インフィニット・ストラトス ~栄光のオリ主ロードを歩む~   作:たかしくん

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第78話 オリ主fes

「今更だけど紀春の髪、かなり伸びてるよね」

「ん、確かにな。この学園に来て取材を受ける時とかのメイクの時に毛先を切る位しかしてないからなぁ」

 

織斑先生と別れてから寮へ帰ろうとする途中、偶然シャルロットと会いそのまま一緒に帰っている時にそんな事を言われた。

俺は前髪をいじりながらシャルロットの問いにそう答える、確かに今の俺の髪は結構長くなってきている。

 

「そろそろ切った方がいいんじゃない?」

「いや、実は今の髪型結構気に入ってるんだ。だから当分切るつもりはないかな」

「ふーん、僕としては短い方がかっこいいと思うけど」

 

そんな平和な会話をしながら俺達歩き続ける、そして俺がこんな平和を享受できるのももうすぐ終わってしまう。明後日から俺はIS学園を旅立ち、ISLANDERSという戦場に向かうことになるのだから。

 

「……明日紀春の誕生日だよね」

 

そうだ、明日11月3日は俺の誕生日なのだ。もちろんパーティーの準備は抜かりない、今の俺の全財産のほとんどを使って行われるパーティーはきっとド派手なものになるのだろう。そしてそれは俺の生徒会長就任とISLANDERS行きの壮行会も兼ねている。更に言うとお陰で今の俺の貯金はほとんど無い。

 

「ああ、そうだな。パーティーやるからお前も来いよ?」

「パーティー? どこでやるの?」

「ここの食堂、生徒会長命令で学園生徒全員呼ぶつもりだ」

「うわぁ、相変わらず派手だね……」

 

確かに派手だ、そして派手だという事は必然的に金が掛かる。少し前にたっちゃんがパーティー代半分持つと言ってくれなかったら破産してたかもしれない。

この学園に来て金を持つようになってきてから俺の金銭感覚もかなりヤバイ感じになっている、今後はもう少し節約していかないと生きていけないかもしれない。

 

「そうだ、誕生日プレゼントなんだけど……」

「処女の陰毛が欲しい」

「…………」

 

処女の陰毛、それは男のタマに当たった事がないということで弾除けのお守りになるという話をどこかで聞いた。ISLANDERSでバトルを続ける俺にとってこれ以上のものはないだろう。

というかシャルロットの顔が険しい、軌道修正しないと。

 

「……冗談だ」

「だよね」

「ああ、でもプレゼントは要らんぞ。今回のパーティーはマジで規模がでかいから一々お返ししてたら大変な事になるからな」

「……えっ?」

 

やべぇ、失言だ。シャルロットの顔が不安そうになっている、もしかしたら既に用意されているのかもしれない。

 

「いや、やっぱ欲しいわ。なんかくれるのか?」

「うん、一応……ね?」

 

よし、多分切り抜けた。……気がする。

俺達は多少きまずい雰囲気を残しながらも寮へ向かう。ああ、明日は俺至上最高のフェスティバルが始まる。客を満足させるようなおもてなしをしてやるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ではっ、藤木君誕生日おめでとーーーーっ!!」

「センキュウウウウウッ!!」

 

割れるくす球、飛び散る紙吹雪、乱射されるクラッカー、ついに紀春の誕生日パーティー兼、生徒会長就任祝い兼、紀春とラウラと更識元会長さんのISLANDERS壮行会が始まった。

 

「ではっ、まず主役の藤木君からひとことお願いします!」

 

司会のの女の子からマイクを受け取る紀春の服装もこの会場と同じように派手だ。スパンコールがびっしりとついた赤いジャケットを身に纏い、『本日の主役』と書かれた襷をかけ、アメリカンな雰囲気を漂わせるこれまた派手なスパンコールをびっしりとつけた帽子に、明らかにパーティーにしか使えないようなサングラスをつけている。明らかに普段使えなさそうなそれらの衣装からも紀春がこのパーティーにかけている意気込みを感じることが出来た。

 

「しっかし、凄いな。ここまでの規模でやるか普通?」

 

一夏を中心とした僕達一年生専用機持ちは一つのテーブルにひとまとめにされている、そんな中で一夏が独り言のようにそう呟いた。

 

「紀春は普通じゃないからね……」

「……そうだよな、紀春だもんな」

 

