インフィニット・ストラトス ~栄光のオリ主ロードを歩む~   作:たかしくん

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第77話 real

「はぁ、やっと帰ってこれた」

 

あの記者会見から二日後の11月2日、俺はついにIS学園に戻ってきた。会見後に仕事が一気に増えるとは聞いていたがまさか翌日も丸ごと取材に追われるとは思っていなかった。

 

『しかし、あのハッキングは一体なんだったのでしょう?』

「さぁな、しかし二人が居てくれて心強いよ。これで今度こそ奴を倒すことが出来る」

 

昨日あった織朱へのハッキング攻撃は幽霊の二人のお陰で被害を受けることはなかった、状況的に考えて記者会見の報復に兎さんが仕掛けたものだと思うが今となってはどうでもいいことだ。

 

「で、ここか……」

 

そんな事より今俺を一番悩ませている問題がある、それはもちろんたっちゃんの事だ。作戦上仕方ないとはいえ彼女には相当酷いことをした、今後も彼女とはISLANDERSで一緒にやっていくわけだし関係改善は急務である。

 

『ほら、いつまでもウジウジ悩んでないで』

「だよな、もうこうなりゃ出たとこ勝負だ」

 

意を決して保健室の扉を開く。そしてその先で俺を待っていた光景とは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおっ、危ねぇ!!」

 

保健室の扉が開いた瞬間、そこに入ろうとしているのがノリ君だと解り私は反射的に手元のドスをノリ君に向かって投げつける。しかしノリ君はそれをいとも簡単にキャッチしてみせた。

 

「ふむ、どうやら元生徒会長はまだ怒っていらっしゃるようだ」

「そうね、あんな事されて怒らない方がどうかしてるわ」

 

余裕綽々な態度を取るノリ君が気に入らない、私に対してあんな事をしでかしたのにまるで悪びれる様子もないのだから。

 

「まぁ、俺としても悪かったと思っている。しかし何でもしていいって言ったのはたっちゃんのほうだ、ここまでの扱いを受ける謂れはないと思うが」

「それにだって限度ってものがあるでしょう!? 私の過去を晒して不必要に傷つけてノリ君は一体何をしたかったのよ!?」

 

ノリ君が解らない。以前幽貴と霊華の話をしたのは憶えてるけど、まさかこんな風な手を取られるとは思っていなかった。

 

「あんたを越えたかった、あんたは俺の目標だったから」

「…………えっ?」

 

私を……越える?

 

「初めて一緒に戦った時、俺は衝撃を受けたよ。自分ひとりじゃ全く歯が立たない無人機をあんたは華麗に倒してみせるどころか、トドメを俺に譲る余裕さえ持っていた。こんなに強い奴が居るのかって思った。そしてそれからだ、あんたに憧れるようになったのは」

 

今まで散々駄目な所を見られたにも関わらず、ノリ君がそんな風に私を見ていたなんて思いもしなかった。いつの間に私の目も寝不足でくすんでいたのだろうか……

 

「あんたは俺の欲しいものを全て持っていた。絶大なカリスマ、強靭な武力、学園を動かす事の出来る権力。どうすればそれを手に入れられるんだろうっていつも考えてた、その答えは簡単だったがな」

「それが、生徒会長の座……」

「それを使って何をしようってわけじゃないんだ。でも憧れてそれを越えようっていうんなら、それに見合う証が欲しかった。あの更識楯無を倒したという証をな」

「そんなものの、ために……」

 

こんな言葉をストレートに言われるのは得意ではない、でも嬉しくないわけでもない。ああ、彼はずっと私のことを追いかけてくれていたのか。なんだか気恥ずかしい。

 

「ああ、そんなもののためにだ。さて、ここからは世にも奇妙なノンフィクションの話をしよう」

「……なに?」

「天野幽貴と聖沢霊華は生きている」

 

…………なんだか頭が痛くなってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ノリ君、まだ私を怒らせたいの?」

「勿論簡単に信じられる話じゃないのは解ってる、でもマジな話だ」

 

さっきまで少し軟らかくなったたっちゃんの表情がまたしても険しくなる、霊能力者でもないたっちゃんにこの話をするのは多少酷であるのは重々承知だ。でもこの人だけには真実を伝えなくてはいけない、それがたっちゃんを傷つけた俺が払うべき代償なのだ。

 

「そんな法螺話聞き飽きたわよ! 私は二人が死んだところを全部見てるの! ノリ君、あなたどれだけ私を馬鹿にすれば気が済むのよ!」

「そう思うのは解ってる! でもな、これだけは本当の話なんだ。今から証拠を出す」

 

そう言って、俺は織朱のビットを部分展開する。これこそが今の二人の肉体だ。

 

「ビット? だからどうしたのよ、これがあの二人だとでも言いたいわけ?」

『正解っ! ハワイにご招待するよ!』

「え、この声は……」

 

