インフィニット・ストラトス ~栄光のオリ主ロードを歩む~   作:たかしくん

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第73話 彼女達の栄光

一陣の風が吹きすさぶ、その風は土埃を払い目の前の相手の姿を露にした。

 

「ふうぅぅぅぅぅっ」

 

目の前の相手が纏う打鉄には傷一つ無い、さっきガトリングガンの連射を受けているはずなのだが……

 

「へぇ、やるぅ」

「まぁね、この位出来ないと代表候補生は務まらないわよ」

 

相手は一切ダメージを負っていないようだ、多分ガトリングガンの弾丸全てをその近接ブレードで斬ったり弾いたりしたのだろう。

 

相手はおもむろに近接ブレードを両手に持ち、瞳を閉じ前に掲げる。その光景は今まで何度も見てきた。あれは彼女なりの精神集中の儀式で、これが終わるときっと彼女は猛攻を仕掛けてくる。そうなれば最後、私達のどちらかが倒れる事になる。私が倒れるか、彼女が倒れるかは五分五分だがいつもそうだった。

 

「……行くよ?」

「……いつでも」

 

彼女は近接ブレードで二度空を切り、下段に構える。これもいつもの動きだった。そして私もランスを構える、緊張で喉が渇いてきた。

 

「……ふっ!」

 

その声と共に相手が突撃する、そしてそれに合わせるようにランスを突き出す私。そしてその先端は彼女を捉えた、はずだった。

 

「やっぱりか!」

 

反射的に右を見るとそこには近接ブレードを上段で構えて突撃してくる相手の姿、さっき私がランスで突いたのは残像だったのだ。

 

「はああああっ!」

「まだまだっ!」

 

相手の振り下ろしをランスで受け止めるとそこに火花が散る。彼女は一撃で仕留められないと見るとすぐさま後退し、姿を消す。

彼女の武器はこの機動にある、その残像すら出てくるスピードはもう打鉄が出せるようなものではない。しかしそれを彼女はその技量で成し遂げている、本当に怖い相手だ。

そこから矢継ぎ早に繰り出される攻撃と残像のフェイントを私はなんとかいなしていく、しかしそれに対応する度に集中力は削れていった。しかしそれは相手とて同じこと、この高速戦闘が彼女の負担になっていないわけがないのだ。

となるとどちらの集中が途切れる時勝負は決まる。だから彼女と戦いたくないんだ、勝っても負けても死ぬほど疲れるから。

 

「そこっ!」

 

突如目の前に躍り出る相手、急に見えたそれは今まさに私を突き刺そうとしている。しかし、それは多分残像だ。今までの経験則から言って相手は左右どちらかから仕掛けて来る、こうなると実力差とか集中力なんてあったもんじゃない、私達の勝敗は私の選ぶ二択で決定するのだから。

 

「こっち!」

 

そんな考えの中私は左にランスを突き出す。ああ、どうか当たってますように。

 

「がはっ!」

 

ランスからは確かな手応えを感じる、そしてランスを受けた相手は大きく吹っ飛んだ。どうやら今回は私の勝ちのようだった。

 

「だ、大丈夫!?」

「ああ、うん……でも疲れた~もう駄目だ~」

 

吹っ飛んだ相手は土の上で大の字になって寝転ぶ、その姿はさっきまでのと打って変わってだらしなかった。

 

「ええと、これで何勝何敗だっけ?」

「8勝7敗2引き分けであんたの勝ちよ、刀奈」

 

刀奈というのは私の名前だ、他の人達には別の名前を名乗ってるけど彼女には本名を教えていた。

 

「いよっし! 一歩リードっ!」

「あーあ、私にもあんたみたいに専用機があればな~。専用機さえあれば私の圧勝なのにな~」

「幽貴、あなたもロシアに来る? あなたの実力だったらグストーイ・トゥマン・モスクヴェなら用意できるわよ?」

「えー、それはやだ。だってあれってだたのポンコツだもん」

「そのポンコツに乗ってる私にあなたは負けたんだけど」

 

確かにこのIS、グストーイ・トゥマン・モスクヴェは動きが鈍いし故障も多い。いずれ改良をほどこさなくては私は本当に幽貴に勝てなくなってしまうだろう。

 

「あーあ、専用機欲しいな~。出来れば今話題の第三世代ってやつが」

「グストーイ・トゥマン・モスクヴェも第三世代なんだけど……」

「やだやだ、ロシア製のすぐ壊れるISなんてやだ! 私は国産の最新型が欲しいの!」

 

幽貴は駄々っ子のように手足をじたばたさせる、こうなった幽貴は何を言っても聞かない。もうどうしようもないので、私は幽貴の気が晴れるまで待つことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うふっ、うふふふふっ」

