっていたり奇妙なうめき声をあげながら俺に向かってゆっくりと迫ってくる。
このゾンビだらけの光景は正直SANチェックものだ、ってか確実に削れた。
「ぎゃああああああああああっ!!!!」
俺は零落白夜を発動させ手当たり次第にゾンビを切り刻む、後々考えるとこれが一時的発狂ってやつだったのだろうと思う。
そんな俺はシールドエネルギーが底を突くまでこの屍肉の軍団を刻み続けたのであった。
「それっ!」
「ぐっ……ちぃっ!」
天野さんの拳が俺のボディーを抉る、なんとか距離を開けるが俺の体力は既に限界を超えていた。膝が笑い、もうまともに立つことすら出来ない。
助けに来てくれたはずの一夏はゾンビの群れに襲われ発狂しているし篠ノ之さんも腕を極められまともに動く事すらできない、俺達の敗北は決定的だった。
何故こんな事になってしまったのだろう。俺が何か悪い事でもしたのだろうか、強い者に挑むということは愚かであるとでもいうのか?
もういい、何をやっても勝ち目はないんだ。もう諦めよう。
「あら、もう終わり?」
「ああ、もう終わりだ。煮るなり焼くなり好きにしてくれ。でもあの二人の事は見逃してやってくれないか? あいつらは俺に巻き込まれただけなんだ」
「無理に決まってるでしょ、悪いけどあっちの女の子には死んでもらうし織斑君は藤木君と一緒に死ぬまで私達と遊んでもらうわ」
「だったらっ!」
最後の力を振り絞り右ストレートを放つ、しかしその攻撃もあっさり避けられ膝をボディーに食らう。そして俺は地面に仰向けに倒れた。
「…………」
「念願の童貞卒業チャンスだってのになんでココまで抵抗するのかしら、自分で言うのも何だけど私達結構顔は良いと思うんだけど?」
もう言葉を発する気力さえ無い、仰向けに寝ているため視界には天野さんのおパンツがバッチリ写るがそれに欲情する気力もない。
「本当に終わりみたいね、じゃまずはそのうっとおしい鎧を脱がせちゃいましょうか」
天野さんが俺に手を伸ばす、そして俺に触れようかとするその瞬間……
「待ちなさい!!」
誰かの声がこのバトルフィールドに響く、俺はその声の方に目をやった。
「……谷本さん?」
このバトルフィールドと外界を繋ぐドア、その前に立っていたのは少し前に保健室で俺と話していたクラスメイト谷本癒子その人だった。
「全く、素人が除霊なんて危ないことするんじゃないわよ。心配になって見に来てみて正解だったようね」
「あら、また新しいお客さん? 今日は大盛況ね、でも私達あなたに用はないの。ということでこの子達と遊んであげてね」
天野さんがまた新しいゾンビを呼び出す、そしてそれらが谷本さんに群がっていく。俺は虚ろな目でそれを見ることしか出来なかった。
遠くでは一夏が叫び声を上げながらゾンビと一進一退の攻防を繰り広げている、篠ノ之さんは未だ腕を極め続けられている、そして俺はこのザマだ。生身でこの戦場にやってきた谷本さんではこのゾンビ相手に勝ち目は無い、そう思っていた……
「破ぁ!!」
谷本さんはそんな声と共に青白い光を放つ、谷本さんに襲い掛かろうとしていたゾンビはその光に包まれ灰となり崩れ落ちていく。
「えっ?」
その場に居た全員の声がシンクロする、それはさっきまで叫び声を上げていた一夏も同様だった。
「えっ……なにそれ?」
「寺生まれだったらこれ位は誰でも出来るわよ。さて、次はあなたたちの番ね」
天野さんの疑問に谷本さんが答える、そして今度は谷本さんが天野さんとやりあうようだ。
「谷本さん、君は……いやあなたはもしかして……」
「ふふっ、やっぱり解っちゃった?」
谷本さんが微笑む。『寺生まれ』『破ぁ!』という二つのキーワードと彼女の苗字であるTANIMOTOを繋ぎ合せると彼女の正体は容易に想像できる。
「谷本さん、あなたが寺生まれのTさんだったのか」
「正解」
「男じゃなかったのか……」
「まぁ、ネットでの話だから多少はね? それにあれ私が書いたわけじゃないし」
