犬夜叉 時を繋ぐもの   作:アマゾンズ

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月日の流れは早い。それがたとえ、違う時代を生きていようとも。











※辻谷耕史さん、ご冥福をお祈りいたします。弥勒様の演技大好きでした。


それぞれの時間と想い

某日、枢木神社。

 

「ふう、掃除はこんな所かな」

 

「おい、真嗣!掃除が終わったらすぐに手伝いなさい!」

 

「はーい」

 

俺の名前は枢木真嗣。ここ、枢木神社の神主の息子だ。今ではもう二十代なりかけの大学一年生だ。

 

中学生まで「僕」だった一人称も「俺」に変わって、少しずつ自分が年齢を重ねて来ている事を感じてきている。

 

今でも中学生の時に起こったあの出来事を昨日の事のように思い返せる。あれは今と同じ、枢木神社のお祭りの準備を手伝おうとしていた時だった。

 

土蔵へ祝祭に必要な物を取りに行って、床から不思議な光が溢れて気づいた時には戦国時代へとタイムスリップしていたんだから。

 

その戦国の時代で出会った、乱暴だけど優しい半妖である犬夜叉。同じ現代人で戦国の巫女の生まれ変わりの日暮かごめさん。女好きですぐに女性に手を出すけど法力を使いこなす実力は本物の法師様の弥勒様。気立てが良くて、美人で妖怪退治を専門にしていた集落出身の珊瑚さん。外見はちっちゃくても考えがしっかりしている子狐妖怪の七宝。

 

戦国の世界で俺を仲間として受け入れてくれて、現代に戻る方法を共に探してくれた大切な人達。

 

そこで覚樹と名乗るばあちゃんから式神を目覚めさせて貰えたのは、驚いた。自分の中にそんな力が眠っているとは、思いもしなかったからだ。

 

現代と戦国じゃ価値観が違っているし、眉唾かな?と疑問にも思った。実際に使ってみた時は感動し、浮かれていたけど、あの時の自分を殴りたいと考えた事は一度や二度ではなかった。

 

浮かれていた俺は蛇紋岩を見つけ出しては手当たり次第に崩していた、そんな時、一度だけとある村を崩落させかけた事があった。

 

怪我人も死人も出ないで済んで、村も無事だったから良かったけど、あの時だけは犬夜叉と弥勒様に本気で殴られ、珊瑚さん、かごめさん、七宝から説教された。

 

本当に思い返すだけで顔から火が出る。なんて馬鹿な事をしたのだろうと。

 

一時期、それが原因で式神に見放され、己の身を守る事しか出来なかった時があった。その時はしばらく、楓の村に留まって己を見つめ直した。

 

楓の村の村長である老巫女の楓ばあちゃんから、修行の方法を教わり、ひと月ほど滝行と自分の時代の勉強をこなし、自然と一体化出来るように頑張った。

 

そのかいあって、式神達からもう一度、機会を貰うことが出来た。地・水・火・風・空、その全てを理解出来たとは言えないけど、火、水、風までの基礎の式神は習得し、昇華させた。

 

 

 

 

 

「回想なんて、今の俺らしくないな・・・未練がないといえば嘘になるけど」

 

そう、たった一つの未練を戦国の世界に残してしまっていた。それは恋慕だ。

 

中学生の恋なんてこの時代からすれば、子供の遊びにしかならないと考えられてしまう。だが、戦国の世ではそうではなかった。

 

父さんに聞いた話によれば戦国時代では、十五歳で元服と呼ばれる成人の儀があり、そこで初めて大人と認められるそうだ。

 

俺の残した恋慕の思い、それは珊瑚さんへの想いだった。あれから数年経った今でも振り切れないでいる。

 

現代に戻ってから、高校時代に告白された事は何度もあったけど、どうしても付き合う気にはなれなかった。

 

それは単純な答えで、戦国の女性の強さに惹かれてしまったから。現代は思ったことがほとんど実現してしまう。

 

それが当然と考えている人が多すぎて、嫌になってしまったというのも本音の一つだ。自分の事を自分でなんとかする、そんな当たり前の事を身に付けている戦国の世界に心が奪われていたのかもしれない。

 

「っと、いけないいけない。準備しなきゃ」

 

