今回は、お久しぶりのこころ回となります。
※ちなみに、この時点では、既にバンドリの5つのバンドが結成されております。ここからもしバンドリのキャラたちが登場した場合、活動をしていると思っておいていただいて構いません。
ポツンッ——————
「ん?雨か……」
学校を出てすぐ、顔に何か当たったと思い空を見上げると、灰色の空からパラパラ雨が降り始めた。幸い折り畳み傘を持っていたので、すぐにカバンから取り出してさす。すると、少しずつ雨は強くなり傘がパラッパラッと音を立て始める。
「今年も梅雨入りかね」
そんな小言を呟きながら、雨の中を歩く。そこまで強くはならなかったが、大会も近くなり、体調管理を怠ってはいけないと出来るだけ濡れないように進んでいく。
傘の中から見える外の景色は、水を弾きながら進む車と人のいない道路だけを写し、全体が白く霞んでいる。
「ん?」
そんな中、目の隅に微かに黄色が写った。見間違いかとも思ったが、次の瞬間、楽しそうな歌声が雨の音を抜け、俺の耳に入ってきた。
「————♪」
「っ⁉︎」
俺はその歌声に既視感があった。俺はすぐに歌声のした方を向く。雨のせいで見えにくかったが、そこには広場があり、その中心で、1人の女の子が雨の中、楽しそうに踊りながら歌っていた。
俺はその女の子元へ急いで向かう。そして、大きな声でその女の子の名前を呼んだ。
「こころ!」
雨の中、濡れながら歌っていたのは、我が妹のバンドメンバーの1人、天真爛漫で笑顔が似合うお嬢様、弦巻こころだった。
「あら?咲真じゃない♪こんなところでどうしたの?」
こころは俺に気づくなりそんなことを聞いてきた。俺は2人が傘に収まる位置まで近づき、これ以上こころが濡れないように傘をさした。
「それはこっちのセリフだ。何やってたんだ、雨の中傘もささずに」
「歌を歌っていたのよ♪」
このセリフにも既視感を覚えた俺は、そうかい....とツッコむのを諦めて、こころを見る。
こころの体は全身濡れていて体も服もビショビショ、髪も水が滴っている。それに加え、濡れた服が肌にくっつき、こころの下着と綺麗な肌が透けて見えていた。しかも、服が肌にくっついたせいでこころの見かけによらず豊満な胸のシルエットがはっきりわかるようになっている。はっきり言うと、エロい……
「っ⁉︎///ほらっ!これでとりあえず体を拭け」
そう言って俺は、カバンに入れていたタオルをこころに被せる。
「ありがとう咲真♪」
タオルを被りながら礼を言うこころ。肌に雫をつたわせながら髪を拭く姿は、何故か色っぽく俺は自分の顔が赤くなるのが分かった。
「(はぁ…ほんとこいつといると調子狂うな///)」
俺は傘をさしながら、こころが髪を拭き終わるのを待った。すると……
「くしゅんッ!!」
突然こころが可愛らしいくしゃみをした。雨にずっと打たれていたんだ、流石のこころも体が冷えたのだろう。
「おい、大丈夫か?」
「へーきよ♪なんてことないわ♪」
こころはいつもと変わらない笑顔で言うが、心配した俺はすかさずこころの頬に手を当てる。雨に濡れたこころの頬は、冷たくなっていた。
「んなわけあるか。こんなに冷たくなってるじゃねえか」
「……////」
「ん?どうした?こころ」
「な、なんでもないわ////」
こころの頬が体温を帯びて赤くなっていく。先ほどまで冷たかった頬が少しずつ暖かくなって行くのを自分の手で感じる。
「とにかく、このままじゃ風邪引くぞ。そうだな....ここからだと弦巻邸は遠いし....仕方ない。こころ、一旦俺の家に来い。すぐそこだから」
「わかったわ♪アタシも咲真のお家に行ってみたいわ♪」
「じゃあ行くか」
「ええ♪」
そうして、俺はこころを我が家へ招いた。こころが雨に打たれながら歌っていた広場からは、目と鼻の先だったため5分もかからずに到着した。
「ここが咲真と美咲の家なのね〜」
