インフィニット・ストラトス ~栄光のオリ主ロードを歩む~ 作:たかしくん
「藤木、お前やってくれたな?」
「全くですよ、こんなの一歩間違えば営倉入りですよ」
「……すみません」
イーリスさんとやりあった直後、俺の部屋には織斑先生、たっちゃん、そしてラウラとクラリッサと新井が集合していた。
勿論、議題はついさっきの件についてだ。俺は固い床に正座させられそれを女性陣が囲むように椅子やベッドに座っている。
「で、そもそも今回の諍いの原因はなんなんだ?」
「ええと、新井。説明してくれ」
「うん……」
俺に指名された新井は織斑先生達に俺とイーリスさんが喧嘩になってしまった原因を話す、それを皆静かに聞いていた。
「……そうか。いや、納得してどうする。チンピラといざこざを起こしたまではいい、実際これも良くないが。しかしコーリングに喧嘩売る流れが意味不明すぎるだろ、どうしてそうなる?」
「なんか解らないんですけど俺あの人に嫌われてるんですよ、それで売り言葉に買い言葉というかテンション上がっちゃっていつの間にかあんな風に……」
「テンション上がったから喧嘩吹っかけられる方もたまったもんじゃないな」
確かにそうかもしれない、しかし嫌ってる同士そう簡単に済む話でも無いと思うがこれは黙っておこう。
「そう言えば新井、お前俺がチンピラとやり合おうとした時俺を止めたよな。一体なんでだ? お前だってムカついてただろうに」
「こら、話の流れを変えようとするんじゃない。新井はお前と違って無駄な諍いを起こしたくなかっただけだ、そうだろう?」
今気付いたが織斑先生が新井の事をナチュラルに新井って言ってる、確か新井にもちゃんとした本名があるはずで黒ウサギの一員だから織斑先生も名前くらいは知っているはずだ。
……もしかして忘れちゃったのかな? まぁ、にぃにである俺も新井の本名知らないからそんな事言えた義理じゃないけど。
「いや、そうじゃないんです……」
「ん?」
不思議そうな顔をする織斑先生と俯いて悔しそうな顔をする新井、そしてそれを見るドイツ軍の面々もなんだか苦々しい表情を浮かべる。
「どういう事だ、新井?」
「……新井は辛いようだからここからは私が話そう。実は今、ドイツは国際的な窮地に立たされているんだ」
「国際的窮地? どういうことだ?」
「今までドイツは色々な不祥事を起こしてきた、VTシステムの一件やイグニッション・プランでの失態。それが国際的にかなり糾弾の的になっていて、その汚名を雪ぐために私達はISLANDERSに参加したんだ」
「しかしそれはどこだって同じだろう、アメリカだって銀の福音の一件では似たような事があったしフランスやイギリスだってイグニッション・プランで失態を犯している」
「だからアメリカもフランスもISLANDERSに多くの戦力を供給しているんだ、自国の防衛戦力を減らしてまでもな」
ISLANDERSに戦力を供給している国はアメリカ、ドイツ、イタリア、フランス、ロシア、日本の六カ国、そのうちアメリカ、ドイツ、イタリアはISを2機供給している。確かドイツのISは全てで10機、そしてISLANDERSに送り込んだISが2機。つまり自国戦力の2割を供給しているわけで中々気合が入っているように思える。
「しかしどこもかしこも脛に傷を持つもの同士なんだ、だったらアメリカに遜る必要はないんじゃないか?」
「そうもいかない、アメリカはIS以外にも多くの戦力をISLANDERSに供給している。そこに睨まれたら私達が動く辛くなる。新井はそこまで考えて事を穏便に済ませようとしていたのさ。悪かった、新井。私達が不甲斐ないばかりにお前にも辛い思いをさせてしまった」
「いえ、いいんです。隊長のためなら……」
新井がどういう思いで俺を止めようとしたのかを知って俺も心がすこしばかり痛くなる、しかしそういう状況ならこの模擬戦はむしろ好都合なような気がしてきた。
「うん、ならむしろ良かったんじゃないかな? 今の状況は」
「ん、どういう事?」
「ああ、今ラウラ達が辛い目に遭ってるのはひとえにラウラ達がドイツの軍人で国家の縛りを受けているからって事だよな。そしてそれは誰もが一緒だ、それぞれの国がアメリカに文句を言えないからみんなが息苦しい思いをしてるんだ」
