インフィニット・ストラトス ~栄光のオリ主ロードを歩む~   作:たかしくん

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第79話 最高で最悪な旅を

メガフロート、それは技術系企業が共同して作った公海上に浮かぶ巨大な構造物であり、イリーガルな科学者集団が禁忌の研究に没頭するために乗り込んだ船がその歴史の始まりらしい。

その後マッドサイテンティスト達は仲間を増やし、船の増設を繰り返し、いつの間にやらこんな大きさになってしまったというわけだ。そしてなし崩し的に『行政特区メガフロート』として世界に認められ今に至るというわけである。

 

「つまり、時代によってはここも亡国機業みたいなテロリストみたいなものだったと」

「そういう事、そして今はISLANDERSの本拠地というわけね」

 

パンフレットを読む俺の感想にたっちゃんがそう答える。ISLANDERS、直訳すれば『島人』と言われる所以はそこにある。俺達はIS学園を離れ、メガフロートに来ていた。

 

「あっ、にぃにーっ!」

 

空港のロビーにやってくるとそこには数人の迎えが来ていた。そしてその中の一人で、黒ウサギの一人にして俺の妹である新井がこちらに駆け寄ってくる。

 

「にぃに! 会いたかったよ!」

 

そう言いながら新井は、俺の腰を中心にしてフラフープみたいに回りだす。正直周りからしてみればいい迷惑だろう。

 

「おっ、お前もISLANDERSに来てたのか」

「うん! 整備要員としてね!」

「ほう、ではクラリッサもここに?」

 

ラウラが新井に疑問を投げかける、ラウラも久しぶりに仲間の隊員と会えたからか少し嬉しそうな表情をしていた。

 

「あっ、お疲れ様です隊長! もちろんですよ! ほら、あそこに……」

 

未だぐるんぐるん回る新井から視線をやると、そこには三名の女性が。右から有希子さん、クラリッサ、テンペスタ二型の人である。

 

「おっ、お師匠! お久しぶりっす!」

 

腰に掴まる新井を放り投げ、俺は有希子さんの所まで歩いていく。やはり以前雑誌で見た時と同じく、その印象は様変わりしていた。髪はヤンキー御用達のプリンヘアから燃えるようなオレンジに変わり、あの極細の眉毛もちゃんとメイクで綺麗に整えられている。

 

「おう、久しぶりだな。アタシが居ない間に随分強くなったらしいじゃないか」

「うっす、でもそれは有希子さんも一緒でしょ? 暫く見ない間に随分出世したようで」

「まぁな、お前が使いこなせなかったヴァーミリオンのお陰さ」

「そっすか、でもこっちはばっちり使いこなしてますよ?」

 

そう言って俺は左手中指の指輪を見せつける、これが世界最強のISの待機形態だ。

 

「ほう、彼女がお前の師か?」

 

そんな中織斑先生が、俺達の会話に割って入る。俺のお師匠に興味深々なのだろう。

 

「おっと、ブリュンヒルデも一緒か」

「ああ、織斑千冬だ。宜しく頼む」

「おう、あんたの事はよく知ってるし尊敬もしてる。でもアタシにも立場があるんでね、敬語は使えないがこちらこそ宜しく頼む」

「いや、それでいいさ」

 

そう言って織斑先生は有希子さんが差し出した手をがっちりと掴む、なんだか急に二人の間に友情が芽生えたような気がする。

 

「で、ウチの馬鹿はどんな感じだ? 多分色々やらかしてるとは思うんだが」

「まぁ、色々苦労させられているよ。……色々な」

 

確かに俺が織斑先生に苦労を掛けている事は否めない、というわけでこの場面位はおとなしくしておこう。

 

「それにしてもお前達も久しぶりだな、ドイツの時以来か」

「ええ、この日が来るのをお待ちしておりました。兄上」

「勿論私もですよ、アニ」

 

クラリッサとテンペスタ二型の人は俺の妹の中で屈指の美人の二人だ、そんな二人に慕われるのは正直悪い気もしない。まぁ、妹である以上手は出さないと心に誓っているのだが。ちなみにラウラはかわいい方に属しているのでこの選定からは外れる事になる。

 

