インフィニット・ストラトス ~栄光のオリ主ロードを歩む~   作:たかしくん

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第71話 スーパーヒーローの光と影

「おり……しゅ?」

『藤木君後ろっ!』

「ほいほい、解ってますよ」

 

俺の背に迫る無人機が首を刎ねるような軌道を描いてブレードを振るう。しかし俺はそれを若干前に屈むことで避け、振り向きざまに裏拳を叩きつける。

 

「マジで弱ぇな、たっちゃんもどうやったらこいつに負けるんだ?」

 

そしてそのまま腕を取り、背負い投げで無人機を地面に叩きつける。しかし無人機は投げられた衝撃を利用しバウンド、その勢いで体勢を立て直し俺に向かってブレードで突きを放ってくる。

 

「ほぃっと! まだまだ甘いね」

 

その突き出された腕を掴み突きの軌道を逸らす、無人機は空いている片腕からビームを撃とうとするがそれも腕を掴み上げ射線から自分の体を逸らす。そして天空に発射されるビーム、非常に空しい感じだ。

 

「な、なんて強さだ……」

「おう一夏! どうだ俺の新しいISは。かっこいいだろう、そして何より強いだろう!」

「お前、余裕だな」

「まぁね、実際余裕だからどうしてもそうなるよな」

 

そう言いながら無人機の腕を捻り上げ捻じ切る、両腕を失った無人機は火花を散らしながら二、三歩下がった。

 

「全然もの足りんが、これで終わりだっ!」

 

展開領域から再度エムロードを取り出し、超振動を発動。無人機の股を裂くように切り上げる、これで一丁上がりだ。コアは後で回収しよう、一夏達に見られると面倒な事になりそうだし。

 

「ふっ、俺ってやっぱ最強だわ」

「私達があんなに苦労して倒せなかった相手をこうも簡単に倒してしまうのか……」

「おっ、いいね篠ノ之さん。もっと褒めてくれてもいいのよ?」

「しかし態度がそれでは褒める気も失せるな」

「おい」

 

やっぱり俺はこんな感じがお似合いなのか、もっとクールかつスタイリッシュに行きたいのだが。

 

「悪いな紀春、でも助かったよ」

「そりゃどういたしまして、ところでたっちゃんは大丈夫か?」

「あっ、はい。怪我はしていますけど命に別状はないようです」

 

簪ちゃんがそう答える。多分今簪ちゃんが装備しているのが簪ちゃんが開発したIS、打鉄弐式なのだろう。どうやら完成したようで俺としても嬉しい、そして俺が提供したヴァーミリオンのデータが役に立ったのならなお嬉しい。

 

「そうか、だったら早く保健室まで運んでやりな。俺は後片付けがあるから暫くここに残ってるから」

「片付けって?」

「会社勤めは色々面倒な事があるんだよ、そんな事より早く行け」

 

そう言いながら俺は無人機の残骸へと振り返る、みんなが脱出した後にこのコアを回収せねばならないのだ。

 

その時、空から謎の飛行物体がアリーナに落着しあたりが土埃に包まれる。

 

「ん? これは……」

 

土埃が晴れた瞬間姿を現したのはついさっき倒した無人機と同じものだった。しかし三機であるが。

 

「ほう、エクストラステージか。みんなはたっちゃんを守ってやってくれ、こいつは俺が全て片付ける」

「エクストラステージって、お前……」

「しかし、思い返せば俺の新専用機のデビュー戦なのに地味な事この上ないな。観客もたった三人だけだしこいつら弱すぎて盛り上がりに欠けるんだよなぁ……」

「そんな事言ってる場合じゃないだろ!」

「俺にとってはそんな事なんだよ。まぁいい、多少地味ではあるが俺のデビュー戦の延長戦だ。みんな、精々楽しんでいけよ」

「楽しんでいけって……」

 

