インフィニット・ストラトス ~栄光のオリ主ロードを歩む~   作:たかしくん

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第60話 俺たちエンタメイト

轟音と思えるかの歓声が俺達の居るピットまで聞こえてくる、現在行われている二年生のレースは抜きつ抜かれつのデットヒートを繰り広げており誰が勝者になるのか未だ解らない。

そんな歓声の中、俺達はピットで待機していた。

 

「おお、盛り上がってるね」

「ああ、そうだな。それにしても、なんかごついな鈴のパッケージ」

「ふふん、いいでしょ。こいつの最高速度はセシリアにも引けをとらないわよ」

「まぁ、俺のパッケージの最高速度はその二歩先を行ってるんですがね」

「うっさい、精々スピードの出しすぎで壁に激突しないことね」

 

三津村自慢のアサルトドレスが漆黒の輝きを放つ、こいつも打鉄・改同様直線番長気味な所はあるけれど打鉄・改の操縦方法をマスターした俺にとってそれは大した問題ではなかった。そもそも操作性が段違いなのだ。

 

「そんな事より、なぁ?」

「なぁって何よ」

「鈴ちゃん、お前はなんて健気なんだ」

「健気?」

 

鈴が装備している高速機動パッケージ、『風』(フェン)は増設スラスターを四基積んでいるのだがそれ以上にめを引くのが大きく前面に突き出している胸部装甲だ。

 

「足りないおっぱいを装甲で補うなんて、そこまで思い詰めていたのか」

「はぁ!?」

「お兄ちゃんあんまり鈴ちゃんが不憫で涙がでてくらぁ、優勝は譲らないけど二位になるためなら多少のサポートはしてやるから頑張ろうな」

「誰がお兄ちゃんだ! そもそもあんたの助けなんてこっちから願い下げよ!」

 

一連のボケと突っ込みで場の空気が多少和む、試合前なんだから多少はリラックスしないとね。

 

「さて、鈴ちゃんのおっぱい問題は置いておくとして生粋のエンターテイナーである俺からお前達にありがたい言葉を贈ってやろう。というわけで心して聞くがいい」

「うわー、こいつ自分で自分の事エンターテイナーだとか言ってるわ」

「そこの中国、黙りたまえ」

「はいはい、黙ればいいんでしょう」

 

ピット内の視線が俺に集まる、しかし生粋のエンターテイナーオリ主たる俺はその程度の視線で緊張する訳がない。

 

「これから俺達が行うレースだが、それには世界中の人々が注目してる。一夏、何故だか解るか?」

「俺とお前が出るからだろう?」

「その通り、特にお前は今日初めて戦っている姿を世間様に晒すわけだ。クラス対抗戦やタッグトーナメントの時もそうだったかもしれないがアレは所詮関係者用の見世物だ、今回のとは規模がまるで違う。そして篠ノ之さん、それは君にも当てはまる」

「わ、私がか?」

「篠ノ之束の妹にして、最新のIS第四世代を賜った君にだって世界中が注目している」

「しかし、それは……」

「自分の実力で手にしたものじゃないってか? そんなの大衆には関係ないことだ。誰もが君に篠ノ之束の影を見出そうとするだろう、幾ら自分が否定しようともそんな事は観客達にはどうでもいいことだ」

「私に、道化を演じろと?」

「そうじゃない、とは言い切れないな。でも、そういうわけでもない」

「なんとも歯切れの悪い答えだ」

「まぁ、そこは俺のボキャブラリー不足が悪いって事で。とにかく、大衆ってのは時に暴力的だ。勝手に自分にそぐわないイメージを押し付けておいて、それから少しでも外れたような事をすれば一斉に叩きのめす。そこに俺達の意思なんてものはまるでない。お前達もそう思うところが無くはないだろ?」

 

俺は鈴、セシリアさん、シャルロット、ラウラに視線を移す。皆一様に真剣な眼差しを俺に返してきた。

 

「まぁそうね、あんたの言ってる事は解らなくもないわ」

「ですわね、代表候補生なんてものをやってますとそう思わずにはいられない事もありますわ」

「僕はそんなに露出が多いわけじゃないんだけど」

「悪いが私にはさっぱり解らんぞ、兄よ」

 

