インフィニット・ストラトス ~栄光のオリ主ロードを歩む~   作:たかしくん

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第58話 社内政治はスピード勝負

「はい、じゃあ説明始めるね」

「オッスお願いしまーす」

 

三津村重工本社ビルの小会議室、そこに俺は招かれていた。その部屋に居る人数は俺含めて四人、俺と楢崎さんとせっちゃんと不動さんである。

会議の議題は勿論来週に控えたキャノンボール・ファストについてである、しかしその話をするのもいいが俺に一つの疑問が浮かび上がった。ついさっきまで俺と一緒に居たとある人物についてである。

 

「いきなり話の腰を折るようで悪いんだけどシャルロットはどこへ行ったんですか?」

 

最近何かと話題に上る彼女は俺と同じ車に乗ってIS学園からここに来て、何時の間にやら行方を眩ましてしまった。キャノンボール・ファストにはどうせ彼女も一緒に出るのだから話はまとめて行った方が都合がいいはずだ。

 

「ああ、デュノアさんなら別の会議室で私達と同じような話をしてるんじゃないかしら?」

「同じ話なら一緒にすればいいのに」

「そういうわけにもいかない事情があるんだよねぇ……」

 

俺の疑問に不動さんが答える、その答えに俺が更に疑問を重ねると不動さんが遠い目をしてまた答える。

 

「事情って、何か変な事でも起こったんですか?」

「変な事が起こったと言うよりか、変な事は最初から起こってたってとこかしら?」

「話の内容が抽象的過ぎでまるで理解できないんですが」

 

次の俺の質問には楢崎さんが答えた、遠い目をしている不動さんとは対照的にこちらは心なしかうきうきしているように感じる。

 

「それもそうね、じゃ藤木君には今この三津村で起こっているとある騒動についてを親切丁寧に教えてあげましょう」

「で、一体何があるんです?」

「まぁ、実際に騒動が起こってるのは三津村じゃなくてMIEなんだけどね」

 

MIE、正式名称ミツムラ・インダストリー・ユーロ。確か昔シャルロットが所属していたデュノア社を三津村が買収して出来た会社で、現在のシャルロットはそこの開発部に籍を置いているはずだ。ちなみに俺が使っているヴァーミリオンも名目上はMIEが開発した事になっている。

 

「MIE? それと今回の事態に何の関係が?」

「現在MIEは藤木君のお父さんが率いる三津村派と、旧デュノア派で泥沼の社内抗争を繰り広げてる真っ最中なの」

「父さんが!? 一体なにやってんだよ」

 

俺の父さんこと藤木健二、現在MIEの幹部として単身赴任中なのは聞いてたけど中々つまらない仕事をしているようだ。

 

「社内の改革を進めたい私達とそれに抵抗するあちらさん達で色々揉めてるみたいね」

「揉めてるって言ったって、どうせデュノア派の意見も聞かずに強引に話を進めようとしてるんでしょ。社内の改革ってのもこっちが好き放題やるための口実にしか聞こえないな」

「まぁ、改革には痛みも必要なのよ。そもそもデュノア社を救った私達に感謝されこそすれ恨まれる謂れはないはずよ」

「そういう三津村的なところがあちらさんは気に食わないんじゃないですか」

 

俺が想う三津村のイメージとしては、歯向かう奴マネーと権力で粉砕するって感じだ。多分MIEではそれが通用しないのだろう、ヨーロッパでは労働者の権利が強いって聞くし多分三津村的社畜イズムはむこうさんでは受け入れられなさそうだ。

 

「で、ここにシャルロットが居ないって話の結論ですけど」

「デュノアさんはデュノア派の犬になったわ、三津村派の犬である藤木君とは今回敵同士ってわけよ」

「はぁ、まぁそんな所だろうと思ってました、派閥って大変ですね」

「多分デュノアさんも好き好んで向こう側についてるわけじゃないでしょうけどね」

 

MIEが分裂している今、シャルロットがデュノア派につくのは止むを得ないと思う。なんかかんだでシャルロットは旧デュノア社の社長令嬢であったわけだし、旧デュノア派とすれば格好の旗印だろう。俺も父さんが向こうで三津村派の幹部として働いている以上三津村派につくしかない、所詮俺もシャルロットも権力の犬というわけだ。