「で、これから俺達は何処に行くんだ?」

「メガフロート管理委員会のビルに行くことになってます、そこが私達の本拠地になるらしいと」

「ほう、では早速行ってみましょうか。そこに二代目も居るんだろ?」

 

二代目ブリュンヒルデことアリーシャ・ジョセスターフ、今俺の中で一番気になるISLANDERSメンバーの一人だ。そして有希子さんと並んで一度お手合わせ願いたい人物でもある。

 

「ええ、そうです。気になりますか?」

「勿論さ、世界最強の織斑先生は俺と戦ってくれないからね。自分の実力がどこまで通用するのか試してみたいのさ」

「それは難しいかもしれませんね、彼女が訓錬というものをしている所を見たことがありませんから」

「おお、まさかの花山薫スタイル」

 

そんな事を言いながら俺達は空港から外に出る、そして当然のようにそこでは迎えの車が待っている。

さぁ、行こう。俺達の新しい舞台が待っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ、皆さん。遠いところから集まってくれてありがとう。ボクの名前は水無瀬清次、メガフロート管理委員会から出向してきた者で、このISLANDERSの司令を務める事になった。不慣れな業務故に迷惑を掛けてしまうかもしれないがよろしく頼む」

「な、なんですと……」

 

俺達はメガフロート管理委員会のビルの中の会議場に来ていた。そこは中々広く、会議場というよりかは大学とかにある講堂のような感じだ。そして200人位収容できそうなそこは大体半分ぐらい埋まっている。

ISLANDERSのIS操縦者は9人なので、その他は整備要員や他の仕事を受け持っているのだろう。遠くには新井の姿も見えるし。

そしてせっちゃんがまさかのISLANDERSの司令とは、出世したのは有希子さんだけじゃなかったのか。

 

「ええと、あれ? アメリカ組が居ませんね」

「喋んなって、会議中だぞ」

 

隣に座ってる有希子さんが俺を肘で小突く、しかし気になってしまったのは仕方ないじゃないか。

 

「ええと、他の人たちはちゃんと居るんですけどね」

 

というか、ここで初めて見つけた人なんて二代目のアリーシャ・ジョセスターフ位しか居ない。しかしすっげぇファッションだ。それにこんな所で煙管吸ってる、見るからに非常識人だ。

 

「なんだあの人、花魁かよ。っていうか会議室で堂々と煙草吸いすぎでしょ。っていうか隻腕隻眼? あれでまともに戦えるのか?」

「だから黙れって、気になるなら後で会わせてやるから」

「ゆ、有希子さんがいつの間にか常識人になってる。少し前まで田舎ヤンキーだったのに」

「うるさいぞ藤木、ここはIS学園じゃないんだ。次に騒いだら拳骨で済むとは思うなよ」

「はい、すいません……」

 

そして壇上のせっちゃんに怒られた、そして会議場の視線が注がれいくらかの笑いが漏れる。そして二代目も俺を見てにやにやと笑う、ちょっと恥ずかしい。

 

「そしてジョセスターフ。ここは禁煙だ、吸いたいのなら今すぐ出て行け」

「おっと、これは薮蛇だったのサ」

 

二代目が誤魔化すように笑いながら煙草の火を消す。よし、なんか知らんがまだ二代目に負けてない気がする。

 

「さて、ここに居ないアメリカ組の話をしておこう。彼女らはいまアメリカ国内にあるエドワーズ空軍基地に居を構えている、そしてISLANDERSの実働部隊として動いてもらうつもりだ」

 

エドワーズ空軍基地、なんだかガンダムに襲われそうな名前をしてるのは気のせいだろうか。

 

「それに伴いISLANDERSを二つの部隊に分ける事となった。一つはメガフロートに残り亡国機業の目をひきつけておく囮部隊、もう一つはニューエドワーズに駐留し亡国企業の拠点を発見次第襲撃を掛ける実働部隊だ。そして、基本的に戦力はそちらに集中させるつもりだ」

 

という事らしい、戦力を二つに分けることについて思うことがないわけではないが総責任者であるせっちゃんがそう決めたのなら俺としては口を挟むわけにはいかない。それにあのこの大規模部隊を指揮するのにせっちゃん一人で作戦を決めるなんてありえない、彼の後ろにはその道のプロフェッショナルがついているはずだ。

 