「そうね、ロシアとしてもアメリカと正面切ってやり合うのは避けたいから私としてもここでは思うように動けないし」
「だが、俺は違う。俺はISLANDERSから直接傭兵契約を請け負い、ISのコアも何処の国も縛りを受けない拾い物だ。一応名目上は俺は日本からの戦力供給という事になってるが政府から何を言われたわけじゃない。だからさ、俺がこの模擬戦で勝ってアメリカに一泡吹かせてやろうじゃないか」
「し、しかし……そんな事をすれば兄はアメリカから狙い撃ちにされるぞ!?」
「結構結構、それに俺のバックには水無瀬司令がついてる。下手に仕掛けてくるもんなら返り討ちだぜ」
俺の戦いには思っていたより多くの人の思いが乗っかっている、だとすればこの戦いは絶対に負けられない。
「ふむ、状況が変わってきたな。だとすれば私からは何もいう事はない。藤木、やるからには思いっきりやってやれ」
「……あれ、織斑先生ってそんなにノリ君と仲良しでしたっけ? も、もしかしてツンデレ!?」
「……マジかよ。流石にその歳は俺としてもちょっとキツイですよ」
「うわー引くわー、いい歳してツンデレはなひぐっ!!」
その瞬間俺とたっちゃんの頭に拳骨が落ちる、その懐かしい感触はIS学園を思い起こさせる。そしてすげぇ痛い。
「貴様ら……どうやら再教育が必要なようだな?」
「い、いえ。滅相もない。ほら、たっちゃんも謝って!」
「す、すみませんでした……」
そして俺達は痛む頭を押さえながらやがて来る模擬戦についての作戦を色々話し合う。
多分相手は今まで戦って来た中でもきっと最強の存在だ、だとしたら今まで暖めてきた最高の作戦を披露するしかなさそうだ、そんな決意を胸にしながら俺は頼もしい仲間たちと語り合うのであった。
「…………薄い」
時と場所は変わって基地の食堂、イーリスさんに対する作戦はほぼ決まったものの後一押しが足りない。そしてそもそもこの戦いに至る原因、何故イーリスさんが俺を嫌っているのかという事を知りたくなりここにとある人を呼び出している。
この食堂では一般兵士用と士官用で席が別れており士官用の席はIS学園の食堂の席よりゴージャスだ、そして俺もISLANDERSという事で士官用の席に陣取っている。
そしてこの食堂のメニュー、IS学園に比べてレベルが低い。基本的にアメリカ料理しか出さない上に、コーヒーが薄い。IS学園よりいい所といえば量が多いということ位だろうか、IS学園ならもっとうまいものが飲み食いできたのだが文句を言っても仕方がないのだろう。
「お待たせ、ちょっと仕事が立て込んでて」
「いえ、呼び出したのはこちらです。すみません急に」
そんな中俺の待ち人であるナターシャさんが俺の向かいの席に座った、相変わらず美しい彼女に目が奪われそうになるが今回はそうも言っていられない。イーリスさんとの模擬戦に向けての情報収集をせねばならないのだ。
「いえ、いいのよ。ね、聞きたい事っていうのは」
「はい、すばりイーリスさんが俺を嫌っている原因です。正直どうやっても思いつかないし、そもそも彼女に会うのは俺がここに来た時が初めてです。だったら嫌われようがないと思うんですが……もしかして彼女って極端な女性至上主義者だったりします?」
「ああ、やっぱりそういう話よね……」
俺がその話をした直後、ナターシャさんが遠い目をする。この反応からすると彼女は俺がイーリスさんに嫌われている原因を知っている、そしてその原因はかなり碌でもないような事と見た。
「なんだか、すっげぇ下らない理由だったりします?」
「ええ、正直言って下らなさ過ぎて話したくなくなる位の理由よ」
「まぁ、そこをなんとかお願いします。模擬戦の相手の情報は出来るだけ知っておきたいんですよ」
「そう言えばそんな事もあったわね、まぁいいでしょう。私の立場上イーリの味方をしなきゃいけないのは解ってるんだけど、藤木君には恩があるしね」
「わーい、やったー」
ナターシャさんから聞かされるイーリスさんが俺を嫌っている理由、それはどんなのだろう。聞く前からワクワクしてきた。
「まず、ディアナ・ウォーカーっていう子を知ってるかしら?」
