インフィニット・ストラトス ~栄光のオリ主ロードを歩む~   作:たかしくん

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第62話 Sweet Shock Lazer

キャノンボール・ファスト会場上空、そこに二つの光が尾を引きながらうねる。それは時折くっついたり離れたりしながらそのスピードを増していく。そしてその光の正体とは俺と虎子さんである。

 

「くそっ、なんて腕だ」

「これが打鉄・改の真価よ、藤木君はこの子を活かしきれなかったようだけど」

 

苦し紛れに撃ちまくるガルムの弾丸は虎子さんに掠りもしない、仮に俺が打鉄・改の操者ならこの攻撃を避けきる事なんて出来ないだろう。それが俺と虎子さんのスキルの差だとでも言うのか。

 

俺のヴァーミリオン・アサルトドレスと虎子さんの打鉄・改、その性能ははほぼ同じ、むしろ操作性と安定性は俺の方が勝っている。そして武装に関してもほぼ同じだ。違いは俺が突突を捨てた代わりにガルムとアンカーアンブレラを手にしている位か。

 

そんな中俺達の進行方向にビルが現れる、俺達は右に、虎子さんは左に距離を離しそのビルを左右に避けた。

このビルを抜ければ仕切り直しだ、俺は得物をガルムからヒロイズムにチェンジする。

 

「そこだっ!」

 

ビルの横をすり抜け、左に向かって射撃体勢を取る。しかしそこに虎子さんの姿はなかった。

 

「……どこだ?」

 

ご丁寧にレーダーにジャミングが掛けられており、俺としては虎子さんを目視で探すしかない。俺はビルを背に全ての方向に意識を張り巡らせる、打鉄・改の武装ならば遠距離の狙撃というのはないはずだ。

背中のビルは全面ガラス張りでそこから反射する太陽が俺の集中を乱そうとする、この状況が長く続かない続かない事を祈るばかりだ。

 

次の瞬間、俺の後ろのガラスが盛大に割れ、そこから虎子さんが飛び出してくる。しかも突突装備のだ。

振り向きざまにヒロイズムを発射するがそれは盾で防がれ、突突の先端が俺の胸に直撃しそのまま俺は地面まで吹っ飛んだ。

 

「くっ、完璧に予想外だった」

「ひっ、ひええ……」

「ん?」

 

後ろを振り向くと、そこには驚いたような顔をしているおっさんとその息子らしき小さな男の子。まだこんな所に人がいるとは、避難誘導の奴らは何をやってるんだ!

 

「に、逃げろ」

 

痛む頭を抑えおっさんに向かって言う、今でも虎子さん相手に不利な状態が続いているのにこの人たちを守りながら戦うなんて出来る訳がない。

 

「に、逃げるって言ったってどこに……」

「そんなの知るか。って、来やがった!」

「来た?」

 

そんな中、虎子さんはお構いなしに俺に向かって飛び込んでくる。俺は突突を抱え込むようにしてそれを受け止めた。

 

「ぐぅうううっ!」

「随分余裕そうね。でもお喋りしている暇はないわよ」

「ひぃっ、ひいいいいいいいいっ!」

「兎に角逃げろ! あんただって人の親だろうが! だったら自分の子供くらい守ってみせろよ!」

 

俺がおっさんに向かって一喝する、するとおっさんは頷き男の子を抱えてどこかへ向かって走り出した。

おっさんの明日はどっちだ。まぁ、俺には考えてる暇なんてないので精々無事おっさんの無事を祈る事にしよう。

さて、反撃の時間だ。

 

「うぉおおおおおおおっ!」

「な、なにっ」

 

突突を抱える腕に力を込める、そうすると虎子さんが段々と浮き上がってきた。

 

「どっせい!」

 

抱え込んだ突突を振り回しビルの壁に叩きつけ手を放す、虎子さんはそのままビルの中へ吹っ飛んだ。

そこにすかさずガルムとヒロイズムを両手に再展開、ありったけの弾丸をそこへ向けて放つ。

しばらく撃ち続けると俺の目の前は硝煙や瓦礫から出てきた埃でほとんど何も見えなくなった。

 

「やったか。って、そんなわけないよな」

 

視界の悪いここで虎子さんを待つのは不利だ、俺は再度上空へと飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が上空に出てきて数秒後、虎子さんも俺の元へとやってきた。

 

「ダメージは、無いか」

「ええ、頼りがいのある盾があるから」

 