なんだか最近、紀春だからで物事が片付けられているのは気のせいだろうか。そんな感想を抱いてるうちに紀春が最初の一言を喋りだした。

 

「まず、俺の誕生日パーティーに集まってくれてありがとう。こんなに派手にやるのは初めてだから正直緊張してる。まぁ、みんなに満足してもらえるように色々用意したつもりだ。是非楽しんでいってくれ、以上だ!」

 

その言葉と共にパーティーは開始された、今夜が終われば紀春達はIS学園から出て行く。だからその前に……

 

「はーい、みんな飲み物は持ったかな? もうすぐ乾杯だよ?」

 

僕の思考はその声によって途切れた、ふと目をやるとそこには飲み物のグラスを載せたお盆を持った元会長とつい最近専用機持ちの仲間入りを果たした簪が立っていた。そしてその服装は二人とも何故かメイド服である。

 

「あれ、楯無さんに簪。なんでまたそんな服を?」

 

一夏がもっともな疑問を口にする、しかし周囲に目をやると僕の疑問はすぐに解決した。

 

「ノリ君のいいつけで給仕係をやらされてるの、今の私はノリ君に逆らえないから」

 

やらされてる、と言った割りには元会長の顔はにこやかだ。なにか嬉しい事でもあったのだろうか?

 

「私は、ソフトボール部に入った以上藤木さんの命令は絶対ですから……」

 

そういう簪の話を聞いて一夏の顔が少し曇った、そして一夏は少し申し訳なさそうに口を開く。

 

「すまない簪。俺、お前を守ってやることが出来なかった……」

「そ、そんな…… そもそもあれは守るとかどうとかいう話じゃなくて……」

 

聞いた話によると、簪のソフトボール部入部に関して紀春と一夏の間で小競り合いがあったらしい。その結果は一目瞭然である。周りではメイド服を着たソフトボール部員が忙しなく給仕に追われている、そして簪もその一員になってしまったのだ。

正直心配だ、しかし僕としては簪が狂信者にならないよう祈るだけしか出来そうもない。

 

「よし、乾杯やろうか! みんなグラスを持ってくれ」

 

遠くで紀春の声が聞こえる、そしてパーティー会場の視線が紀春へと集まった。

 

「えーと、何て言えばいいかな……まぁ別にいいか。という事で乾杯!」

「かんぱーい!!」

 

みんなが紀春に続いてグラスを掲げる、その光景は紀春の栄光を示しているかのようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おおっ、これはこれはイトノコ先輩ではありませんか」

 

パーティー会場の隅、俺はそこでケータリングに舌鼓を打つイトノコ先輩ことフォルテ・サファイアを発見した。彼女との出会いは学園祭の頃でそれから数度顔を合わせてはいる、しかし俺は彼女から苦手意識を持たれているようだ。

 

「うぐっ、見つかったッス。というかそのあだ名やめるッス! 先輩に対するリスペクトがないんすか!?」

 

そう、彼女は俺が言うイトノコ先輩というあだ名を非常に嫌っている。しかしそれに反応するイトノコ先輩が面白いので俺は彼女をこう呼び続けていた。

 

「いやいや、リスペクトはしてるッスよ? だからついつい真似たくなるッス」

「それもやめるッス! あんた達一年のせいで私がどれだけディスられてると思ってんすか?」

「まぁまぁ落ち着いて、ほんのりカツオ風味のコートあげますから」

「そんなもの要らんッス!」

 

この人以上に俺のイジリにうまく返してくれる人がいるだろうか? いや、居ない。というわけでイトノコ先輩は俺のお気に入りなのだ。

 

「おう、クソガキ。フォルテになにやってんだ?」

 

そんな声が俺の背後から聞こえる、振り返るとそこにはばいんばいん先輩ことダリル・ケイシーの姿があった。

 

「ああ、お疲れ様ッス。ちょっと彼女さんをお借りしてましたよ」

「またフォルテのモノマネか、程々にしてやれよ……」

 

そう、この二人はこの学園では有名なレズカップルである。しかし、勿体無い。この大きな乳をイトノコ先輩は好き放題出来るとかマジ羨ましすぎる。

 

「それどころじゃないッス! イトノコとかいう酷いあだ名まで!!」

「いいじゃねーか、オレなんてばいんばいんだぜ? というかお前どこ見てる?」

「ナイスおっぱい!」

 

ばいんばいん先輩の制服はかなり扇情的なカスタムをしており、青少年には中々目の毒だ。意識せずともついつい見てしまうのは致し方ないのではなかろうか?