「というわけでボクからの話は以上だ、この後午後7時からISLANDERS結成記念のパーティーを行うことになっている。パーティーと言っても亡国機業、そして世界の目をメガフロートにひきつける重要なミッションだ。遅刻した者には厳罰を与えるつもりでいるから遅れないようにしろ。では解散」

 

せっちゃんがそう言うと、みなそれぞれ席を立ち思い思いに散っていく。さて、俺も用意されたホテルに戻ろう。パーティー用の衣装に着替えないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最初のミッションがよりにもよってパーティーだとは中々にふざけているとしか思えない、しかし今の奴は私にとって上司である。そしてISLANDERSは曲りなりにも国際IS委員会直属の戦闘部隊、拒否することは私でも許されないだろう。

 

しかし、メガフロートか。あの小船がよくここまで成長したものだ、そして恐らく……

 

「やぁ、久しぶりじゃないか」

 

考え事をしていたらその『奴』が現れた。水無瀬清次、奴は私の過去を知る数少ない人物だ。

 

「…………」

 

奴は嫌いだ、というわけで私は奴の言葉を無視しその脇を無言で通り抜けようとする。

 

「無視か? 感動の再会だというのに」

「何が感動の再会だ、もしかして私をここに呼び寄せたのはお前か?」

 

メガフロート、目の前の男、そして亡国機業。少し考えれば簡単に解る事だった、つまりISLANDERSは……

 

「ああ、そうだ。不確定要素は潰しておきたいのでね。まぁ、世界最強を潰せる奴などいないから監視に留めておくつもりだが」

「キヨツグ、……貴様あの時から変わってないようだな?」

 

キヨツグ、昔私は奴の事をそう呼んでいた。なんだかセイジと呼ぶのが気に入らなかったからだ、そして周りの人間も私と同じように奴の事をキヨツグと呼んでいた。しかしそんな事は今はどうでもいい事だ。

 

「いや、そうでもないさ。もう15年近くになるんだ、ボクだって変わるさ。キミだってそうだろう? 小生意気なメスガキだったのに今じゃブリュンヒルデなんて大層な肩書きまで手にしてるじゃないか」

「くっ……」

 

環境を変え、ISLANDERSに入った私は相変わらず鎖に繋がれたままらしい。やはり道化を演じなければならないのは変わらない様だ。

 

「一つ、聞かせてくれ」

「どうした? 昔からの誼みだ。何でも答えてやろう」

「何故一夏ではなく藤木をここに呼んだ? あいつはこの島とは無関係だろう」

 

直後、キヨツグが腹を抱えて笑い出す。奴のこんな表情は初めて見た、どうやら奴の言う通りしばらく会わないうちに奴も変わったらしい。

 

「ははははっ! 藤木がこの島と無関係だと!? なんだそれは、面白すぎるぞ!」

 

奴の笑い声が私を嫌な気分にさせる、そしてその言葉から藤木はこの島の関係者だという事が解った。

 

「はーっ、はーっ。……失礼、キミをからかうつもりはなかったんだ。しかしいきなりそんな事を言われるとは思わなくてね」

「もしかして、藤木は……」

「プロジェクト・ヴァーミリオンブラッド、キミだってよく知ってるだろう? 彼こそがこのメガフロート、いや希望の船の申し子さ。そしてあの伝説を正しく受け継ぐ者の一人だよ、キミと同様にね」

「……やはりか」

 

希望の船、私が最も捨て去りたい過去である。そしてその希望の船の成れの果てがこのメガフロートだ。

 

「貴様、これから何をするつもりだ?」

「決まってるだろう? 亡国機業を打倒する、それがISLANDERSの理念だ」

「ふざけているのか?」

「いいや、ボクは真剣にそう願ってるよ。だから余計な事はしないように頼むよ、キミの出番はまだ先なんだ。全て台本通りに動いてもらわないとボクとしても困るんだ」

 

そう言ってキヨツグは私の横を通り過ぎ、私の元から去っていく。

 

理解してしまった、これから何が起こるのかを。

理解してしまった、藤木が何者であるのかを。

理解してしまった、私が如何に無力であるのかを。

しかし私にはこの流れを止めることは出来ない、止めようとすれば私は一夏と共に破滅の道を歩むことになる。それだけは出来ない、あの秘密だけは何があっても守り通さなくてはならないのだ。

