インフィニット・ストラトス ~栄光のオリ主ロードを歩む~   作:たかしくん

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あけおめ


第56話 再会

「あれ、ここどこだ?」

 

ディアナさんをはじめとした部員の援護の甲斐あって俺は女子の軍団から逃げ切る成功した、しかしその一方で現在迷子になっている。

そんなわけで歩いているわけなんだが、ここの景色は初めて見るものばかりで今俺はどこに居てどこに行けばここから脱出できるのか皆目見当がつかない。困った、非常に困った。

さっき通ってきた扉に『ここから先機密区画につき関係者以外立ち入り禁止』と書かれていたのも俺を困らせている要因の一つである、織斑先生あたりに見つかれば大目玉どころでは済まされないだろう。

しかし機密区画ならその扉に鍵の一つもついていて良さそうなものなのに普通に入る事が出来てしまったのは如何なものだろうか、扉の側には怪しげな機械がついておりそれが鍵の役割をしているものだとは思ったのだが残念ながらその機械はうんともすんとも言わないまま俺を通してくれたのだ。

そうだ、俺は悪くない。俺が機密区画に来てしまったのはあの職務怠慢な機械が仕事をしていないのが原因だ、そしてそれを管理しているこの学園のセキュリティ担当も悪いんだ。

よし、俺はむしろ被害者だ。全く悪くないな、うん。

 

妙に気が大きくなった俺は堂々と区画内を闊歩する、もう俺を阻むものはなく何も怖くない。

 

「動かないで下さい! 動くと撃ちますよ!」

「ぎゃあああああああっ!」

 

背後から急に声が聞こえて俺は驚き叫び声をあげてしまう、しかも動くと撃つって喋っている内容も穏やかでない。

 

「いいいいいいやですね、俺もどこを通ってここに来たのかさっぱりで……いや機密区画に無断で入ったのは悪いと思ってますよ、でもあの扉鍵も掛かってなかったしそこの所はどうなのかなーって思い今に至る次第でございましてね……」

「両手を上に上げてそのまま……ってこの声はもしかして……藤木君ですか?」

「はい?」

 

妙に聞き覚えのある声に振り返ると、そこには山田先生が立っている。

しかしその両手には拳銃が握られ、その照準は真っ直ぐに俺へと向けられていた。

 

「なっ、いくら機密区画に入ったからって拳銃向ける必要ないじゃないですか! そんな物騒なもの仕舞ってくださいよ」

「あっ、ああ。すみません」

 

山田先生は拳銃の銃口を下ろす、ちなみに俺はそんな銃よりもっと物騒な専用機を携帯しているわけだがそれはひとまず棚に上げておこう。

 

「ところで藤木君は何でこんな所に居るんですか? ご存知だとは思いますがここは機密区画ですよ」

「追いかけっこをしていたらここに迷い込んでしまって…… 山田先生こそなんでこんな所に?」

「……それなんですが、学園内にテロリストが侵入したという情報が入りまして」

「テロリスト? 随分物騒な話ですね」

「現在は織斑君と更識さんがテロリスト一名と交戦中だそうです」

「交戦中ってことは…… テロリストはISを持ち込んでるってことですか!?」

「その通りです、更識さんが居るので多分大丈夫だとは思いますが」

「ですね、一夏はともかくたっちゃんならテロリストの一人や二人位なら軽く捻れるでしょうね。……なんとなく話が見えてきたぞ、つまり山田先生はこの機密区画にテロリストの仲間が居ないかと調べに来たと」

「そういうことです、理解が早くて助かります」

 

状況を整理してみよう、現在学園はテロリストの襲撃に遭いそれに学園最強であるたっちゃんが対処している。そしてそのテロリストはISをこの学園に持ち込んでいる、以前せっちゃんから聞いた話ではISを使ってテロ活動しているテログループは亡国企業以外には居ない。

亡国企業……以前ドイツであった苦い思い出が蘇る。あの時俺達は奴らに手玉に取られ、サイレント・ゼフィルスとストーム・ブレイカーを持ち逃げされた。あの悔しさは未だに忘れる事が出来ない。

 

つまり現在学園は亡国企業に襲われていて、俺が考え付く奴らの目的とは……

 

