インフィニット・ストラトス ~栄光のオリ主ロードを歩む~   作:たかしくん

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第64話 ヨスガの妹

「がはぁっ!」

 

渾身の蹴りが脇腹にクリーンヒットし、俺の体はくの字に曲がる。だがしかし終わっちゃいない。

俺は矢継ぎ早に放たれる拳をいなし、放たれた右ストレートの手首を左手で取る。そしてそこからカウンターの掌底を相手の顔面に打ち込んだ。

 

「いよっし!」

「まだまだっ!」

 

俺の攻撃後に出来た一瞬の隙を相手は見逃さず、俺が取っていた左手首が逆に取り返され俺はそのまま投げ飛ばされる。

 

「かはっ……」

「はい、私の勝ちね」

 

見上げるととこにはIS学園生徒会長更識楯無ことたっちゃんの姿があった、そして彼女こそが俺が先程まで戦っていた相手である。

 

「はぁ、また負けた……」

「でも中々良かったわよ、最後のカウンターの掌底とかうまく決まったじゃない」

「でもまだまだ本気じゃないんだろ?」

「勿論! まだ私の本気の七割しか出してないわ」

「本気を出させる事が出来るのはいつになることやら……」

「案外近いと思うわよ、だって私のノリ君のフィジカルの差は圧倒的なんだもの」

「……そうなんだよなぁ、フィジカルじゃ圧倒的に勝ってるんだよな」

 

つまり、その差をテクニックで埋められているわけなのだ。俺とたっちゃん、その基礎体力では圧倒的に俺が勝っている。俺は彼女より足が速いし、より長く走り続ける事が出来る、そしてより重いウエイトを挙げられることも出来る。まぁ、これが男女の差ってやつだ。しかし、それでも俺とたっちゃんが戦うとこういう結果になってしまうのである。

 

「まぁまぁ、落ち込まないで。五割の力で戦ったらもう私勝てないから」

「でもこれ所詮生身の戦いでなんだよなぁ」

 

そう、今俺達はIS学園のアリーナではなく武道場に居る。そして今まで繰り広げられてきた戦いは全部生身で行ったものだ。多分、ISを装備されたら五割の力のたっちゃんにまだ敵わないだろう。

 

「うーん、ISだったら二割くらいの私になら勝てると思うわよ」

 

中々辛辣な事を言ってくれる、つまり俺とたっちゃんの戦力比は1:5である。どんな奇跡が起こればこれに勝てるっていうんだ。

 

「じゃ、これで終わりね」

「ありがと、色々勉強になった」

 

虎子さんとの一件が終わってから数日、俺とたっちゃんは連日修行を繰り返してきた。しかし今日からそれは一旦打ち切りとなる。

 

「そういえばタッグマッチどうするの? ノリ君的にラウラちゃんかシャルロットちゃん?」

 

全学年専用機持ちタッグマッチ。キャノンボール・ファストの翌日、たっちゃんがぶちあげたイベントである。お題目は色々あると思うのだが多分この人が楽しみたいからやっているだけなのだろう。あと、簪ちゃんとの関係改善。どうやら一夏がそのために色々動いているらしいが俺には関係ない話だ。

 

「ああ、それなんだが俺パス」

「ええっ、ちょっとそれ困るんだけど」

「むしろ喜ばれると思ってたんだが。どうせこのタッグマッチで簪ちゃんを専用機持ちとしてデビューさせる目算なんだろ、そうすればこの学園の専用機持ちは奇数になる。そしたら余る人が出るだろうが、そして可哀想だろうが」

 

確か三年に一人と、二年にはたっちゃんとバトルロイヤルに出てたやたらと語尾にッスをつけてた人、そして一年には簪ちゃんを含めて計八人。というかこう見ると本当に一年生の専用機持ちが多い。

 

「あっ、完全に忘れてた」

「体育の授業で二人組み作ってって言われて結局余って先生と組まされる人の気持ちも少しは考えたげてよぉ」

「ご、ごめん。で、ノリ君がそのぼっち役を買って出てくれると」

「いや、俺当分学校休むから。緊急の仕事の依頼が舞い込んできてね」

「へぇ、会社勤めも大変ね」

「どこぞの過労死直前の人に言われたくはないな」

「は、はははっ……」

 

武道場に乾いた笑いがこだまする、今日も今日とて俺達はこんな感じだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何故居る?」

「うーん、相変わらず男臭い」

「あっ、紀春おかえり」

 

