インフィニット・ストラトス ~栄光のオリ主ロードを歩む~ 作:たかしくん
「いっちに……さんし……」
そして運命の模擬戦当日、俺は用意されたピットでストレッチを行っていた。
「呑気なものだな」
「いやいや、何をおっしゃる。試合前のストレッチはちゃんとやっておかないと。いざって時に体が動かなくなりますからね」
「そうか。まぁ、その手の部分はボクの専門外だからな。悪かった、余計な口出しをして」
このピットには俺とせっちゃんの二人だけ、本来なら成実さんも居るはずなのだが今日は体調が悪いようで宿舎で寝ているらしい。……生理かな?
しかしせっちゃんと二人きりというのは都合がいい、前々から切り出そうと思っていたあの話題をするべきなのかもしれない。
「しかしISLANDERSってのも碌な奴が居ないっすね、お陰様でこんな事になるなんて」
「その碌でもない奴というのにお前も含まれてるから安心しろ」
「いやいや、俺はそんな事はないっすよ。しかし本当に大丈夫なんですか? この部隊は。上は素人、下は内ゲバ。俺は不安しか感じませんよ」
「素人っていうのはボクの事を言ってるのか?」
「まぁ、そうなりますよね。せっちゃん、ISの部隊運用の経験とかないでしょ?」
「それは誰だって一緒だ、この規模の部隊が結成させること自体が前代見聞なんだ。だから誰もが素人なんだ」
「そうですか……ところでせっちゃん」
「……なんだ?」
「せっちゃんは俺を裏切ったりしないよね?」
「どうした、急に?」
「織斑先生から色々聞いたよ、せっちゃんは危険な奴だって」
「……そうか」
「…………なぁ、そんな事ないよな? 俺達は短い期間ながらこれまで一緒にやってきた、俺はアンタを信頼している。だからさ……」
「……不安か?」
「……ああ、不安だ。ISLANDERSに来てから誰を信じればいいのか解らなくなってきている。織斑先生は不穏な事しか言わないし、ラウラ達は自分の事で手一杯そうだから頼るわけにもいかない、たっちゃんとテンペスタの人は最近あまり姿を見せないからなんだか怖い、そしてアメリカ組は言わずもがなだ」
「…………」
「頼むよ、何か言ってくれ。なんだか……寂しいんだ」
ISLANDERSに来てからというもの、俺の日常は陰謀めいた色に染まってきている。なんだかんだでハチャメチャなIS学園ではこんな気持ちになることはなかった。しかし今はどうだろう、各々が重いものを抱え、全員が仮面を被り、何かを演じている。それがとてつもなく寂しく感じる。
「ふっ、だから男のボクにキミを慰めろと?」
「茶化すなよ、いま真剣な話をしてんだ」
「そうか……でもボクが言えるのは一つだけだ。ボクを信じろ、ボクは今までキミのために尽くしてきた。そしてこれからもそうだ。今後も辛い思いをさせることは多々あると思う、しかし何がなんでもキミを悪いようにはさせない。だからボクを信じてついてきてくれ」
「……その言葉、信じてもいいんだな?」
「信じるかどうかはキミ次第だ、だが信じられないなら信じられるようになるまで疑ってみろ」
「だったら一つ質問に答えてくれ、織斑先生が言ってた事は本当なのか?」
「ボクが危険人物かってことか? さてどうだろう?」
「……信じさせてくれるんじゃなかったのかよ」
「そんな事を言った覚えはないぞ、しかし織斑とも古い付き合いの上にかなり嫌われているからな。そういう風に言われるのも致し方ないか……」
「織斑先生と古い付き合いって?」
「ギャルゲ臭がするからあまり言いたくはなかったんだが、俗に言う幼馴染だ」
「ファッ!?」
今更明かされる衝撃の事実、なんだかせっちゃんを信じるとか信じないとかどうでもよくなってきた。
「ええー? ほんとにござるかぁ?」
「どうした、急に竜殺しみたいな口調になって。本当だよ、嘘だと思うなら織斑に聞いてみるといい」
その直後、俺はスマホを取り出し、織斑先生に電話を掛ける。数回のコールの後、織斑先生が電話に出た。
『……どうした、試合前だろ? ウォーミングアップとかはしなくていいのか?』
「そんな事より! 織斑先生が水無瀬司令と幼馴染っていうのは本当の話なんですか!?」
『……ん、そうだな。まぁアイツとは腐れ縁だがそう呼べなくもないか』
「マジかよ!!」
