それでは早速ですが、お楽しみください。
羞恥との戦いが続く文化祭も、既に2日目の半分が終了した。あいも変わらず俺はシンデレラの格好で文化祭を過ごしている。
俺は現在絶賛ウエイトレス中、ようやくドレスとヒールにも少しずつ慣れ始めて来た。面倒なことに、1日目ではそこそこだったお客さんの数も、2日目はあのSNSの影響か、現時点で既に1日目の3倍以上に伸びている。いや、間違いなくあのSNSが原因だろう。明らかにこの辺りじゃない学校の人たちが、教室に溢れている。
俺はなんとか注文をさばきつつ、写真撮影に答えたり、握手をしたりと、なんだか芸能人になったような気分だ。あれだけ遠慮していた写真も今では気にしなくなった。どうやら、俺と写真を撮った女子たちのほとんどが、SNSにその写真をアップしているらしい。ご丁寧にも、その投稿には『#女装シンデレラ』とつけられていて、某有名SNS、○witterでは『#女装シンデレラ』がトレンドに入ったらしい。
その影響もあり、俺たちのクラスは現在売り上げで1位と途中経過で発表があった。そのため、うちのクラスは勢いそのままにお客さんを次々とさばいていく。
「咲ちゃん!4番テーブル、ケーキセット2つ上がったよ」
「分かった」
「咲ちゃん!6番テーブルのお客さんが写真撮りたいってー!」
「.....すぐ行く」
「咲ちゃ〜ん、1番テーブルの片付けと10番テーブルさんにお冷出して〜!」
「.......お前ら、マジで覚えとけよ.....」
次々に俺に仕事を与えてくるクラスメイト、その口からはこぞって「咲ちゃん」と言う名前が発せられる。
「咲ちゃん」と言うのは、女装している時の俺の名前らしい。どっかの馬鹿が面白半分で呼び、それが定着してしまった。それからと言うもの、クラスの奴らは俺に仕事を頼む時必ずと言っていいほど、この名前を最初につけてくる。俺はそんなクラスメイトたちに、苛立ちを向けながら、それが表に出ないように必死に自分を制御する。
「お疲れ、奥沢。今日は朝から動いてもらったから、後は自由にしてくれていいぞ」
お昼のピークが過ぎ、客足も少しずつ減って来た頃、委員長の東丘から今日は上がりだと告げられる。
「やっとかよ.....って事は、この格好もここで終わりだよな!!」
自分の仕事が終わった事で、この格好ともおさらばだと喜ぶ俺。だったのだが……
「ダメだよ〜、話題のシンデレラさんの魔法が解けるのは、文化祭が終わるまでだからね♪」
衣装を脱ごうとした俺の肩を、和泉がいい笑顔で掴む。
「い、和泉さん...?もう仕事が終わったのに、女装している必要は....」
「今や話題沸騰中のお姫様にはまだ大事な仕事が残ってるよ♪」
「.......というと?」
「お店のせ・ん・で・ん☆」
そう言って和泉は、いい笑顔で俺に店のビラを手渡した。
和泉の圧に負け、渋々ビラを受け取った俺は、とある教室を目指しつつ、昨日行けなかったところを中心に、文化祭を回っていた。
「ふぅ....やっと着いた....」
途中、何度も足止めをくらいつつも何とか俺は、目的の教室の前まで来ることが出来た。
俺の目の前にあるのは、1年C組の教室。こころと美咲が在籍しているクラスだ。
昨日は初日ということもあり、バタバタしていて行けなかったので、今日こそは行くと決めていたのだが.....
「来たのはいいものの....この格好じゃ入りずれ〜」
美咲たちの教室の前には、デカデカと『笑顔になれるマジックショー!!』と書かれた看板がかかっている。看板に書いてある文字を見てわかる通り、発案者はこころらしい。俺はそれを聞いた時、最初はこころがまた1人で突っ走ったと思っていたのだが、美咲によると、最初の頃は、こころの勢いについて行けてなかったクラスの子たちも、こころの持ち前のカリスマ性....なのかは分からないが、それに当てられ、クラス一丸となって準備したらしい。
「どうしたもんか....」
ガラガラッ!!