部屋に帰ると俺を出迎えてくれたのは一夏だけはなく、そこにはさっきまで激闘を繰り広げたたっちゃんもいた。

 

「いやいや待て待て、俺さっきたっちゃんと別れたばかりだよな?」

「ええ、そうね」

「そして俺はたっちゃんより先に武道場を出たよな?」

「ええ、そうよ」

「何で俺より先にこの部屋に居るんだよ」

「なんでかしらね?」

「まぁ、いいや。で、今回は何の用だ?」

 

どうせ今回も碌でもない用事に決まっている、この人はいつもそうだ。

 

「実は一つ忘れてた事があってね」

「ほうほう、忘れ物?」

「いいえ、違うわ。ノリ君、この部屋から即刻出て行きなさい」

「……はい?」

 

出て行くってどういう事だ、まさか一夏とナニでもおっぱじめるつもりだろうか。

 

「以前、学園祭で王冠の争奪戦をやったのを覚えてる?」

「ああ、あれは酷い目にあった」

「で、王冠獲得者の特典は?」

「その王冠を被ってた奴と同室になるってやつだったか。俺のは多分虎子さんあたりに取られたんだと思うが」

「そう、そして一夏君の王冠は誰がゲットしたでしょうか?」

「そんなの知らん。一夏、どうなんだ?」

「実は……楯無さんなんだ」

 

……やっぱり碌でもないことだった。

 

「というわけで今日からここが私の部屋よ! ノリ君は出て行きなさい!」

「な、なんだよ横暴すぎるだろ! っていうか今更過ぎる、そんなの無効だ無効! 大体俺はこの部屋から追い出されてどこに行けばいいんだよ!」

「ノリ君には特別室があるじゃない!」

「なっ、いまさらあんな所に帰れるか! 大体あの部屋はなぁ!」

 

幽霊が出てくるって言葉を言いそうになるがそれを思いとどまる、天野さんと聖沢さんの一件はたっちゃんのトラウマだ。心身共に疲れ果てている彼女にそんな事は言えない。

 

「ん、何か?」

「いや、なんでもない…… しかしだ! やっぱりそんな事認められるか!」

「私に勝てたら譲ってあげてもいいわよ」

「今日あんたに負けまくった俺が勝てるわけないだろう!」

「なら無理ね。ノリ君、出て行きなさい。これは生徒会長命令よ」

「う……」

 

俺の心強い味方であった筈のたっちゃんですら一夏が絡むと平気で俺に牙を剥いてくるというのか、付き合いなら俺の方が断然長いのに。何だか一夏にたっちゃんを寝取られた気分だ、そして惨めだ。

 

「ううっ、たっちゃんは一夏より俺を選んでくれると思ってたのに」

「いや、そういうのじゃないからね?」

「うるさい! もうたっちゃんなんて大嫌いだ! うわああああああああん!」

 

俺は1025室のドアを開け放ち、俺は泣きながら廊下を走る。涙は流れていないけど俺の心は熱い涙を滝のように流していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「という事があったのさ」

「なんと、あの女やはり許し難いな。兄を部屋から追い出すだけではなく一夏とイチャコラしようとは」

 

所変わって今俺はシャルロットとラウラの部屋に居る、そして丁度今俺が部屋から追い出された経緯を説明し終えたところだ。

 

「というわけで一晩だけでいいからこの部屋に泊めてほしい」

「えっ、紀春がこの部屋に?」

「迷惑なのは重々承知の上だ、だがあの幽霊部屋が怖いんだよ」

 

そう言ってシャルロットとラウラに頭を下げる、ここを追い出されたら俺の行く場所はもうない。となると廊下で一夜を明かすしかないだろう。

 

「兄、頭を上げてくれ。そんなことしなくても私は最初から兄をこの部屋に泊めるつもりだったぞ」

「……いいのか?」

「なにを遠慮している、私達は兄弟だ。兄弟が同じ部屋で夜を明かすことなんて普通の事だろう、あの国民的家族的に考えて」

「ワ、ワカメっ!」

「お兄ちゃん!」

 

俺はラウラに熱い抱擁をする、ラウラも俺の腰に手を回しがっしりと俺を抱きしめる。

やはり持つべきものは愛しあう家族だ、ラウラのやさしさに俺の心がまた涙を流していた。

 

