インフィニット・ストラトス ~栄光のオリ主ロードを歩む~ 作:たかしくん
10月31日午前9時、30分後に迫った俺とたっちゃんの決闘に備えて俺はウォーミングアップのためIS学園の中をジョギングしていた。
すると、決闘前だというのにベンチで舟を漕いでいる対戦相手、たっちゃんを発見した。
「おい」
「…………すぴー」
寝てる、このお方完全に寝ていらっしゃる。30分後には俺との決闘を控えているのにこの状態で大丈夫なのだろうかという気もするし、11月を翌日に控えたこの寒空の下で寝ていては風邪をひいてしまうかもしれないので、とりあえず起こしておこう。
というわけで何故か持っているスリッパでたっちゃんの頭を思いっきり叩いてみた。
「いたっ!?」
「おはよう、よく眠れたか?」
「……あ、ノリ君」
たっちゃんの顔には深い隈が出来ている、いつも寝不足で過労死寸前の彼女だがここまで症状が酷いのは初めて見る。
「おいおい、どうしたんだよその顔。寝不足ってレベルじゃねーぞ?」
「あ、うん。ちょっと色々あって……」
「そんなんで今日の戦い大丈夫なのか? 寝不足を敗北の言い訳にされたらこっちとしては堪ったもんじゃねぇぞ?」
「あー、大丈夫。戦いはちゃんとやるから」
そういうたっちゃんの声は大丈夫な感じは全くしない、というわけでこれまた何故か持っている強○打破を俺はたっちゃんに差し出した。
「これは?」
「敵に塩を送るって訳じゃないけど、これ飲めば少しは良くなるだろ。こっちだって今日のために色々仕掛けを用意してるんだ、全部出し切るまで倒れてくれるなよ?」
「そうだったわね。じゃ、お言葉に甘えて……」
たっちゃんは強○打破を受け取り、一気飲みする。そしてその後、いかにもまずそうな顔を見せた。
「ああ、この胃がやられる感覚嫌いだわ」
「そこに文句を付けるか、折角持ってきてやったのに」
「ごめんごめん。じゃ、私行くね。色々準備しないといけないから」
「ああ、今日は華々しく散ってくれよ」
「もう勝つ気でいるのね、でもそう簡単にいくかしら」
「まぁ、勝つ気で準備してるからな。今回はマジで本気だぜ?」
「そう、だったら頑張ってね。おねーさんも応援してるから」
そう言ってたっちゃんは立ち上がり、強○打破のビンを近くのゴミ箱に投げ捨て去っていく。俺はそれを見送り、その姿が見えなくなった後ゴミ箱からさっきまでたっちゃんが飲んでいたビンを回収した。
「今回ばかりは負けるわけねーよ、俺の作戦は完璧だからな」
そんな独り言を言ってみる。さて、全ての準備は整った。後は戦いの時を待つだけだ。
それから30分後、IS学園第一アリーナは熱狂の渦に包まれていた。放送部作成の煽りVのお陰かアリーナは超満員御礼、陸上部がブックメーカーとなり俺とたっちゃんのどちらが勝つかを予想させる。ちなみに俺の所にも来たので、俺は財布の中の全ての紙幣を俺が勝つほうに投入しておいた。
寒風吹き荒れるアリーナ、そして目の前には対戦相手のたっちゃん。その表情は30分前よりは幾分マシに見える。
実況が客を煽る、そしてけたたましく俺達の試合開始を告げた。
ゴングと共に俺はアンカーアンブレラを展開、それ呼応するようにたっちゃんもランスを展開した。しかし俺は一歩も動かない、そしてたっちゃんも何かを待っているかのように動きを止めていた。
「ところでたっちゃん、昨日の金曜○ードショー見たか?」
「いいえ、見てないけどそれがどうしたの?」
昨日の金曜○ードショーでは、平民が馬上槍試合で立身出世を果たす映画が放送されていた。中世を舞台にしながら現代の音楽が取り入れられたその作品は中々面白く、俺は最後まで見てしまった。という事をたっちゃんに説明する。
「というわけでそれっぽい事したいんだがどうだ?」
「それがノリ君の策略?」
「まぁ、そんなもんかな。よければ付き合ってほしんだが」
「そうね、簡単に言えば交差する瞬間にお互いを突き合えばいいんでしょう?」
「ああ、という事でやってみよう」
その言葉と共に俺とたっちゃんは大きく距離を離す。そしてその時、霊華さんが話しかけてきた。
『藤木君、それは予定にはないはずなのですが』