「知ってるも何も、俺がIS学園に居る人間で彼女ほど信頼できる人間もそう居ませんよ」
ディアナ・ウォーカー、ソフトボール部部長にして俺の右腕。そして最近アメリカ代表候補生になったこれからのIS業界を担う逸材の一人だ。
「そうよね、キミは彼女と仲がいいようだから当たり前か。でも、この話は知ってる? 彼女がイーリの従姉妹に当たるって事を」
「ディアナさんがイーリスさんの従姉妹!? それは初耳です」
そう言えば俺がIS学園を出て行く際、ディアナさんから姉に宜しく言っておいてくれって言われてたか、そしてその姉に当たる人物がイーリスさんだということか。
「イーリは彼女を溺愛していたらしいわ、IS学園に入学が決まった時はそれはもう自分の事のように喜んでたみたい。でもIS学園入学後の彼女の道はあまりにも険しかった」
「…………」
IS学園、それはISに関する教育を受けるために世界中からエリートが集まっている場所だ。つまりそこでは何もかもが出来て当たり前の世界、優秀であるという事はそこでは何のアドバンテージにもならない。
何故なら周りもエリートなのだから、そしてそこから更にエリートと言われる存在が代表候補生であったり専用機持ちだったりするのだ。
「彼女はすぐさま挫折を味わった、というより埋もれていったって感じね。それをなんとかしようとイーリも彼女が長期休暇で帰って来る度に付きっ切りで訓錬に付き合ってたらしいわ。でも、彼女の芽はそれでも出なかった」
「へぇ、ディアナさんも中々苦労してたのか……」
「今年の夏もイーリは訓錬に付き合わせるつもりだったらしいわ、しかしそれは結果的に出来なかった」
「今年っていうと、もしかして……」
「そう、彼女の前にキミが現れたのよ」
あ、なんだか話が読めてきたでござるよ。
「今年の夏、アメリカに帰ってきた彼女はイーリとの訓錬の予定を全てキャンセルし国内の代表候補生選考の戦いに挑んだわ。そしてそこで連戦連勝、すぐさま代表候補生入りが決定、コアの都合上専用機は手に入れられなかったけどそれに準ずる立場を手に入れた。最初はイーリも喜んでいたのよ、やっと芽が出たって。しかしイーリにとっての現実は非情だったわ」
「俺の存在か……」
「ええ、彼女はイーリに言ったわ。この功績は全て藤木さんのお陰であると、そして彼女が口を開くたび出てくるワードが藤木さん。イーリは今までの自分が全て否定された気分だったって言ってたわ」
「わぁお」
「まぁ、端的に言えば信じてIS学園に送り出した従姉妹が男性IS操縦者の調教ドハマリして代表候補生になって帰ってくるなんて……に所かしら?」
「ち、違うんや! 俺にそんなつもりはなかったんや! 俺はただ、彼女が少しでも強くなれるようにサポートしてたっていうか一緒にソフトボールしてただけなんや!」
「そうかも知れないわね、でもイーリはそう受け取れなかった」
「だから従姉妹を寝取った俺に復讐しようってわけですか……」
「え、寝取ったの!?」
「寝取ってませんよ!!」
代表候補生になるために頑張ったディアナさん、そしてそれをサポートしたイーリスさんに俺。全ての登場人物が善意で行った行動は悲しいすれ違いを生み、結果イーリスさんは俺に恨みを抱くようになった。しかし俺は完全に悪くないというかこんなの単なる逆恨みだ。
「とにかく、すっげえ下らない話でしたね」
「だから言いたくなかったのよ……」
「すみません、でもいい話が聞けましたよ。これは役に立ちそうだ」
「そう? 私としては大っぴらに応援できるわけじゃないけど役にたったのならそれでよかったわ」
「でも、俺の味方してくれてよかったんですか?」
「ええ、いいのよ。流石に今回の諍いの理由は下らなすぎだしベテランより
「そりゃありがたいですね。だったら勝ってみせますよ、この試合」
ナターシャさんの心境も複雑だろうがとりあえず俺を応援してくれているようだ、そして勝つための戦略は徐々に整ってきている。相手は多分今までで最強の相手、正直言ってどんな策を用いようと俺の不利は変わらないだろう。
だが、きっと勝てる。少なくともそう信じていなければ勝てるものも勝てない。
俺はそんな決意を胸に席を立ち、ナターシャさんと別れる。さて、最後の情報収集と参ろうじゃないか。
「…………」
