インフィニット・ストラトス ~栄光のオリ主ロードを歩む~   作:たかしくん

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第72話 ISLANDERS

「あひゃひゃひゃっ! 俺ってマジで強えー!」

「くっ、くそっ……」

 

一夏の雪片弐型が振り下ろされようとした瞬間、藤木のエムロードがそれを手首ごと刎ね飛ばす。次の瞬間には一夏が雪羅からの荷電粒子砲で藤木を攻撃しようとするがそれも藤木によって掴み上げられ荷電粒子砲は天空へと空しく発射された。

 

「…………」

「…………」

 

そんな光景を眺める私と鈴、実はこの戦いは藤木対一夏、鈴、私の三対一の戦いであるのだが私達はこの戦いから早々に離脱させられる事になった。

 

「ねぇ箒」

「……なんだ?」

「私達、いつまでこうしていればいいのかな」

「戦いが終わって、藤木かシャルロットが接着剤の中和剤を塗ってくれるまでだ」

 

私達は藤木のアンカーアンブレラによって壁に打ち付けられていた、しかもそこから染み出す接着剤によって体を動かす事も出来ない。動けないと意識しだすとなんとなく顔が痒くなってきた、しかし今の私は全く動けないのでその痒みに耐えることしか出来ないのだ。

 

「それより鈴、接着剤が髪についてるが大丈夫か?」

「あっ、本当だ……これって中和剤で取れるのかしら?」

「確か髪についたら切るしかないらしいぞ」

「あ、あの野郎……」

 

鈴のツインテールの毛先三センチほどが接着剤で固められている、鈴は怒っているが私の髪には接着剤はついてないみたいだ。良かった、本当に良かった。

 

「こいつで、終わりだっ!」

 

雪片弐型を失った一夏は片腕でなんとか粘ってはいたが、ついに藤木に押し負ける。どうやら勝敗は決したようだ。

 

「はい、お疲れ。今から中和剤塗るからじっとしててね」

 

模擬戦も終了し、大きい缶を持ったシャルロットが私達に近づいてくる。

 

「お前も藤木のフォローで大変だな」

「まぁね、でもこれも仕事のうちだから」

 

そう言いながらシャルロットは手始めに鈴に中和剤を塗りこんでいく、すると鈴の体が徐々に動き出した。

 

「こんなもんかな、ISの洗浄とかは自分でやってね」

「よしっ。紀春ううううっ! よくもやってくれたわねえええっ!」

 

アンカーから開放された鈴は叫びながら藤木の下へ飛んでいく、髪の毛の恨みは何よりも怖いのだ。

 

「さて、次は箒の番だね」

「止めなくていいのか? あれ」

 

視線の先では鈴と藤木が乱闘を繰り広げている、しかしそれをシャルロットは気にするような素振りも見せない。

 

「いいよいいよ、紀春だから」

「それで片付くのが藤木の恐ろしい所だな」

 

藤木の最大の武器、それは口である。その戯言に聞き入ってしまうと最後、戦いのペースは藤木に握られてしまう。今までがそうだったし、あいつはこれからもそうやって戦っていくのだろう。

そんな戦いを続けていく中であいつは独自のキャラクターを手にしている、いう事のほとんどが冗談なので大概の発言や行動は許されてしまうのだ。

 

鈴の青竜刀を余裕の表情でかわし続ける藤木、あいつは専用機を新しくしてから更に強くなった。もしかしたら本当に一年生最強になってしまったのかもしれない。

 

「そう言えば藤木のIS、名前はなんだったか」

「織朱、箒も聞き覚えがあるんじゃない?」

 

織朱……私が中学校の最後に過ごした学校で、藤木や花沢さんと出会った場所だ。そして私はあの二人にぼっちだという事が見破られ、未だにそのことでいじられる毎日を送っている。多分あの二人には一生勝てないような気がする。

 

「ま、まぁあるが。何でそんな名前を?」

「開発のお金が足りなくて命名権を売ったらしいよ、こんな事前代未聞だよ」

「確かにな……」

 