「いーのいーの、戦いなんてのは結局はその場のノリが重要なの」
『そいういうものなんですか……』
「そういうもの!」
俺はアンカーアンブレラを構えて
交差する直前、俺は進路を変えて右に曲がる。それと同時に強粒子砲でたっちゃんの居るであろう場所へ狙いをつける、が、そこにはたっちゃんの姿はなかった。
「おい、真っ直ぐ来いよ!」
「それはお互い様でしょう!?」
たっちゃんも俺が曲がると同時に進路を替え、俺達の距離は大きく離れる。そしてたっちゃんは俺目掛けてガトリングガンを放ってきた。
「ちっ、そっちがその気ならこっちもやらせてもらう。早速だが切り札を切らせてもらう!」
その声と同時に二機のビットが織朱から射出される、もちろんゆうちゃんと霊華さんだ。
「一応聞いていたけど本当にビットを使えるようになるとはね」
「悪りぃな、俺は特別なんだ」
ガトリングガンの弾丸を避けながらたっちゃんに迫る二人、それを見るたっちゃんは少し驚いた表情をする。
「くっ、中々の精度ね」
「こいつらは強いぞ? ロシアの国家代表を倒した無人機を一対一で押さえられるからな」
「そりゃ、凄いわねっ!」
二人から放たれるビームを事も無げに避けるたっちゃん、中々やりおる。
「よし、一対三だ! 卑怯なんて言ってくれるなよ」
「一対三……つまりこのビットはノリ君が動かしてない……?」
「正解っ! そして、俺に勝ったらこのカラクリも教えてやろう!」
そう言いながら俺も強粒子砲を放つ、しかしそれはたっちゃんの水のヴェールで防がれた。
いい感じだ、以前戦った時よりかなり早い状況でたっちゃんに一撃当てることが出来た。俺はあの時より確実に進歩しているんだという事が実感出来た、正直嬉しい。
「エネルギー兵器なんて私には効かないわよ?」
「射撃武器がエネルギー兵器しかないんだ、仕方ないね」
たっちゃんにエネルギー兵器が効かないのは百も承知だ、だがあくまでこれはコース料理で言うところの前菜、俺はまだ本気を出しちゃいない。
「さて、フェイズ2に参ろうか!」
俺は強粒子砲とアンカーアンブレラを収納しエムロードを展開、ここからはこいつ一本で戦い抜くつもりだ。
「だったらっ!」
たっちゃんは二人の攻撃をかわしながら水の蛇腹剣を展開、それを俺へと伸ばしてくる。
「効かぬっ!」
伸びてきた触手のような水を切り裂くと、切り裂かれた先端は力なく地面へ落ちる。俺はそのままたっちゃんを切り裂こうと、一気に近づいていく。
「だらあああっ!」
「くっ……」
エムロードをランスで受けるたっちゃん、俺は超振動を発動する。そうすると俺とたっちゃんの間で火花が散り、エムロードは徐々にランスに埋まっていく。
「どうした、メインウェポンが壊れちまうぞ?」
「うん、でもこれでいいの」
「はい?」
たっちゃんはこの体勢のままガトリングガンを発射、勿論至近距離に居る俺はその弾丸のほとんどを体に受けてしまう。
「があああああっ!」
「やっぱり状況判断が甘いわね、誘われている事に気付かなかった?」
俺はやむなくたっちゃんと距離を取る、やはり根本的な部分ではたっちゃんにはまだ敵わないようだ。
『藤木君、大丈夫?』
「なんとかな、フェイズ2は失敗だ。フェイズ3に移行するぞ」
『了解! ついに私達の本領が発揮出来るわね!』
そう言う二人が織朱にドッキングする、未だたっちゃんにダメージを与えられていないがここから本気を出させてもらおうか。
「ビットはもういいの?」
「仮に当てられても効かなきゃ意味ないだろ。でもまだこれからだ」
俺はだらりと両手の力を抜く、俗に言うノーガード戦法ってやつだ。
「誘ってる?」
「うん、来いよ。刀奈ちゃん」
「…………その名前、何処で知ったの?」
更識刀奈、たっちゃんの本当の名前である。この名前、通常では伏せられているらしく。多分この学園の中では簪ちゃんと虚さんと本音ちゃん位しか知らないだろう、しかしそれにも例外がある。いや、あった。
「天野幽貴、って言ったらどうする?」
「また厄介な名前出してきたわね。でも、その冗談面白くないわよ?」
天野幽貴、彼女はたっちゃんがここに来て初めてできた親友。そして本名すら預けられる相手であった。