そして時は流れ午後二時、ナターシャさんと話をしていたのが大体昼頃だったのでそれから一時間以上時が流れている事になる。
そして俺はとある所に電話を掛けている、相手は海の向こうなので時差の事も気遣わなくてはならないが多分大丈夫だろう。
「もっ、もしもし! 藤木さんですか!?」
「ああ、久しぶり……ってわけでもないか。まだ俺がそこを出てから一週間位しか経ってないし」
「はい、そうですね。しかし藤木さんから電話を掛けてくるなんて珍しいですね、何かあったんですか?」
「いや、そっちの様子が気になってね。どうだ、部活はうまくやれてるか? ディアナさん」
俺の電話の相手、それはソフトボール部部長のディアナさんである。彼女こそ俺がIS学園で最も信頼をおく人間の一人であり、それは彼女も同じだろう。そしてなにより今回の諍いの中心人物でもある。まぁ、彼女はそんな事全然知らないだろうが……
「ええ、藤木さんに頼まれた簪さんの育成は順調です。流石は専用機持ちですね、飲み込みが他の人と比べると圧倒的に早いですよ」
「そうか、そりゃよかった。そうそう、世間話ついでなんだがディアナさんの姉さんにも会ったよ。いや、正確には従姉妹か」
「そうですか、姉さんの様子はどうです? 彼女は面倒見がいいから藤木さんにもよくしてくれているんじゃないですか?」
「ああ、全く問題ないよ。ちょっと喧嘩を吹っかけられて模擬戦で決着をつけることになったけど全く問題ない」
大事な事なので二度言ってみた、そして電話口からははっと息を呑むような音がする。どうやらディアナさんも今俺が置かれている状況が解ったようだ。
「す、すみません! 姉さんには後で言って聞かせておきますからっ!」
「いや、それだけはやめてくれ。そもそもこの電話を掛けた理由はディアナさんにイーリスさんの愚痴を言うためじゃないんだ」
「えっ、どういう……」
「まぁ、とりあえず何故俺がイーリスさんと争う事になったのかの説明をしておこうか。ちょっと長くなるぞ」
「……はい」
そして俺はディアナさんに俺がアメリカに来て起こった出来事、ナターシャさんに聞いた話の事を説明する。最初はうんうんと相槌を返すディアナさんだったが後半になるにつれそれは溜息に変わっていった、そしてその溜息がやけにセクシーだった。
「これ、もしかして全部私が悪いんじゃ……」
「いや、そんな事はないよ。俺、ディアナさん、イーリスさんの誰一人として悪くはない。ただ、悲しいすれ違いが起こっただけさ」
「しかし、これからどうするんですか? あまり藤木さんを萎えさせる事は言いたくありませんがまともにやっても藤木さんが姉さんに勝てるとは……」
「ああ、そうだろうな。でもいつも通りに行けばきっと大丈夫さ」
「いつも通りですか、やはり何か作戦を考えているんですね?」
「もちろん、しかし先に聞かせて欲しい。ディアナさん、君はどっちの味方だ?」
「えっ、それは……」
俺とディアナさんの間には固い絆がある、しかしそれは血の結束よりも固いとは限らない。ディアナさんとしても辛い決断になるだろう、そしてそれを試している俺としても心苦しさなないわけではない。
そして長い沈黙の後、電話口から息を吸い込む音が聞こえる。どうやら彼女の意思は決まったようだ。
「……それは勿論藤木さんに決まってるじゃないですか」
「……そうか、信じてたぜ」
「ええ、藤木さんには私をここまで育てていただいた恩があります。そしてなにより私はソフトボール部部長です、これまでも周りに何を言われようと貴方についてきました。そしてそれはこれからも一緒です。貴方の願いは私の願い、貴方の幸せは私の幸せです。ですから私に出来ることは何でも言ってください」
「ふっ、俺もいい部下を持てて幸せだよ。では二、三聞きたいことがある、いいか?」
「ええ、何でも答えますよ」
何でも答えるか、だったらこの恥ずかしい質問にも答えてくれそうだ。いや、何が何でも答えさせてやる。
「そうか、じゃあ聞くぞ。……ディアナさんって処女?」
「……えっ?」
馬鹿げた質問だと思っているだろう。しかしこれこそが俺の勝利のための、そして今までの集大成とも言える戦術への布石なのだ。
こいつらくだらなさすぎるよ……