遠くでは鈴が接着剤で固まった毛先を手に藤木を突き刺している、あれはあれで中々痛そうだ。

気付けば私の体も中和剤のお陰か動くようになってきた、そして私の髪に被害はなかったようで一安心である。そんな感じで私達の訓錬の時間は過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ、呼び出されるのは構わないんだが。この組み合わせは意外だな」

 

そう言いながら俺は出された紅茶を啜る、相変わらず世界で二番目にうまいこの紅茶は俺にとってこの学園での数少ない癒しである。

 

「そうだな、そもそも私はここに来るのは初めてだからな」

 

俺の隣に座るラウラがそう答える。ここはIS学園生徒会室、そして俺達の前にはこの部屋の主であるたっちゃんが座っていた。

 

「でだ、わざわざラウラも一緒に呼び出したってのはなんか理由があるんだろ?」

「ええ、勿論。二人にお願いしたいことがあってね」

「お願い? 一体何なんだよ?」

 

そういう俺にたっちゃんは横に置いてある鞄から封筒を取り出す、そしてそれをラウラの前に置いた。

 

「……なんだこれは?」

「読んでみて、それで解るわ」

 

ラウラが怪訝な表情で封筒を取り、中の書類を見る。俺もそれを覗いてみたのだが書類は全てドイツ語で書かれているらしくさっぱり内容が理解出来なかった。

 

「なになに…………っ! おい、どうしてこれを貴様が持っている?」

「だってそれ、私が渡すように頼まれたんだもん」

 

まるで睨みつけるような目でラウラがたっちゃんを見る、なんだか急に緊迫してきた気がする。

 

「どうしたんだラウラ、それに何が書かれてるんだ?」

「一言で言えば首相が私に宛てた信書だ」

 

ドイツ首相の書いた手紙がロシア国家代表であるたっちゃんを経由してラウラに渡される、確かにおかしい話だ。

 

「で、何でそれをたっちゃんが持ってるかって事なんだけど」

「それも中身を見れば解るわ」

 

そんな会話をしている最中もラウラは手紙を黙々と読み続けている、その時だった。

 

「……っ! ISLANDERSだと!? 眉唾物だと思っていたが本当にやるのか!?」

「あいらんだーず?」

「そう、そしてラウラちゃんにはISLANDERSに参加してもらうわ。勿論私もね」

 

あいらんだーずってなんだろう? 二人の話の内容が全然理解出来なかった。

 

「あの、そろそろ俺に説明をお願いできませんかね? さっきから話に全くついていけてないんですが」

「そうね、その前に質問なんだけど今このIS業界はどんな感じでしょう?」

「もちろん大混乱の最中にあるってのが正解なんだろ? 最近じゃテロリストが我が物顔でやりたい放題やってるし、先の無人機襲来の件はこの学園だけじゃなく世界にもダメージを与えた。なんたって量産可能な無人機がロシアの国家代表を倒しちまったんだ、今回の一件は世界的にかなりヤバいニュースになったはずだ」

「本当、ロシアの国家代表は困るわよね。もうちょっとしっかりしてもらわないと」

 

そんな事をロシアの国家代表が言う。絶対突っ込まないぞ、俺は。

 

「で、ノリ君の言うとおり今世界は混乱の最中にあるわ。増長を続けるテロリスト、ロシアの国家代表より強い無人機、そんな状況を打開するため国際IS委員会はある組織の設置を決定したわ」

「それが今話題になっているISLANDERSか」

「ええ、遊戯王的に言うとランサーズみたいなものよ」

「説明一気に端折ったな。まぁ、ニュアンスは充分伝わったが」

 

つまり亡国企業に対抗するために戦う正義の軍団って所か、とりあえずシンクロ次元でも目指せばいいのだろうか。あと裏切り者が居ないか心配である。

 

「で、話の流れ的に俺にISLANDERSに来いってところか?」

「ええ、そういう事。日本も国際IS委員会から戦力の供出を求められてるんだけど、専守防衛を旨とする自衛隊をテロリストとの戦いに参加させるわけにはいかないのよね。となると民間から戦力を持ってくるしかないんだけど」