なんだかオチがついてしまった。まぁいい、この際ラウラの事は無視だ。

 

「とまぁ、ネガティブな事を言ってみたけど俺が真に言いたいのはそこじゃない。大衆は味方でいる限りはとてつもない力をくれるんだ、俺も色々あったから言えるんだが彼らの力はもの凄く大きい。彼らがくれる賞賛の声は凄く気持ちがいいぞ、慣れないうちは不快にしか感じられないけどな。でも俺はもう慣れた。今の俺には名前も知らぬ多くの応援してくれる人がいる、そう思うとすげえ頑張れるんだ、もっと賞賛を浴びたいって思えるんだ」

「それはあんたの性格的な問題じゃない?」

「いや、それはない。人っていうものは誰しもが大なり小なり自己顕示欲って物があるからな、誰だって褒められれば悪い気はしないだろ? 自分で言うのもなんだが俺はそれが大きいほうだと思うが」

「まぁ、紀春はそうだよね」

「そうだ、そしてそれは誰しもがそうなんだ。だからさ、世界中に俺達の活躍を魅せてやろう。観客が俺達を見ている、テレビカメラを通じて世界中の人が俺達を見ている。ハイビジョン放送で頭のてっぺんからつま先まで、果ては毛穴までな。だから恥ずかくない戦いにしよう、この戦いで世界中を魅了すれば俺達は明日からスーパースターになれるんだから。ということで、俺のありがたいお話は……終わりっ!」

 

ピット内が静寂へと戻る、その中で鈴が口を開いた。

 

「ふぅん、紀春の癖に少しはいい事言うじゃない」

「まぁ、俺は生粋のエンターテイナーだからな。この位の事は言えるさ」

「俺、別にスーパースターになりたいわけじゃないんだが」

 

中々いい感じの空気になったというのに一夏が水を差してきた、なんだこの水差し野郎は。まぁいい、一夏がそんな奴なのは承知している。

 

「駄目だ、他の奴は良いけど俺とお前だけはスーパースターにならなくちゃいけない。いや、それしか生きる道はないぞ」

「何でだ?」

「お前、この学園を卒業したらどうするつもりだ?」

「どうするつもりって……まだ考えてないけど、就職はしたいとは思ってる。千冬姉にこれ以上迷惑掛けるわけにはいかないし」

「なら益々道はないな、スーパースター以外だったら俺達に残されてる道はニートしかないし」

「ニートかよ、それは無いな。そもそも俺達の道がスーパースター以外無いってどういうことだよ?」

「俺達は世界で二人の男性IS操縦者だ、そんな奴が普通の会社に就職できると思ってるのか?」

「う、うーん……」

「はっきり言おう、絶対に無理だ。というか周囲がそれを許してくれるはずがない、俺達が金を稼ぐにはもう見世物になる以外に方法がないんだよ」

「うわぁ、マジかよ……」

「今度かっこいいサインの書き方をレクチャーしてやるから頑張れ。あっ、山田先生だ。せんせー、そろそろ時間ですか?」

「はい、準備はいいですかー? スタートポイントまで移動しますよ~」

 

山田先生ののんびりとした声が響く。ついに俺達の晴れ舞台が始まろうとしているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スタート位置へと俺達が現れるとさっき聞いたものよりより大きな歓声が俺達を迎えてくれる、俺は観衆に爽やかな笑顔を返し手を上げて答えた。それに答えるかのように黄色い歓声が俺へと返ってきて観客のボルテージは最高潮に達する。どんなもんだい、俺だってこの位の人気はあるんだ。

 

「一夏、手ぐらい振ってやれ。ファンサービスだ」

「俺にファンなんて居るのか?」

「居るに決まってんだろ。ほら、客が待ってるぞ」

「あ、ああ……」

 

一夏がぎこちない笑顔で観客に向け恐る恐る手を振る、そうすると観客達は俺に送ったものと勝るとも劣らない位の歓声を上げだ。

 