そう言って電話を切る、どうやらさっきの話はせっちゃんのホラ話ではなかったらしい。
「マジだったのかよ……」
「そんな下らない嘘をついてどうする」
「……もしかして、織斑先生がISLANDERSに居る理由って、せっちゃんが織斑先生と会いたいがために!? 会えない時間が二人の想いをより強固なものにした? そして禁断の恋? まさかの不倫? 成実さんはどうするつもりですか!? 事と次第によっちゃ去勢しますよ!?」
「アホか、アイツには戦術アドバイザー兼トレーナーとして呼んだだけだ。それ以上の役割は期待してない」
「ええー? ほんとにござるかぁ?」
「その台詞、気に入ってるんだな」
なんだか話の内容がゴリゴリに逸れた、軌道修正したいと思ったがそろそろ時間だ。
この戦い如何によって今後の俺の立ち位置が決まってくる、そして負けるような事があれば他の仲間たちにも迷惑が掛る。
だから絶対に負けられない、しかし俺と相手の技量の差は歴然。そしてそれを埋めるための策は果たしてイーリスさんに効くだろうか? いや、弱気になるな。あれは今までの集大成だ、絶対に成功する。いや、性交してみせる。
「じゃ、行ってくる」
「ああ、キミのISは紛れもなく世界最強だ。……勝てよ」
「オーケイ、ボス」
そして俺は織朱を展開し、カタパルトに移動する。
『いよいよね……』
「ああ、勝つぞ」
『大丈夫ですよ、あの策なら必ず……』
「そこまで言われるとなんか失敗しそうな気が……」
『はいはい、弱気になっちゃ駄目よ。行きましょう』
「……そうだな。藤木紀春。織朱、行くぜっ!」
その声と共にカタパルトが作動し、俺は一気にアリーナ内部の空に踊り出る。そしてそこには今までで最強の敵、イーリスさんが纏うファング・クエイクが待ち構えていた。
「はっ、随分遅い登場だな? 怖気づいたのかと思ったぜ」
「そういきり立つなよ、早いのはいろんな意味で嫌われるんだぜ?」
相手の挑発をいなし、言葉のカウンターを入れる。イーリスさんとて俺相手に口喧嘩で勝つのは不可能だ、こちとら踏んできた場数が違うんだから。
さて、早速だがもっと挑発してやろう。そして俺のペースを作り出す、それが俺の集大成の戦術完成への第一歩だ。
「しっかし、色々聞いて来たんだが情けない話っすなぁ? まさか従姉妹取られた位で怒ってるだなんて随分ケツの穴が小さい事で。……いや、待てよ。その方が締りがよくて気持ち良さそうだ」
「テメェ、その話誰から聞いた?」
そしてここで両手を挙げてのオーバーアクション、相手を挑発するためには言葉だけでは足りない。心底馬鹿にしたかのような態度、それこそが相手の感情を怒りにシフトさせるための重要なファクターとなる。
そして怒りは冷静さを打ち消す、そしてその感情は戦闘行動を雑にさせ更に俺の優位な状況を作り出す。これまでもよくやってきた事だ。
「勿論ナターシャさんに決まってるだろ、彼女も心底呆れてたぜ? まさか自分の友人の器がこんなに小さいなんて思ってもみなかったってさ」
「そんなわけあるか! ナタルはそんな事言わない!」
「まぁ、信じるかどうかはアンタ次第だよ。そうそう、話題は変わるがここはつまらん場所だよな。一面砂漠で乾いた景色、量だけしかとりえのない食事、そして抱ける女すら居やしねぇ。お陰で溜まっちまってさ」
「だったらマスでも掻いてりゃいいだろ、童貞の
「俺が童貞? こりゃ異な事をおっしゃる、そりゃ俺もIS学園に帰れば凄いんだぜ? っていうか絞られっぱなしで辛いのなんの」
ごめんなさい嘘つきました。俺、童貞です。
「溜まり過ぎて脳味噌がおかしくなっちまったようだな。仕方ない、アタシがぶん殴って治してやるよ!」
次の瞬間、イーリスさんが急接近し俺に向かって右ストレートを放つ。
しかし、やっぱりその動きはよく見える。これも織斑先生との戦いの成果か。
俺は織斑先生に感謝しながら体勢を低く取り、その拳をかわす。そしてすぐさま元の体勢に戻るとイーリスさんの顔は目の前、すぐにでもキスが出来そうな距離だった。
しかし俺の話は終わっちゃいない、両手でイーリスさんを突き飛ばし距離を取るとまた語り始めた。
「そう焦んなって、まだ前戯が終わってねーだろうが」
「何が前戯だ、一々嫌らしい言い方しやがって」
「おっと、イーリスちゃんはピュアなんでちゅねー。従姉妹とはえらい違いだ」