 

「アホか、触らせてやんねーからな?」

「見るのはOKなんですか!?」

「見るのも駄目ッス!!」

 

らしい、だったらこんな服着ないでもらいたいものだ。

 

「藤木さん、シャンパンタワーの準備が整いました」

 

そんな時、俺の背後から声が掛る。振り返るとそこにはソフトボール部部長のディアナさん、信頼できる俺の右腕だ。

 

「おっ、もう準備出来たのか」

「ひいっ! いじめっ子まで来たッス!!」

 

そんな彼女に怯えるイトノコ先輩、学園祭の時にこっ酷くやられて以来彼女の事も苦手にしているらしい。

 

「なに、ディアナさんいじめやってんの? 流石にそれはいかんでしょ」

「いえ、虐めてるつもりはないのですが……」

 

困惑するディアナさんとは対照的にばいんばいん先輩の影に隠れて震えるイトノコ先輩、それはなんだか奇妙な光景だった。

 

「という事で俺達は行きます、まだまだパーティーは続きますんで楽しんでいってくださいね?」

「こ、こんな状況で楽しめるわけないッス!!」

「らしいぜ、困ったな……」

「だったらベットインでもして慰めてあげたらどうです?」

「……そうだな、そうするか。行こうぜ、フォルテ」

 

そう言って二人の先輩は俺達から離れて行き、食堂を後にする。そんな光景を俺とディアナさんは何も言えずに見送った。

 

「マジで行くとは思わんかった……」

「女同士でとは、汚らわしい上に非生産的にも程があります」

「駄目よ、ディアナさん。世の中には色んな人がいるんだから、少数派も許容しないといざ自分がそういう側に回った時に嫌な思いをすることになるぞ?」

「私はレズではないのですが……」

「性的嗜好に限らず全体的な意味でって事。多数派に属する人間ってのは基本的に少数派に厳しいからね、故に多数派に属する人間は少数派の人間にもっと配慮を行うべきだと思うよ。だからって少数派の奴隷になれとも思わんがな」

「そういうものですか」

「ああ、俺はこの学園で最も少数派に属する人間だからな」

 

もちろん男であるという点でだ。俺がここを去った後一夏は一人で大丈夫なのだろうか、少し心配ではある。

 

「まぁ、どうにもならん事を議論してもしょうがないな。俺達が何を言おうとあの二人はレズカップルだし、この学園で男は二人だけだ。さて、俺達も行こうぜディアナさん」

「そうですね、行きましょう」

 

というわけで、俺達は部員が用意してくれたシャンパンタワーの元へ赴く。さて、ゲストは減ったがまだまだ盛り上げていこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、飲めー! 今日は無礼講じゃー!!」

 

シャンパンタワーも完成し、それが会場に行き渡る。未成年の飲酒がどうとか言われそうだがここはIS学園、そういう事は特に禁止されてはいない。そして、そのシャンパンは俺達の居るテーブルにも行き渡っている。

 

「ほう、これは中々……」

「うん、これかなり高いよ」

 

最初にそれに口を付けたのはセシリア、そしてシャルロット。俺達の中でも特にハイソサエティに属するセシリアとシャンパンの本場で生まれたシャルロットがそう言うのならこのシャンパンもかなりのものなのだろう。というか二人はこういうのを飲み慣れてるのか、未成年なのに……

 

俺はというとそうでもなかったりする。千冬姉の飲みに付き合わされたりはするけど、千冬姉は未成年の飲酒には結構厳しい。そしてその千冬姉はというと……

 

「藤木ぃ~、もっと持ってこ~い」

「あいよ~!!」

 

既に紀春に潰されていた、それでいいのか千冬姉。

 

「…………」

「ふむ、シャンパンとはあまり飲んだことがないが中々飲みやすいな」

「そうね……って一夏、飲まないの?」

「…………」

 

でも、俺にはそんな事より心を渦巻くある思いがあった。

 

「ねぇ、一夏ってば!」

「……へっ?」

「あんた何呆けてんのよ、何か悩み事でもあるの?」

 

気付くとテーブルの視線は俺に釘付けになっていた、それに気付かないとはなんだか気恥ずかしい。

 