コピペではTさんは男として扱われている、しかし今この現実ではそれは違っていた。
いや、それは今はどうでもいい話だ。兎に角谷本さんが本物のTさんであろうとなかろうとこの現状を打破する事が出来れば彼女は俺達にとって本物のTさんだ、それで充分だ。
「くっ、まさか寺生まれのTさんが相手とは……」
「どうするの? これ以上悪さしないって約束するのなら見逃してあげてもいいんだけど」
天野さんが一歩後ずさる、その顔は険しく額からは汗が滲んでいた。
「やってやろうじゃない! 私達だって伊達にあの世は見てないのよ!」
「破ぁっ!」
「ぎゃあああああああああっ!」
天野さんが戦意を見せた瞬間容赦なく襲い掛かる谷本さんの破、天野さんは消滅は免れたものの大きく吹っ飛んだ。どうやら谷本さん、いやTさんの実力は本物のようだ。
「むりむりむりむりかたつむり! 霊華! 逃げるわよ!」
「わっ、わかった!」
天野さんは空へと舞い上がりどこかに飛んでいく、聖沢さんも篠ノ之さんを解放してその後を追った。
そしてしばらくすると荒廃した墓地の景色は一変し壁に穴のあいた特別室の隣の部屋へと変わる、というか元に戻る。俺達はなんとか勝利する事が出来たようだ。
「はぁ……なんとかなったか……」
「しかし危ないとこだったわね、これに懲りたら素人だけで除霊なんて真似は二度としないように。解った?」
「はい、すみませんでした……」
俺はTさんに頭を下げる、確かに篠ノ之さんに多少の知識はあったとはいえ素人には変わりはない。それに除霊というものを軽く見ていたのも事実である、ココまで梃子摺るというかまさか命の危機にまで晒されるのは予想外だった。
「まぁ、次似たようなことがあったらちゃんと私に相談してね。毎回良いタイミングで助けに来てあげられるとは限らないんだからね」
「まぁ、こんな事二度とないとは思うけどね」
「それもそうね。じゃ、私はもう帰るから」
「Tさん、本当にありがとう。お陰で助かった」
「どういたしまして、じゃ~ね~」
そう言ってTさんは部屋から出て行く、そして取り残されたのは悲惨な目にあった専用機持ち三人組。
「……」
「……」
「なんか、ごめん……」
除霊するぞーって息巻いてあの二人に挑んでみたのはいいものの結果はこのザマだ、しかも一夏に至っては完全とばっちりだ。というか何でコイツはこの部屋までやってきたのだろう?
「まぁ、結果としては無事に終わったしいいんじゃないか?」
篠ノ之さんが肩を気にしながら言う、どうやらISは関節技に対して有効な防御法を持っていないらしい。
「しかし過程としてはただボコボコにされただけだったし、というか一夏は何でこの部屋に来たんだ?」
「いや、それは……秘密ってことで」
一夏が苦笑いを浮かべながらそう言う。まぁ、別にいいか。もう終わった事だ。
「さて、俺達も帰ろうか。色々あったからもう疲れたよ」
「そうだな、癒子に会ったらまたお礼をしておこう」
そんな感じで俺達も部屋から出る、廊下の大きい段ボールは相変わらずその場所にあった。
帰ろう、そして今夜は誰にも邪魔されることなくぐっすりと寝よう。
やっぱり寺生まれはスゴイ、三人で廊下を歩きながら俺はふと思う。
「それに引き換えこの神社生まれは」
「それは……言うな」
あの日と同じような夕日に照らされている篠ノ之さんが言う、そして少し歩くと1025室が見えてきた。部屋に戻ったらとりあえずシャワーを浴びよう、あの戦いで汗を掻いたしまだ夏休みが終わって数日しか経ってないから気温も高いのだ。
「ふぅ……結局あの中で何が起こってたのかしらね?」
一夏、箒、紀春を見送るとあたしは段ボールから脱出した、四人がすし詰め状態の空間から解放されると九月前半の高い気温の中でも涼しさを感じる。
そしてセシリアとラウラも段ボールから出てきてあたしの疑問に口々に答える。