呆然としている一夏を背にエムロードを構える、無人機達は俺の強さが解っているのか一定の距離を開けて攻撃をためらっているようだ。しかしどんなに無人機が考えようと所詮こいつらの立場は雑魚の戦闘員みたいなものだ、精々俺のデビュー戦を盛り上げて華々しく散ってもらいたいところだ。

 

『藤木く~ん、私達もお手伝いしようか?』

「そうだな、三対三で丁度いいだろう」

『しかし、私達は根本的に火力が足りないのでトドメはお願いしますよ』

「オーケイ、任せてくれ。それじゃ、俺達の完璧なコンビネーションで奴らを蹴散らしてやろう」

『イエス、○須クリニック!』

 

その言葉と共に俺の肩からビットが射出される、それを見た一夏がまた声を上げた。

 

「お前、ビットまで使えるのかよ!?」

「まぁな、っていうかそのリアクション飽きた~」

 

いままで助けた四人は皆同じようなリアクションをとっている、もうかれこれこんな反応も三回目だ。

 

「さて、行くぜ? 超振動は後どれ位使える??」

『エムロードの残りエネルギー8パーセント、約11秒使えます』

「ちょっと使いすぎたな、それにエッケザックスは既に使用不能と。今後は節約も意識していかないと」

『そうでうね、では行きましょうか』

 

俺達三人は呼吸を合わせ、全く同じタイミングで飛び出す。さぁ、ヒーローショーの始まりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒャッハアアアアアッ!」

 

無人機に向かって放ったアンカーアンブレラは見事命中し、拘束に成功した。俺はそれを振り回し、無人機は壁や地面などに激突を繰り返す。

 

「弱い、弱い、弱いっ! もっと気合入れろよ!」

 

無人機に気合も何もあったもんじゃないとは思うが、俺はそう思わずにはいられない。

残った無人機が俺に突撃を仕掛けるが幽霊二人組みがそれを牽制し、中々近づけずにいる。もうこんなのヒーローショーじゃない、たんなる虐殺タイムだ。

 

『余裕だね、そっちに一機回すよ!』

「来い来い! 捻り潰してやるぜ!」

 

ゆうちゃんから開放された無人機が俺の方へと迫ってくる、しかし俺はアンカーアンブレラを振り回し、くっついている無人機にそれを激突させる。そして大質量の攻撃を受けた無人機はそのまま吹っ飛び、アリーナのシールドに激突した。

 

『ワザマエ!』

『アブハチトラズ!』

「インガオホー! やったねパパ! 明日はホームランだ!」

 

そのままアンカーをジャイアントスイングの要領で振り回し続け、拘束されている無人機も放り投げる。そちらも壁に激突し、動きを止めた。

 

「折角だからこいつも使っておこうか!」

 

そう言いながら俺は強粒子砲を取り出す。狙って狙って……

 

「『『ファイヤー!』』」

 

俺達三人の声が一つに重なり、白い粒子が動けない無人機を襲う。無人機はアンカーごと強粒子砲の餌食となりその胴体に大きな風穴を開けた。

 

「さて、三機目いってみようか!」

『まだ二機目が残ってるよ!』

「ちっ、あの程度の攻撃じゃ倒せないか!」

 

アンカーの一撃で吹っ飛ばされた無人機が空を舞い、俺へビームを撃とうと狙いを定めてくる。そんな無人機に俺も強粒子砲で狙いを定める。

 

「もいっちょ、ファイヤー!」

 

激突する二つの光、しかしそれはどんどん向こうの方に押されていく。サイヤ人ならこの状況三十分位持たせる事が出来そうだが残念ながら俺はオリ主、そこまで待ってられるほど気は長くない。

そして無人機を包む強粒子砲の光、ほどなくして無人機が地面へと落下する。

 

「よし! 今度こそ三機目だ!」

『あの、藤木君。それなんですが……』

「うおおおおおおっ!!」

 

振り返ると、一夏が三機目の無人機を切り裂いていた。さらにその後ろではたっちゃんが立っていてなにやら一夏を援護しているように見える。そして次の瞬間、最後の無人機が爆発四散。

 