俺が教室に入るのを戸惑っていると、突然目の前の扉が開き、中から1人の女子生徒が出て来た。
「っ!」
「わッ⁉︎」
突然扉が開いたことと、開けた先に人が居たことに、それぞれ驚いた俺と女子生徒。その女子生徒は、何を隠そう我が妹、美咲だった。
「……」
俺はいきなりの美咲の登場に驚きどう反応するべきか迷っていると
「あのー、マジックショーなら今準備中なんですけど....?」
どうやら美咲は俺だと気付いていない。それもそのはず、美咲には俺が文化祭で女装をしていることは伝えていないのだ。こんな兄の姿は見せられないと、美咲に合わないようにして来たのだ。ここへ来たのも、頑張る美咲とこころを一目見たかっただけで、面と向かって会うつもりなど無かった。
「(まさか速攻で出くわすなんて.....)」
俺が心の中で後悔していると……
「あ、あのー……」
美咲が俺の顔を覗き込むように見ながら、声を出さない俺を疑わしそうに見つめる。
「(どうしたもんか....ここはもう素直にバラすべきだよなー.....)」
美咲の痛い視線を浴びながら、もうバラすしかないと、声を出そうとしたその時……
「み〜さきッ♪」
「うわッ⁉︎ ちょっとこころ!!」
美咲の背中に、こころが思いっきり抱きついた。その衝撃で足をよろけさせる美咲だったが、日頃からミッシェルの格好で飛びつくこころやはぐみを受け止めているだけあって、倒れることなくこころの衝撃を耐えた。
「何をしているのかしら?」
いきなり飛びついたことに悪びれもなく美咲に質問するこころ。美咲は慣れたように、やれやれといった表情をした後、説明を始めた。
「教室の前に立ってる人が居たからマジックショーは準備中ですって説明してただけだよ、この人に」
そう言って俺に手を向けた美咲。こころは美咲の手の向く方、つまり女装した俺を見て、目を大きく開かせる。
「あら?」
こころにも分からないか〜、と少し落ち込む俺だったが、次の瞬間……
「咲真じゃない♪来てくれたのね!」
こころは、俺の予想と逆の反応を見せた。
「「えっ⁉︎」」
俺は自分の正体をこころが一発で当てたことに、美咲は目の前にいる女の人の正体が自分の兄だという事に、同時に驚く。
「2人ともどうしたの?何を驚いているのかしら?」
こころは驚く俺と美咲を不思議そうな目で見つめる。すると、驚きながらも美咲が、目をぱっちりと開きながら、質問してくる。
「お、お兄ちゃんなの?」
「お、おう。こんな格好だけどな....」
シンデレラの格好をした女性から、毎日耳にしている声を聞いた美咲は、目の前にいるのが本当に自分の兄だと理解した。
それから俺は、美咲とこころに女装させられている経緯を説明した。説明中こころは、いつものように元気に俺の話に相槌を打ってくる。一方美咲は、どこか不満そうな顔をしたまま、何も言わずに説明をただ聞くだけだった。
「というわけなんだ」
一通り説明を終えると、こころはそうだったのね〜! と、ちゃんと理解したのかは分からないが、反応を示してくれた。
「・・・・」
しかし美咲は、やはりどこか浮かない顔をしている。
「どうしたんだ美咲?」
気になった俺は、すぐに美咲から浮かない顔をする理由を聞こうとした。すると美咲は、ボソボソっと小さな声でつぶやき始めた。
「…………しい」
「ん?なんだって?」
「なんか悔しい」
「えッ?」
悔しいと言う予想もしていなかった答えに、俺は再び戸惑ってしまった。
「どういうことだ?」
「だって、こころはすぐお兄ちゃんだって気付いたのに....いつも一緒にいる私が気づかなかったなんて....なんか悔しいの!お兄ちゃんのこと、私が1番わかってるつもりだったから....」
美咲の口から出たのは、なんとも可愛らしく、兄としてはなんとも嬉しい答えだった。その答えに俺は思わず吹き出してしまう。
「アハハッ!!」
「ちょっと!! なんでそこで笑うの!」
いきなり笑われたことに、怒りながら顔を赤くする美咲。そんな美咲に、なんとも言えない気持ちになった俺は、愛でるように美咲の頭を撫でる。
「ありがとな、美咲。そこまで俺のこと思ってくれて....ほんとにいつもいつも感謝してるよ」
微笑みながら美咲にそう告げた俺、美咲はさっきよりも顔を赤らめながら少し下を向く。
「その返しは....ずるい...///」
そのまま俺が美咲の頭を撫で続けていると……
「美咲ばかりずるいわ!アタシも撫でて!咲真」
珍しく頬を膨らませたこころが、自分も撫でて欲しいと俺に頭を出してくる。
「はいはい...」
俺はそんなこころを見て、しょうがないなぁ〜と思いつつ美咲を撫でているのとは逆の手で、こころの頭を撫でる。
撫でられたこころは、目を細め、気持ち良さそうな表情で俺に撫でられる。
このなでなでタイムは、美咲たちと同じクラスの子が、2人を呼びにくるまで続いた。頭から手が離れた2人は、少し物足りなさそうな表情をしたものの、すぐにいつもの笑顔に戻り、俺の手を引きながら自分たちの教室へ戻っていった。
「さあ咲真♪アタシたちがビックリドッキリな世界へ招待するわ♪」
「行こ、お兄ちゃん!」
2人に引っ張られた先で、俺はきらびやかな驚きの世界を見た。こころが中心となって次々と行われたマジックは、初心者とは思えないほどの出来で、俺を含め、俺と同じくショー見ていた観客たちはみんな、次々起こる摩訶不思議な光景に驚き、感動した。
ショーの幕が降りた後、俺はこころたちに感想を述べ、その場を後にした。
2日間に及んだ文化祭もいよいよ大詰め、模擬店の営業も終了し、残すは有志によるダンスやバンド演奏などのパフォーマンスのみとなった。
俺はそれを見るために体育館に向かっていた。向かう途中、体育館前の渡り廊下で、戸山たちPoppin’Partyの4人と出会った。その顔は、どこか暗いように見える。俺は気になって声をかけることにした。
「お前たち、何やってるんだ?」
「ッ!! 咲真先…ぱ…い……?」
声で俺だと気づいた戸山たちは、勢いよく振り向いた。振り向いたのだが....