 

「結局の所面倒な社内政治の結果、一回で済む会議が別の場所で同時進行してるって事ですか」

「それだけじゃないのよね」

「それだけじゃない?」

「ええ、今回の社内抗争の決着はキャノンボール・ファストでつけることに決定したわ」

「……はぁ」

 

大人たちは一体何をしているのだろうか、勝手に喧嘩をしてその結果を無関係な俺とシャルロットに委ねると言う。巻き込まれた方は堪ったもんじゃない、ご主人様の傲慢さは今までも散々実感してきたが子供に代理戦争までやらせるほど腐っていたとは。そしてその腐っているご主人様の一部には俺の父さんも組み込まれている、今度母さんに電話して何かお仕置きをしてもらおう。

 

「一応聞いておきますけど、拒否権は?」

「この期に及んであると思ってるの?」

 

楢崎さんが微笑みながら言葉を返す。まぁ、普通に考えれば無いよな。

 

「さぁ、前置きも終わった事だし本題行きましょうか」

「本題って、なんなんすか?」

「キャノンボール・ファストに向けての新装備についてよ」

「新装備!?」

 

新装備という言葉に沈みきっていた俺のテンションも急上昇する、まぁ俺も男の子だしこの手の話に弱いのは致し方あるまい。

 

「へぇー、新装備か。ちょっとわくわくしてきましたよ」

「それは良かったわね。では水無瀬博士、説明をお願いします」

「ああ、いいだろう」

 

それまで会議室の隅で椅子に座っていたせっちゃんが立ち上がる、いつも纏っているお耽美な雰囲気は今日も健在だ。

 

「さて、まず新装備一つ目だな。まずはこれだ」

 

せっちゃんが手元のタブレットを操作すると会議室前方に据え付けられていたモニターに電源が入り、そこにとある画像が映し出される。

 

「これは、ヴァーミリオンの追加装甲ですか?」

 

画面に映し出されていたのはヴァーミリオンに黒い装甲がつけられているものだった。しかし変だ、キャノンアボール・ファストは妨害ありのレースであり、言うなればリアルマリ○カートである。妨害に対して装甲を用意するのはいいが、肝心のスピードはその装甲のお陰で機体重量が増え減ってしまうはずだ。しかも俺は男であり女より圧倒的に体重も重い、更にそれに機体重量の増加が加わるのならばかなり不利になってしまいそうだ。

 

「そうだな。名前はヴァーミリオン・プロジェクト一号機、アサルトドレスだ」

「ヴァーミリオン・プロジェクト? アサルトドレス?」

 

とりあえずヴァーミリオン・プロジェクトなるものは置いておいて、確かにドレスっぽいかと言われればそう見えなくも無い。そして、腰周りのスカート状の追加装甲や両肩に取り付けられている盾のようなものが打鉄のような雰囲気を醸し出している。

 

「まずはヴァーミリオン・プロジェクトについて説明しようか。でも面倒臭いので……不動、説明してやれ」

「うっす、じゃあ説明するね。ヴァーミリオン・プロジェクトとは平たく言えばヴァーミリオンの追加装備の開発をするためのものなんだけど、これは三津村やMIEだけが行うものではなくサードパーティーにも広く募集を掛けてるんだよ」

「サードパーティー、三津村系列以外の会社もですか」

「そう、そうやって他社にも開発の一部を請け負ってもらう事により業界全体でヴァーミリオンを盛り上げてもらおうって事なの。ぶっちゃけて言えばイグニッションプランを勝ち残る戦略の一つだね、そして装備の開発費の一部を三津村が負担する事で他社との結びつきを強くして三津村が業界の盟主の立場に立つってのも考えられてるみたい」

「はえー、すっごい。これって滅茶苦茶金掛かるんじゃないんですか?」

「うん、そのお陰で三津村の家計は火の車だよ! 君の新専用機とヴァーミリオンの開発やデュノア社の買収、それに今回のヴァーミリオン・プロジェクトで借金とかもの凄いことになってるみたい。まぁどれもこれもウチに藤木君がいるせいで起こったものだから、君は今経理の人間から貧乏神って呼ばれてるらしいよ」