「お、おお。これが俺の人気ってやつか」

「スーパースターの領域に足を踏み入れた気分はどうだ?」

「なんだかむず痒いというか怖いというか……」

「いずれそれも快感になる、今のうちに慣れておけよ」

「慣れるのかなぁ、これ」

 

一夏はこの歓声に些か緊張気味のようだ、しかしこれもあいつが乗り越えなければいけない障害だ。

 

『それではみなさん、一年生専用機持ち組のレースを開催します!』

 

大きなアナウンスが響く、俺は自分に設定されたスタートラインに着地する。

このキャノンボール・ファスト、他のレースと同じようにスタート位置が各員バラバラだ。言うなればマ○オカートと同じである。

スタートの位置はジャンケンで決められ、俺の位置は最後尾である。とはいえジャンケンで負けたから最後尾というわけではない。俺はジャンケンで最初に勝ち抜け、あえて最後尾を選んだのだ。

スタート位置は前からセシリアさん、篠ノ之さん、一夏、シャルロット、ラウラ、鈴という順番で最後に俺という具合だ。

 

「さて、皆の衆。魅せてやろうぜ」

「なんであんたが仕切るのよ」

「俺って、絶大なカリスマ性があるじゃん?」

「あるのか?」

「ありませんわね」

「わ、私はあると思うぞ。兄よ」

「ううっ、ラウラの優しさが今は痛い……」

「はい、おしゃべりはここまで。レースが始まるよ」

 

俺達の会話がシャルロットにより遮られる。さて、俺も集中集中っと……

 

観客が固唾を飲んで俺達を見守る、そんな中シグナルランプが点灯する。各々がスラスターに火を入れている中俺はただ一人、棒立ちでスタートラインに立っている。

これでいいんだ、勝利への策略はもう始まっている。

 

『3……2……1……ゴー!』

 

アナウンスと共に一斉に飛び出す六機のIS、そしてもう何を言っているのかすら解らない観客の大歓声。そしてスタートラインにただ一人残された俺。

観客が不安そうな声を口々に上げる中、俺は両足を大きく開いて片手を地面につきスタート体制を整える。

 

「さて、ここからが俺のスタートだ」

 

そしてアサルトドレスの背面スラスターに火を入れ、俺は他の六人より大きく遅れてスタートラインから飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先頭集団というか俺以外は過激なデットヒートを繰り広げその様相はまさに一進一退だ、抜きつ抜かれつの白熱したレース展開にきっと観客も大満足だろう。

 

「紀春っ! さっきまで随分大きな口叩いてたけど随分情けない展開になってるじゃない」

 

鈴から通信が入ってくる。安い挑発だ、しかしその手度で俺の心を揺さぶろうとは俺も舐められたものだ。

 

「これでいいんだよ、最終的には華麗な大逆転を見せてやるからそれまで前座は任せたぞ」

「なっ、生意気なっ」

「それにしてもここからの眺めは最高ナリな、お前らのケツが丸見えで中々楽しいぞ」

「なっ!?」

 

今度は俺が挑発を返す、そしてそれに大きく反応したのが三人程。篠ノ之さんとセシリアさんと鈴だ。

 

「今はレース中だぞ! どこ見てる!?」

「前、そして結果的にお前らのケツ」

「紀春さん! 真面目にやってくださいっ!」

「いやいや、俺は真面目だぞ。現に俺の挑発にお前らが引っかかってくれた」

「えっ? どういう……」

「今だ! 一夏にシャルロットにラウラ! 敵が隙だらけだぞ!」

 

挑発に乗ってしまった三人は俺にかまけて隙だらけだ、そして残りの三人がそれぞれに攻撃を仕掛け大きくコースアウトする。

 

「やーい、ばーかばーか」

 

三人を抜き去る瞬間にトドメの一言、もうあいつらはお顔を真っ赤にしているだろう。

 

「ゆ、許さん……」

「絶対に紀春さんだけは倒してみせますわ……」

「あ、あいつ……」

 

後ろから嵐のような砲火が襲ってるが、怒りのあまり狙いが甘い。そしてその程度では俺を捉える事など夢のまた夢だ。

 