「ああ? 従姉妹だと?」
「そうだよ、お前の可愛い従姉妹は既に俺の肉便器だよ」
ごめんなさいまた嘘つきました。ディアナさんは肉便器なんかじゃないです。
「て、テメェ……」
「いやー、なんか誘ってる雰囲気があったもんで一発レイプしたらすっかりおとなしくなっちまってね。ああ、懐かしいなぁ。最初の時はめっちゃきつくてすぐにイかされたわ」
「な、なんだと……」
「そこからはもうしっちゃかめっちゃかよ、俺も何回イったか憶えてないわ。抜か八位はしたかな? まぁ、あれだけやりゃ妊娠したかもな」
そしてそこで大笑いをして更に煽る、イーリスさんは小鹿のようにプルプルと震えていた。
「ああー辛いわー、IS学園に帰りたいわー。あそこだったら朝フェラで起こしてもらえるのに環境が違いすぎて辛いわー」
そんな事を言っている間にイーリスさんはゆっくりと歩を進め、俺へとにじり寄ってくる。そして俺との距離がほぼゼロになり、その額が俺の額とくっつく。というかファング・クェイクのバイザーが額にぶつかってちょっと痛い、そしてそれはまるでヤンキーの喧嘩を思い起こさせるようだった。
「テメェ、殺す」
「は? やれるもんならやってみろよ」
そう言った後、俺はイーリスさんの唇に自身の唇を軽く重ね合わせた。そして次の瞬間……
「死ねコラぁ!」
その言葉と共に放たれる拳を大きく後退しながらかわし、展開領域から強粒子砲を取り出し構える俺。
「どうした? もしかしてファーストキスだったか?」
「絶対に許さねぇ……」
俺は薄ら笑いを浮かべながら強粒子砲を発射する。よしよし、いい感じにスタートが切れた。策もいい感じに決まってるし後はこのまま押し切るだけだ。
「な、なんですか……これ」
「アレが藤木の普段通りのやり方だ、知らなかったか?」
「はい、全く……」
一進一退の攻防がアリーナで行われている最中、ナターシャのそんな声が狭い観客席でこだまする。そしてその疑問に千冬が答えた。
現在、この観客席にはアメリカに居るISLANDERSの戦闘員全員と一部の非戦闘員が居る。そしてその中でナターシャ一人が青い顔をしていた。
「し、しかし藤木君ってこんな酷い戦い方をするんですか? 普段の彼からは想像も出来ませんよ」
「ふっ、甘いな。その普段の兄というものは世間のために作られた仮面に過ぎない、あれが本当の兄だ」
今度はラウラがドヤ顔で答える、ラウラはナターシャが知らない藤木の顔を知っているということでナターシャに対してちょっとした優越感を抱いていた。
「協力するんじゃなかったかなぁ……」
「ナターシャさん、藤木君に完全に騙されましたね。まぁ、彼の演技力は中々のものですから仕方ないのかもしれませんね」
ナターシャの藤木像は完全に崩壊していた、そしてそんな彼女を周りは可哀想な人を見るような目で見ていた。
「彼は決して清廉潔白な人間じゃありません、むしろそれを真逆に行くような存在です。汚い手を使うことに躊躇しないどころか積極的に使っていくような……ね」
「まさにISLANDERSにうってつけの人材ってわけね……」
ISLANDERSは仲良しこよしの正義の軍団では決してない。お題目はあれど各々が裏で自分のために動き、隙あれば仲間とて追い落とす。そんな場所だ。
それはこの場に居る誰もが理解していた、そしてそんな不協和音がこんな事態を招いているのだ。
「ああ、しかし誤解はしないでもらいたい。兄とて必死なのだ、自分を守るためにな……」
ラウラがぼそりと呟く、彼女そんな彼女の表情は明らかに曇っていた。
家族として自身の兄を守る、ISLANDERSに入った時そんな決意を胸にしていたのだがそれは不可能になってしまった。自身の国家のために動くことに手を取られ、兄にこんな戦いをさせてしまっているのだから。
そもそも事の発端である新井も本来なら自分が守るべきだったのだ、しかしそれを出来ないどころか兄に新井を守らせてしまった。それがたまらなく悔しかったのだ。
「……大変ね。誰も彼も」
「ああ、そうだな……」
ヒートアップしていく戦いと反比例するかのように観客席は静まりかえっていく。そんな中、藤木とイーリスの拳が交錯し両方が吹っ飛ぶ。
しかし、二人ともがすぐさま起き上がり突撃していく。この戦いはまだまだ終わりそうになかった。