俺の家を見たこころが見上げながらそう呟いた。雨が降っている中顔を上げたので、こころの顔は再び雨に打たれる。俺はすぐにこころの頭上に傘を持っていき、雨粒とこころの顔の経路とこころの視界を傘で断つ。
「ほら、また濡れるぞ。傘から出るな」
俺は持っていた鍵を取り出して、ガチャッと玄関の扉を開ける。玄関を開けた俺は、すぐにこころを家の中へ入れる。
玄関に入ったはいいものの、こころの服からは水が滴り玄関に水滴がポタポタと落ちる。
「悪いがちょっと待っててくれ。すぐに風呂沸かして、変えのタオル持ってくるから」
「分かったわ♪」
そう言って俺は、家の中へ入っていき風呂の準備をする。風呂の蓋を閉め、ピッとお湯はりのボタンを押した俺は、すぐに着ていた制服を脱ぎ、動きやすいシャツに着替える。着替えが終わってすぐに、大きめのバスタオルを持って玄関へと戻って行く。
玄関に戻ると、こころがキョロキョロも家の中を見渡していた。
「おまたせ、ある程度拭いてから上がってくれ。とりあえずちゃっちゃと風呂であったまって来い。風呂は突き当りを右へ行ってすぐのとこだから。服は洗濯機の中に全部まとめて入れておいてくれ」
「はーい♪」
俺はバスタオルを手渡し、こころに風呂に入るよう指示を出した。こころはコクリと頷くと、靴を脱ぎ、バスタオルで濡れた箇所を拭いて家へ上がり、風呂場へと向かっていった。
こころが風呂に入った後、俺は濡れていたこころの制服を洗濯機に入れ、洗い始める。洗剤を入れ、スタートのボタンを押すと、ゴトゴトと音を立て、洗濯機が動き出す。
洗濯機を起動させた俺は、ひとまずこころが着るための着替えを用意する。着替えと言っても美咲の服を勝手に漁るわけにはいかないため、俺は自分の服を用意することにした。
「こころー、洗濯機の上に着替え置いとくぞ。俺の服だから大きいと思うが悪いが我慢してくれ」
俺はドア越しに、風呂に浸かっているこころに声をかける。
「大丈夫よー♪ありがとう咲真♪」
こころからのお礼を聞いた俺は、リビングに戻りこころが風呂から上がるのを待った。特にやることも無かったので、俺は紅茶を淹れながら待つことにした。
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「ふぅ、サッパリしたわ♪」
お風呂から上がったアタシは、咲真の用意してくれた着替えを着た。アタシとは身長も体格も全然違う咲真の服は、ぶかぶかで紐をしっかり締めないとスウェットはずり落ちてしまう。
「あら、……やっぱり咲真って大きいのね。さっきの手も、とても大きくて温かかったわ……///」
アタシは先ほど咲真に触れられた頬を自分で摩った。風呂に入った後でも、あの時の大きな手の感触と温もりは未だに残っている様な気がした。
その後アタシは、自分の着ている服をもう一度見た。いつもと違う服の匂いは、嫌な気持ちになるどころか、どこか心地いいようにも感じ、アタシは顔を鼻の上まで服に埋めた。
「スー…咲真の匂いだわ///」
アタシはそのまま数秒間、咲真の匂いを嗅いでいた。
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「気持ちよかったわ♪ありがとう咲真♪」ホカホカ
待つこと10分、こころが風呂から上がってきた。風呂上がりのこころは、熱で赤らんだ頬に俺のTシャツとスエットをダボダボになりながら着ている。その姿は、先ほどまでの雨に濡れていたのとは別の色っぽさがあった。
「ど、どういたしまして。ちゃんと温まったか?」
「ええ、バッチリよ!!」
「そっか。紅茶淹れたから、飲むか?あったまるぞ」
「ありがとう♪いただくわ」
俺はテーブルにこころを座らせ、こころの前にカップに入れた紅茶を置いた。こころは紅茶を受け取ると、両手で掬うように持ち上げ、フゥーフゥーと冷ましながら紅茶を飲み始める。
俺はこころの向かい側に座り、同じく紅茶を飲みながらそんな可愛らしいこころの仕草を見ていた。