「紀春、やる事が一々汚いよ……」

「でもこれで見た目は派手になった、きっと観客も大喜びだぜ」

「こんな時までお客さんの事考えなくてもいいでしょ」

「あー辛いわー、みんなエンターテイメントのなんたるかを解ってなくて辛いわー。お陰で俺だけ集中砲火だわー」

「余裕だね……」

「己のピンチを演出し、鮮やかな反撃を持って観客のカタルシスを掴む。俺の尊敬するエンターテイナーの言葉だ。さて、お次はお前らに反撃させてもらうぞ」

「えっ、どうやって……」

「今回はシンプルに、こうだっ!」

 

レースももう終盤に差し掛かっている、そしてもうすぐ最後の大逆転ポイントのホームストレート前のヘアピンカーブが待っている。俺はそこへ向けてアサルトドレスの全推力を開放した。そして俺は肩やスカートからも火を噴きながら一気に先頭集団を抜き去る。

 

「紀春っ、もうすぐヘアピンカーブだ! スピードを落とさないと壁に撃突するぞ!」

「ああ、そうだな。そしてきっと観客もそう思ってるだろうな」

「まだそんな事考えてるのかよ!」

「さっきも言ったろ。己のピンチを演出し、鮮やかな反撃を持って観客のカタルシスを掴むって。きっと観客達は俺の悲惨なクラッシュ現場を想像して肝を冷やしてるに違いない、でも残念ながらそうはいかない。今から奇跡の大逆転を見せてやろう」

「いい加減にしろ! どうやってこの状況を切り抜けるつもりだ!?」

「見てな、こうやるんだよ」

 

アサルトドレスを纏う俺は展開領域からアンカーアンブレラを展開、それを左手に持つ。そして俺はついにカーブへと侵入、それと同時にヘアピン内径の頂点に位置する壁にアンカーを射出した。

壁に刺さったアンカーは張り詰めたレッドラインで俺と繋がれ、強烈な遠心力が俺を襲う。しかし持ち手を放してはいけない、放せばクラッシュは確実だ。

 

「うぉおおおおおおっ! いっけええええええっ!」

 

俺はレッドラインに繋がれたまま高速でヘアピンカーブを曲がる。腕が千切れそうなくらい痛い、しかしここが見せ場だ。観客達の期待に答えるためならこんな痛みなど屁でもない!

 

長いようで短いカーブを一気に駆け抜け、そして俺はカーブから抜け出す。やった、俺はついにやったのだ。

 

「成し遂げたぜ! どうだ、これが俺の逆転劇だ!」

「まさか、あんな方法で……」

「強引過ぎるにも程があるぞ」

「流石だ、兄!」

「では諸君、先にゴールで待ってるぜ! 前座を盛り上げてくれてありがとう!」

 

目の前には俺を祝福するかのようにすら見える真っ直ぐな道。俺の前にも後ろにも誰も居ない、そしてこの花道を誰よりも速く駆け抜けていく。

 

「みんな、応援ありがとう!」

 

ホームストレートに位置する観客席からは凄まじい歓声が響く、そしてそれに手を振る余裕すら見せる俺。今俺は完全にスーパースターと化している、そして何時しか歓声は藤木コールへと変わっていった。

 

「ん? あれは……」

 

そんな時、突如上空から飛来する物体。それは俺に向かって何かを放ってくる。

 

「やべっ、避け……」

 

避けられない。上空から飛来する物体から放たれたビームが俺に直撃する、俺は機体のコントロールを失い地面に撃突、数度バウンドしながらやっと停止する。

 

「の、紀春っ!」

「っ、痛ってええ!」

「あれは……サイレント・ゼフィルス!!」

 

誰かが叫ぶ、痛みを堪えながら空を見ると約一ヶ月前にドイツで見た蝶が空を舞っていた。

 

「…………」

「ほう、中々ビッグなゲストの登場じゃないか」

 

襲撃者がにやりと笑う、俺もそれにつられて笑ってみせる。どうやらキャノンボール・ファストは延長戦に突入するらしい。ならば決めてやろうじゃないか、特大のサヨナラホームランを。


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