 

ああ、せめて藤木がこの戦いを五体満足で生き残るのを願うばかりだ。何故ならあいつは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

「さぁ、アーリィさん。早速織斑先生に決闘の申し込みをしましょう!」

「い、いや。あれどう考えてもヤバいのサ、というか目が死んでるのサね」

 

俺達ISLANDERSの最初のミッションであるパーティーはある程度の盛り上がりを見せ、パーティーにやって来たお偉方や報道陣の対応もある程度すませ宴もたけなわな感じで俺達にも自由行動が認められるようになった。

とりあえず俺は新顔であるアーリィさんに早々に挨拶を済ませ、いつぞやのモンド・グロッソで実現できなかった決勝戦の続きをしたいという彼女と織斑先生を仲介するために二人で織斑先生の居るバーカウンター近くのテーブルまでやってきたのだが……

 

「確かに目が死んでる……そして何故か視認できるほどの黒いオーラが渦巻いてますね」

「ちょっとタイミングが悪そうなのサ、今日はやめとくのサね」

 

そう言ってそそくさと逃げるアーリィさん、二代目ブリュンヒルデと言われてる割りに中々ヘタレな人だと思う。というのは思うだけにしておこう、口に出した瞬間俺の死刑がほぼ確定するからだ。

 

「藤木、ちょっと来い」

 

そんな時織斑先生からご指名が入る。やばい、俺もアーリィさんと一緒に逃げておけばよかった。

 

「な、なんすか?」

「いいから来い、ちょっと話がある」

 

この後の展開がひどい感じになるのは目に見えてる、しかし織斑先生から発せられる強烈な威圧感のせいで逃げるに逃げられない。そしてそんな俺を助けてくれそうな有希子さんやラウラ達は遠くで談笑に興じている。

……駄目だ、どう考えてもこの状況を打開できない。なら腹を括るしかなさそうだ。

 

「う、うっす」

 

そうして俺は織斑先生の近くまでやってくる。次の瞬間、織斑先生は俺の首に腕を回し強烈な力で一気に俺を自分の方へと引き寄せた。

 

「なっ!?」

 

織斑先生の顔が一気に近づき、一瞬ドキリとする。そしてその呼気から漏れる強いアルコール臭のお陰でこっちも酔ってしまいそうだ。どうやら大分飲んでいるようだ、ならばこれから始まるのは酔っ払いの愚痴だろうか。

 

「藤木、一度しか言わないからよく聞け。やはりこのISLANDERSは碌な所じゃないらしい」

 

織斑先生の声色は今まで発していた酔ったような声ではなく、明らかに真剣そのものだ。そしてその声が発した内容に俺の緊張も否応がなく高まる。

 

「……どういう事です?」

「悪いが詳しい事情は話せない。しかしキヨ……水無瀬には注意しろ、奴はお前に何か仕掛けてくるつもりだ」

「水無瀬って……せっちゃんがですか!?」

 

水無瀬清次ことせっちゃん、織朱の開発者にして今まで最も俺を支えてきた人物だ。たしかに人格的に怪しい所だらけの彼であるが、それでも俺がこのISLANDERSで最も信頼すべき人物だ。織斑先生に注意しろと言われてもはいそうですかと言えるような相手じゃない。

 

「な、なんですか急に。そもそもせっ……水無瀬司令は俺達の上司ですよ? 注意しろといわれた所であの人の命令に逆らえるわけないじゃないですか。そもそも三津村時代から俺の上司ですし……」

「ああ、それは解ってる。しかし心構えだけはしておけ、それと先に謝っておく。すまない、どうやら私はお前を守れそうにない」

「ん? 話の流れがよく見えないんですが……」

 

ここで一旦話を整理してみよう。どうやらせっちゃんと織斑先生は敵対関係にあるらしく、せっちゃんは俺に対して何かを仕掛けてくるらしい。しかし織斑先生も立場上かなんなのかは解らないがそのせっちゃんの俺に対する仕掛けに気づいていてもそれから俺を守ることが出来ないと。

 

うん、やっぱりよく理解出来ない。そもそもさっき織斑先生に言った通り俺はせっちゃんからの命令を拒むことは出来ない、故にその仕掛けとやらも回避することが出来ない。なら俺もどうしようもないじゃないか。