「いえーい……」

 

何がいえーいだ、俺の見せ場は完全に奴らに奪われていた。

 

「おい」

「おっ、紀春。こっちも何とか片付けたぜ」

「おい」

「ん、どうした?」

「ザッケンナコラー!!! お前らは見てろって言っただろうが!!」

「いや、お前の戦う姿見てたらさ、俺達も一応頑張らないとなって」

「そういうのはいいの! 今日は俺が主役でお前らは脇役なの! なのに、なのによう……」

 

一番美味しいところを持っていかれた、そしてこの様子じゃコアの回収は難しいだろう。結果収穫は4個、俺が倒したのは合計7機だから半分近くの成果が水の泡だ。

 

「あっ、もうダメかも」

「お、お姉ちゃん!?」

 

どさっという音と共にたっちゃんがまた倒れる、なんとも都合のいい復活具合だ。

 

「はぁ、もういいや。疲れたし帰ろうぜ」

「お、おう……」

 

俺と一夏でたっちゃんを担ぎ上げそのまま保健室へと向かう、こうしてタッグマッチの動乱は俺的にかなりつまらない感じで幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、洗いざらい喋ってもらうぞ?」

「洗いざらい? 一体何のことですかね?」

 

それから数時間経ったIS学園地下特別区画の一室、そこは暗く薄気味悪い場所だった。

 

「無人機のコアを何処へやった?」

 

机を挟んで向かい側に座っている織斑先生が俺に詰め寄る。なんだ、これは取調べか何かか?

 

「無人機のコア? はてさて、皆目検討がつきませんが」

「お前がこの学園で倒した無人機六機中三機のコアが行方不明だ、知らないとは言わせないぞ?」

「残念、全く知りませんね」

 

大袈裟なジェスチャーでとぼけてみる、確かに無人機のコアは回収したがそれは既に学園に潜入した三津村の護衛ヤクザこと瀬戸さんに渡してある。つまり織斑先生は俺が無人機のコアを盗んだという証拠を持ってない。

 

「貴様っ……」

「そもそも教師たるもの簡単に生徒を疑っていいんですか? もうちょっと自分の生徒を信頼しましょうよ」

「そう言うお前が一番信用ならないんだよ!」

 

織斑先生が机に拳を叩きつけ、そこに置いてあったコーヒー入りのカップが倒れる。

 

「ああ、もったいない。まぁ、そのコーヒー糞まずいんで別にいいんですけど」

「コアを何処へやった! 吐け!」

 

頭を掴まれ、俺は机に叩きつけられる。マジで洒落にならない状況になってきた気がする。

 

「お、織斑先生! やめてください!」

 

山田先生が仲裁に入る、織斑先生はそう言われて俺から手を放した。

 

「痛ってぇ、それが仮にも教師が生徒に取る態度ですか? 体罰なんて今日日流行りませんよ?」

「ちっ……」

「織斑先生、落ち着いてください……」

 

よし、いい感じだ。このまま織斑先生を煽りまくってこの場を滅茶苦茶にしてやる。

 

「そもそもですね、今の俺は学園を救ったスーパーヒーローですよ? その俺に対してこの態度はないんじゃないかなぁ?」

 

あくまで嫌らしく、ねっとりとした、まるでどこかのドラマに出てくる小悪党のような感じを心掛けてそんな台詞を言ってみる。そして織斑先生をどんどんいらつかせてやろう。

 

「藤木君も、もう少しおとなしくしてもらえませんかね?」

「嫌ですね、俺がこんなにも頑張ったのにこの仕打ちは耐えられませんよ」

「ひよっ子の癖に口だけは一人前か」

「そのひよっ子に戦うだけ戦わせておいてあんたらは何やってたんだ? 無人機を一機でも仕留めて来たのかよ!?」

 

これは向こう側にとってかなり痛い言葉のはずだ、なにせ教師陣はこの戦いで一切活躍していないのだから。

 