祝祭の準備を父さんと共にしていると、突然父さんから話しかけられた。

 

「真嗣、お前・・・うちの神社の歴史が知りたいとか言っていたな?」

 

「え?ああ・・・大学の課題用にね」

 

何故、父さんはこんな事を聞いてくるんだろう?そんな疑問が頭をよぎる。そう思っていると父さんは古びた一冊の本を俺に手渡してきた。

 

「これは?」

 

「戦国時代における枢木神社の書だ。この時代に生きた巫女が書き残したと伝えられている」

 

「!」

 

戦国時代と聞いて心が高鳴った。もしかしたらという考えが深く頭の中を駆け巡っていく。俺はそれをわずかに震えながら手にとった。

 

「この本には歴史の他に術に関することも書かれているようだが、私には解読できなかった。それでもいいなら読んでいいぞ」

 

「う、うん!しばらく借りるよ」

 

 

 

 

 

手伝いを終えて、夕食も取り自室に入ると父さんから渡された古本を開いた。そこには枢木神社の建造理由、御神体、神社の由来に関する事が書かれていた。

 

「やっぱり・・・」

 

捲っていくとそこには見覚えのある巫女の名前があった。戦国の世で50年前の当主であり巫女でもあった覚樹という名前。

 

その巫女は稀代の式神使いであったという。同じ式神使いの巫女は居たが、地水火風空の術を使いこなし、結界術にも優れていたという。

 

「覚樹ばあちゃんって・・・若い時は桔梗にそっくりだったんじゃ?」

 

桔梗というのは戦国時代で出会った巫女さんで、かごめさんの前世であり、犬夜叉の初恋の相手でもあった女性だ。当時の外法と呼ばれる秘術で蘇ってきたと聞いた。

 

俺からすれば当時の女性の強さを教えてくれた人で、憧れの女性でもある。あくまでも憧れであって、この人が理想像だとか、そのくらいの考えしかない。

 

「ん?この記述・・・蛇紋岩に関してだ。それに・・・この位置、本堂の地下だ。父さん、言っていたな。本堂の地下には強力な封印が施されている場所があるって」

 

そう考えながら読んでいると最後の一文が手書きのようで書き足されていた。そこには・・。

 

『溢れる碧空よ、かの者を導き給え』

 

思わず読んでしまった。瞬間、地震が起きたがニュースなどで速報は入らなかった。直下型としても規模が小さい。

 

「何だったんだろう?一体」

 

時間はまだ19時、就寝には早すぎる時間だ。好奇心から本堂の地下へと降りることにした。小さい時は仕掛けを勝手に動かして怒られたが、今はない。

 

「えっと、確かこの柱に・・・あった!」

 

隠しスイッチにあたる部分を押し込んで地下への階段を作動させる。すると同時に扉が開き、地下へ案内されるような錯覚に陥る。

 

「この地下、今は簡単な物置になっているけど・・・!この中心の壁、蛇紋岩で出来てる!よし、それなら」

 

『揺らめく炎よ・・・蛇を焚き払え』

 

現代においても式神の力は失われていなかった。理由は分からないけどなにかきっと意味があるのだろう。

 

式神の力に反応した蛇紋岩の壁は人一人が通れるくらいの隙間を空けて崩れた。その反動で祝祭用のロウソクが数本転がってきたので手に取る。

 

「これ・・は、覚樹ばあちゃんが弥勒様に渡した御札・・・かな?暗いし古くて破れてるから何とも言えないけど」

 

そこは修行のための空間だった形跡があった。明らかに人の手が加えられていて、御札などが壁に貼られていたからだ。

 

「・・・えっと、さっき崩した拍子に転がってきたロウソクを・・・」

 

式神の力を利用して、ロウソクに火を灯すと同時に見えた燭台にロウソクを立て、左右に均等になるようにする。

 

空間全体が揺らめく炎に照らされ、全てが視界に入ってきた。

 

「戦国時代の祈祷用の台座・・・その上には本?かな・・・」

 

本らしき物を手に取ろうとした時、何かピリッと走ったような気がした。気にせずに本を取るとその中を読もうとすると、もう一冊の本が何かでくっついていたらしく、出てきて地面に落ちた。

 

「ああ!?良かった本は無事だ・・・まずは先に一番上の本を読んでみよう」

 