「山田先生、この機密区画には何があるんですか?」

「あまり人に喋っていい話ではないのですが、今回は緊急事態ですし特別に教えてあげましょう。この機密区画にはISが4機保管されています、しかも全部いわく付きの」

「IS……やっぱりか」

「やっぱりとは?」

「十中八九この機密区画に居ますよ、テロリストが」

「その根拠は?」

「ISを使うテロリストは亡国企業というグループしか考えられません、更に以前亡国企業のメンバーとやりあった事があるんですがその際に奴らはISを盗んでいきました。つまり現在たっちゃんが戦っているISはただの囮で、本命は多分ここに侵入してまたISを奪うつもりじゃないんでしょうか? しかもご丁寧にここに来るためにセキュリティを解除してますしね」

 

テロリストがセキュリティを解除したから俺はここに来る事が出来た、論法としては結構自然に出来たと思う。何の証拠もないんだが。

 

「あり得ますね、なら急がないと……藤木君はここから離れてください、危険ですから」

「そう言われてはい帰りますなんて言うと思ってるんですか? 奴らに先にISを持ち出されたら生身の山田先生じゃ手も足も出ませんよ? でも俺は専用機持ちです、むしろ山田先生を守ってみせますよ」

「……そうですね、生徒を危険に晒すのは甚だ不本意ですが確かに今の私ではどうしようもありません。お願いできますか?」

「生徒を危険に晒すって今更な気もしますがね、ところでここに保管されているIS4機ってなんなんですか?」

「ええと、これも機密なのであまり言いたくはないんですが」

「機密って今更でしょ? 大丈夫、誰にも言いませんから」

「絶対に誰にも言わないでくださいよ? 最悪、私の首が物理的に飛ぶ可能性があるので」

「約束します、ということで続きを」

「まず、以前この学園を襲った無人機2機です。それと織斑先生の専用機の暮桜。無人機は破壊されてますし暮桜の方は凍結処理されていますので持ち運ぶのは実質不可能かと思います」

「無人機はともかく暮桜って……なんだか色々理由がありそうですね?」

「流石にこれ以上は言えませんよ?」

「わかってますって、話の文脈からすると4機目が盗まれる可能性が高いということですね。で、その4機目とはなんなんですか?」

「それは……その……」

 

山田先生が急に勿体振りだした、一体どんな機体なんだろう、オラワクワクしてきたぞ。

 

「4機目は、打鉄・改です」

「マジですか……」

 

つまり亡国企業が狙っているのは俺の元愛機。あれにはかなり苦労させられた、しかし苦労させられた分愛着もある。俺も元とはいえ打鉄スト(打鉄乗りを総称する造語、もちろん今考えた)の端くれとして打鉄がテロリストの手先に使用されるのは見過ごしておけない、これは何が何でも守り抜かねば。

そうして決意を新たにし、俺と山田先生は機密区画の奥へと進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

「……」

 

遠くから聞こえる靴の音を俺と山田先生は息を殺し追っていく、本来ならここには俺と山田先生しか居ないはずなのでやはりこの靴の音の主はテロリストで俺の予想は当たったという事になる。

ヴァーミリオンを展開して一気に取り押さえるという案も出てはいたのだが、力加減を間違えればテロリストはミンチになってしまう。流石にそれは俺の精神衛生的にまずいので山田先生に却下され、出来るだけ生身のまま取り押さえるという結論に至った。

 

ちなみに山田先生が持っていた拳銃は今は俺が持っている、テロリストと相対した時にIS用の武装をぶっ放せばまたしてもテロリストのミンチが出来上がってしまう可能性があるからだ。そして俺が盾の役割を担っている以上、山田先生より前を歩く事になるので拳銃を貸してもらったというわけだ。

 

そして、機密区画内の廊下を曲がるとついにテロリストの後ろ姿を目撃する。

 

「長い黒髪……女ですか」

「気をつけてください藤木君、女性である以上ISを奪取しに来たと見て間違いないでしょうから」

「ですね……」

 

俺と山田先生は小声で話しながらその女を見つめる。その黒髪の女はとある部屋の前で立ち止まり、扉を開き中へと入って行った。横顔がちらっと見えたが俺との距離は遠く人相までは確認できなかった。

