前にも言いましたが、途中で終わらせる気は無いので、気長に待っていただけると有難いです。
プルルルルッ!プルルルルッ!
「ん?」
風呂上がり、バスタオルで髪を拭きながらリビングへ向かうと、机の上で置いてあった俺のスマホから着信が来ていた。画面を開くと、そこには『山吹 沙綾』と言う文字と、パンの写真のアイコンが映っていた。俺は自分の部屋に向かいながら電話に出る。
「もしもし」
『あっ、先輩。突然すみません、今大丈夫ですか?」
「ああ、構わねえよ」
沙綾と電話をするのは何もこれが初めてでは無い。何度もバイトの事で電話をしたりしているし、文化祭以来、沙綾の方からよく相談の電話が来るようになっていた。
「どうした?また何か相談か?」
『いえ、今日は相談じゃなくて。先輩ってもうすぐ大会でしたよね?』
「おう、あとちょっとでな」
俺が沙綾の質問に答えると、数秒の沈黙が流れた。が、すぐに沙綾の方から反応があった。
『……お』
「お?」
『……応援…行っても良いですか?////』
小声で恥ずかしそうに聞いてくる沙綾。顔は見えなくても、顔を赤くしているのは声だけでも分かった。
「もちろん構わないぞ」
『ほんとですか!よかったぁ〜〜!」
弾んだ声と同時に安心した様な声がスマホを通して聞こえてくる。
「なんでそんなに緊張してたんだよ」
『だって...もし断られたらって思って....』
「別に断ったりしねえよ。俺だって、沙綾に応援してもらったら凄え嬉しいしな」
『ホント…ズルイなぁ////』
「ん?何か言ったか?」
『な、なんでもないですッ!』
突然大きな声を上げる沙綾に、俺は驚きつつどうしたのかと思う。
それから俺と沙綾は普通に電話しながら他愛のない話をしていると、沙綾が突然思い出した様に声を上げた。
『あっそうだ先輩』
「どうした?」
『明日の土曜日って練習ありますか?』
そんな事を聞いてくる沙綾に、なんだ?と頭を傾げつつ答える。
「ああ、明日なら朝から練習があるけど」
『それじゃあ明日、お昼頃に差し入れを持っていきますね!』
「差し入れ?」
『はい!うち自慢のパンを持っていきます。きっと今まで以上に力がでますよ!』
電話越しで元気よく言う沙綾、正直差し入れにパンか…と思ったが、練習終わりの腹ごしらえなら持ってこいだなと思い沙綾の申し入れを承諾した。
「そうだな。楽しみにしてるよ」
『はい!…では明日。お休みなさい、先輩!』
「おう、お休み」
次の日、俺たちはいつもと変わらず朝から練習に励んでいた。現在の時刻は12時を少し回ったあたり、腹の減った部員たちの動きは朝よりも明らかに落ちてきている。
「よし、午前の練習はここまでにしよう。昼休憩だ」
俺の言葉を聞いて、部員たちの疲れが見えていた顔が一気に明るくなった。
その時、少し離れたところから俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
「咲真せんぱーい!!」
「ん?」
呼ばれた方を見ると、大きな紙袋を抱えた沙綾がこっちに向かって走って来ていた。
「お待たせしました!差し入れ、持ってきました!」
俺たちの下まで来た沙綾は、両手に抱えていた紙袋を俺に手渡した。その大きな紙袋の中には、大量のパンが入っていた。
「こんなにいっぱい....持ってくるの大変だっただろ」
「いえ、大丈夫ですよ。このくらい」
俺が沙綾からパンを受け取ると匂いにつられ、他の部員たちがぞろぞろと集まってきた。
「おお〜、いい匂い〜」
「なんとも空いた腹を刺激する香りだな」
「沢山あるので、皆さんもいっぱい食べて下さいね♪」
沙綾の言葉を聞いて、みんなが一斉にパンに手を伸ばした。それぞれが手に取ったパンを頬張り、満足そうに舌鼓を打つ。
「ん〜♪美味しい〜!」
「ほんと美味いなッ!」
「……美味い」
山吹ベーカリーのパンはどうやらみんなの口にあったようで、次々とパンを口に運ぶ。かく言う俺も、いつも通りの美味しさに満足しながら腹を満たす。ただ、いつもとは少しだけ味が違うようにも感じた。いつも買っているから分かるほどの微々たる違いだったが、確かに違う....俺にはその味が、いつもより美味しく感じだ。
「…どうですか?」
俺が食べるを見て、沙綾が不安そうに覗き込んでくる。
「どうって...いつも通り凄え美味いぞ」
「ほんとですか!!」
不安そうな表情から一転、パァッと明るくなった彼女の表情は嬉しさに満ちているように見えた。
「ああ、けど....」
「けど?」
「なんかいつも店で買ってるのより美味い気がする」
「ッ!!///」
俺のその言葉を聞いて、沙綾の表情が今度は驚きに変わった。
「どうした?沙綾」
「い、いえッ!!なんでもないです////」
俺が顔を除くと、沙綾は真っ赤になりながらそう言った。熱でもあるのかと思ったが、見た感じ元気そうなのでこの暑さのせいだと自分の中でそう思うことにした。
「そういや、食っといてなんだが、こんな量のパンほんとにもらっちまっていいのか?」
パンを一つ食べ終えた後、俺は疑問に思っていた事を沙綾に聞いた。俺たちが差し入れにもらったパンは20個近くあった、それを無償でいただくのはあまりに申し訳ない気がしたからだ。
「は、はい!これは元々焦げたり形が崩れたりして商品として出せないものだったんです。いつもは家族のみんなで食べてるんですけど、今回は量が多くて、せっかくなら先輩たちに食べていただきたいなって」