「いや、悩んでるわけじゃないんだが……」

「悩んでないという風には見えないな、よければ話してみないか?」

 

鈴に続き箒にまでそう言われる。そんな風な顔をしてたのだろうか、俺。

 

「…………紀春が、遠いなって」

「遠い? どういう事ですか?」

 

遠い、それは物理的な距離ではなく精神的なあれだ。

 

「俺と紀春の最初のスタートラインは同じ場所だったはずなのに、いつの間にかあいつは俺の手の届かないところに行こうとしてる。正直言って嫉妬してるよ、何であいつはISLANDERSに行って俺はこの学園に取り残されてるのかってね」

 

こういう汚い感情をあまり持ちたくはない、人に話すなんて持っての外だ。しかしつい口に出てしまった、俺もこのパーティー会場の雰囲気に酔っているのだろうか。

 

「あいつが羨ましいよ。専用機を何度も取替え、その度に強くなって戻ってくる。そしてその度にあいつの背中が遠くなる。紀春に追いつくためにに全力で走ってるつもりなんだけど、あいつは俺以上の速さで遠ざかっていくんだ。俺だって努力してるつもりなのに……」

 

口にする度に自分にこんな卑屈な感情が渦巻いてるのに気付く、それが段々嫌になってくる。ああ、俺にも三津村のような存在があれば、こんなリスクの高いワンオフじゃなければ。そんな考えがとめどなく溢れてくる。

 

「まぁ、確かにな。藤木は一夏と比べると圧倒的に要領がいいからな」

「そうね、だからあいつはあそこまで行けるんでしょうね」

「……そうだよな」

 

天才、なんだかんだで紀春にはその言葉が似合う。あいつの基本戦術は口八丁による撹乱だが、その裏には確固たる実力がある。だから楯無さんも倒すことが出来る。もしかしたら俺は一生あいつに追いつけないのだろうか?

 

「ですが一夏さん、そんな理由で努力することを諦めてしまうおつもりですか?」

「えっ……」

「そうだよ。確かに今の紀春と僕達には圧倒的な力の差がある、でも追うことをやめたら僕達と紀春の距離は一生縮まらないままなんだよ?」

「諦めたら試合終了だぞ、一夏」

 

仲間たちの言葉にはっとする、なに考えてるんだ俺は。そうだ、俺にもまだまだ成長できる余地はある。だったらそれを地道に歩いていくしかない。

 

「そうだよな。ごめん、みんな」

「強くなりたいのなら私が相手をしてやろう、明日の放課後から毎日特訓だな」

「ちょ、ちょっと箒さん! 抜け駆けは許しませんわよ!!」

「そうよ、そもそもあんたの実力でじゃ特訓にならないでしょ」

「な、なにぃ! 私を馬鹿にする気か!?」

「くっ、ISLANDERSに行く身としてはこのイベントをスルーせざるを得ないのかっ」

「まぁまぁ。ラウラ、それより紀春をお願いね。最近どうも無理をしてるみたいだから」

「……確かにな、最近の兄は特に力への渇望が強い。見ていて危なっかしい事もあるな」

 

そんな感じで俺達が囲むテーブルが騒がしくなる、紀春が主役のはずのパーティーも俺達にとってはいつもの騒がしさで塗りつぶされていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

星が、綺麗だ。

 

11月4日のIS学園から見る星空は今まで以上に輝いていた、手元を照らすスマホは今の温度が7度を示していることを教えてくれる。寒けりゃ空気も澄む、道理で綺麗に見えるわけだ。

パーティーの後片付けも昨日のうちに終わり、今頃パーティーの参加者のほとんどは寝ているだろう。しかし俺はこの夜空の下に佇んでいる、なんだか寝付けないのだ。

 

「ここに居たんだね」

 

俺の背後から聞き覚えのある声、というかシャルロットの声。しかし俺は振り向くことなくこう答える。

 

「どうした、消灯時間はとっくに過ぎてるぞ」

「うん、トイレに行こうとしたら偶然紀春の姿が見えたから」

 

だそうだ。

 

「そうか……」

「うん……」

 

なんだか会話が弾まない。多分、真夜中の星空の下という少々ロマンチックな状況、朝になれば戦場に向かう俺、そして彼女とのある意味微妙な関係性という様々な要素が交じり合ったせいでのせいで緊張しているのせいなのかもしれない。