「あれ?」
やはりシンデレラの格好のせいで俺だとは気づいていない。
「あれ?今咲真先輩の声がしたような……」
「もしかして天の声?咲真先輩って神様だったの?」
「なわけあるかぁ〜!」
またも的外れな発言をする花園に、市ヶ谷がツッコミを入れる。
そんな光景をいつも通りだと思い始めた自分に慣れを感じる俺だったが、すぐに切り替えて目の前にいるシンデレラが自分だと伝える。
「「「「ええーーー!!!」」」」
「あー、はいはい。お決まりをありがとう」
驚かれるのにも流石に慣れて来た俺は、4人の反応を軽く流して何があったのか聞いた。
聞いたところによると、どうやら沙綾のお袋さんが今朝倒れてしまい、沙綾はその付き添いで病院にいるらしい。そのこともあって、4人は中々集中が出来ていないようだ。
そんな4人に、俺は精一杯のエールを込めて、言葉をかける。
「今のお前たちにできることは、精一杯楽しんでライブを成功させることだ。それはもう沙綾に、沙綾の家族に届くくらい大きく、気持ちを込めて演奏して、歌って、お前たちの思いをぶつけることだ」
「思いを...ぶつける...」
「そうだ。お前たちの本気をぶつけてこい!沙綾の分まで!」
俺の言葉に、4人は覚悟を決めたように頷く。そして、先ほどとは打って変わった凛々しい表情で、体育館に向かっていった。
「先輩!私たち、頑張ります!沙綾に届くように!」
「おう、行ってこい!」
戸山たちが体育館に入ってすぐ、俺は時計を見て時間を確認する。現在の時刻から、戸山たちの出番まで7分ちょっと……
「よし…」
時間を確認した俺は、急いで学校の駐輪場へ向かった。走っている途中、邪魔なヒールを脱ぎ捨て、長いドレスのスカートを破き動きやすくする。
「(悪いな、和泉。ドレスは今度弁償するから)」
心の中で和泉に誤った俺は、駐輪場に停めてあった自分の自転車にまたがり、ペダルを漕ぐ。学校の校門を抜けて、目指すはそう……
沙綾のいる病院だ。
「はぁ…はぁ…」
全力の立ち漕ぎで、トップスピードで自転車を飛ばす。周りの目なんか気にならないくらい必死に漕ぎ続ける。
「(絶対間に合わせる!沙綾が決めたんだ、あれだけ悩んで、あれだけ頑張って、だから...絶対後悔させたくない!)」
そして……
全力で自転車を漕ぎ、病院まで残り3分の1にまで迫った所で、俺は彼女を見つけた。
「沙綾ッ!!」
大声で彼女の名前を呼ぶ。自分を苦しめていた本音に本音で打ち勝った少女。誰かに向け続けた優しさを、遂に少し自分に向けた少女。そんな彼女の名前を呼ぶ。
「えッ⁉︎ ど、どちら様?」
ここに来てもまだ俺の重しになるシンデレラの格好。だが、説明している暇などない。俺は急いで彼女に伝える。
「今はなんでもいい!急いで乗れ!君を仲間のところまで届ける。絶対に間に合わせる。だから、信じて乗れ!早く!」
そう言って俺は左手を沙綾に向けて突き出す。正直言って怪しすぎる。普通こんな誘い側に決まっている。俺も本当は分かっていた。でも...そんなこともわからなくなるくらい必死だった。
「わ、分かりました!お願いします!」
その必死が伝わったのか、沙綾は俺の手を取り、自転車の後ろへ腰を下ろす。
「飛ばすぞ!しっかり掴まってろ!」
「はい!」
沙綾はそういうと、俺の腰に手を回しギュッと抱きつく。その時俺の背中には柔らかい2つの感触があったのだが、そんなことすら俺にはどうでもよかった。
俺は、病院に向かう時よりも遥かに速い速度で学校へ引き返す。
時間は既に過ぎていて、戸山たちは演奏を始めているだろう。1つのグループが、ステージで演奏できる持ち時間は20分、既にそのうちの10分が経過している。最後の曲へ沙綾を間に合われるには最低でも後5分しか無い。
俺は来た道を戻る。全力で自転車を漕ぐ。太ももがちぎれそうになるほど全力で、息を忘れるくらい必死に。そして……
「はぁ…はぁ…はぁ…」