「なにあれ、気持ち悪い」

「さぁ……」

 

それから数日後の教室、幽貴は教室で気持ち悪い笑みを浮かべていた。その原因はたぶん幽貴が持っている書類にあるのだろう、幽貴はそれを見ながらずっとにやにやしているのだから。

 

「ゆうちゃん、一体なにがあったの?」

 

そんな幽貴に霊華が質問を投げかける、そんな霊華に幽貴は待ってましたと言わんばかりに振り返る。そして笑顔が気持ち悪い。

 

「ふっ、よく聞いてくれました! なんと私に専用機が作られるんだよ!」

「ええっ! 本当!?」

「うん、その名も白式! 倉式技研開発の最新鋭近接機だよ!」

 

そう言いながら幽貴は書類の束から白式のデザインイラストを私達に見せ付ける、それは白い翼が印象的なデザインだった。

 

「これで私は連勝街道まっしぐらだぜ、もうロシアのポンコツには負けないもんね!」

「ああ、それなんだけど……」

「ん、なに?」

「私もグストーイ・トゥマン・モスクヴェをベースに新しい機体を作る事にしたわ、確かにあれがポンコツなのは否めないし幽貴が専用機を持ったら負けちゃうかもしれないしね」

「なん……だと……?」

 

そういうわけで、私も新機体完成に向けて邁進中である。今は構想の段階だけどきっと幽貴の白式にも負けない性能を持つはずだ。

 

「ええええっ、そりゃないよ!」

「ごめんね?」

「いや、新機体を作るのはいいさ! でもね、そういうのって一回私にコテンパンにされてから今のままじゃ勝てないって感じになって作るもんだろうに! と、兎に角作るの禁止! せめて私に負けてからにしてよ! そうじゃないと盛り上がらべしっ!!」

 

その瞬間、幽貴の頭に拳骨が落ちる。それを落とした主は言うまでもなく我らが担任である織斑先生だった。

 

「天野、チャイムが鳴ったのが聞こえなかったのか? お前達も席につけ、ホームルームを始めるぞ」

「し、舌噛んだ……お、織斑先生! 可愛い後輩にこの仕打ちはないんじゃないんですか!?」

「誰が可愛い後輩だ、私の目の前にはムカつく生徒しか居ないが」

「仮にも教師の発言とは思えない酷い言い草だ! ああ、前任者がこれじゃ日本のIS業界もお先真っ暗だ……」

「お前まだ国家代表になっていないだろう、有力候補とはいえそういう態度ではなれるものもなれないぞ?」

「ええ……偉大なる前任者も人格面ではどっこいどっこいだと思うのに……」

「ほう、偉大なる前任者とは誰の事だ?」

「さ、さぁ……」

 

幽貴があからさまに目をそらす、その顔からは冷や汗が滲んでいた。

 

「そ、それより織斑先生。私にもついに専用機が出来るんですよ! これは私に国が期待してるって事でよろしいんじゃないでしょうか!?」

「ふむ、それは良かったな。だったら今後お前には死ぬほど厳しく指導してやろう。なに、気にするな。偉大なる前任者からのエールだと思ってくれていい、私もお前には期待しているからな」

 

織斑先生が意地の悪い笑みを浮かべ、幽貴の顔が更に青くなる。そんな感じでこの時間は過ぎて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼しま~す」

 

そう言いながら私は生徒会室のドアを開ける、何故この部屋に来たのかというと生徒会長に呼び出されたからだ。

 

「あっ、お嬢様。ご足労いただきありがとうございます」

「ううん、いいのよ虚。そもそも私を呼び出したのは生徒会長さんなんだから」

 

そう言いながら私は虚に指示された椅子に座る。布仏虚、私の従者でありこの学園の先輩でもある彼女は生徒会役員でもある。

そして私を呼び出した生徒会長はというと……

 

「ぐが~……すぴ~……」

 

生徒会室の隅においてあるソファーでお昼寝の真っ最中だった。

 

「不動先輩、お客さんがいらっしゃいましたよ」

「ん、んん。……もうそんな時間?」

 

そんな生徒会長を虚は優しく揺り起こす、不動と呼ばれた生徒会長は眠そうに目を擦りながら体を起こした。

 

「虚ちゃん、お茶」

「はいはい、ちょっと待ってくださいね」

 

不動生徒会長は呼び出した私を気にすることなく差し出されたお茶を一気飲みする、そしてその後大きな溜息をついて私に視線を向けた。

 

「……おはよう」

「お、おはようございます」

 

そう挨拶した不動生徒会長は相変わらず眠そうだ。そしてこの生徒会長、何の理由で私を呼び出したのだろうか。

 