「まぁ、ノリ君が私を挑発しようとしているのは解るわ。その名前も三津村が調べたのかしら?」
「実は俺、イタコだったんだ」
「本当……つまらない冗談」
一際厳しくなった表情のたっちゃんがランスを構える、それには水が渦巻いており殺傷力も強化されていそうだ。
「行くわよ?」
「いつでも」
その直後、突撃してくるたっちゃん。そして俺は未だにノーガード、だからと言って何もしないというわけじゃない。
「――っ!?」
たっちゃんは驚き大きく目を見開く、そしてその動きが止まる。それもそのはず、俺とたっちゃんの間にはゆうちゃんの幻影が姿を現したのだから。
「その隙、貰ったナリいぃぃぃぃぃっ!!」
俺はエムロードを構え、ゆうちゃんの幻影ごとたっちゃんを突く。混乱している所に予想外の一撃、流石のたっちゃんと言えどそれを避けるのは出来なかったようだ。
俺の一撃を受けたたっちゃんは大きく後退する。やったぜ、ついに念願のダメージを与える事に成功した。
「あぎゃぎゃぎゃっ! どうした、悪い夢でも見たか!?」
あの幻影、俺とたっちゃんしか見えない特殊なものだ。というかゆうちゃんが作り出したものだ。観客は俺に攻撃するたっちゃんが急に動きを止め、反撃を食らうという場面に驚きを隠せないようでざわざわしている。
「どういう事、これは……」
「だから俺はイタコって言っただろう、死人を召喚するなんてお手の物さ」
さて、ここから一気にクライマックスへ突入だ。今日まで散々仕込んできたんだ、全部受け止めてくれよ? たっちゃん。
「さて、ここからフェイズ4だ」
「さっきからフェイズがどうとか訳の解らないことを……」
「気にすんなって、残すはファイナルフェイズだけだ。そしてその時、俺は勝つ」
「本当に勝つ気でいるのね」
「当たり前だろ、ここ最近まともに寝てない奴に負けるわけがない。寝ようとしてもあの悪夢のせいですぐ起こされちまうもんな?」
「何でそこまで知ってるのよ?」
寝不足のたっちゃんの顔が更に厳しくなる。それも致し方なし、自分が悪夢を見ている事を俺に知られているなんてありえないのだから。
「俺は全部知ってるぜ? たっちゃんが最近寝ていないこと、見ている悪夢の内容、そして天野幽貴が死んだ事故の本当の原因もな!」
「本当の原因ですって? あれは単なる事故だったはず……」
深刻な寝不足のたっちゃんの脳はもうまともに機能していない、だからこんな俺の戯言にも耳を貸してしまう。そして俺はそこにつけ込む、これから行うのは外道の戦法だ。
「そう、あの事故は最初から予期されていたんだよ」
「そんな事ありえない、三津村の部品は正常に機能していたわ。だったら誰も事故が起こるなんて予想できなかったはず」
「ところがどっこい! それでも事故を予期できる人物がたった一人だけ居たんだ!」
大仰な身振りで、そして芝居ががって居るかのように俺は喋りだす。ここから衝撃の事実をお伝えしたいと思う、そうすればたっちゃんの心更に掻き乱すことが出来るはずだ。
「その名は天野幽貴! その事故で死んだ張本人だ!」
「――っ!」
「憶えてるか? 天野幽貴は授業の最初に織斑先生と模擬戦で戦った、そしてその時天野幽貴が取った戦法は?」
「……あの残像を産み出す特殊な機動」
「はい正解! その名も
唐突に始まるクイズショーに観客も更にざわつく、それにさっきから俺達は戦いをやめて喋ってばっかりで普段の模擬戦とは違うのもこのざわつきの一因だろう。
「……そんなの知らないわ」
「ざーんねーん、正解は搭乗しているISの駆動系を中心にに非常に重い負荷が掛ることでした~」
「ISに掛る負荷……もしかして!?」
「そう、天野幽貴が乗っていた打鉄の内部は織斑先生との模擬戦を終えた時点でボロボロだったんだ。そしてそれに聖沢霊華が乗った瞬間、どーんってね」
「そ、そんな……」
「つまりあの事故は天野幽貴の自業自得だったんだよ、ISが壊れかけていたことに気付いていたにも関わらず彼女はそれを報告するのを怠ったんだ。事故調査委員会の最終報告である初心者が乗ったことにより掛った想定外の負荷なんていうのは最初から存在しなかったんだ、負荷は既に彼女自身が掛けていたんだから」
