妖怪退治屋の里に来て早一ヶ月二十八日、修行の成果も出てきて、珊瑚にはまだまだ追いついてはいないが、実戦慣れさえすれば大丈夫なほどに技が磨かれてきていた。
「彩水ちゃん、そろそろ休息にしよう?かごめちゃんに学問を教える準備をしてるのは分かるけど、根を詰めるのも良くないよ?」
「あ、うん。そうするよ」
あの日以降、珊瑚と彩水は仲が良くなった。意外にも彩水は料理が得意で、珊瑚の料理の師となり教えていた。
「そうそう、お魚の焼き具合はそのくらいが丁度良いよ」
「なかなか難しいね」
「珊瑚ちゃんは器用だからすぐに慣れるわよ」
こうして二人の絆はより深くなっていった。食事の時には、かごめの学問に対する意欲さや犬夜叉の妨害、弥勒に珊瑚と間違われたと事などを面白可笑しく話していた。
「法師様に間違われたんだ」
「あの時も思いっきり殴ったけどね、失礼しちゃうよ」
「本当に懲りなからね。法師様は」
食事を終えて、片付けをしながら話を進めている。主な話題はやはり弥勒から受けるセクハラだ。だが、それも無理もない、毎回受けていた珊瑚からすれば、もはや呆れている。
「まぁ、法師様の話はここまでにして。今日は・・・!?」
「どうしたの?」
「急いで着替えて!妖怪が近づいて来てる!」
「!わかった!」
二人は戦闘服に着替え、防毒面を口元に装着し、外へ出ると小規模の妖怪の群れがこちらへ向かってきていた。
「珊瑚ちゃん!」
彩水は両手で抱えた飛来骨を珊瑚へ投げ渡し、彩水自身は真刀を手にして外へ出る。
「ありがとう!でも、丁度いいね。彩水ちゃん!実戦経験を積むよ!」
「え、わ・・私も!?」
「当然さ。何の為に特訓してきたんだい?私も手伝うから、行くよ!」
「ま、待って!」
妖怪の群れは本能で人間を襲おうとするタイプのものばかりだ。高い知能を持つ妖怪は人型になるらしく、襲ってきている妖怪の中にはいない。
「くらえ!飛来骨!!」
飛来骨が妖怪をなぎ払う中、仕留めきれなかった妖怪が彩水へと向かっていく。それを見た珊瑚は飛来骨を再び投げようとするが、間に合わない。
これが飛来骨の弱点だ。飛来骨は大型であるが故に一度投げてしまえば勢いを付けるのに数秒間のロスが発生してしまう。
「こ、来ないで!」
逃げようとするが、足が竦んで動く事が出来ない。妖怪は好機と言わんばかりに彩水へ食いつこうとした、その時だった。
「うわああああ!」
『ギイヤヤアアアア!?』
彩水は珊瑚から手渡されていた刀で、妖怪を切り伏せてしまった。そう、彩水の良い点でもあり、弱点でもある火事場力が表立って出てきてしまったのだ。
「ああああ!たああああ!!」
現代においては彩水は動体視力が良く、電車の上り下りを見つめる事で鍛えていた為、妖怪の動きはスローモーションのように見えていたのだ。
だが、珊瑚からすれば、これは周りが見えていないのと同義。かつて初めて自分が出陣した時と全く一緒な状態。
「彩水ちゃん!駄目だ・・・何も耳に入ってない!どうすれば?」
「きゃああ!?」
順調に倒していたように見えていたが、彩水は四方八方から妖怪に襲われ、家屋に吹き飛ばされてしまった。
何度も何度も吹き飛ばされたりする事は現代の道場や、珊瑚の特訓ともあったが衝撃の度合いが違いすぎている。
「う・・・・ぐ・・」
「彩水ちゃん!うっ!?」
彩水へ近づこうとすれば妖怪に取り囲まれ、珊瑚は助けに行く事が出来ない。彩水は頭を左右に振ってなんとか意識を覚醒させたが、武器である刀が折れてしまっている。
「どうしよう・・・これじゃ珊瑚ちゃんを助けられない!」