「いや、おかしいでしょ」

「なにぃ! お前は兄がここに泊まるのが不満だとでも言うのか!」

「そうだそうだ!」

「いや、不満とかそういうのじゃなくてね。紀春は男の子で僕達は女の子なんだよ?」

「だからそれに何の問題がある。シャルロット、お前いつからそんな冷たい女になったんだ!?」

「そうだ! 冷たいぞシャルロット!」

「冷たいって…… っていうか紀春は黙ってて」

「はい、すんません」

 

シャルロットとてこの部屋の主、機嫌を損ねるような真似はしてはいけない。

 

「大体お前、散々一夏と同室で暮らしてたのによくそんな事が言えるな」

「そ、それは…… あの時は仕方なく……」

「仕方ないだと!? 私だって一夏と同室になりたいのにそれを仕方ないの一言で片付けるのかお前は!」

「あの頃のラウラはそんなんじゃなかったでしょう!」

「なにぃ、ああ言えばこう言う!」

「やめてーあたしのために争わないでー」

 

二人は俺を無視するかのように口論をヒートアップさせていく、しばらくすると二人とも言いたいことを粗方言い終えたのか口論はなりを潜めた。

 

「途中から話が思いっきり脱線していた気がするが、兄をここに泊める。それでいいな」

「まぁ、一晩だけなら……」

「ほんとすまんなシャルロット、一晩だけだから我慢してくれ」

「もういいよ…… 僕にだって心の準備ってものがあるのに……」

 

後半部分はやたら小さい声だったが聞こえてしまった、だがそこは聞かない振りをしておく。

まだ俺には時間が必要なんだ、シャルロットの思いを受け止めるためにはまだまだこなさないといけない課題が多すぎる。

 

「ところで、本当に一晩だけでいいの? 明日から行く当ては?」

「実は、俺は当分この学園から離れる事になる」

「な、なんだと!? 何かあったのか!?」

「実は……」

 

ここから先は誰にも言わないように口止めされている、しかしシャルロットとラウラなら問題はないだろう。

 

「俺の専用機が完成したんだ」

「えっ、本当に!?」

「ん? 兄は既に専用機を持っているだろう?」

「いや、ヴァーミリオンはあくまで一時凌ぎのものだ。そもそもヴァーミリオンは俺の専用機のデータを元に作られた派生機体に過ぎない、そのヴァーミリオンのオリジナルが本来俺が乗るべき機体なんだ」

「つまり兄のためだけに開発された世界に一つだけの機体という事か」

「その通り」

「なんて豪勢な、そんな物を手に入れることが出来るなんて流石は兄だな」

「だろう? まぁお陰でタッグマッチは棄権することになったんだけどそこら辺はお前らが頑張ってくれ」

「ああ! だったら兄がその専用機を持って帰ったら私と戦ってくれ!」

「いいだろう、だけど俺は超強くなって戻ってくるぜ?」

「望むところだ! 私も負けないからな!」

 

とまぁ、俺の明日からの予定はこんな感じになるのだ。その後俺達はその専用機についてだったり他の事だったりの雑談をしながら消灯時間まで過ごした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあそろそろ消灯時間だし寝ようか」

「兄は私のベッドを使ってくれ」

「悪い、この恩はいつか返す」

「悪いと思わなくていい、それに恩を返す必要もない。私達は兄弟だろう?」

「ああ、そうだな。ありがとうラウラ、シャルロット」

「うん、そろそろ照明切るね」

「ああ」

 

照明が切れる前にラウラのベッドに潜り込む、そこはラウラの匂いがしていた。

 

「じゃあラウラは僕のベッドで……ってなにやってんの?」

「いや、寝るのだが」

 

そう言うラウラは自分のベッドに潜り込もうとしている、つまりそこには俺が居るわけで。

 

「いやいやいやいや、ラウラは僕のベッドで寝ようよ」

「何でお前と同じベッドで寝る必要がある? 私にはちゃんと自分のベッドがあるぞ」

「だからそこには紀春が」

「それに何の問題があるんだ?」

「問題しかないよ!」

 

ついさっき繰り広げられた口論がまた再開されようとしている、ここまで来るとなんだか愉快になってきた。

 

「ほう、つまりお前は兄が妹に欲情するような変態男だとでも言いたいのか?」

「いや、流石にそこまでは」

「いいや、お前は兄がヨスガるような男だと思ってるんだ。何て侮辱だ! 謝れ! 兄に謝れ!」

「そうだ! 謝れ!」

「紀春は黙ってて! そもそも紀春とラウラじゃどう転んでもヨスガれないから! ラウラは実妹じゃないでしょ!?」

「へい、すんまそん……」

「え、ヨスガれないのか?」

「らしいな」

 