 

おお、もう……

 

「ウチ、潰れませんよね?」

「大丈夫大丈夫。借金って言っても系列の銀行からだし、いざとなったらお国が助けてくれるよ。ウチが潰れたら世界恐慌待ったなしだからね!」

「そして始まる第三次世界大戦って訳ですか」

「そしたら地球はきっと終わりだね!」

「マジかよ……」

「というわけで地球の未来のために頑張ってね!」

「もうおうちかえりたい……」

 

俺から始まる世界恐慌&地球滅亡の未来、もう話が大きすぎで背負う気にもなれない。

 

「さて、とりあえず藤木君に地球の未来が託された所で解説を続けようか」

「そう言えばさっきの話ってアサルトドレスには一言も触れられてませんでしたもんね」

「というわけで説明始めるよ。このアサルトドレスはさっきも説明したとおりヴァーミリオン・プロジェクトの一号機で、三津村重工が開発したものだよ」

「サードの開発じゃないんですね」

「一応こっちも開発している姿勢を見せないといけないからね。まぁ、他にも同時進行でいくつか開発は進めてるんだけどこれが最初に開発が終わったから一号機ってわけ。ちなみに開発担当者は私だよ」

「不動さん開発って、なんだか嫌な予感がするんですけど気のせいですかね?」

「藤木君、君って私にいつも失礼な事言ってるけど私だってIS学園整備課を主席で卒業した超エリートなのを忘れてないかな?」

「その超エリート様が開発した打鉄・改の事を想うとそう思わずにはいられないんですが」

 

打鉄・改。不動さんが卒業制作に開発した攻撃・防御・スピードの三つを併せ持った機体はカタログスペックのみを追い求めた結果、操作性や安定性をどこかに置き忘れた機体で初心者にはまともに扱う事すら出来ないものだった。そして展開領域に詰め込まれた武装のほとんどはロマンしか追い求めていないものばかりで、産廃と言っても差し支えないものばかりだ。特にサタスペとかレインメーカーとか。

 

「そう、打鉄・改なんだよ!」

「打鉄・改? 何が打鉄・改なんですか?」

「このアサルトドレスは私の打鉄・改のエッセンスを多量に加えた装備なんだよ!」

「ああ、嫌な予感が当たってしまった……」

 

どうやらこのアサルトドレスは打鉄・改の類似品らしい、こんな装備で俺はこの先生きのこれるのだろうか。

 

「まぁ、君が不安になるのも解る。しかし安心したまえ、アサルトドレスには一応ボクも設計の段階から開発に加わってるし操作性についても致命的な欠点はみられないはずだ」

「……まぁせっちゃんがそう言うんなら大丈夫っぽいんでいいですけど」

「私、信用無いなぁ」

 

とりあえずアサルトドレスはロマン重視の産廃ではなさそうだ。せっちゃんは人間的には怪しいが仕事はちゃんとする人なのでとりあえず一安心である。

 

「はぁ、とりあえず説明続けるね。このアサルトドレスの一番の特徴は背面に装備されたスラスターポッドだよ、出力は打鉄・改程じゃないけどかなりのスピードが出るようになってるよ。ついでに肩にとスカートの中にも小型のスラスターが仕込まれてるからそれも併用すればキャノンボール・ファストに出てくる機体の中じゃ一番早く飛べるはずだよ」

 

モニターの中の画像が切り替わる、どうやらアサルトドレスの背面を映しているようでヴァーミリオンの背部にある板状の推進翼を挟み込むように二つの大きなブースターが据え付けられている。

解りやすくロボットアニメで説明すると、ウイングガンダムの羽にVF-25のスーパーパックが取り付けられているような感じだろうか。

 

「で、肝心の操作性は?」

「最大出力で吹かせばかなり落ちるね。まぁ、基本的な飛行は背部スラスターのみで行うように想定されているから通常の飛行に関してはそこまで問題はないと思うよ。機体重量増加のせいもあってそれなりに落ちるとは思うんだけどさ」