「それで俺に白羽の矢が立ったわけか」

「うん、ノリ君強くなったでしょう? だったらいいかなって」

「たっちゃんの頼みなら二つ返事で引き受けてもいいんだが、俺のご主人様ななんて言うか」

「ああ、その話ならとっくにつけてるわよ。ほら、私達と三津村って業務提携してるじゃない」

「あったなぁ、そんな話」

 

随分昔の話で完全に忘れてたがそんな事もあった気がする、あれは確かこの学園に初めて無人機が来た時の事だったか。

 

「だったら別にいいけど、って言うか三津村が納得済みなら俺としては逆らえねぇからな」

「悪いわね、ノリ君の意見も聞かずに話を進めて」

「たっちゃんには世話になってんだ、これくらいの迷惑なんて気にしないよ」

「そう言ってもらえると助かるわ。ああ、近いうちに国際IS委員会からISLANDERS結成の発表がされるはずだからとりあえず私達はそれと同時に参加を表明するつもりよ」

「それで、俺はどうすればいいんだ?」

「誘っておいてなんだけどノリ君には実績作りをしてもらう必要があるわ、幾らあの無人機相手に無双したところで世間はそれを知らないから。それ以前のノリ君の成績は……はっきり言って微妙だし」

 

確かに織朱を手に入れるまでの俺の成績は微妙だ、打鉄・改で戦って勝った相手ってセシリアさんだけでその他の戦績って言えばたっちゃんにおんぶにだっこの無人機戦、ラウラとやりあい全部有耶無耶になったタッグトーナメント、銀の福音の時は聞いた話によると勝利直前に戦線離脱してしまったらしい。

そして専用機をヴァーミリオンに移行させた後はもっと酷い、ちびっ子こと織斑マドカ相手に七対一でやりあったドイツでの戦い、いまでこそ協力関係にあるが当時敵対関係にあったゆうちゃんと霊華さんとの超霊脳バトル、そしてたっちゃんに挑んだ生徒会長決定戦、最後に虎子さん相手にヘマをしたキャノンボール・ファスト、全部負けである。ヴァーミリオン自体は弱くないはずなのだが俺との相性が悪かったのだろうか。

 

「実績か……でもどうすりゃいいんだ? ここら辺で実績を積める様な場所ってあったか?」

「あるわよ、目の前に」

 

目の前、そこに居るのはIS学園生徒会長更識楯無。そしてIS学園生徒会長という称号はこの学園で最強って事を示している。

 

「もしかして……」

「多分ノリ君の予想はあってると思うわ。ノリ君、もう一度私に挑戦しなさい。これは生徒会長命令よ」

 

いつの間にかたっちゃんが持っていた扇子が開かれ、そこには『世代交代』と書かれている。まさかたっちゃんから挑戦を薦められるとは思っていなかった。

 

「つまり、もう一度俺と生徒会長の座を賭けて勝負しろって事だな。あと一年しか歳違わないから世代交代ってのはちょっと違う気がすると思うんだが」

「そういう細かい所に突っ込まないの。兎に角、私に勝ったらノリ君はISLANDERS入り決定よ」

「負けたときは?」

「その時は私の小間使いとしてISLANDERSに入ってもらうわ。勝っても負けてもISLANDERS入りは確定だけど、負けたときは凄い恥ずかしい思いをしてもらうわよ?」

「ああ、それでいいだろう。でも今回は俺も負けねぇぞ?」

 

初めてたっちゃんと一緒に戦った日、自分とは圧倒的に違う力量を見せ付けられ俺は衝撃を受けた。そしていつからか俺はたっちゃんの強さに憧れるようになっていた。

そんな憧れと俺は直接対決を行い、一撃も与えることなく敗れ去った。その時からだ、いつかこの憧れの強さを越えたいと思うようになったのは。

たっちゃんを倒せば俺は自分の事を堂々と強者だと言う事が出来る、俺にとってたっちゃんこそが強者の基準となっているのだ。

 