学校に着いたのは、最後の曲が始まる1分前だった。
「あ、ありが……」
「いいから…はぁ…早く行け!…はぁ…間に合わなくなるぞ……」
礼を遮って沙綾を体育館に向かわせる俺。沙綾はそんな俺に素早く頭を下げ、急いで体育館へ向かっていった。
沙綾が体育館に向かったのを見届けた俺は、壁にもたれかかり深々と腰を地面に降ろした。
「—————!!!」
体育館から微かに聞こえてくる歓声に、ライブの成功を確信した俺は、空を見上げながらフゥーっと深い息を吐いた。体は節々が悲鳴を上げていたが、心はこれでもかと言うくらい弾んでいる。
5人揃ったポピパを肉眼で見れなかったのが悔やまれるが、足が限界を迎えているため動くことが出来なかった。まぁ、これからも5人でバンドを続けて行くならいつか見れるだろう。
しばらく休んでいると、体育館の方からこちらに向かってくる人影が見えた。目を凝らして見ると、こちらに向かってきているのは、沙綾だった。
沙綾は、座る俺の前まで来て立ち止まり少し切らした息を整える。
「あ、あの!」
息を整えた沙綾は、まっすぐ俺を見てお礼を言う。
「ありがとうございました!貴方のお陰で、ライブに間に合いました」
沙綾の様子を見る限り、やはり俺だとは気づいていないようだ。
「あの、何かお礼がしたいのでお名前を教えていただけませんか?」
本気で気がついていない沙綾に、俺は笑いが抑えられなくなった。
「プッ、アハハハ!」
「えッ⁉︎ なんですかいきなり⁉︎」
沙綾はいきなり笑われたことに驚き、顔を赤くする。
「沙綾、俺だよ俺」
俺はそう言ってウィッグを外した。止めていた髪を解き、いつもの髪型に戻すと、いつもの奥沢咲真に戻った。
俺の顔を見た沙綾は、驚きのあまり目を見開き、口を半開きにしたまま固まっている。
「おーい、沙綾?」
俺は固まった沙綾の目線に手を振る。
数秒後、正気を取り戻した沙綾は、遅れて反応を示す。
「ええェェェーーー!!」
「おお……」
大声に耳を塞ぎ、聞き慣れた反応に驚く事なくただ落ち着くのを待つ。
「先輩だったんですか⁉︎」
「やっぱり気づいてなかったんだな」
「気づきませんよ!綺麗な人だなって思ってたんですから!」
詰め寄る沙綾に、おぉ…と頬を引きつりながら、隣へ座るように言う。
沙綾は俺の隣に座ると、少し嬉しそうに微笑む。
「ありがとうございました。本当に色々」
「俺はただ相談に乗っただけだよ。決めたのは沙綾だ」
「それでも、先輩がいなかったら私多分どうにかなってたと思うんです。もっとみんなに迷惑とか心配かけてたと思うし.....」
こんな時でも誰かに優しい沙綾、人のことなんて関係ないと言おうとしたその時…
「でも…先輩になら迷惑かけても良いかなって思うんです。勝手ですけど、先輩なら受け止めてくれるって信じちゃってるんです」
甘えることを拒んできた沙綾が、初めて自分から甘えると言った。
「いくらでも迷惑かけてくれ。そんなんで受け止められなくなるほどヤワじゃ無いからな」
だから、そんな彼女が笑顔で居られるように、自分がやりたいことを出来るように、迷惑をかけられることを俺は望んだ。
「……」
その言葉を聞いた沙綾が、突然おれの肩に頭を乗せた。
「さ、沙綾?」
いきなりの事に驚いた俺。動揺して声が少し裏返る。
「ごめんなさい、少しだけ...このまま///」
沙綾は顔を少し赤らめながら、俺に甘えるように言う。断ることができない俺は、ポリポリと頬をかき沙綾が気の済むまで肩を貸すのだった。
ようやくポピパが5人揃いました〜!長々と書いてしまいましたが、いかがだったでしょうか?
咲真、カッコいいセリフを言っても見た目はシンデレラなんですよねww
※手書きですが咲真のキャラ絵を描いてみました。あらすじの所にあるので、どうぞご覧になってください。ここをこうした方が良いよなどあれば、遠慮なく言ってください。