「くっ……」

「あんたらはいつもそうだ、初めてここに無人機が来た時、銀の福音の一件、そしてキャノンボール・ファスト! 何より今回の事! その時あんたは俺に何をしてくれたんだ? 椅子にふんぞり返って考えてる振りしてるだけだろうが!」

「…………」

 

織斑先生が俺を睨みつける、その視線には殺意すら感じる。本当なら殴り飛ばしてやりたいんだろう、しかし山田先生が居る手前そんな事も出来ないはずだ。

きっと今の織斑先生の堪忍袋は破裂寸前だ。さて、場も暖まってきた事だしトドメと参りましょうか。

 

「まぁ、俺にも解らない大人の事情ってもんがあるんでしょう。だとしたら仕方ないと思いますよ、俺もそこら辺の事情は解っているつもりです。すいませんでした、さっきの暴言は謝ります」

「藤木君……」

「でもあんたはその大人の事情ってやつで自分の弟すら見捨てたんだ!」

「きっ、貴様ああああああっ!!」

 

俺は胸倉を掴まれ、渾身の右ストレートをその頬に受ける。ついに織斑先生の堪忍袋の尾が切れたようで俺としても嬉しい、これで何もかもが有耶無耶に出来る。

 

「そうだろう! あんたはいつだって俺どころか一夏すら助けに来なかった! あんたは自分の弟より仕事が大事なんだ! まぁ、仕方ないですよね。一夏は先生に一銭たりとも利益をもたらしてくれませんもんね! ……そうか、あんたは自分の弟より金の方が大事か。あははははっ! こりゃ傑作だ! いいね先生、急に親近感が沸いてきたよ! ブリュンヒルデも金がなきゃ生きられないもんなぁ! そりゃ仕方ないですよね!」

「貴様に私と一夏の何が解る!?」

 

倒れた俺に、織斑先生が馬乗りになって拳を振り上げる。しかしその振り上げられた拳に山田先生が抱きつきその拳が止められる。

 

「織斑先生、いい加減にしてください! 藤木君も!」

「解るわけねぇだろ! 俺は家族のためだったら何だって出来る、そして現にやってきた! 一夏を見捨てたあんたとは違うんだよ! さぁ殴れよ! 俺がムカつくんだろう!? もう一方の拳が空いてるぞ、それを俺に叩きつければ気持ちよくなるぞ! さぁ殴れ殴れ! 早く俺を殴れよ!」

「黙れええええっ!」

 

そして織斑先生は俺の言うとおりに空いている腕を振り上げる。それが振り下ろされもうすぐ俺は殴られる、そんな瞬間だった。

 

「もうやめてええええええええええっ!」

 

薄暗い部屋に山田先生の叫び声が響き渡る、その後この部屋は静寂へと包まれた。

 

「……真耶?」

「もうやめましょうよ、こんな事したってお互いが傷つくだけです」

「しかしだな……」

「いいじゃないですか、仮に藤木君をどうこうしたところでコアはもう戻ってこないわけですし。ですよね?」

「そもそも俺はコアを盗んでいませんからね、何も言えませんよ」

 

ここは念には念を入れてとぼけておく。山田先生とて所詮はIS学園教師、罠の可能性は否定できない。

 

「もうそれでいいです。藤木君、帰っていいですよ」

「そりゃありがたい話ですね、俺も何度も戦ってきて疲れてますし」

 

そう言いながら俺は織斑先生の下から抜け出す、織斑先生はもう何もしてこなかった。

そして、俺は部屋のドアに手を掛けながらこう言った。

 

「織斑先生、先生と俺は多分似てるよ。でもね、俺は誰にも屈しませんよ。それだけの力を手に入れましたからね」

 

左手の中指につけている指輪がきらりと光る、これが織朱の待機形態であった。

 

「…………」

 

織斑先生は、ブリュンヒルデという称号とそれに付随する栄光を手に入れるためにあるものを失った。その答えは簡単、自身の自由だ。

俺に首輪がついているのなら、織斑先生の全身には鎖が巻き付いている。でも俺は諦めたりしない、いずれこの世界の俺に対する全て不都合を取り払い真の自由を手に入れてやる。そしてこの織朱と共に居るのならそれは不可能ではないはずだ。