それから俺たちは、他愛ない会話をしながらこころの制服が乾くのを待った。
「今日は咲真以外誰もいないのね」
こころは少し寂しげなリビングを見渡しながらそう言った。
「美咲はテニス部のミーティングらしい。母さんたちはご近所さんたちと食事に行ってるはずだから、帰ってくるのはまだ先になると思う」
実際、夕方この家に人がいることは少ない。俺は部活が忙しいし、最近はバイトを始めたため帰るのが遅くなることが多いし、美咲も部活にバイトにバンドとかなり忙しく動き回っている様だし、母さんたちもこの時間は買い物に行ったり、広樹と美琴を公園まで遊びに連れて行ったりしているからである。
だが、別にそれが寂しいと思ったことはない。今でもちゃんと晩御飯はみんなで食べているし、休みの日は母さんの代わりに広樹たちとも遊びに出かけるからな。
「こころは雨の中なんで歌なんて歌ってたんだ?」
俺は話を変えた。別に気にはしないのだが、こころが気を使うと思ったからだ。
「ん?特に理由なんてないわ。歌いたくなったから歌ってたのよ♪」
彼女はなんの迷いもなくそう答えた。
「歌いたくなったから歌った....か。お前らしいな」
いかにもな解答に、俺はクスクスと笑ってしまった。そんな俺の様子をみて、彼女は続ける。
「だって、雨の日は晴れの日よりも少ないでしょう?なら、その貴重な日に何もしないなんて勿体ないと思わないかしら?」
初めて聞く言葉だった。雨というのは、人にとっては憂鬱なものだ。基本的に気分がどんよりするし、グラウンドで部活をしているものたちからしたら、迷惑でしかないのだから。
でも彼女は“勿体ない”と言った。雨の日が貴重だと、そう言ったのだ。
「お前らしくて、いい考え方だな」
こころらしい考えに、俺は微笑みながらそう答えた。
「ねぇ咲真。アタシ、咲真の部屋に行ってみたいわ♪」
紅茶を飲み終わり、洗濯が終わるのを待っていると、突然こころがそんなことを言い出した。
「えっ、どうしたんだ?突然……」
あまりに急なことに、俺は動揺し声が裏返った。
「せっかく咲真の家に来たんだもの、咲真がどんな部屋に住んでるのかみてみたいわ♪」
そう言うこころの瞳は、いつも以上にキラキラと輝いているように見えた。こうなったこころを止めることは絶対に出来ない、俺が彼女と出会ってこれまでで経験したことだ。
「わ、分かった分かった……」
俺はさっさと諦めた。
ガチャッと部屋のドアを開け、俺は自分の部屋に入った。隣にはもちろんこころがいる。
部屋の中は、青を基調とした配色で勉強机、本棚、ベッド、テレビが置かれたシンプルなものだった。
「ここが咲真の部屋なのね♪」
こころが輝いた瞳のまま部屋を見回す。
「そんなに見回しても面白いものなんて無いだろ?」
「そんな事ないわ。アタシは咲真がどんなお部屋に住んでいるのか知れてとっても嬉しいもの♪」
「…そうかい」
部屋に入ると、こころは楽しそうに見回しながら部屋の中を歩き回る。すると、こころがベッドのそばに立てかけられてあるものを見て止まった。
「これは……」
その視線の先には、ビンテージホワイトのストラトキャスター型のギターがあった。
「ああ、俺のギターだよ。そういや見せた事無かったな」
俺が趣味でギターをしていることは、ハロハピのメンバーは全員知っている。ハロハピ会議や練習の時も、何度か瀬田に教えるために弾いたこともある。だが、自前のギターをこころたちの前で弾いたことは、これまで無かった。
「アタシ、咲真がこのギターを弾くところ見てみたいわ♪」
また唐突にそんなことを言うこころ。俺はしょうがないなと思いながら、ギターを手に取り、ベッドに腰掛けた。
腰掛けた後、ポンポンとベッドを叩き、こころに隣に座るように促す。
こころが隣に座った後、俺はこころに曲のリクエストを聞いた。
「何か弾いてほしい曲はあるか?そこまで上手いわけじゃないから、難しいのは無理だが」
「だったら、アタシたちの曲が良いわ♪」