そもそも織斑先生とせっちゃん、この二人の信用度という点でもどうしてもせっちゃんに軍配が上がってしまう。

 

「先に言っておく、今後お前に私のISに関する経験を全てやる。お前には少しでも強くなってもらわないとならないからな」

「え、それって……」

「藤木、強くなれ。自分の身は自分で守るんだ」

 

話がどんどんキナ臭くなってきた気がする、ISLANDERSはキナ臭い場所だがそういう意味ではなく陰謀の香りがという意味でだ。

 

「話はこれで終わりだ、もう行け。それと休息は充分にとっておけ、明日から大変だからな」

「う、うっす。頑張ります」

「ああ、頼むぞ」

 

そうして俺は織斑先生の居るところから離れる。『頼むぞ』か……どうやら俺を取り巻く事態がのっぴきならない状況になったのは解った気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、早速だけど報告をお願い」

『はい、まずこのISLANDERSにおいて最後まで素性が掴めなかったのが二人。織斑先生と水無瀬司令ですね』

「へぇ、織斑先生の素性が不明なのは前々から知ってたけど水無瀬司令もなのね。正確にはどこから解らないのかしら?」

 

パーティーも終了し、私は宛がわれたホテルの一室で虚と電話をしていた。このISLANDERS、何かが怪しい。というわけで虚に主要メンバーの調査をお願いしていたのだが、どうやら当たりを引いたらしい。

 

『はい、大学入学以前の経歴なんですがどうやら改竄されてる跡がみつかったらしいです』

「ええと、今の水無瀬司令が30歳で大学入学時が18歳だとするともう12年前の話ね」

『そういう事になりますね』

「ふぅん、色々気になるけど一旦置いておいて本題に入りましょうか。準備は出来てる?」

『はい、藤木君に関する精神分析のレポートですね?』

「ええ、私達の旗印が実際どういう性格をしてるかをしっかりと把握しないといけないからね」

 

実はISLANDERS加入の折りに藤木君には精神分析のテストを行ってもらっていた、私が彼を守らなくてはならない都合上不測の事態は避けておきたいのだ。

 

『ところでお嬢様、お嬢様が見る限りで藤木君の性格ってどういうものだと思いますか?』

「おっと、これは私が外しまくって恥をかく流れね。仕方ない、では私が思う限りの藤木君の性格は……」

 

藤木紀春、その性格は表と裏がある。まず世間様に見せる表の顔、それは清く正しく美しくと言った所だろうが。少なくともテレビや雑誌で見る彼の姿はそう映ってる。しかしこれはあくまで表の顔、IS学園で暮らす彼はそうではない。

そして裏の顔、実際に私達が目にしている性格は強欲で傲慢、最初に出てくるのはどうしてもこうなる。

 

世界でたった二人の男性IS操縦者という肩書きは彼の自尊心を大いに満たしたのだろう、そして要領のいい彼はISに触れてから半年と少しでこの世界最高峰の舞台であるISLANDERSに上り詰めた。

しかし、それでも彼は満たされなかった。この期に及んでまだ力を求め続けている、彼はここで更に強くなりたいと望んでいるらしい。

 

そしてもう一つのキーワードである傲慢、それはIS学園での普段の性格が物語っている。友人たる専用機持ちに取る態度もその一環なのだろう。

先も語った通り彼は要領がよく、一時期は一年生最強の名を欲しいままにしていた。しかしそれはある意味悲劇の始まりだったのかもしれない。

彼は瞬く間にソフトボール部を支配し狂信者達を味方につけ、そこで彼はまるで王のように振る舞い狂信者達を熱狂させたのだ。そしてそれは彼の傲慢を更に加速させていく事になる。

 

そうすると彼は自分より上の立場の人間に牙を剥くようになる、そしてその最も大きな標的が私と織斑先生だった。織斑先生には反抗するような態度を取り続け、殴られる。そんな事を何度も繰り返した。

私にもそれは同じだ。最初の出会いから喧嘩腰な態度を取り続け、和解をした後でも自身が私と同格であるような態度を取ってきた。まぁ、それは私自身がそんな事を気にせずに接してきたので私にも原因がないとは言えないかも知れないが。