打鉄・改の大盾は俺の持っていた武装の中でも命を何度も救ってくれた影の功労者だ、これが無かったら俺は何度死んでいたか解らない。

味方だった時は頼りがいがあったがやはり敵にすると恐ろしい、だとすればどうにかしてあの盾を取り払う方法を考えなくては。

 

「…………」

「…………」

 

左手に霧雨を展開する、射撃武装はもう弾切れになってしまったのでもう俺の武器はこれしかない。アンカーアンブレラのスペアがあるにはあるがアレは切り札だ、今はまだ使いどころじゃないはず。霧雨を二刀流で使うというのも考えたが、やりなれてない二刀流なんて事故の素だ。

そして、虎子さんも俺と同じように霧雨を構える。

 

接近戦において重要な事、それはタイミングだと以前授業で習った。俺はそのタイミングを計っている、そしてきっと虎子さんも同様のはず。ここが正念場だ、盾がある分虎子さんが優位だがなんとかして優勢に事を進めないと敗北は必至だ。

 

そして次の瞬間、虎子さんが仕掛けてきた。

 

「ふっ!」

「ぐっ!」

 

霧雨が交錯しまたしても火花と紫電が飛び散る、続けざまに虎子さんはシールドチャージを仕掛けるがそれを俺は前蹴りで阻止。俺達の間にほんの少しの距離が生まれる。

そこへ俺が霧雨を振り下ろす。が、今度はそれを虎子さんが盾で防ぐ。ここにカウンターをもらえばひとたまりもない、俺は慌てて霧雨を引くがそこに袈裟切りが襲い掛かる!

 

「させるかよっ!」

「ちぃっ!」

 

右手にもう一本の霧雨を展開し、その袈裟切りを弾き飛ばす。お返しとばかりに今度は盾の尖がった部分で突きを放つ虎子さん、俺はそれに対して猛然と突っ込み虎子さんと密着する。

 

「もろたで!」

「なっ!」

 

霧雨を握ったままの右腕で強烈なボディーを三連打、さすがこれに堪りかねたのか虎子さんが距離を取る。来た、俺が望んでいた局面だ。

 

「こいつを、食らえっ!」

 

展開領域に霧雨を仕舞うと同時にアンカーアンブレラを展開し、すぐさま射出。それが盾を捉える。

 

「残念だったわね」

「いや、これでいいんだ!」

 

虎子さんの盾と俺のアンカーはもう完全にくっついている、俺は取っ手を握り締めアサルトドレスの全推力を開放した。

 

「くっ、ぐぅううううっ!」

「どうだ、腕が痛いんなら放してもいいんだぜ」

 

盾とアンカーが繋がれ俺と虎子さんが綱引きのような状態になる、腕が引っ張られすぎて痛みが走るがそれは虎子さんとて同じ事。だとすれば男の子の意地として負けるわけにはいかない。

 

「も、もう駄目……って、髪がっ!」

 

接着剤の一部が虎子さんの髪に付着したようで、その長い黒髪も盾と一緒に引っ張られる。敵ながら申し訳ない事をしたと思う、髪は女の命らしいから流石にちょっと気が引ける。

 

「切り札、頂いたっ! って、うわあああああああっ!」

 

虎子さんは数十秒粘ったがついに盾を手放す、それと同時に手持ちのナイフで自分の髪を切り裂いた。という事はアサルトドレスの推力がいきなり戻ってくるという事で俺はアンカーを掴んだまま吹っ飛んでいく。

 

「と、止めっ……」

 

車と同じようにISも急には止まれない、推力の大きいこのアサルトドレスなら尚更だ。そして俺の体は地面までもう少し、このまま落ちれば気絶はほぼ確実だ。

どうにかしないといけないが…… あ、あれは……

 

俺が今向かっている場所、その先には仲間たちがちびっ子と戦っている戦場のど真ん中だ。そして幸運な事に丁度俺の進路上にラウラが居る。

 

「ラウラ! 俺を止めてくれ!」

「兄っ!? わ、わかった!」

 

間一髪、ラウラに激突する寸前に俺はAICに絡め取られ動きが封じられる。

 

「あ、危なかった……」

「すまんがこっちも危ない、放すぞ!」 

「悪い、助かった! そしてシャルロット! 武器貸してくれ、出来れば銃で!」

 

虎子さんの盾を取り払った今、状況は俺に有利になってきたはずだ。ここに射撃武器があればなお心強い、でも俺はもう全部使ってしまったのでシャルロットを頼ろうというわけである。彼女の武器の量はISの中でもかなり多いのでまだ使える武装が残っているはずだ。