「ええ、それでいいわ。戦いの中で何をやっても構わない、だからノリ君の本当の力を見せて頂戴」

「ん、何をやっていいのか? だったら相当エグイ事するぞ俺は」

「ええ、いいわよ。じゃ、私達の戦いは……そうね、10月31日の土曜日にしましょうか」

「いいだろう。それに俺の誕生日も近いし、俺が勝ったら誕生日兼IS学園生徒会長就任パーティーでも開かせてもらおうか」

「それはいいわね、勿論私も呼んでくれるんでしょう?」

「当たり前だ、前生徒会長として思いっきり道化を演じてもらうぞ?」

 

俺とたっちゃんはほぼ同時に不敵な笑みを浮かべる。初めてたっちゃんと戦った時、俺にはたっちゃんを倒すための全ての要素が無かった。しかし今は違う、あの時からずっと俺は心のどこかでたっちゃんを倒す方法を考え続けていたのだ。そして織朱を手に入れた今、その答えを見つけることが出来た。

 

「さて、私達が戦うのも決定したわけだし早速放送部の部室に行きましょう」

「放送部がこの戦いに何の関係があるんだ?」

「煽りVを撮影するように頼んでるのよ、折角のイベントなんだし盛り上げなくちゃ」

「気合入ってんな、まぁ俺もそういうのは嫌いじゃないぜ? ラウラ、お前はどうする?」

「ああ、私は部屋に戻らせてもらおう。色々整理しておきたいことがある」

「そうか、気をつけて帰れよ」

 

そう言いながら俺達は生徒会室を出て二手に別れる。

今度こそ勝ちたい、そして俺の勝利をもってたっちゃんに恩返しをするのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここ……か」

 

今私はIS学園学生寮特別室の前に立っている、以前ここで酷い目に遭った私としてはあまり良い思い出のある場所ではない。

しかしながら私はここに居る、何故かと言えば藤木にここに来るように呼び出されているからだ。

 

「あれ、箒も呼び出されたの?」

「……癒子か、もしかしてお前も?」

 

私に話しかけたのは寺生まれのTさんこと谷本癒子、ここでの戦いで私達を救い出した霊能力者である。

 

「ええ、そうよ。藤木君にここに来て欲しいって」

「癒子と私と藤木……このメンバーで連想させられるのはもうアレしかないか……」

 

この三人の共通点、それはあの日特別室横の部屋で戦ったメンバーであるという事だ。最後のメンバーである一夏が欠けているのも気になるが、大体そんな感じだろう。

 

「さて、行きましょうか」

「ああ、そうだな……」

 

癒子がドアを開ける、そこには藤木の姿と共に異様な光景が広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ、いらしゃい。来てくれてありがとう」

 

開け放たれたドアから篠ノ之さんとTさんの姿が見える、そして二人の顔は驚愕に染まっていた。まぁ無理もない、この光景は一般人から見れば失神物だろう。二人は一般人というわけではないが。

 

「こ、これは……大丈夫なのか?」

「大丈夫大丈夫、他の人にはあまり見られたくないから早く入って来い」

 

そう言うと二人は渋々部屋の中に入ってくる、しかしそれでも二人はこの部屋をきょろきょろと見回していた。

こんな反応も無理はないと思う。この部屋の中では掃除機が唸りを上げて床のゴミを吸い取り、左官道具が壊れた壁の見栄えを整えるため壁にセメントを塗りたくり、ベットに敷いてあった布団が窓にかけられ叩かれている。但し全部無人のという注釈が付くのだが。

そしてなにより目立つのがこの特別室の天井でぐるぐる回っている二機のビット、言うまでもなくゆうちゃんと霊華さんである。

 

「霊華さーん、お茶持ってきて」

 

俺がそう言うと隣の部屋の簡易キッチンからお茶の入った急須と湯呑みがゆっくりと飛んできて俺の座っている目の前のテーブルに置かれる、そして急須からお茶が注がれる。勿論俺はその間何もしていない。

 

「まぁ、座って。色々話したい事があるから」

「藤木君、もしかして……」

 

警戒心を強めるTさんの体から青白い光が漏れ出す、その光を見たであろうビット二機が慌てて俺の後ろに隠れた。

 