 

「まずいですよ、あの部屋は打鉄・改が保管してある部屋です」

「行きましょう、打鉄・改が奪われる前に!」

 

俺達は駆け出し、その部屋へと侵入する。それと同時に俺は拳銃を構え、黒髪の女の背中に向かって言い放った。

 

「動くな! 下手な真似すると打ち抜くぞ!」

 

その言葉に女の動きが止まる、そして俺はさらにまくし立てる。

 

「両手を上に上げて、そのまま……」

「その声……藤木君? 懐かしいわね、また会えるなんて」

 

俺の事を知ってる!? その女の様子に少しばかり動揺するが、それでも拳銃の狙いは外さない。

俺にテロリストの知り合いなんてドイツで会った黒髪のちびっこしかいない、今ここに居る女もあいつと同じ黒髪だが背格好が全く違う。だとしたらこの女は一体誰だ?

 

「と、とにかくっ! そのまま動くな!」

「酷いわね、もしかして私の事を忘れてしまったの?」

 

俺の警告をまるで無視するかのように女が言う、そして女が振り返った。

 

「――っ!!」

「あっ、あなたは……」

 

山田先生も俺と同様にその女の姿に驚きを隠せないようだ。まぁ無理も無い、俺達の追っていたテロリストの正体は……

 

「なんでこんな所に居るんだよ、虎子さん」

「久しぶりね藤木君、元気?」

 

学園に潜入していたハニートラップにして俺の初恋の相手、羽庭虎子だったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

額からは嫌な汗が滲み出し動悸は激しさを増すばかり、そしてかたかたと震える手で持つ拳銃の先には虎子さん。

この状況は今の俺にとって滅茶苦茶きついものがある、しかしそれでも目の前の虎子さんから目を離すわけにはいかない。

そしてその虎子さんは拳銃を向けられているにも拘らず涼しげな笑顔を浮かべている、その笑顔はまるでニコポのようで俺の心がどんどん弱気になっていくのを感じる。

 

「どうして……」

「どうしてって言われてもねぇ……仕事だから仕方ないじゃない。私も転職したばかりだし、何か手柄を立てないと居づらいのよ」

「転職? 亡国企業に移籍したってことか?」

「その通り。いい所よ、亡国企業は。前のケチな職場とは大違い、競争は激しいけどそれだけやりがいもあるしね」

 

テロリストにやりがいもクソもあるのだろうか、そしてやはり虎子さんは亡国企業の一員らしい。つまりは俺の敵、ドイツで受けた屈辱を晴らすにはもってこいの相手なのだ。

 

「亡国企業……だったら俺は虎子さんを撃たないといけないわけか」

 

と、口では勇ましい事を言ってみたが実際は撃てる気がしない。

今俺が構えている拳銃は端的に言えば殺しの道具であり、そこから弾丸が発射されれば虎子さんが死んでしまうかもしれない。そんな事は俺には絶対に出来ない。

 

「大丈夫、撃てないわよ」

「え?」

「銃の安全装置、ついたままになってるけど」

「!?」

 

慌てて拳銃を確認すると、安全装置が解除されていた。そして、視線を虎子さんに戻すと彼女も拳銃を構えていた。

なんて安易なブラフに引っかかってしまったんだ、俺は。

そして拳銃を構えなおそうとすると、今度は虎子さんが俺と同じような事を言う。

 

「動かないで、動くと撃つわよ。まぁ、動かなくても撃つんだけどね」

 

その言葉と共に虎子さんはトリガーを引き、虎子さんの拳銃から発せられた大きな発砲音と共に俺の頬を弾が掠める。そして、ドサッという誰かが倒れたような音。勿論誰が倒れたのかは明白である。

 

「山田先生っ!」

 

振り返ると山田先生が倒れていた。

 

「安心して、即効性の麻酔弾よ」

 

虎子さんの声に俺はもう一度振り返る。俺が山田先生に気を取られている間に俺と虎子さんの距離は一気に詰められていて、彼女は俺の目の前に居た。

吸い込まれるような漆黒の瞳と清楚なつくりの薄化粧、そしてパールピンクの口紅を引いたみずみずしい唇が俺の目を引く。

そして虎子さんは目を閉じ……

 