「そっか、なら遠慮なくいただくよ」
「はい!」
そう言って俺は、再びパンを食べ始めた。すると、近くで俺と沙綾の会話を聞いていた、蒼夜と日向の2人がボソボソと何かを話し始める。
「……これ、商品にならないものですって」
蒼夜が沙綾の持ってきたパンを手で回しながら見る。
「それにしては随分と綺麗なものだがな」
蒼夜の言葉を聞いた日向は、パンを見てそう答えた。確かに、日向の言う通り、よく見るとこのパンには焦げ目も崩れも見当たらない、商品として店に並べられていても見分けがつかないほどだ。
「これってもしかしてあの子が手作りしたんじゃ……」
「言ってやるな、そこは乙女心と言うやつだろう」
2人は売り物にならないにしては綺麗すぎるパンと、咲真と楽しそうに会話する沙綾を見て、彼女の気持ちを理解した。
「はぁ…キャプテンも隅に置けないな〜」
「……」
そうこぼした蒼夜を見て、お前が言うかと思った日向だったが、それを言葉にすることは無かった。
そして日向はそのまま、もう1人の乙女へと視線を向ける。
「これはまた.....なんとも一筋縄ではいかなさそうだな」
日向の目線の先には和泉がいた。彼女は咲真と沙綾が楽しそうに話しているのを見て、どこか面白くないといった表情をしている。
「まぁ私たちはあまり余計なことをしない方がいいだろう」
「ですね」
2人はそう言うと、見たものを忘れるように遠い目をしながらその場を離れてパンを食べ始めた。
「よし、そろそろ練習を再開するぞ〜」
咲真の掛け声を聞いて、全員がそれぞれはいと返事をしてグラウンドへ戻っていく。満ちた腹を慣らす様にゆっくりアップを始める。
「……」
その様子を見ていた沙綾は、もうこれ以上ここにいるのは迷惑だと考えて、この場を後にしようとしていた。
「すみません、じゃあ私この辺りで……」
「ちょっと待って!」
静かに帰ろうとした沙綾の肩を掴んだのは、和泉だった。
「せっかくなんだし見て行ったら?」
「えっ...でも...」
「いいからいいから♪」
和泉は微笑みながら沙綾の両肩を掴むと、沙綾をベンチに座らせる。その隣に自分も腰掛けた和泉は、練習メニューの書いた紙を見ながら話を始めた。
「沙綾ちゃん...だったよね?」
「は、はい!」
沙綾は予想外の状況に緊張しているのか、声は少し上ずっている。
「あははッ!!そんなに緊張しなくて良いよ、私の事は渚先輩って呼んでね♪」
「はい、よろしくお願いします。渚先輩」
それから2人はこれと言った会話も無く咲真たちの練習を見ていた。というのも、練習が始まってから沙綾は瞬きも忘れて、汗を流しながらボールを追う咲真へと視線を送っているのだ。
「………」
そんな沙綾の横顔を見ていた和泉は気づいた。沙綾のその瞳に籠る熱が、
「ねぇ...沙綾ちゃん」
和泉に声をかけられた沙綾は、ビクッと体を震わせる。
「っ…はい!」
驚く沙綾の耳元まで顔を近づけた和泉は、そこでそっと囁いた。
「奥沢君のこと…好き?」
「………っ!?!?/////なッ⁉︎な、な、なッ!?///」
少し間を開けて反応した沙綾は、顔を茹で上がったタコ以上に真っ赤にしながら、口を大きく開けて声を詰まらせる。
「アハハッ!!そこまであからさまな反応しなくても良いのに」
「〜〜っ⁉︎////」
相当恥ずかしかったのか、未だに顔を赤くしながら下を向いている沙綾。そんななんとも可愛らしい反応を見せる彼女に、和泉はそそるものを感じる。
「もう〜、可愛いな〜!沙綾ちゃんは!」
顔を伏せる沙綾の頭を少し乱暴に撫でる和泉。
「も、もう〜///やめて下さいよ〜」
口ではそう言いながらもどこか嬉しそうな沙綾、姉がいない自分にとって、姉という存在を和泉に感じていたのだ。
「…で、どうなの?」
撫でるのをやめた和泉は、改めて真っ直ぐに沙綾を見ながらもう一度質問した。
「…………はい、好きです////」
真っ直ぐな和泉に負けた沙綾は、小さくも決意のこもった声で答えを返した。
「そっか…」
沙綾の答えを聞いて短くそう返した和泉。そんな彼女に、今度は沙綾から質問を返した。
「渚先輩は...どうなんですか?///」
自分のことではないのに、恥ずかしさで顔を再び赤くした沙綾が和泉の気持ちを聞いた。その質問に対して和泉は…………
「好きだよ」
なんの迷いもなく答えた。
「「…………ぷっ!アハハハッ!!!」」
数秒の沈黙の後、2人は同時に吹き出した。
「あぁ〜ほんと...ひどい男だよね〜奥沢君って」
「そうですね!ほんとどうしようもない人です」
同じ人を好きになった2人の少女。本来ならこうして笑い合うことなどあり得ないだろう。それでも、2人は相手が彼を好きになった理由を知っている、魅力を共有できる、その気持ちが2人の中で大きかったということだろう。
「……私、容赦しないからね」
「私も、もう我慢しないって決めましたから」
そう言って微笑み合う2人、表情は笑顔だったものの目からはバチバチと火花が散っていた。
そんな様子を遠くから見ていた咲真が、ただならぬ悪寒を感じたのは言うまでも無いだろう。
何とか今年中に間に合いました〜
今年も残り数時間、読んでる頃には新年の人もいますかね〜
年末年明けにこんな素人の小説を読んでいただきありがとうございます。
皆さま、良い一年をお送り下さい。