「ちょ、ちょっと待ってTさん! 大丈夫だから!」

「大丈夫? これのどこが大丈夫なのよ! あなたたち、私と戦って懲りたと思ってたんだけどまだ諦めてなかったのね?」

『ひぃいいいいっ!』

『お、お助けええええっ!』

「Tさん、話を聞いてくれ! もうこの二人は敵じゃないんだ!」

「敵じゃない?」

「ああ、そうだ……あれは、確か……」

 

依然警戒を続けるTさんに以前あった織朱の一次移行の話をする、するとTさんの警戒心も解けてきたようだ。

 

「そう、つまりこの二人は藤木君の協力者ってわけね?」

「ああ、そしてこの二人こそが俺の強さの秘密だ。今除霊しようってんなら俺が相手になるぞ?」

「専用機を織朱に移行してから不自然なほど藤木が強くなったっていうのはそういう秘密があったのか」

「そうだ、そして出来ればこの秘密は誰にも話さないでほしい」

「自分から話しておいてばらさないでほしいとは不自然だな、だったら最初から話さなければよかったじゃないか」

「この二人によると、どうやらお前達にはゆうちゃんと霊華さんの存在に気付く可能性があるそうだ。特にTさんにいきなり除霊されるとかなりマズイからな、というわけで先に告白したというわけだ」

「そう、それで話は終わり?」

「いや、これからが本題だ」

 

今の俺はたっちゃんを倒すために色々と準備している、そのためにはどうしてもこの二人がネックになってくる。

 

「今俺がもう一度生徒会長の座に挑戦してるのは知ってるな?」

「ああ、勿論だ。あの煽りVTRなら何度も見させられたしな」

 

今、食堂のテレビモニターや学園内のいたるところで俺とたっちゃん出演のVTRが流されている。この学園の生徒なら知らないやつは居ないだろう。

 

「それでだ、今からこの二人が起こす現象を見逃してほしいんだ」

「藤木、お前一体何をするつもりだ?」

「たっちゃんは俺に何でもしていいって言った、だから何でもしてやるのさ。そう言った事を後悔させるような事をね」

「つまりこの学園で不思議現象を巻き起こすからそれを見逃せという事ね」

「そうだ、頼む。とりあえずTさんにはこれをあげよう」

 

そう言って俺はTさんに一枚の紙を差し出す、そこには『IS学園学生食堂デザート食べ放題チケット』と書かれている。ついでに期間は一ヶ月、その間デザート食べ放題である。

 

「ふっ、そんな……」

 

Tさんがチケットを手に取る。

 

「安い手で……」

 

Tさんがチケットを眺める。

 

「私を買収しようなんて……」

 

Tさんの目が輝く。

 

「安く見られたものね、私も!」

 

Tさんはチケットをポケットに仕舞いこんだ。俺の完全勝利である。

 

「ああ、悪かったな」

「藤木君、突然なんだけど今私の能力が消えたわ。多分11月1日まで力が戻らないからこっくりさんとかしちゃだめよ。じゃ、私急用が出来たから帰るわね」

 

そう言ってTさんは部屋から出て行く、多分食堂に直行するんだろう。

 

「癒子……あいつ、随分安い女だったんだな」

「おにゃのこはデザートに目がないからな、というわけで今回の一件は黙っていてほしい。もうデザートチケットが無いから何も渡せないんだが」

「構わないさ、友人の頼みなら断れないだろ」

「ふむふむ、篠ノ之さんはデザートすら要らない安いどころか無料の女だと」

「全部バラすぞ?」

「すみませんでした」

 

とりあえず頭を下げる。しかしこれで俺の策は決まった、今度こそたっちゃんには文字通りの悪夢を見せてやる。

とある格闘家が言っていた、試合をする前には肉体的なものだけではなく精神的なものの準備が必要であると。ならば試合前に肉体と精神の両方に深刻なダメージを与えてやる。たっちゃんは何でもしていいと言っているんだ、だったら彼女が想像もつかない酷い目に遭ってもらおうじゃないか。


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