「んっ……」

「むぐっ!?」

 

その唇を俺の唇に重ね合わせる、俺にとっての初めてのチュウである。

虎子さんから発せられるいい香りと柔らかな唇の感触が意識を支配し、ついさっき山田先生が撃たれた事実を忘れさせそうなほどに俺を混乱させる。

しかし虎子さんはそんな俺のことをお構いなしと言った感じにその唇や舌ででやや強引に俺の口を開かせる、そして俺の口内に侵入してきたのは……

 

「がほっ!?」

 

虎子さんの紅色の舌ではなく、それはとても苦い液体だった。

それにまた俺は驚き、その液体を反射的に嚥下してしまう。

そして次の瞬間から訪れる猛烈な倦怠感、余りの気分の悪さに俺は膝をつき拳銃を落としてしまう。

 

「ぐっ……がっ……」

「効くでしょう? それ」

「何を……盛った?」

「山田先生にお注射したものと似たようなものよ」

 

つまり麻酔薬を口移しで飲まされたわけか。しかしおかしい、口移しで俺に麻酔薬を飲ませたという事は虎子さんの口内にも麻酔薬の成分が充満しているわけで、飲み込んでしまった俺よりは被害は少ないだろうが多少あの薬にやられていてもおかしくはないはずだ。

 

「まぁ、私もそれなりの訓錬を受けているからね」

 

俺の考えを読み取っていたかのように虎子さんが答える、しかしこの薬は訓錬でどうにかなるものだろうか。必死で意識を繋ぎ止めている俺に対し、虎子さんの顔は相変わらず涼しそうだ。一体どんな訓錬を受ければこの薬に耐える事が出来るのだろう。

 

そんな事を考えてる間にも俺の意識は闇に向かって一直線に進んでいく、そして視線の先では虎子さんが打鉄・改に触れようとしていた。

 

「ま、待て……」

「お休みなさい、藤木君。また、会いましょう」

 

その彼女の言葉と共に俺の意識は完全に闇へと堕ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「報告通りだけど確かに動かし辛いわね、これ」

「そんなポンコツのどこがいいのやら」

「あら、貴女にはこの機体の良さが解らないの?」

「全く解らん」

 

倒れている藤木君と山田先生を尻目に打鉄・改を装着する、装着が完了した直後この部屋にエムが入ってきた。

 

「打鉄・改のコンセプトは攻撃・防御・スピードの三つを高いレベルで両立する機体、つまり最強のISと言っても過言じゃないわ」

「その反面、PICは碌に効かず専用のテクニックを習得する必要がありそれを用いても旋回能力はゴミだがな」

「旋回能力がゴミなのは同意するけど、そんなものは使いこなせない人間の良い訳よ」

「その使いこなせない人間がここに居るわけだが」

 

エムが藤木君を蹴飛ばし、うつ伏せの状態で倒れていた藤木君が仰向けになる。目を閉じ眠っているその姿はなんだか可愛く思えるが、そんな彼を邪険に扱うエムにすこし苛立ちを覚える。

 

「やめなさいよ、彼は私の大切な人なんだから」

「その大切な人に薬を盛った人間がそれを言うか」

「仕方ないじゃない、残念ながら今は敵同士なんだから」

「今は?」

 

エムは私の言葉尻を捉え聞き返してくる、どうやら自分は藤木君に再会できた嬉しさで舞い上がっているようだ。まだこの話はエムにして良い話ではない、気を引き締めないと。

 

「なんでもないわ、それより陽動役のオータムも限界が近そうだしそろそろ迎えにいってあげましょう」

「……そうだな」

 

エムもサイレント・ゼフィルスを展開し部屋の天井にライフルを放つ、そこに大きな穴が開きこの部屋から秋空が見える。

私は藤木君が被っている王冠を剥ぎ取り、エムと共に部屋から脱出した。

 