ゆうちゃんの声を聞いたたっちゃんの顔が驚きに染まる。まぁ、これはビットから音声が出ているのではなくて話したい相手に直接念話を送っているのだが。

 

「聞いたろう? あのビットの中にはゆうちゃんと霊華さんの魂が入っている、二人は肉体を失ってはいるがその魂まで消えたわけじゃない」

「そ、そんなの信じられるわけないでしょう!? きっと合成音声か何かで……」

 

まだ信じられぬか。まぁ、俺もあの真夏の恐怖体験があったからこそこの二人を信じれるのだ。ならばたっちゃんにもこの二人の力の片鱗を味わってもらおう。

 

「ええい、面倒臭い。霊華さん、やっておしまい」

『ラジャー! 楯無さん、少し痛いけど我慢してね』

「えっ? ……うっ!?」

 

霊華さんがたっちゃんにテレパシーを仕掛ける、その内容は二人が死んでから今までの事だ。多少脳に負荷が掛るがこれが一番手っ取り早い。

 

「うっ、ううっ……」

「大丈夫か?」

「な、なんとか……でもこれを見せられたら信じるしかないわね……」

 

頭を押さえてるたっちゃんが苦しそうに言う。しかし、この超常現象を信じてもらえたようだ。多少洗脳した感があるけど、そんな事は些細な問題だろう。

 

『あ、あの……ごめんね? 今までの事色々……』

「幽貴、本当に幽貴なのね?」

『うん、久しぶり……』

『私も居るよ!』

「ああっ、霊華……私のせいであなたは……」

『ううん、あれは楯無さんが悪いんじゃないの。弱い私が悪かっただけだから……』

 

たっちゃんの目には涙が滲んでいる、すれ違っていた三人がついに解り合えた光景に俺も思わずうるっとくる。

 

そして俺は気付かれないように静かに保健室のドアを開ける。この展開では俺はお邪魔虫だ、後は三人で仲良く旧交を温めてもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そしてよくもまぁ私の前に顔を出せたな?」

「そりゃ、もうすぐIS学園を出て行くんだから愛しの織斑先生に挨拶を……と思ったんですがね?」

 

そう言いながら俺は鞄からある雑誌を取り出す、それがこの薄暗い部屋の唯一の光源が照らした。

ここはIS学園地下特別区画の一室、以前織斑先生とひと悶着起こした場所だ。

 

「どういう事ですか? 織斑先生がISLANDERSに加わるなんて聞いてませんよ?」

 

俺は雑誌を広げながら言う、雑誌のタイトルは『インフィニット・ストライプス ISLANDERS緊急特別号』。

そこにはISLANDERS加入者の顔写真やプロフィールが並べられており、その中には錚々たるメンバーが名前を連ねている。そして、その中で一番最初に名簿に記載されているのが織斑先生だった。

 

「言っていないからな。ちなみに私はお前より早くメンバー入りしていたぞ?」

「そりゃそうでしょうよ、俺がISLANDERSに入ったのは一昨日の事ですから」

 

正直俺としてはあまり嬉しくない。織斑先生が嫌いなのではなく、俺が勝手に思っているISLANDERS加入の目的の一つに環境を変えるという事があるのだ。そして、今のIS学園では多分俺は進歩しないと思っている。

ISLANDERSには世界のトップクラスの戦士が集っている、あのラウラですら贔屓目に見てもISLANDERSの中では中堅レベルだ。そこに身を置けば俺はもっと質の高い訓錬を行うことが出来る、もっと強くなるためにはあそこは好都合な環境なのだ。しかしそこに織斑先生が居るのであればIS学園とさほど変わらないのではないだろうか。

 

「そんな事よりだ、あの記者会見見たぞ。やはりお前がコアを盗んでいたんだな?」

「いえ、違いますよ。あれは愛しの篠ノ之博士から直接貰ったもので……」

「つまらん冗談はいい、もう怒らないから正直に話せ。あと、お前が愛しの篠ノ之博士などと言うな。気持ち悪い」

 

だそうだ、俺がぶち上げた渾身のジョークは織斑先生のお気に召さなかったらしい。

 

「いえ、あれは本当の話ですよ。臨海学校から帰ってる時に無人機に襲われまして、その時に奪ったコアを使用しています」

「なん、だと!? そんな事私は知らんぞ!?」

「そりゃそうですね、結構派手にドンパチしたんですけど学園のISは助けに来ませんでしたし。まぁ、そこらへんは俺を助けに来なかった慰謝料ということで」

「ちっ……しかし今となってはどうする事も出来ないか」

「ええ、全ての責任は兎さんに丸投げです。あの人って本当に便利」

 

そしてその兎さんこそが俺が本当に倒すべき敵、しかしその居場所すら俺は知らない。ISLANDERSなら彼女の居場所を見つけることが出来るだろうか?