 

「だったら、これでっ!」

 

シャルロットが銃を投げてくる。おお、この銃は俺も一度使った事のある銃だ。

 

「レイン・オブ・サタデイか、いいセンスしている。ありがたく使わせてもらう」

「うん、頑張って!」

「おうよ! さて、仕上げに……一夏!」

「お、俺もか!?」

 

こいつらからすれば強敵と戦闘中で忙しいのに次々と呼びつけてくる俺はさぞ厄介な存在だろう、しかし俺とて必死なのだ。

 

「これ切って!」

「その、ワイヤーをか?」

「あくしろよ、お互い忙しいんだから!」

「お、おう……」

 

盾にくっついているアンカーの根元には昔よくお世話になったレッドライン、これを切れたのは唯一一夏の零落白夜だけだ。

 

「よし、切れたぞ」

「ふっ、これで俺は無敵だな。じゃあ、行ってくる」

「ああ、気をつけろよ」

「お互いにな」

 

俺は再度虎子さんの下へと飛ぶ。右手にはシャルロットに貸してもらった銃を、左手には一夏によって再度使えるようになった盾を持つ。

仲間によってもたらされた新たなる力、展開的に考えてもう俺は無敵だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「仕切り直しだああああああああっ!」

 

虎子さんの下へ真っ直ぐ一直線に飛びながら、レイン・オブ・サタデイを撃つ。しかしそれはいとも簡単に回避された。

 

「くっ、盾が……」

「俺以前打鉄・改を操縦してたからよーく知ってんだぜ、その機体は盾を失うと途端に頼りなくなるってなぁ!」

 

いくら虎子さんのスキルが高いとはいえ、機動がゴミな以上どうしても被弾率は高くなる。それをカバーするために盾を装備しているわけだが、それを失った今虎子さんはかなり不利な状況に追い込まれているはずだ。

そしてシャルロットから借りたレイン・オブ・サタデイはショットガンだ、連射は出来ないがある程度の範囲攻撃が可能でありこの状況ではとても便利だ。シャルロットがこの状況を見越してこの銃をくれたのならそれはとてもありがたい、今度何かプレゼントでもしてみよう。

そしてなによりこの盾。俺の命を何度も救ってくれた真の相棒、これさえあれば百人力だ。

 

「どしたどしたあああっ! 攻撃しないと俺を倒せないぞ!」

 

俺からの射撃を紙一重でかわし続けるものの、虎子さんは回避に精一杯なようで俺に攻撃してくるような素振りを見せない。よし、今が攻め時だ。このまま押し切って虎子さんを倒してしまおう。

 

調子に乗った俺はレイン・オブ・サタデイを撃ちまくる、そしてついに虎子さんの集中が乱れだしたのか散弾の一部が虎子さんに当たるようになってきた。

 

「よし、いけるっ!」

「ふふふっ、散弾が少し当たった位で随分強気じゃない。でもその位じゃ全然痛くないわよ!」

「はっ! 安い挑発だな。でもいいだろう、その挑発乗ってやる!」

 

俺は再度レイン・オブ・サタデイを撃ちまくる、虎子さんは直撃こそ避け続けるもののやはり少しずつダメージを負っていく。いい感じだ、このまま行けば俺の勝ちは揺ぎ無いものになる。

そしていくらかの攻防が終わった後、逃げ続けていた虎子さんが急停止する。

 

「どうした、降参か?」

「いえ、ちょっとした賭けをしようと思ってね」

「賭け?」

 

虎子さんが右手に霧雨を展開し俺と真正面に向き合う。おいおい、これじゃ撃ってくれって言ってるようなものじゃないか。

もちろん照準は外さない、というか真正面に立っているので外しようがない。

 

「さて、いくわよ」

 

虎子さんは弓を引くように体を捻る、この体勢から繰り出される攻撃なんて突きくらいしかない。そしてそれを繰り出したが最後、そうなれば俺のカウンターの射撃ををお見舞いされるだけだ。そうなれば虎子さんの負けは確実だろう。

 

「おいおい、自棄になるなって。幾らなんでもそんな終わり方俺は望んじゃいないぞ」

 

ここまで鎬を削ってきたんだ、たとえ虎子さんが倒すべきテロリストとはいえ自滅で終わられたんじゃ悲しすぎる。

とはいえ、虎子さんがこのまま向かって来るのなら仕方ない。甚だ不本意ではあるがこれで終わらせてしまおう。

 