ヨスガるのに必要なもの、それは血縁関係だ。つまり血の繋がっていない俺とラウラではどうやってもヨスガる事は出来ない。

 

「なら一安心だな。さて、寝ようか」

「いやいや待って待って! そもそもこの話の本題はヨスガるとかそんな話じゃないから!」

「うるさい、いい加減にしろ! 一々家族の事に口出してきおって、お前は何様のつもりだ!」

「……ううっ、こんなの絶対おかしいよ」

 

ラウラが一喝するとシャルロットも根負けしたのか静かになる、そして今度こそラウラが俺の居るベッドに潜り込んできた。

 

「ふぅ、シャルロットは一体何を考えているんだ。私にはさっぱり理解できん」

「全くだ」

「ううっ、僕は悪くないのに……」

「うるさいぞ、もう眠るんだから喋るな」

「…………ぐすん」

 

そのままシャルロットは喋らなくなった。しかし腕枕というものは初めての体験だ、伸ばした腕にラウラの頭が置かれその重みはなんだか心地いい。

 

「やっぱりこう近くで見ると兄の体は大きいな」

「ああ、そうだな。ラウラの体はあったかいぞ」

「そうか、私の体はあったかいのか」

「ああ、お陰でよく眠れそうだ」

 

愛する妹のあたたかみを感じながら眠りにつくというのはこんなにも幸せであったのか、今なら俺を部屋から追い出したたっちゃんも少しは許せそうな気がしてきた。そんな思いの中俺の意識は段々と闇に落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁ……ああ…… もう朝か」

「あっ、おはよう紀春」

「ん…… おはよう」

 

朝になり目が覚める、部屋には既に制服を着ているシャルロットが居た。そしてラウラはまだ眠っているようだ。

一晩中腕枕をしていたせいか腕が痺れている、しかしこの痺れすらもラウラからのものだと思うと心地よい。

 

「今何時だ?」

「今は朝の六時だけど」

 

もうそんな時間か、七時には三津村からの迎えが学園に来るはずなので早く準備しないと。

 

「あっ……」

 

その時気がついた。今は朝、というか俺は今起きたばっかりだ。つまり、その、男特有の朝の生理現象が今俺の体の中で起こってるわけで…… というかおち○ぽがフル勃起なわけで…… 

 

まずい、非常にまずい。男である一夏なら兎も角、女である二人にこれを見られるのは良くない。

特にラウラに見られるのは非常に誤解を招きそうだ、だって今もラウラは俺の腕の中なのだから。

 

「んっ……」

 

そんな中ラウラが目を覚ます、最悪のタイミングである。

 

「おはよう、兄。よく眠れたか」

「あ、ああ……」

 

どうする、どうすればいい。この危機的状況を打破するには。

 

「な、なんだこれは……」

 

しかし俺の思いも空しく、寝ぼけまなこのラウラが俺の股間のテントを発見してしまう。ああ、もう終わりだ。

 

「こ、これはもしや……」

「…………」

「兄、もしかして……」

「ち、違うんだ。誤解だ」

 

ラウラの顔が途端に厳しいものになる、俺は股間を押さえながらラウラのベッドから抜け出す。

 

「ヨスガったのか、私に対して」

「だ、だから違うんだ。これには深い訳が……」

「だったらその股間のイチモツはどう説明するつもりだ! 私が寝てるのをいいことにヨスガったんだろ、この変態がああっ!」

「ひぃっ!」

 

ラウラがどこからかナイフを取り出し、俺に向かって投げつける。間一髪、避ける事は出来たがナイフは俺の真横をすり抜け数本の髪を切り裂き壁に刺さった。

 

「ら、ラウラっ! 紀春はヨスガってないから!」

「シャルロット! 貴様もこの変態の味方をするというのか! もしやお前も変態か!?」

「とりあえず落ち着いてよ!」

「これが落ち着いてられるか! 私の体は知らない間にヨスガられてしまったのだぞ!」

「ううっ、だから違うのに」

「ここから出て行け変態! そして二度と私の前に姿を現すな!」

 

ラウラからの強烈な拒絶の言葉に俺の心はもう折れてしまった。

 

「違うんだ、違うんだあああああああっ!」

 

俺はこの部屋ののドアを開け放ち、俺は泣きながら廊下を走る。昨晩と同様俺の心からは熱い涙が滝のように流れ出していた。


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