 

そしてその傲慢が爆発した瞬間がある、タッグマッチでの動乱の後の織斑先生による取調べでの事だ。

彼は教師陣の弱みを徹底的に突き、自身の罪を有耶無耶にしようと試みたのだ。その結果織斑先生による制裁を受ける事になり織斑先生とは決裂する。

しかしISLANDERS加入後、織斑先生の藤木君への態度が急に柔らかくなった。

多分私の知らないうちに和解をしたのだろうけど何故和解できたのかは謎だ。

 

「多少横道に逸れた感はあるけど大体こんな感じでいいかしら?」

『そうですね、しかし足りない部分がいくつかあるので補足させていただきますよ』

「やっぱ正解じゃなかったか……まぁ、人の目なんて所詮その人の表面的な部分しか見れないからね。仕方ないね」

『そうなのかもしれません、では補足させていただきます。まず藤木君の大まかな性格に関しては先ほどお嬢様がおっしゃられていた通りです。しかし、心の深い部分では少し違うようですね』

「ふむふむ、で?」

『藤木君はその傲慢さの裏で酷く臆病な性格を隠しています、主に彼の主人である三津村に対してですが』

「……そうね、彼は三津村に見捨てられるのを極度に恐れてる節があるわ。まぁ、両親が人質に取られてるようなものだから仕方ないのかもしれないわね」

『はい、その通りです。故に彼は三津村に対し絶対的な忠誠心を持っています、そして今の彼の実質的な主人と言えるのが』

「水無瀬司令ね、つまりノリ君は水無瀬司令の手駒だと……ちょっと嫌な感じね」

 

水無瀬司令の素性は不明、そしてその下につくノリ君。その更に下には幽貴と霊華が控えてるわけでノリ君が何かしらの怪しい動きをしたとするならかなり厄介な事になるだろう。それに幽貴と霊華の二人は人智を超えた力の持ち主だ、ノリ君を含め三人がかりで来られると流石に私一人ではどうすることも出来ない。

そして幽貴と霊華は余程の事がない限りはノリ君の味方だ。先の私との対戦でもそれを物語っている。

 

『まぁ、水無瀬司令の素性は不明ですがそこまで気にするような事ではないのでは?』

「そうもいかないのよね……第一水無瀬司令ってあからさまに怪しいのよ、そもそも何で三津村からISLANDERSに出向するんじゃなくてメガフロート管理委員会を経由してるのかしら?」

『一応表向きでは日本の企業が戦争行為に加担するというのが聞こえが悪いからという風になっていますけど……』

「そもそもメガフロート管理委員会ってのが怪しすぎるのよ、元々メガフロートって非合法の研究をするために生まれた場所でしょ? だったら怪しむなって方が無理じゃない」

『確かに……あからさま過ぎて逆に怪しくないような気までしますね』

「虚、悪いんだけどメガフロートの事についてもう少し調べて頂戴。無駄働きになる可能性もあるけど、寧ろそれは大歓迎よ」

『了解しました、それより話がまた大きく逸れましたね。軌道修正しましょう』

「そうだった、今はノリ君の精神分析の話だったわね」

『はい、では続けさせてもらいます。先ほども話した通り真の彼は酷く臆病です、さらに軽度の自己愛性パーソナリティ障害を抱えてるような節も見受けられます』

「ええと、自己愛性パーソナリティ障害っと……」

 

近くに置いてあった自分の端末からその言葉を検索してみる。とりあえずウィ○ペディアが一番上に表示されたのでそのページを眺めてみた。

 

「うわ、これ大体あってるわね……」

『まぁ、そこまで専門的な分析をしたわけではないので一概に言えないですけど……』

「いや、これノリ君の性格そのままだわ。引くわー、流石にこれは引くわー」

『お嬢様、そんな事は藤木君の前では口が裂けても言わないでくださいね』

「ええ、解ってるわよ。でもこれかぁ……」

『そもそも彼がこうなってしまった原因であるIS学園という環境は彼にとってかなり辛かったようです、特にIS学園に来た当初は』

「……そうね、確かに以前そんな事を言われたわ」

 

確かアレは学園祭が終わってキャノンボール・ファストが始まる前の頃だ、あの時ノリ君は私に自分自身の思いの丈をぶちまけた。あれがノリ君が私に見せた初めての弱さだったのかもしれない。