「はあっ!」

 

予想通り虎子さんは真っ直ぐと俺へと向かってくる、そのスピードは今まで一番速いような感じもするが俺が反応出来ない程じゃない。右ストレートでぶっ飛ばす、真っ直ぐ行ってぶっ飛ばす。的な展開も考慮していたのだがそれもないようだ。

ああ、物悲しい。最後がこんな情けない展開で終わるとは。虎子さん、恨むぜ。

俺は失意のままにレイン・オブ・サタデイのトリガーに力を込める、これでゲームエンドだ。

 

『カチッ』

 

そんな音がした。

 

「え?」

「貰ったっ!」

「がはあっ!!」

 

霧雨が俺の鳩尾に突き刺さる、その衝撃で俺の意識さえ一瞬白く染まる。そしてその一瞬の隙は虎子さんには充分な時間だったようで続けざまに右から首筋を狙った一撃が叩き込まれる、その勢いで体が左に傾く、そしてその左から打鉄・改のぶっとい足が迫る。俺が意識を取り戻した瞬間、目の前の足が俺の顔面へと直撃し、俺の体は力を失い地面へと落下した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「がっ、がはっ……ごほっ」

 

蜘蛛の巣を張ったように網目状にひび割れるコンクリートの上、俺はもう動けなくなっていた。

しかし奇跡だ、アレほどまでな強烈な攻撃を受けていながら意識を失っていないとは。

 

虎子さんが突っ込んできた時、俺は確かにレイン・オブ・サタデイのトリガーを引いた。しかし、その時弾は出なかった。考えられる要因はただ一つ。

 

「弾切れ……」

「そう、その通り」

 

少し離れたところで浮いている虎子さんが俺の答えに返答する。情けない、自分がちょっと有利になった位で弾切れに気付かなくなってしまうほど浮かれてしまうとは。

まぁ、それはいい。いや良くないけどとりあえず置いておく。となると一つ疑問が浮かんでくる。

 

「どうやって、レイン・オブ・サタデイの弾切れを知った?」

「ああ、それ? 数えたのよ」

「数えた!?」

「ええ、キャノンボール・ファストが始まってから誰がどの武器を何発撃ったのかを全部ね」

「う、嘘だろ……」

「所詮人間のやる事だから数え間違いがあるかも知れないけどね」

 

いや、幾らなんでも無理がある。多少の数え間違いがあるとはいえ撃たれた弾丸を全て数えるなんて狂気の沙汰にしか思えない。それに、だ。

 

「俺と戦ってる最中も数えてたっていうのかよ?」

「当然じゃない、戦場の全てを把握しておかないと正しい戦略が練れないでしょ?」

「なんつう目をしてやがる」

「目じゃないわよ、音。銃撃の発射音を聞き分けるの」

 

どっちにしろこの人はおかしい、そして今みんなが戦っているちびっ子より虎むしろ子さんの方が恐ろしい敵なのかもしれない。

 

「あっ、この音は…… へぇ、オルコットさんも中々無茶をするわね」

「まだ数えてんのかよ」

「どうやらビットから射撃をしたみたい、確か撃てないはずなんだけど一体どうやって撃ったのかしら?」

「知るか……」

 

網目状に割れたコンクリートの溝が赤く染まっていく、血液と共に命が流れ出しているような感覚を覚える。

 

「藤木君、死んじゃ駄目よ。貴方にはもっと強くなってもらわないといけないんだから」

「……なんだよ、それ」

「言ったでしょう、私には貴方が必要だって」

「虎子さんに靡く気はないって言ったよな」

「ええ、それでも貴方が必要なの。藤木君、もっと強くなって頂戴。私なんか簡単に倒せるくらいに」

「……何が目的だ」

「秘密、でも時期が来れば自ずと知る事になるはずよ。あっ、そろそろ私帰らなくちゃいけないから帰るね」

 

その言葉と共に、虎子さんが飛び立つ。動かない体から涙が溢れ、咄嗟に俺は顔を手で覆う。

ヴァーミリオンの冷たい両手が火照った顔を冷やすが、それでもなお俺の瞳からは熱いものが流れ続けていた。

 

「なんなんだよ、もう……」

 

訳が解らない戦いに、訳の解わからない虎子さんの言葉。

何もかもが解らないが、それらは俺の心に強烈な悔しさを刻んでいった。


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