 

「藤木、お前に一つ忠告がある」

「おっ、なんか急に教師らしいですね。一体なんです?」

「ISLANDERSなどというものにに結束はない、気を抜くと足元を掬われるぞ?」

「ん? どういう事です?」

 

ISLANDERS設立の理念は昨今勢いを増すテロリストに対抗するために世界中から精鋭を集めそれを討伐するという事だ、確かにバラバラな国で急にチームワーク取れというのも酷な話ではないかとは思うがISLANDERSに結束はないと言うのもいかがなものだろうか?

 

「ISLANDERSの参加者は各々国家から密命を受けているはずだ、それがそういうものかは解らないが注意しろ。もしかしたらお前に危害を与えようとする奴も居るかもしれん、例えラウラ相手でも油断はするなよ?」

 

ラウラまで俺に牙を剥いてくる可能性があるというのは流石に信じられない。あいつは可愛い妹だ、例え織斑先生が何を言おうともそれだけは聞くことは出来ない。

 

「マジっすか、流石にラウラだけは信じてあげたいんだけどな。しかし思いの他ラウラに厳しいっすね、俺と違ってマジで可愛い教え子でしょ?」

「まぁな。しかし私やお前がどう思おうとあいつとて所詮は軍人だ、国家の命令に逆らう事は出来んさ」

 

以前俺には首輪がついており織斑先生は前身に鎖を巻きつけられていると評した事がある、しかしどうやら首輪がついてるのはみんな一緒らしい。

 

「なんだか急にISLANDERSが茶番劇の舞台に思えてきましたよ」

「舞台か、それは良い得て妙だな。但し人形劇という注釈が入るが」

「それか猿回しですね」

 

ISLANDERSという舞台に登場する俺や織斑先生を始めとする沢山の首輪付きの役者達、そこに俺達の自由はなく書かれた脚本通りに役割を演じるだけ。自由を得るためには首輪を外せばいい、しかし首輪を外せ即刻舞台から下ろされるという結末が待っている。

 

「なんだか、踊らされてますね。俺達」

「ああ、社会というのはそういうものだ。嫌でも道化を演じなくてはいけない時がある」

「でも、それでいいんじゃないんですか? 守るべきもののためなら俺は喜んで演じてやりますよ、それにスポットライトを浴びる事が出来るのは演者の特権だ」

 

幾ら俺達が脚本通りに動いても観客の喝采をその身に受けることが出来るのはその舞台に立っている役者のみだ、脚本家たちが何を考えていようとそれは変わらない事実である。

そうだ、俺はISLANDERSという舞台を使って絶対に成り上がってやる。そしていつか俺が主役の物語を始めるんだ、この世界の主人公である一夏すら霞むような壮大な物語を。

 

「そうだ、ISLANDERSで信頼できる人間というならもう一人居ますよ」

「更識か? しかし、あいつも何を考えてるか解らんからな。一応日本の味方ではあるが……」

「いえ、違いますよ。この人です」

 

机に置いてある雑誌をぺらぺらと捲り、目的のページを開く。そこにはISLANDERSのメンバーが掲載されており、見れば見るほど豪華なメンバーの顔写真やプロフィールが書かれている。

 

ここで一つ整理しておこう。ISLANDERSに所属するIS操縦者がどれだけ居るのかについてである。

まず俺、そしてたっちゃんとラウラ。さらにはドイツ以来の再会になるであろうクラリッサにテンペスタ二型の人とナターシャさんが居る。

直接会った事のない人ではアメリカ国家代表イーリス・コーリング、更に大物の二代目ブリュンヒルデことアリーシャ・ジョセスターフ。つくづく豪華なメンバーである。そして今のところ8名だ。

色々居るが俺が信頼できる人物はこの人達ではない、そして俺はとある顔写真を指差した。

 

「こいつは……」

「ええ、俺のお師匠様です」

 

そこには俺のお師匠様こと野村有希子の名前があった。彼女こそがISLANDERS9人目のIS操縦者である。

以前とは違い、いかにもなヤンキー顔はなりを潜めメイクによってお洒落で爽やかな印象を感じる。そして何よりも目を引くのがその役職だ、そこにはフランス国家代表と書かれている。

 

「お師匠様、俺が知らないうちに大出世してたみたいっすね。しかもいつの間にかフランス人になってやがる、まさか一緒に働く事になるとは」

「藤木の師か、それはそれで興味あるな」

「やめてくださいよ、嫌な予感しかしないっすよ」

 

織斑先生と有希子さん、この二人が出会った時一体どんな科学変化が起こるだろう? 何にしろ俺にとって良さそうではなかった。

 

そんな話を適当にした後、俺は織斑先生と別れる。あの人とは立場上対立せざるを得ない事もあるが、本来なら同じ国の仲間なのだ。だからもっと強くなろう、有希子さんや織斑先生から真の信頼を得る位になれるまでは。


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