「打鉄・改ほどではないと」

「そういう事。キャノンボール・ファストのコースはゴール直前のストレートがかなり長く設定されてるから、そこまでは後ろの方で攻撃をやり過ごして最後のストレートで一気に抜き去るってのが理想かな?」

「確かに、先行逃げ切りはドンパチの対象ににりやすいから最後に追い込みを掛けるってのは理想かもしれませんね」

「それにホームストレート直前には180度のヘアピンカーブがあるからそこで差を詰められたらもっといいかもね。ということでアサルトドレスの説明は終了! 次は新武装の説明行くよ!」

「新武装! いいっすねぇ!」

 

俺のワクワク度はかつてないほどに有頂天だ、やっぱり男の子なら武器でしょ!

 

「ということで新武装は、コレ!」

 

モニターの画像が切り替わる、そこには長い銀色の三角錐に取っ手がついたものが映し出される。

ああ、また嫌な予感がががが……

 

「これ、どう見てもランスですよね?」

「うん!」

 

不動さんが元気よく答える。彼女的にはいい出来なのかもしれないが、彼女的にいい出来のものが俺的にいい出来だった事は一度もない。しかもランスであるというのなら俺の感じる不安もひとしおというものである。

 

「藤木、先程に続き不安のなのはよく解る。確かにこれは不動が一人で作り上げたものだし何か言いたい気持ちは本当によく解る、しかしこれは本当にいい出来だぞ。正直ボクも不動がここまでの物を作るとは思ってなかった」

「つまりせっちゃんのお墨付きだと」

「ああ、これには期待してくれてもいい」

 

まぁ、不動さんが三津村に入社して半年近く経つ。学生時代にはロマンしか追い求めていなかった彼女も社会に入って現実が見えてきたという事なのだろうか、となると俺も不動さんの事をもう少し信頼していいのかもしれない。

 

「ということで説明続けるね。この武装の名前はアンカーアンブレラ、武器って言っても攻撃力に関してはほぼ無いと思ってくれていいよ」

「つまり補助系の武装ってことですか?」

「うん、その通り。まぁこれも打鉄・改から着想を得た装備なんだけど」

「せっちゃんのお墨付きなんだから今回は余計な口は挟みませんよ」

「ありがと。そしてこれは大雑把に言うとレッドラインをもっと使いやすく改良したものなんだよね」

 

レッドライン、その武装について思い出す戦いと言えばやはりセシリアさんと戦った時の事だろう。この武装を使って俺はセシリアさんとの戦いを強制的に近接戦闘に持ち込み、近接戦の苦手だったセシリアさんを圧倒する事ができた。山田先生と戦った時もこれを使って近接用の武装を積んでない山田先生に対して有利な展開に持ち込めたのだが、あの時は実力の差で負けてしまった。

しかし、レッドラインの特徴といえば自分の機体と相手の機体を繋ぐ強靭なワイヤーである。あのワイヤーが切られたのはたった一度のみ、しかもそれ切ったのは今ISで最大の攻撃力を持つであろう一夏の零落白夜のみだというのだからその強靭さがよく解る。

 

「このアンカーアンブレラは先端の部分がこんな感じに開いてだね……」

 

モニターに次の画像が映し出される、三角錐の頂点から中ほどまでがクローのような形になる、ガンダムで例えるならブリッツガンダムみたいだ。

 

「それが飛ぶんですか? ガンダム的に考えて」

「正解、先端が強力なバネの力で射出されて敵機体を捕縛するって感じだね。そして取っ手の部分とはレッドラインで使ったワイヤーと同じもので繋がるようになってるよ」

「うーん、せっちゃんがお墨付きって言った割りにはパンチに欠ける気がするんですが」

 

仮にアンカーが敵に当たって一時的に捕縛できたとしよう、しかし捕縛している先端のクローは所詮薄い鉄板で出来た板である。そんな物はISのパワーの前では一瞬で破壊されてしまいそうな気がする。

 