「う、嘘よそんな事」
「死んだ彼女が俺に囁くのさ、信じられないのは構わないけど今俺が言ったことは全て事実だ。そして天野幽貴は……たっちゃん、あんたを死してなお恨み続けている」
『いや、別に恨んでないけど』
「だまらっしゃい」
いきなり突っ込みが入る、でもそんなのは無視だ無視。
「恨み? そんなものを買った覚えはないけど……」
「どの口が言うか、あんたは天野幽貴が言った死に際の願いを叶えられなかっただろうが! 結局聖沢霊華は死んじまった、どれもこれもあんたのせいだ!」
『あー、うん。そんな事も言ってたなぁ』
「なんで、そんな事まで……」
たっちゃんの顔が絶望に染まる、自分しか知りえない事実を俺に知られあまつさえ霊華さんの自殺の責任を擦り付けられている。もう彼女の心は俺の掌の上だ。
「更識楯無、お前の罪は俺が罰する。地獄の底で二人に謝ってくるといい。」
『私達、地獄に居ませんが……』
『つーか殺す気? 流石にそれは私らが許さんよ?』
「だから黙ってろって、今いいところなんだから」
その時、たっちゃんの纏う空気が変わる。それは明らかに怒気を孕んでいた。
「ふふふっ、何よそれ。今言ってる事って全部出任せじゃない、ちょっと私の個人情報を知ったくらいでいい気にならないでよね」
「自分の罪が認められぬか、愚かな。……仕方ない、死ぬほど痛い目に遭ってもらうぞ?」
「それはノリ君のほうよ」
次の瞬間、たっちゃんのISであるミステリアス・レイディが新しい装備を展開する。赤い翼を広げたユニットが背中に接続され、たっちゃんが纏う水のヴェールさえも赤く染めた。
「ああ、赤い。お揃いだね」
「これが私のオートクチュール、『麗しきクリースナヤ』。本来ならこれを使う位なら負けてあげてもよかったんだけど」
オートクチュール、専用機専用パッケージであるそれはまさに贅沢の極みといえる。そしてその類のものを俺は持っていない。一応ヴァーミリオンプロジェクトという似たようなものはあるが、あれはあくまで量産機であるヴァーミリオンのためのものだ。織朱とも互換性はあるがそれではもうオートクチュールと呼べないだろう。
「だったらおとなしく負けてくれよ」
「ノリ君、貴方は越えてはいけないラインを超えてしまった。もう許さないわ」
「そうかい、だがたっちゃんがどんなに怒ろうと俺の勝利は揺るがない。さて、ファイナルフェイズだ」
エムロードを構え、超振動を発動させる。そしてたっちゃんに突撃しようとした矢先……
「なんだ……これ……」
沈む、俺の織朱が地面に沈んでいく。そして沈んだ先から動かなくなっていく。
「これが私のワンオフ・アビリティー、セックヴァベック。いわゆる超範囲指定型空間拘束結界よ」
拘束結界といえば思いだすのはラウラのAIC、しかしこれはそれ以上に厄介そうだ。
「さて、終わりにしましょう。ノリ君、反省してね」
目の前ではたっちゃんがランスに水を渦巻かせている、話にしか聞いてないがあれは多分たっちゃんの必殺技ともいえるミストルテインの槍だろう。そしてそこはかとなくARMS臭がするのはきっと気のせいだ。
「やべっ、これは予想外だ。打開策が一切思いつかない」
こんな事を言ってる最中もどんどん沈む俺、この状況でワンオフ一発で逆転されるとは思っていなかった。
『打開策、あるわよ』
「マジか!? 早速頼む!」
『でも、この戦いが終わったら刀奈に謝ってね。あの子、相当傷ついてるから』
「ああ、そりゃ当然だな」
『よし、始めようか。霊華、力を合わせて』
『了解っ、頑張ろう!』
次の瞬間、俺を拘束する地面が揺れだした。
「……地震? こんな時に」
「いや、違う。これが俺の打開策だ」
「打開策!? セックヴァベックにそんなものなんてないはず」
「それがあるんだよ!」
直後、地震は更に大きくなり俺を拘束する地面一帯が破裂し、俺は宙へと舞い上がる。破壊された土はまるで竜巻でも起こっているかのように俺の周りをぐるぐると回っていた。
「空間拘束結界、つまりそれから脱出するにはその空間を破壊してしまえばいい。そしてこれが俺の切り札二枚目だ」
つまり幽霊の二人はこの場所でポルターガイストを起こしたのだ、本当にこの二人便利すぎる。