「全く解りませんでしたが、一夏さんの様子を見るにコスプレ援交の線はなさそうですわね。しかし、流石に暑かったですわ。ああ、汗が下着まで……」
「軟弱な、この程度の暑さなど昔行ったジャングルでのレンジャー訓錬に比べれば涼しいくらいだ」
「特殊部隊のあんたと一緒にしないでよ、こちとらあんたと比べたら一般人も同然よ」
制服のシャツをパタパタさせながら反論してみる、あれ? そういえばシャルロットはどうしたのだろう。最初はわーわーと騒がしかったけど途中からずっと黙っていたので存在を忘れていた。
「シャルロット、どうやらあんたの紀春は無事な様よ。良かったわね」
そう言いながら振り返る、するとそこには……
「…………」
「あっ、これヤバイわ」
「シャルロットさん! 大丈夫ですか!?」
縛り上げられていたシャルロットが倒れていた、セシリアがシャルロットの体を揺するが反応が無い。
どうやらあの段ボール内の暑さで熱中症に掛っているようである、今更ながら彼女には悪い事をしたなあと思う。
「全く、一番の軟弱者はシャルロットであったか。情け無い」
「そんな事言ってる場合じゃないでしょ!」
「と、とにかく保健室にっ!」
そんなこんなで私達はシャルロットの縄を解き保健室へと運んでいく、その後私達は意識を取り戻したシャルロットに無茶苦茶怒られたのは言うまでも無い。
「畜生っ、Tさんが出てくるなんて予想外もいいとこだわ!」
「ゆうちゃーん、私達これからどうすればいいのかな~? っていうかここどこ?」
TさんにIS学園から追い出された私達は全力で夜の海上を飛行する、出来るだけ遠くへ行こうともう一週間近くも飛び回っていたが周りは海だけしかなく完全に迷子になっていた。
「私も解らないわよ、でも凄く暑いから赤道の近くまで来てるんじゃない?」
無責任にそんな事を言ってみる、肉体の無い私達には空腹も乾きも疲労も存在しないけれど流石に同じ光景ばかり見るのには飽きてきた。
今になって思う、何でIS学園から逃げ出す時に本土側に行かなかったのかと。あの時は恐怖で冷静で居られなかったが、それ位は考えて行動すべきだった。
そんな事を考えていた時だった。
「あっ、ゆうちゃん! あそこに光が見えるよ!」
霊華が指差す方向を見る、そこには小さな光が見えた。多分どこかの島なのだろう。
久々に遭遇する文明に心が躍る、私達は一直線にその光の下に飛んで行った。
「こっ、これは!?」
光を追って到着したのは巨大な人工島、日夜最先端の研究が行われている科学の殿堂とも呼ばれているメガフロートであった。
メガフロートの観光施設で数日を過ごし流石に暇になってきた私達は研究所巡りを始める。私としてはあまり面白いものではなかったが相方の霊華は整備課志望だったこともあり様々な研究の成果に目を輝かせている。
しかも私達が見ている物はいわゆる最高機密、トップシークレットと呼ばれているようなものである。もちろん厳重なセキュリティが敷かれているが私達幽霊にとってそんな物は有って無いようなものだ。
そんなこんなで研究所巡りをしていた私達はとあるものを見つけた。
「ねぇ霊華、これってもしかして」
「うん、ゆうちゃんの思っているもので間違いないはずだよ」
運命、そんなキーワードが心の中に浮かぶ。私達の隣の部屋に藤木君がやってきた事、私達の正体に気付かれ戦う事になってしまった事、そしてTさんにIS学園から追い出された先に『これ』とであった事。
いつも私達の行く先に藤木君との繋がりが存在している、これが運命でなかったら一体なんなんだというのだろう?
「霊華、私決めたわ」
「そう、ゆうちゃんもなんだね」
私達の思いは一つだった、ならば迷う事はない。
「行きましょう霊華、そして今度こそ藤木君と合体するのよ!」
「うんっ!」
『これ』に触れる、そうすると私達の魂が『これ』溶けていくのを感じる。
段々と意識が黒く染まっていく、それでも私の心は未来への希望に満ち溢れていた。
「藤木君、待っててね……」