「ふぁぁ……眠い……」

「あの、早速なんですが私を呼び出した理由を教えてもらえませんか?」

「……ああ、そうだったね。そう言えば君は私が呼び出したんだった」

「あの、大丈夫ですか?」

「それが大丈夫じゃないんんだよね、卒業制作とか生徒会の仕事で睡眠時間が足りなくてね。というわけで更識楯無さん、君に生徒会長をやってもらいたいんだけど」

「はい?」

 

この人本当に大丈夫なんだろうか、私は入学してからまだ一ヶ月も経ってない。それなのに生徒会長とは些か非常識だ。

 

「え、それは……」

「ああ、言っておくけど拒否権はないからね。IS学園生徒会長とはこの学園最強と同義だ、そしてその称号と同時にこの学園内で絶大な権力を持つ事になるんだよ。ついでに面倒な仕事も山ほどついてくるんだけど」

「で、でも学園最強って事はISを使って勝負しないといけないんですよね?」

「いや、別に。とりあえず生徒会長はなんらかの勝負をして負ければ交代になるわけだから、勝負と名のつくものならなんでもいいよ。ということでジャンケンで勝負しようか」

「えっ、そんな勝負でいいんですか?」

「いいのいいの、というわけでじゃんけんぽん」

 

とっさにそう言われて私は反射的にパーを出した、そして不動生徒会長が出した手はチョキ。とりあえず私の生徒会長挑戦の勝負はあっさりと敗北が決まってしまった。

 

「はははっ、まぁこういう事もあるか。という事で二回戦行くよ。それとこの勝負、君が勝つまで続けるから」

「それって出来レースじゃないですか」

「私に目をつけられた不幸を呪うといい、まぁ虚ちゃんの推薦があったからなんだけどね」

「う、虚……」

「す、すみません……」

 

どう転んでも私が生徒会長になるのはもう決まってしまった事らしい。仕方ない、今でも充分忙しいんだけど腹を括るしかないようだ。

 

「じゃーんけーんぽん」

 

そして二回戦が始まる。私の手はグー、不動生徒会長の手はパーだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃーんけーんぽん!!」

 

二十回目の勝負、私の手はチョキ、不動生徒会長の手はグーだった。

 

「ま、また負けた……」

「なぁ、お前わざとか? なんか凄い反射神経とか使ってわざと負けてるのか?」

「いや、そんなつもりはないんですけど……」

 

本当にそんなつもりは無かった、しかしこんなにじゃんけんで負けまくるとは自分至上でも初のことだった。

 

「もういいや。更識さん、次パー出してね」

「本当に出来レースになってきましたね」

「それもこれも君がクソ弱いのがいけないんだ、ここまでじゃんけんが弱い奴も初めて見たよ。っていうかじゃんけんで二十連戦するのが初めてだよ」

「すみません……」

「もういいって、というわけで最後の勝負をはじめようか」

「そうですね」

「行くよ、じゃーんけーんぽん!」

 

二十一回目の勝負、私は言われた通りにパーを出す。そして不動生徒会長はグーを出していた。

 

「いよっし! これで面倒な仕事とはおさらばだ! というわけで新生徒会長、頑張ってね!」

 

そう言った不動前生徒会長改め不動先輩はダッシュで生徒会室を後にする、そんなに忙しいのだろうか、生徒会というのは。

 

「……生徒会長に、なっちゃった」

「おめでとうございますお嬢様、早速で悪いんですがこの書類をお願いしますね」

 

にこやかに笑う虚が差し出したのは山と言えるほどの書類の束。あれ、これって……

 

「え、もしかして早速お仕事?」

「はい、不動先輩って仕事を溜め込む癖があるので……」

「あの、引継ぎとかは?」

「あっ、そう言えばやってませんよね」

「っ! そういう事か!」

 

私はその言葉と共に生徒会室を飛び出す。多分私はハメられたんだ、不動先輩の仕事を肩代わりさせられるために!

 

「待てええええええっ!」

「ちっ、もうばれたか!?」

 

私を見つけた不動先輩が走り出す、しかしスピードの差があるのかその距離は徐々に縮まっていく。

 

「っ、捕まえたあっ!」

「は、放せっ! 私はもう生徒会とは関係ないんだ!」

「そうはいきませんよ。生徒会長命令です、不動先輩、あなたを生徒会副会長に任命します!」

「おっ、横暴だ! それにもうあの仕事は嫌なんだ!」

「横暴なのはどっちですか! それとも人を騙すのは横暴じゃないんですか!?」

「いーやーだー! 戻りたくなーい!」

 

そう言う不動先輩の襟を掴んで私は生徒会室まで引き摺っていく、こうして私のIS学園生徒会長ライフは幕を開けることとなったのである。

その時の私は思ってもいなかった、こんな日の翌日に人生最悪の悲劇が始まる事なんて。




捏造&独自設定もーりもり

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