「さて、これで状況はイーブンだ」
「もしかして……ワンオフ!?」
「ちがいまーす、ぼくワンオフ使えましぇーん。……でもな、この織朱は特別なんだ。さて、折角だし最後の切り札も使っちまおうか」
『最後の切り札って……』
『駄目です藤木君! エッケザックスは模擬戦で使っていいものなんかじゃ』
「いや、いいんだ。たっちゃんは最強の武器で俺を倒そうとしている、だったら俺も最強の武器で迎え撃つしかないだろう」
『しかし、エッケザックスは生涯に五度しか使えないんですよ!?』
「それでもだ。俺はたっちゃんを尊敬している、初めて一緒に戦った時からあの人は俺の憧れだ。そんな人を超えるのに手加減なんて出来る訳がないだろう? というわけで行くぜ。エッケザックス!」
超振動するエムロードが煙を吹き、その刀身を赤く染める。更に中和剤も流れ出しそれに伴い塗料が少しづつ溶けていく。エッケザックス、北欧神話に登場するその剣は最初の所有者である巨人エッケの剣という意味の名を持つ。
それはどんな丈夫な鎧や楯も貫通する威力をもっているのだとか、となればこれ以上に目の前の”楯”を貫くのに適した武器はないはずだ。
「へぇ、それがノリ君の切り札三枚目?」
「ああ、そうだ。でも本当ならさ、こんな事しなくても俺は勝てるんだ」
「随分余裕なのね?」
「そりゃそうさ。試合前に渡した強○打破、あれには遅効性の睡眠薬がブレンドしてあるからな。時間が経てば俺は自動的に勝てるんだよ。そんなのにも気付けないなんて気を抜きすぎだぜ?」
「……っ、卑怯な」
「暗部組織の親玉さんが卑怯? 笑わせんなよ。まぁいい、とにかく気が変わったんであんたを全力で倒す。覚悟はいいな?」
「上等っ!!」
そして俺達は、どちらが先というわけでもなく互いに向かって突撃していった。
「はあああっ!」
「だらあああああっ!」
ぶつかる水の槍と灼熱の剣、一瞬剣の熱が水を蒸発させるもののエッケザックスは徐々に目の前の水に飲み込まれていく。
「ふふっ、真正面から飛び込んできた勇気は認めてあげるけどどうやら駄目みたいね」
「ふっ、それはどうかな?」
そう言った直後、水の槍を形成する水がどんどんと零れ落ちていく。これは俺の狙ったとおりの展開だった。
「えっ、これは……」
「これがエッケザックスの力だ。色々調べさせてもらったがその水はアクア・ナノマシンっていうの物質の塊らしいな。しかしそれは所詮ナノマシン、派手に動かそうとすればエネルギーを消費してすぐに使い物にならなくなる。そしてそのエネルギー補給は常に行わなければならない、ここまでは合ってるか?」
「ええ、そうね」
「そしてこのエムロード、エネルギー兵器を受け付けなくする塗料がたっぷりと塗ってある。そしてエッケザックスはその塗料を気化させて一時的にエネルギー兵器から完全な耐性を持つ技なのさ」
「つまり、その塗料がアクア・ナノマシンのエネルギー伝達を阻害している!?」
「そういう事だああああっ!!」
そう言いながら俺はエムロードを切り上げる、既にたっちゃんを覆う水のヴェールは跡形もなく姿を消していた。
「私の……水が……」
「これで終わりだ、グッバイ」
振りかぶったエムロードをまっすぐたっちゃんに向かって振り下ろす、しかし……
「本当に状況判断が甘いわね、だからあなたは負けるのよ」
俺の腹には水が突き刺さっていた、そしてその水の先にはたっちゃんが握る蛇腹剣があった。
「でも全部ノリ君が悪いのよ、ここまで怒ったのは何年ぶりかしら?」
そうたっちゃんが語る、そして水が突き刺さった俺は微動だにしない。
「……ノリ君?」
相変わらず動かない俺をたっちゃんが不審な表情で見る、そしてたっちゃんは気付いた。
自分の真後ろにもう一人の俺が居ることに。
「迅雷跳躍、これがその真の力だ!!」
その瞬間、俺は真後ろからたっちゃんを切り裂く。たっちゃんが突き刺したのは俺の残像、つまり俺は刺される直前になってゆうちゃんが本来使っていた真の迅雷跳躍を発動させたのだ。
「う、うそ……」
そしてたっちゃんは倒れる。その瞬間、場内のアナウンスが俺の勝利を宣告しアリーナは大歓声に包まれたのだった。