「ところで、なんでわざわざ麻酔薬を口移しで飲ませたんだ?」

「あら、気になる男の子とキスしたいって思うは当然でしょう?」

「当然なのか?」

「お子様な貴女には解らないわよ」

「そうなのか……そうだ、ところでその王冠はなんなんだ?」

「ちょっとしたお土産よ。さぁ、行きましょう」

 

そうして私達はIS学園の空を飛翔する、目的地はすぐそこだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「またここか……」

 

いつもの保健室の天井、いつもの保健室のベッド、そしていつものようにそこに寝ている俺。

いつもと違うのは意識を失う直前の記憶が辛いものではなく甘いものだったというところか、実際に虎子さんからお見舞いされたのは苦い謎のおくすりだったわけだが。

 

「柔らかかったなぁ……」

 

虎子さんの唇の感触を思い出す、あれが俺の初めてのチュウである。

虎子さんは正真正銘のテロリストである亡国企業の一員だ、そしてそれは正義のオリ主である俺にとって敵であることを意味している。

しかし、そんな事はどうでもよくなってしまった。虎子さんの事を想うとなんだか胸の辺りが苦しくなる、もしかしてこれが恋というやつなんだろうか。

 

オリ主たる俺がこの世界に転生する際、神であるカズトさんから自分の頑張り次第だがバトルも彼女も思いのままの世界にに連れて行ってやると言われたことを思い出す。

しかし、その思い人が敵側に居るってのは中々ヘビーなお話だ。そしてバトルは正直やりすぎでお腹いっぱいだ、俺はこれからどうすればいいのだろう?

 

そんな思いがぐるぐると頭の中を駆け巡り、どんどん憂鬱になってくる。その時ベッドを仕切っているカーテンが開き一夏が顔を覗かせる。

 

「おっ、起きてるのか」

「……なんだ、一夏か」

「おいおい、なんだとはなんだよ?」

「ん? なんだとはなんだとはなんだ?」

「そう来るか……なんだとはなんだとはなんだとはなんだ?」

「なんだとはなんだとはなんだとはなんだとはなんだ!」

「なんだとはなんだとはなんだとはなんだとはなんだなんだ!」

「なんだとはなんだとはなんだとはなんだとはなんだなんだとはなんだとはなんだ!!」

「一つ多いぞ、俺の勝ちだな」

「マジでか、っていうかその様子だと元気そうだな」

「そうでもないんだけどねぇ……」

 

下らない勝負のせいで精神的疲労がどんどん溜まってくる、しかし悩んでみたところで事態が解決するでもなし。

 

「山田先生から色々聞いたよ。大変だっらしいな、お前も」

 

一夏が俺に語りかける、まぁ大変だったかと言われれば大変だった。

 

「まぁな。正直めっちゃ参ってる」

「お前があのハニトラさんに再会するなんてな……俺も話を聞いたときはびっくりしたよ」

 

ハニトラさんこと羽庭虎子、俺の初恋の相手にしてハニートラップかつペッティングまで済ませた仲であり初めての失恋の相手。そして失恋した俺はたっちゃんに八つ当たりしたり鈴に喧嘩売ったりとあの時期の思い出はあまり良いものではない。

しかし、裏を返せばそれだけ俺の心の中を占めている虎子さんの割合が中々大きいものだったという事だ。だが時間というものは残酷で、時を経るごとに俺の心の中を占める割合は減少していった。しかしその心の空洞はラウラとシャルロットの存在により埋められていった、というかほぼラウラによって埋められた。

だがそんな俺の前に再び現れた虎子さん、虎子さんの存在はほぼラウラによって埋められた心に入り込み一気にその存在を大きくしていく。これが今現在の俺の心模様である。

 

「なぁ一夏、話は変わるんだけどさ……」

「ん、どうした」

「お前、恋したことあるか?」

「……うーん、どうだろう。多分無いんじゃないかな?」

 

だそうだ、一夏に惚れている彼女らが少々可哀想だ。

そんな一夏と打って変わって俺はというと……

 

「俺、もしかしたら恋をしているかもしれない」

「マジでか!?」

 

ふと窓を見る、窓からは漆黒の夜空とそこに光る星々が見える。この空の下のどこかに虎子さんも居るのだろう。

そんなこんなで俺の波乱に満ちた学園祭の一日は終わりを迎えようとしていた。


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