吹き飛ばされたおかげか、痛みはあるものの彩水は頭が冷えた様子だ。吹き飛ばされた先の家屋は武器庫のようで、何か無いかと必死に探し続ける。
だが、どれも武器として自分には扱えない物ばかりだった。それでも探し続けるとある場所に厳重な箱を見つけ出し、その蓋をこじ開けた。
「これって・・・?」
その武器は三日月のような刃を持っていた。それを手にし仕掛けがあるのかを調べると、隠された突起部分を押す事で、三日月、半月、満月と言える段階に刃を伸縮させる事が可能のようだ。
「これは・・鎖かな?」
鎖を使うことで敵を薙ぎ払う事も可能なようだ。この武器を手にして珊瑚の援護へと向かう。外では珊瑚が隠し刃や飛来骨を盾にして踏ん張っていた。助け出すために起死回生の一撃を見舞う。
「珊瑚ちゃん!伏せて!!」
「え!?っ!!」
言われるままに身体を伏せると妖怪達が鋭い刃で切られたかのように全てが薙ぎ払われている。鎖で速度を殺し、彩水は戻ってきた刃をキャッチした。
「彩水ちゃん!?それは!」
「偶然見つけたの!緊急時だから使わせてもらうね!」
その刃を手にした彩水は凄まじかった。遠距離では刃を飛来骨のように投げ、鎖を振り回してなぎ払い、中距離ではチャクラムのように投げつけ、近距離では刃として使用する。
まるで舞っているかのようで、鮮やかな一撃を加え、珊瑚の邪魔にならないよう戦っている。珊瑚が飛来骨でなぎ払えば、彩水は討ち漏らした部分を倒すという、即席のコンビネーションではありえない位の連携技。
そう、言うなれば何年も共に戦い、背中を預け合ってきた戦友同士とも取れる息のあった二人だ。
最も、彩水は極限状態の集中力を発揮し、珊瑚が彩水のフォローをしている事に変わりはない。
妖怪達を全て倒すと、二人は背中をくっつけ合って座り込んでしまった。
「はぁ・・はぁ・・・結構やるね?彩水ちゃ・・ん」
「はぁっ・・はぁ・・・そうでもない・・よ。珊瑚ちゃん」
息が整った所で雲母も合流してくる。珊瑚は立ち上がると彩水に手を差し出し、彩水も珊瑚の手を握って立ち上がった。
「ふた月の予定だったけど、これなら大丈夫かもね」
「無我夢中だっただけだよ」
「それでもだよ、後は犬夜叉達と一緒に居れば大丈夫だから戻ろう?」
「うん、わかった」
「よし、雲母!楓の村にもどるよ!」
そういうと雲母は大型化し、二人を背に乗せて楓の村の方角へと飛んだ。飛んでいる最中、珊瑚が彩水に声をかける。
「彩水ちゃん、今手にしてるその武器の名前って知ってる?」
「ううん、何かあるの?」
「それは月下刃というんだ」
「月下刃?月の下の刃って事?」
「月すらも切り伏せるという意味を込められて作られたんだ。最も扱いが難しくて使われなかったけどね」
「そうなんだ・・・持ってきちゃったけど良かったのかな?」
「大丈夫だよ。大切に使ってくれればね」
「それは、もちろんだよ!」
その言葉を聞いて珊瑚は笑みを深くした。実は月下刃は幼い頃に珊瑚が使うはずの武器だったのだが、扱いが難しく封印され、飛来骨を渡されたのだ。
その生まれ変わりである彩水が手にするとは、誰も思ってもみなかっただろう。こうして愛用の武器を手に入れた彩水だったが、ここから先に苦労や試練が待っているとは思いもしなかったのだった。
実戦経験を積ませるだけで終わってしまった。
次回はトラブルコメディ回
ようやく皆が合流した。集まったはいいが、これといって何も出来ていない。そうだ!みんなで食事会をしましょう!
次回、戦国お伽草子、犬夜叉。
「最高の鍋料理」
お楽しみに!