「甘いね、アンカーアンブレラの本領はここからだよ」

「おっ、まだこれだけじゃないと」

「そういう事、このアンカー部分には三津村謹製最新式超強力瞬間接着剤がたっぷりと塗ってあるんだよ」

「瞬間接着剤、そういうのもあるのか。してその強度はいかほどに?」

「溶接したのとほぼ変わらない程度にはなるよ、ISが全力でやれば剥がれなくはないかな? まあ、剥がれたとしてもくっついた部分に相当なダメージが出るだろうね」

「つまり、戦闘中に簡単に剥がせるものではないと」

「レース中に剥がそうものなら最下位は免れないだろうね、剥がす事を諦めてもいいけどその場合は」

「でっかいアンカーとワイヤーに繋がれた取っ手をつけたまま飛ばなくちゃならないって訳ですか」

「さぞかし邪魔だろうねー、邪魔すぎてうまく飛べないかもしれないねー。でもそんなのはまだ序の口なんだよねー」

「へぇ、まだ何かあるんですか?」

 

受け答えする不動さんはにやにやと笑う。この接着剤の効果を考えてみる限り確かに色々よからぬ事が出来そうだ。

 

「あくまでさっきのはアンカーが当たった時の被害で一番軽いものだよ、でも現実はもっと酷い事になる。例えば接着剤が機体の間接部分に染み込んでしまったらどうなるかな?」

 

間接に染み込む強力接着剤、そしてその強度は溶接並み。もう結果は明らかだ。

 

「間接に染み込めばもうそこは動かないんでしょうね、そうなれば最悪戦闘不能もありえる」

「うん、その通り。戦闘不能まで追い込めなくてもまともに戦うことなんてもう出来ないよ、特にレースなんて出来る訳がない。スキンバリアーがあるから体には直接触れる事はないんだけど、スキンバリアーって結構いい加減で軽微な被害だったら簡単に通っちゃうんだよね」

「つまり体も固まる可能性もあるって事ですか」

「髪に付着したら戦闘終了後はそのまま美容院行きだね」

「うわー、えげつなーい」

 

今回戦う相手は一夏を除いて全員髪が長い、故によくくっつきそうだ。

 

「しかし、人間関係的にそれは諸刃の剣ですね。流石に強制散髪は嫌われそうだ」

「まぁ、これはあくまで一例だよ。私が思いつかないだけで他の用途もあるかもしれないから色々考えてみてよ。ということで今回の説明はこれで全部終了! 何か質問はあるかな?」

「今は思いつかないっすね、疑問とかが出てくればその時に聞きますよ」

「じゃぁ、今日の会議はこれで終わりっ! レース、頑張ってね!」

「シャルロットと協力プレイで楽して勝ちたかったんですけどね。まぁ、パパのためにも頑張りますよ。迷惑ばかり掛けてるからたまには親孝行しないといけませんしね」

 

こんな感じで俺の会議は終わった。俺の背中にはパパの出世や三津村の未来、果ては世界の平和とかいうとんでもないものまで背負わされてしまった。しかし、俺の夢はスーパーヒーローになる事だ。きっとこれも乗り越えなければならない壁なのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、紀春こっちだよ」

 

ビルのエントランスから抜け出すと黒塗りの車が一台停車していた、そして車の中にはヤクザ……確か瀬戸という護衛の人とシャルロットが乗っていた。多分このまま一緒にIS学園まで帰るのだろう、俺はシャルロットに招かれるままその車に乗り込んだ。

 

「お疲れ様」

「ああ、お疲れ」

 

俺が乗り込んだと同時に車は音もなく動き出す、この車にも結構な金が掛かっていることは簡単に予想できた。

 

「大変だな、お互い」

「……うん。まぁ、僕にだっていくらかしがらみがあるからね。紀春だってそうでしょう?」

「しがらみ程度で済めばよかったんだがな、地球の未来まで背負わされる羽目になるとは」

「ああ、ヴァーミリオン・プロジェクトの事?」

「日本が世界に誇る暗黒メガコーポもその内情は火の車だそうだ、不景気なのはどこも一緒ってことか」

「大きく考えすぎだよ、一人の力でこの会社を救うなんて出来る訳がないんだからさ。僕達は今自分が出来る事を精一杯やるだけだよ」

「そうだな、さしあたってはキャノンボール・ファストでシャルロットちゃんをフルボッコにすることかな」

「おっ、それに関しては譲れないよ」

 