こころはすぐにそう答えた。
「分かった。じゃあ、俺が弾くから、こころが歌ってくれよ」
「良いわよ♪」
「それじゃあ行くぞ」
そう言って俺が弾き始めたのは、『えがおのオーケストラ』こころたちハロハピの最初の曲であり、俺にとっても大切な曲だ。
「〜〜♪」
俺のギターを聴きながら、こころは目を瞑り歌い出す。こころの透き通ったような歌声が、すぐ近くから聴こえてくる。俺はその歌声を堪能しながら、ギターを弾く。
「〜〜♪」
途中、チラッとこころの方を見た。そこには、目を瞑りながら楽しそうに歌うこころの姿があった。その姿を見た瞬間、俺はなんとも言えない気持ちになった。こころの歌声に心打たれた初めてのライブの時のような、そんな気持ちになった。ただ、前と違うのは、この歌声を俺だけが聞いていると言う独占感だった。
「(今この歌声は、俺だけが聞いてるんだよな...)」
こころを見ながらそう思った俺は、曲が終わるまで、こころから目線を外せなかった。
曲が終わると、こころがまたもキラキラ輝いた瞳を俺に向けてきた。
「サイッコーだったわ!咲真と一緒だと、いつもと違った楽しさがあってとっても楽しかったわ!」
こころは嬉しそうに感想を言い始めた。
「俺もだ。こんな近くでお前の歌を聴けて、凄え良かった」
俺もこころに返すように感想を伝える。俺の感想を聞いたこころは、嬉しそうに微笑んだ後、満足そうに笑った。
「さて、そろそろ洗濯も終わって乾いただろ。下に降りるか」
俺はギターを元あった場所に戻し、立ち上がった。それに続いてこころも、少し残念そうな表情をしたまま立ち上がった。
「楽しい時間はあっという間ね。————きゃッ!!」
立ち上がった時、こころは自分の履いていたスウェットの裾を踏んでしまい、バランスを崩した。
「ッ!こころッ!」
俺は咄嗟に動き、地面とこころの間に自分を入れ込んだ。
ドサッ!と言う鈍い音が部屋に響き、俺は背中に強い衝撃を受けた。
「ぐっ……!! こころ…大丈夫か?」
「へーきよ、咲真が守ってくれたもの。それより咲真こそへーきなの?」
俺はそんな衝撃など御構い無しに、すぐにこころが無事かどうかを確認するため、目を開けた。
「ああ…俺は全然なんとm……ッ!?」
開けた目に飛び込んできたのは、俺に覆い被さるこころの姿だった。顔と顔の距離が近いだけでなく。俺のぶかぶかの服を着ているせいで、こころの胸が今にも見えそうになっていた。
「咲真?」
俺を心配して覗き込んだことにより、更に胸元が見えそうになる。俺は咄嗟に目を閉じて顔を晒した。
「だ、大丈夫だから!///はやく退いてくれ、頼むから!!」
俺の反応に、こころは不思議そうに首を傾げる。胸元を必死に見ないようにする俺は、ただただこころが退いてくれるよう頼むしか出来なかった。
すると、次の瞬間…………
「ただいま、お兄ちゃん。今凄い音したけど、大丈夫?何かあっt…………」ガチャ
ドアを開け、美咲が俺の部屋に入って来た。
美咲の目には、ぶかぶかの服を着たこころが俺に覆い被さっている光景が飛び込んだ。
「あ………」
「あら?美咲じゃない♪」
俺はまずいと固まったのに対し、こころはいつもの調子で美咲に声をかけた。
「な、ななな、なな、なッ!!!////」
その光景を見た美咲は顔を真っ赤にし、プルプルと震え始めた。
「なにやってんの〜〜〜!!」
その日、辺り一帯に美咲の声が響いた。
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その後、制服が乾いたこころを俺はすぐに家へと送って行った。家に帰ってから、俺は何度も美咲に説明したが、「知らない!」と口を聞いてくれず、機嫌が戻るで1週間かかった。
想像してみてください、風呂上がりでダボダボの服を着たこころ、チョー可愛くないですか⁉︎
今回はその考えに後押しされて書いた話です。
読んでいただきありがとうございました。