どうやらそれは日記のようなものだった。特に覚樹ばあちゃんの事が書かれているみたいだ。どうして俺が戦国時代の文字を読めるのかというと、式神の力を使っているからだ。

 

式神は元々、自然の力を形にしたもの。時代を超えて生きている、言葉は喋らせる事は高度な技術を身に付けなかればならないが、文字の翻訳くらいなら今の僕でも十分できた。

 

もっとも、昔の日本語を翻訳する事くらいしかできないけど。

 

 

 

 

 

 

 

50年前、先々代の当主であり、式神巫女の名を与えられた覚樹様は美しく、優しく、また厳しさも持っておられた方であった。

 

そんな折、四魂の玉と呼ばれている物が現れたそうだ。清めの巫女の選定を受けるべきだと周りからは言われていたが、覚樹様は「私ではない。・・・浄化の力が私以上に強い者がいる」と選定を受けなかった。

 

その力を持つのは誰なのかと尋ねたら、武蔵の国の桔梗という巫女がそうだとおっしゃっていた。覚樹様も顔を見たことがないそうで、どんな巫女なのかはわからない。

 

「これ、・・・世話役の人の日記みたいだ。最後は・・・破れてる。仕方ない、もう一冊の方を読んでみよう」

 

もう一冊の方は識神に関する修行方法が書かれていた。それだけじゃない、何かを伝えようとする文面も見つけた。

 

『次世代の者よ・・・もしも、偶然というものがあるのなら、この本が残っていることを願う。そして読んでいる子孫よ、自然の式神使いのみが振るうことを許された牙(刀)を探し出して欲しい』

 

「牙って・・・刀の事かな?」

 

修行の方法と技を昇華させる基礎訓練の方法、地水火風空の五大行、木火土金水の五大行、二つの五大行の修行方法まで細かく書かれていた。

 

「覚樹ばあちゃん・・・」

 

修行方法だけが書かれている本だけを部屋へ持ち帰り、就寝することにした。明日はまだ忙しくなる、そう考えながら。

 

 

 

 

 

時代が変わって戦国時代、楓の村。

 

奈落を追っている犬夜叉一行。その一行も毎日旅している訳ではない、時折こうして楓の村に帰ってくる事で骨休めをしているのだ。

 

「んぐんぐ、ふぉれひいてもよ?あいふはひなふなって、ふいぶんはつんはな」

 

「犬夜叉!口に物を入れながら喋らないの!」

 

「・・・ふぅ、やはり一人欠けたのは大きすぎますな」

 

「・・・・」

 

「どうしたのじゃ?珊瑚?ボーッとして」

 

「え?ああ、何でもないさ」

 

犬夜叉はかごめが持ってきた大盛り系のカップラーメンを食べており、弥勒は緑茶を啜っていた。七宝はお菓子に夢中になりながらも仲間を気にかけており、珊瑚は何かを考えている様子だ。

 

「っんぐ!だがよ、アイツはかごめと同じ国に帰っちまったじゃねえか」

 

「そうね。私のように井戸を通ってきている訳じゃないし・・・」

 

「彼には此方へ来る際、ウツギという繋がりがありましたからね、今となってはそのウツギも枢木神社に弔われています」

 

「あ、珊瑚ちゃん?」

 

「ちょっと、外に出てくるよ。大丈夫、遠くには行かないさ」

 

「だったら、私も」

 

「いや、一人になりたいんだ。すまない・・・法師様」

 

そう言って珊瑚は小屋から出て行ってしまった。近くの小川まで出向くために。残った四人のうち三人は珊瑚の様子が違う事に対する原因を思い浮かべていた。

 

「やはり・・・あの言葉が効いているのですな」

 

「最後の最後ってやつだったもんな」

 

「うん・・・」

 

「何の話じゃ?」

 

七宝以外が話している事、それは真嗣が現代へ戻る際、珊瑚に言った言葉だ。好きだった・・と。

 

同じ女性に惚れている身としてはお互いにどちらが先に、惚れさせられるか競いたかったのが弥勒であった。

 

彼は旅の途中で自分が体調を崩し、幻を見せる妖怪と戦った際に真嗣が珊瑚に対し好意がある事を見抜いていた。

 