 

『そういう点ではお嬢様はかなり藤木君に信頼されているようですね、彼が弱さを見せる事が出来る相手なんてほぼ居ないでしょうし』

 

彼が弱さを見せることの出来る人物がIS学園にどれだけ居ただろう。ソフトボール部では支配者としての顔があるためそんな事は出来ない、専用機持ちの仲間に対しても自分が一番強いと思わせたいがために弱みなんて見せられない、一番信頼しているラウラちゃんにも兄としての顔があるためにそういう部分は見せられない。

多分私以外でそんな事を言えるのはシャルロットちゃん位だろう、これは確かに辛い状況だったのかもしれない。

 

『そして彼はISLANDERSという更に辛い状況に身を置くことになりました、そこは汚い大人たちの陰謀渦巻く場所ですからね』

「そうよね……つまりノリ君の精神は私が思ってる以上にピンチだと」

『そしてそれをサポート出来る人物はお嬢様しか居ません、頑張ってください』

「ですよねー……」

『そいう事です。お嬢様、御武運を。ISLANDERSの成功の鍵はどうやらお嬢様に託されているようですから』

「よしてよ、そう言われると緊張しちゃうわ。でも、出来るだけ頑張ってみるつもりよ。という事でもう切るわね、細かな資料はあとでメールして頂戴」

『はい、了解しました。では』

 

そう言って虚は電話を切った、そして私も電話をテーブルの上に置き溜息をつく。

 

「はぁ……人選ミスったかな? でも水無瀬司令の命令には逆らえないものね……」

 

実は私がノリ君をISLANDERSに推薦したのは水無瀬司令に頼まれたからなのだ、当時私達と三津村は業務提携をしておりこの推薦もその一環だった。

 

「でも、ノリ君がこんなにナイーブだったなんてちょっと予想外ね……」

 

ISLANDERSのメンバーには各々国から密命を受けているというのは公然の秘密であり、もちろんそれは私も受けていた。そして私にとってのそれはISLANDERSの正常な運営である。しかしこれはかなり厄介な仕事のようだ。

 

「そのためにもノリ君はしっかり私が守らないとね……」

 

正直貧乏クジを引かされたと思っている、しかし任務は任務だ。何があろうとこれだけはやり遂げなくてはならない。

 

直後、虚からメールが送られてくる。私はすぐさまそれに添付されてるファイルを開けた。

そこにはノリ君の詳細なプロフィールや先ほどの精神分析テストの結果を簡単に纏めたもの、果ては家族の情報までよりどりみどりだ。そしてその中で気になる部分が少々あった。

 

「あら、ノリ君のパパってかなりかっこいいわね」

 

画面に映し出される中年男性である藤木健二、ノリ君の父親でありMIE幹部の一人である。

彼は元々三津村の中でも屈指のエリートであり、行く行くは三津村商事か系列会社の幹部の椅子が約束されていた人物だ。しかし、その出世はノリ君の台頭で急速に早まることとなる。

ノリ君の父親であるというアドバンテージを得た彼はデュノア社買収の陣頭指揮を取り、フランス政府との交渉の結果、イグニッション・プラン参入をもぎ取るという大金星を挙げた。

そして彼はそのままMIEの幹部という椅子に座ることとなる、そしてこのまま行けばMIEの社長の座も手に入れるとか。

 

「ノリ君の事もあるかもしれないけどかなりやり手なのね」

 

そんな中、特記事項の欄に目が留まる。そこには一言『種無し』と書かれていた。

 

「……は? なにこれ」

 

ノリ君の資料から写真を取り出し、ノリ君パパとノリ君の写真を見比べてみる。すると確かに似ていない。ノリ君のママである冬子夫人の写真も見てみるがこっちはちょっと似ている気がした。

 

「だとすると……浮気? そして托卵?」

 

いや、それはないだろう。私達が調べて解る事だ、ノリ君のパパだって自分が種無しなのは知っているはず。だとすると……

 

「精子バンクとかかしら? まぁこっちも少し調べてみましょうか」

 

少し嫌な予感がしながらも虚に追加調査の依頼のメールを送っておく、面倒な事にならないといいけど……


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