 

俺に背を向ける織斑先生は何も喋ろうとはしない、何らかの返答を期待してたのだがそれもないのならこの部屋に居る意味はなかった。

 

「そうだ、俺を殴ったことは誰にも言わないから安心してください。あなたの事、嫌いじゃないですから」

 

そう言って俺はこの部屋から抜け出し、ドアを閉めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっ、簪ちゃんじゃん」

「あっ、藤木さん……」

 

たっちゃんの見舞いに行こうと保健室を訪れた俺は、丁度今保健室から出てきた簪ちゃんに鉢合わせする。

こうして簪ちゃんと直接顔を合わせるのは今回で二回目、そして一回目はあまりいい別れ方をしていないのですこし気まずかったりもする。

 

「たっちゃん起きてるか」

「はい、起きてますけど……あの、その傷って」

 

その傷っていうのはついさっき織斑先生に殴られて出来た傷だ、血は出てないが内出血を起こしているらしい。

 

「ああ、これか。圧勝したつもりだったけどいつの間にか殴られてたみたいだ」

「いつの間にかって、藤木さん無人機の攻撃を受けてましたっけ」

「俺も戦いの最中は興奮して気付かなかったみたいなんだけど、どうやら食らっちまってたみたいだ」

 

そういう事にしておこう、俺と織斑先生の不仲は気軽に他人に話していいものじゃない。

 

「そうなんですか……あっ、そうだ。藤木さん、ありがとうございました」

「ああ、無人機の事か? だったら気にすんなよ、弱者を守るのが強者の務めだ。俺は当然のことをしたまでだ」

「いえ、それもありますけどヴァーミリオンのデータの事です。あのお陰で打鉄弐式も完成したわけですし」

「ああ、あれね。それも気にすんなって、俺が好きでやったことだから。君は打鉄ストの希望の星なんだ、俺も同じ打鉄ストとしてほっとけないだろ」

「打鉄スト? それって一体……」

 

打鉄スト、それは打鉄好きや打鉄乗りを表す造語だったのだが、最近その意味合いが変わってきた。とある人物が『全国打鉄愛好会』という団体を立ち上げ、その会員の通称となっているのだ。もちろん俺も会員だ、ちなみに入会金二万円、年会費は五千円である。会員特典として、一年に四回届けられる会報と会員証、そして入会特典に1/8打鉄フィギュアが贈られる事になっている。さらには全国打鉄愛好会の会員専用ページにアクセスすることが可能で、そこでは日夜打鉄に関する熱い議論が繰り広げられている。

そんな感じの事を簪ちゃんに説明してみた。

 

「そ、そんな団体が……」

「紹介状書くから入会してみるといい、君なら楽しめるはずだ。そして打鉄ストの中で今一番熱い話題になってるのが簪ちゃんの事だ」

「わ、私ですか?」

「ああ、簪ちゃんは打鉄弐式を作る事によって打鉄の新しい可能性を見せたんだ。そりゃ話題にならない訳がない」

「でも、打鉄弐式はまだ世間に公表していないISですよ?」

「整備課の約二割は打鉄ストだ、整備室で開発してたんだから嫌でも情報は漏れるぞ?」

「そ、そんな……」

「まぁ、そんなに気落ちするなよ。別にいつかは知られる事だ、それに今は1/8打鉄弐式with簪ちゃんフィギュアの開発も進んでるらしい。やったね、これで簪ちゃんもみんなのアイドルだぜ」

 

ちなみに三津村公認1/8打鉄・改with俺フィギュアは好評発売中だ。そのお値段19,800円、もちろん全身可動しブンドドもやり放題だ。

 

「ちょ、ちょっと待ってください。私はともかく打鉄弐式は倉式技研のものですよ、勝手に作ったらまずいんじゃ……」

 