 

「あの、さ」

「ん?」

 

俺が振り向くと同時に紙袋を押し付けられた、どうやらこれが以前言ったプレゼントなのだろう。

 

「一応、手作りだから……あんまり上手じゃないかもしれないけど」

 

紙袋の中からは黒いマフラーが一本、冬のプレゼントの定番だ。

 

「あっ、あのね。紀春なら赤がいいかなって思ったんだけど、そもそも他の服に合わせるのに赤いマフラーってのもどうかと……でも、頑張って作ったんだよ」

 

シャルロットが早口でまくし立てる、その様子はいかにも緊張していると言う感じだった。

 

「いや、嬉しい。大切にするよ」

 

彼女を冷静に分析してみたものの俺だって緊張してる、だからこんな気の利かない台詞しか出てこない。俺は自身の恋愛偏差値の低さを嘆くしかなかった。

 

「そ、そう……ならいいんだ……」

 

なんだかこれ以上彼女と相対するのも恥ずかしい。俺はまるで逃げるように振り返り、また夜空を見上げた。

 

「ねぇ、紀春」

「……どうした?」

「最近無理してない?」

 

無理してないか、か……まぁ、最近というか虎子さんとの別れの後から俺は休みなく訓錬に没頭してきた。自分より強くなって欲しいという彼女の言葉の真意は未だよく解らないが、俺は彼女の願いを叶えるために、それ以上に自分の願いを叶えるために強くありたいと思っている。

その結果たっちゃんを倒すことが出来たが、あれは俺が彼女を罠に嵌めた結果収めた勝利だ。いずれは正々堂々とした勝負で彼女に勝ちたい。

というわけで最初の話の答えに戻るが、無理をしてないとは言い切れないと思う。

 

「……そうかもな、でも仕方ないじゃないか。俺はもっと強くならないといけない」

「それは誰のために? もしかして……」

「違う、確かに切欠は虎子さんだ。でもそれだけじゃない、俺は俺のために強くなりたいんだ」

 

以前山田先生に語った夢を思い出す、自分がこの世界の主人公になると。そしてISLANDERSは俺のキャリアを上げるのに絶好の舞台だ、そこで俺はもっと強い敵と味方に出会う事になるだろう、そしてそのまま俺は真のヒーローになるのだ。

 

「大丈夫だって、無理なのも辛いのも今までの事で慣れてる。だから心配するなって」

「そんな事言ったって……」

「シャルロット、お前には悪いかもしれないがお前がどうこう言ったところで俺はISLANDERSに行くし、それを俺は止めようとも思わない。だからさ、解ってくれよ。男の子には意地張りたい時があるんだよ」

「……うん、余計な事言ってごめん」

「まぁ、お前が素直に心配してくれるのは嬉しい。ありがとう、こんな俺を心配してくれて」

 

今の俺はお世辞にも褒められた人間ではないのはよく解ってる、そしてこれからはもっと汚い人間になっていくだろう。それがヒーローの在り方かと言われれば少し違うかもしれないが、その時はダークヒーローにでもなってやろう。多少斜に構えてる方が今の流行だろうし。

 

「だから、俺は必ずここに帰ってくる。きっと色々な問題の答えも一緒にな」

「えっ、それって……」

 

この時俺は決心した、ISLANDERSでの戦いが終わりこの学園に戻ってきた時にシャルロットに告ろうと。

だから、その前に虎子さんと決着をつけよう。あの人を超えない限り俺は前には進めないから。

 

「それ以上は言わないでくれ、これでも滅茶苦茶緊張してんだ」

 

今俺はどんな顔をしてるだろう。まぁシャルロットに背を向けていてよかった、きっと人には見せられないような顔をしていると思うから。

 

「さて、もう帰ろうぜ。マフラーはあったかいけどこれだけじゃ風邪をひいてしまう」

「うん、そうだね」

 

こうして俺とシャルロットの深夜の密会は終わる、今夜はよく眠れなそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな夜が明け、時は11月4日の朝。僕は自室でシャワーを浴びていた。ルームメイトのラウラはまだ寝ている、昨日のパーティーで疲れているのだろう。

 

「…………」

 

一昨日の夕方紀春に言われた事を思い出す。その後ネットで調べたが処女の陰毛というのは、戦地に赴く男にとって弾除けのお守りになるとか。

勿論そんな事迷信だという事は承知している、でもそんなものに頼りたくなる位に僕は紀春の事が心配でもある。

 