俺の軽口でシャルロットが微笑む。

しかしこの娘さんが俺に好意を、か…… 確かに俺はシャルロットに嫌われてはいないとは思うのだが、だがなぁ……

 

今の自分には解決しなければならない事が多すぎる。虎子さんのこともそうだし、その同僚のちびっ子へのリベンジも終わってはいない。そして一番大きな問題はあの兎さんの事である。

 

出会い頭の印象が最悪すぎて奴に対してナーバスになっていたが、ここ最近その考えは大分薄れてきた。彼女に対する俺の感情も時が経ち少しずつ変化をしてきているのだ。

篠ノ之束、この世界にISをもたらし世界の在り方を変えた大天才。その世界最強の力を産み出した奴に俺はどう太刀打ちできると言うのだろうか、俺の力の源だって奴が作り上げてきたISだというのに。

はっきり言って今俺があの兎さんに勝てる要素が微塵もないのだ、臨海学校で出会った時俺は感情のまま奴に歯向かってみたものの奴から見ればとんだお笑い種だったであろう。そして未だに俺は奴の掌の上、未だ俺が奴に殺されていない事を考えるに見逃されているのだろう。俺の生命は奴の慈悲の心の上に成り立っていると思うと悔しい、しかし悔しいからといって何かが出来るわけでもない。

 

「…………」

「紀春?」

「……ああ、悪い。考え事してた」

「そう……」

 

シャルロットだって今俺が虎子さんの事で色々悩んでるのは知っているはずだ、しかし彼女はそれについて一切俺に何か聞こうとする事はなかった。多分彼女なりの優しさなんだと思う。

 

「何も、聞かないのか?」

「……うん」

「どうして?」

「だって僕、信じてるもん。紀春の事」

 

その言葉に心臓が大きく脈打ち痛いほどに締め付けられる、目に映る彼女の健気な笑顔が何より美しく思えた。

ああ、俺は何やってたんだ。

 

「……そうか、お前にも心配掛けてばっかだな」

「本当、紀春のそばにいると気苦労が絶えないよ」

「悪いな、俺結構駄目人間みたいでさ」

「そうだね、紀春は駄目人間だもんね」

「そこは否定してくれると嬉しかったなぁ……」

 

車の中に小さな笑いが起こる、なんだかいつもの感じに戻ってきた気がする。

 

「シャルロット、お前さえよければもう少し待っててほしいんだ」

「待つ? 何を?」

「その、俺とお前を取り巻く色々な……関係性というか、答えというか、そんな感じのをさ」

 

頑張った! 俺超頑張った! なんか答えを先延ばしにした感じは否めないけどこれが今の俺の全力だ。

 

「僕と紀春の関係性……って!?」

 

シャルロットも俺の意を正しく汲んでくれているようだ、真っ赤に染まった顔がそれを物語っている。

 

「色々片付けないといけない問題が多いからさ。それが終わったらちゃんと答えを出すから」

「う、うん……」

 

そしてシャルロットは俯いてしまった、時間が必要なのはどうやらお互い様のようだ。

 

「それにしても腹が減ったな」

「話題変更でいきなりそれ!? もうちょと格好つけてよ」

「だって朝飯から何も食べてないんだもん」

 

現在時刻は午後二時、会社で弁当の類は出なかった。

 

「瀬戸さん、ここら辺でうまい飯屋知りませんか?」

「この辺に、美味いラーメン屋の屋台が来てるらしいですよ」

「真昼間から屋台出てるんですか。まぁいいや、そこまでお願いします」

「えーっ、僕ラーメン屋の屋台よりおしゃれなレストランがいいなぁ」

「おしゃれなレストランなんて大抵不味いものしか置いてないので却下」

「それは偏見だよー!」

 

車は笑いに包まれながら一路、美味いラーメン屋の屋台を目指す。今の俺とシャルロットの関係性は多分こんな感じで良いんだろう。


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