それを本人に問わなかったのは法師としての自分の戒めもあるが、何よりも心の内を暴かれるのが嫌なのを誰よりも自分が理解していた為だった。

 

「まさか先を越されるとは思わなかった。だが・・・引っかかる、何故「好きだった」・・・だった、なのだ?」

 

弥勒は少し考え込むと、かごめを見て合点がいった。真嗣はかごめと同じ国の出身、一度戻ってしまえばもう会う事は叶わない。だからこそ、自分の気持ちを伝えたが、二度と自分は想い人に会えないと自覚して「だった」という言葉を使ったのだと。

 

「カッコつけやがって・・・」

 

思わず素が出て、小声で口にしてしまった。女に惚れるのは突然ある事だ、それを咎める気はない。

 

二度と会えないからといって、なかった事にしようとするのは許せる事ではなかった。同じ女に惚れた者同士として。

 

 

 

 

 

 

その頃、珊瑚は草履を脱いで小川に足先を入れつつ、考え事していた。真嗣の最後の言葉、自分に対する告白の言葉をだ。

 

退治屋として生きてきた自分にとって、異性を意識した事はほとんどなかった。男に告白されたのはあれが初めてだった。

 

「・・・馬鹿だね」

 

それしか出てくる言葉がなかった。でも、気持ちは解る。アイツはかごめちゃんと同じ国の出身、突然現れて、突然消えていった。

 

最後の最後で好きだなんて言葉を残していった。でも、私は・・・今、法師様の隣にいる。法師様を好いている事も事実だ、だけど・・・。

 

アイツの・・・真嗣の事が気になってしまっている。返事をしてやらないと私もアイツも先に進めない。それだけを考えている。

 

誰も悪くないのに、ここまで引っかかっている。私の気持ちも揺らいでいるのだろうか?

 

「はぁ・・・・」

 

何度目か分からないため息を吐いてしまう。このまま引きずるのはよくないと感じながら。

 

 

 

 

 

時間が進んだ現代では祝祭が終わりを迎えていた。父さんに地下の事を話したら真っ先に道場へ入門させられた。

 

父さんもお世話になった道場らしく、実戦的な剣道、柔道、合気道を叩き込まれそれを基本として昇華させた剣術、柔などをさらに叩き込まれた。

 

この道場は普通に鍛えているが、妖怪退治の血統を受け継ぐ家系だけが、剣術と柔を学ぶことが許されるのだそうだ。

 

剣術に関しては力で押していくのではなく、見切りと受け流しを主とする陰の剣術を身に付けさせられた。

 

「はぁ・・・はぁ、現代にも妖怪は・・・いるよなぁ」

 

実際、真嗣は高校の教室で妖怪と戦った事があった。戦国時代の妖怪と比べれば、かなりの下級妖怪ではあったが式神の力を使わなければ勝つことは不可能だった。

 

父さんの話を最後まで聞くと、体術と身を守る武術を身につけておかなければ、式神使いはすぐに敗北するのだそうだ。

 

更に式神使いは己の式神を返されたら終わりだととも言ってきた。だからこそ、式神以外でも戦えるようにしておくのだと。

 

俺はこの言葉を戒めとし、毎日鍛錬した。でも、この時・・・思いもしなかったんだ。

 

また、再会の時が来るなんて、そして・・自分の身に降りかかる恐ろしくも嬉しいことを。




はい、ゲームの影響を受けて書きました。

主人公はゲームのラストから15歳と考えても4年の月日が経っています。

時空の乱れがあるため、かごめは完結編の時間軸になっています。

この時間軸の壁を乗り越えた時に冒険が始まります。


時が進んだ現代と私の現代が重なり合う時、彼が再び現れる!

次回、戦国お伽草子、犬夜叉。

「時間の壁を乗り越えて!」お楽しみに!


※前書きでも書きましたが、このストーリーを書いている時に弥勒役の辻谷耕史さんの訃報を知りました。

私の中で辻谷さんといえば、クロスボーンガンダムのキンケドゥ・ナウ、そして犬夜叉の弥勒、戦国バサラの浅井長政が印象的でした。

今はただ、お悔やみを申し上げたいと思っております。ご冥福をお祈りしつつ、辻谷さん、本当にお疲れ様でした!
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