「まぁ、無いよりはマシだよね……」

 

そう言って僕は股間に手を伸ばす…………

 

「……痛っ」

 

そして少々の痛みと共にそれは千切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ついにこの学園からもおさらばか」

「そうだな、名残惜しいがそうも言ってられないだろう」

 

というわけで翌朝のIS学園校門、そこには俺とラウラとたっちゃんと織斑先生だけではなく多数の生徒が見送りに来ている。

俺としてもここまでの大人数が見送ってくれるのは嬉しい、そんな中俺の前にディアナさんを初めとするソフトボール部の面々が現れた。

 

「藤木さん」

「ああ、ディアナさん。ソフトボール部の事は任せたぜ、あと簪ちゃんの事もな」

 

簪ちゃんは現在ソフトボール部に所属しており何度か俺の特訓を受けてもらった、きっと彼女もフィジカル面でより強くなれるはずだろう。そしてディアナさんなら俺の特訓を再現できるはずだ、もう一度学園に帰った時彼女がどれだけ成長しているのかが今から楽しみだ。

 

「はい、お任せください。藤木さんの期待に必ず答えてみせます」

「ああ、頼むぜ」

「そうそう。あと、姉にも宜しく言っておいてください」

「姉? ISLANDERSにウォーカーさんは居なかったと思うけど」

 

少なくとも例の雑誌にそういう人の名前は見当たらなかった、アメリカの整備要員か何かだろうか。

 

「向こうに行けば解るはずですよ、楽しみにしていてください」

 

だそうだ、ディアナさんの姉的存在というのは誰だろうか。誰だったにしてもきっとその人は俺の心強い味方になってくれるだろう、というか接点があるだけでもありがたい。

そんなこんなで何度か会話した後俺達はがっちりと握手を交わし、別れた。すると次はシャルロットが俺の下へとやってくる。

 

「紀春、これ」

 

何故か顔を赤くしているシャルロットが俺に黒い小袋を押し付ける、いつもと明らかに違う彼女の態度に俺としても少々困惑してしまう。

 

「お、おう。なんだこれは?」

「開けないで、そして中身は絶対に見ないで」

「そ、そうか。よく解らんけどありがとう」

 

それを聞いたシャルロットはそそくさと俺の前から立ち去る。なんだろう、いつものあいつらしくない。

 

「ノリ君、そろそろ行くわよ」

 

その声に振り返るとたっちゃんとラウラが迎えの車に乗り込もうそしていた、ちなみに織斑先生は既に車の中だ。

 

「そうか。みんな、行ってくる! 俺はヒーローになって戻ってくるから楽しみにしてろよ!」

 

その声に大きな歓声が返ってくる、そんな様子に満足しながら俺は車に乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「唐突だが兄よ、シャルロットから何か受け取っていたようだが」

「だな。藤木、お前もなんだかんだで青春してるじゃないか」

「えっ、なになに?」

 

車に入るなり早速色めきたつ女性陣、正直標的にされているような気分であまり嬉しくない。

 

「やめてくださいよ。そもそもこの袋、開けるなって言われてるんですから」

「ノリ君、君ってそんな事律儀に守るようなキャラじゃないでしょ。何が入ってるのか教えてくれないしら?」

「まぁ、そうっすね。確かに中身は気になる、なら開けるしかあるまい」

 

というわけで俺は早速小袋を開けてみる、その中には更に小さいジップ付きのビニール袋が入っており……

 

「あっ、これあかんやつや」

「どうしたのだ、まさか毒でも!?」

「いやいや、毒なんかじゃないけど」

「ならなんなのよ、おねーさんにも見せて頂戴」

「いや、これ無理。マジで無理」

 

誰にも見えないように開けてよかった、そのビニール袋にはある種の猛毒が入っていたのだ。主に俺の精神にとってだが。

 

「シャルロット、マジでくれるとは思わんかったわ……」

「そうやって思わせぶりな事を言われると益々気になるのだが」

「ふっ、若いな……」

「きーにーなーるー!」

 

そんな喧騒の中、車は走り続ける。シャルロットのくれた小袋の中身、それは紛れもなく彼女自身の陰毛であった。




次回更新は来年になります。話数のストックがヤバイんや……

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