自分のフィギュア化は構わないのか、俺でも結構ゴネたのに素直な子だ。

 

「もちろん倉式技研も納得済みだ、これでもう障害は無いな」

「はぁ、だったらいいですけど」

 

いいのか、きっとフィギュア化した簪ちゃんはウ○ディあたりに揉みしだかれる事になると思うけどそれは黙っておこう。自分のフィギュアがアレに組み伏せられているのを見るのは俺だけで充分だ。

 

「とまぁ、簪ちゃんフィギュア化計画はおいて置いて。専用機完成おめでとう、でもその力を持ったからには掛る責任は重いぞ」

「はい、解ってます。その事は不動さんにも言われました」

「そうか……そうそう、不動さんと言えば昨日まで一緒に過ごしてたんだけど相当簪ちゃんに入れ込んでるみたいだな。ちょっと雑談すれば簪ちゃんの話ばっかりしてたよ」

「そんな、不動さんが……」

「簪ちゃん、君は多くの人の期待を背負っている。不動さんは勿論全国100万を越える俺達打鉄ストも君に期待している。だから期待に答えられるように頑張れよ、ここからの道のりは今まで以上に辛いぞ?」

「はいっ!」

 

簪ちゃんから覇気のようなものを感じる、初めて会ったときとはその印象は大分変わっていた。あの時の簪ちゃんはどことなく卑屈で、見ているだけでイライラするような子だった。でも彼女にも色々あったのだ、あの時の簪ちゃんとはもう違う。

 

「そうだ、簪ちゃんって部活に入ってたっけ?」

「いえ、打鉄弐式の完成のためにそういうのには……」

「それは良くないな、今からでもどこかに入った方がいい」

 

簪ちゃんは見るからに体力無さそうな体つきをしている。良くない、これは本当に良くない。ISを動かすのに最も必要なのはやっぱりテクニックだ、しかしそれは最低限の体力があった上での話だ。それが無いと戦ってもすぐに息切れを起こしてしまうし、疲れは自己の感覚を鈍らせる。そうなればもうテクニック以前の話になってしまう。

 

「どこか体を鍛えてくれる場所を探した方がいい、ゴリラみたいな体になれとは言わないがそれでも今の簪ちゃんの体は戦うのには適していない」

「で、でも今更入れる部活ってあるんでしょうか?」

「だったら俺の所へ来い、一から鍛え上げてやるぞ?」

 

ソフトボール部、そこはIS学園のフィジカルエリートが集う場所だ。そしてそれを鍛え上げてきたのがこの俺である。簪ちゃんも一ヶ月位耐えればそこそこの仲間と遜色ない肉体を持つことが出来るだろう、それまでは地獄だけど。

 

「藤木さんの所ってもしかして……」

「ああ、ソフトボール部だ。どうだ、俺と一緒に白球を追いかけてみないか?」

 

そんな事を言ったとき、不意に一夏が姿を現す。

 

「おっ、紀春に簪か。一体何を話してるんだ?」

「えっと、藤木さんが私にソフトボール部に来ないかって……」

「はっ?」

 

一夏の顔が急に青ざめる、今ならこいつの考えてる事が手に取るように解る気がする。

 

「簪ちゃん、見るからに体力不足っぽいだろ。というわけで少々鍛えてやろうかと。で、簪ちゃん。返答を聞かせてもらおうか」

「そうですね……お願いします、私が体力不足なのは事実ですし」

「や、やめろ簪!」

 

俺達の話に一夏が割り込む。まぁ、あの練習に簪ちゃんが耐えられるかと言われれば微妙な所だ。一夏はそれを心配しているのだろう。

 

「え、駄目なの?」

「おいおい、これは俺と簪ちゃんの話だぜ。部外者のお前が口を挟むなよ」

「駄目だ駄目だ駄目だ! 考え直せ簪、ソフトボール部に行けば狂信者にされてしまうぞ!」

 

狂信者、ソフトボール部が一部でそんな風な不名誉な呼び方をされているのは俺も知っている。確かにソフトボール部の練習は他の部活に比べてかなり厳しい、そんな練習に愚痴の一つもこぼさずついてきてくれる部員達は他のぬるい部活をやっている奴らからの目からは多少おかしく映るのかもしれない。しかし、それはあくまでやる気のない他の部活がおかしいのであって俺達がおかしいなんてことは一切ありえないのだ。

 

「おいコラ、それは俺に喧嘩売ってんのか? ソフトボール部は怪しげな宗教団体じゃないんだぞ?」

「怪しげな宗教団体だろ! ソフトボール部の人たちってどこか目つきがおかしいんだよ!」

「ほうほう、テメェはマジで俺に喧嘩を売ってるわけね。よかろう、だったら相手になってやろうじゃないか」

「……仕方ない、簪を狂信者にさせるわけにはいかないんでな」

 

俺と一夏はほぼ同時にファイティングポーズを取る、そんな俺達を赤い夕日が照らしていた。

 

「やめてー、私のために争わないでー」

 

簪ちゃんの棒読みの台詞をバックに俺と一夏の拳が交錯する。一人の女の子を賭けて男同士で殴りあう、これもまた青春だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ISLANDERSに藤木君を推薦しようと思っています」

「……更識、お前正気か?」

 

翌日、私は更識から保健室に呼び出されていた。あんな事があった翌日だというのに更識はもう仕事を始めているらしく、そのベットの上には多数の書類が乱雑に置かれていた。

 

「はい、現在世界は亡国企業の台頭もあり予断を許さない状況にあります。それISLANDERSは質のいい戦力を求めています、だとすれば藤木君はうってつけの存在かと。それに、彼は一夏君ほど潔癖症ではないですからあの薄汚れた環境でも充分やっていけるはずです」

 

藤木の戦力、それはこの学園内において最強に最も近いと言って過言はないだろう。それは昨日の事が証明している。それに、陰謀渦巻くあの場所なら一夏より藤木の方が適任なのも頷ける。

 

「しかしだな、あいつは……」

「人格面で問題があると?」

「そうだ。今のあいつはかなり危うい、このまま増長を続ければ何が起こるか解らんぞ? いや、近いうちあいつは必ず暴走する。その時、場合によっては私達にも危害が及ぶかもしれない」

「それは解っています、それでも今の藤木君の戦力は魅力的です」

「…………」

「藤木君が暴走する可能性があるのなら、そうならないように私達でフォローすればいいじゃないですか。それに、織斑先生が持っている世界最強の称号は伊達じゃないんですから」

「私は……藤木を押さえつけておける自信が無い」

 

昨日の一件では完璧に藤木にしてやられた。あいつは人を煽る天性の才能を持っている、少なくとも私は口喧嘩であいつに勝てる気がしない。

 

「だったらその役割は私がやります、それでいいですか?」

 

私がどうこう言ったところで藤木のISLANDERS参加の流れは止められないらしい、だったら私に出来ることはあいつがおかしな事をしないか見守る位しかない。

 

「好きにしろ、一応言っておくが私は藤木に関して責任を持てないからな」

「はい、藤木君の事は私が責任を持って面倒を見るつもりです」

「そうか、では私は帰るぞ」

 

そう言って席を立ち、私は保健室から退室した。

窓のから見える空は雲ひとつない快晴である、しかしそんな空とは対照的に私の心は灰色の雲に包まれていた。

 

「はぁ、憂鬱だ……」

 

そんな気持ちでも私にはまだまだこなさなくてはならない仕事が山ほどある、どこかにこんな気分を打ち消してくれる明るいニュースはないのだろうか。




次回72話からオリ主ロードはオリジナル編に突入し、最終話までほぼオリジナル展開を迎える事になります。一応多少は原作に沿う場合がありますが大体そんな感じです。
それとオリ設定と捏造設定が一気に増えます、ご注意ください。

あと、次回更新はちょっと間が空きます。一ヶ月以内には再開したいと思いますので、しばらくお待ちください。

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