〈凍結〉イナイレ×バンドリ 笑顔を護る英雄   作:夜十喰

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今回はガルパのイベント『ハロー、マイハッピーワールド』に沿った話です。結構長くなってしまった………。
主に美咲視点で進んでいきます。視点の切り替えって難しいですね。全然上手くいかないや......。もっと精進せねば!

それではどうぞ!!


あたしの大切

()()弦巻さんと仲良いんだね』

 

クラスメイトから言われたその言葉に、あたしは動揺した。初めてこころを見たとき、あたしは関わりたくないと思った。あたしとあの子じゃ、住む世界も感性も全く違うと思っていた。そう思っていたはずなのに....

 

気づけばあたしは、こころといるのが....ハロハピのみんなといるのが、いつのまにか当たり前になっていて、その事に違和感なんて微塵も感じなくなっていた。

 

こころの事を異常だと、変人だと思っていたあの頃の自分は、どこへ行ったのだろう......

 

 

「はぁ……」

 

あの言葉を聞いてから、今日何度目のため息だろうか。あれからあたしは、残ってするはずだった羊毛フェルトに全く手をつけず、その事だけが頭の中をグルグルと回り続けていた。

 

「なんであたし....あんな態度とっちゃったんだろ....」

 

クラスメイトから話しかけられた時、あたしはあくまでこころと自分は学校で少し話すだけの関係だと言う態度を取ってしまった。

こころと同じような怪奇の視線を向けられるのが怖くて、あたしはハロハピよりも自分の評価を気にしてしまった。その事が自分の中で煮え切らなくて仕方がなかった。

 

「しかも、あんな事言っちゃうなんて……」

 

クラスメイトたちからこころの話題が出た時、同時にこころが発足したハロハピの話題も上がった。クラスメイトたちは実際に見たことないのにもかかわらず、()()弦巻こころのバンドというだけで毛嫌いし、悪評を言う彼女たちに、あたしは心のモヤモヤを感じ、ついその場の勢いで2週間後、まだ白紙同然にもかかわらず、ライブを行うとクラスメイトたちに宣言してしまったのだ。

 

「はぁ……どうしよう」

 

自分がその場の勢いで言ってしまった事に、自分で頭を悩ませる。以前のあたしなら、こんなことはあり得なかったのかもしれない。これもあの変人集団に影響された故なのだろうか。

 

「まぁ言っちゃったものは仕方ない。見てもいないのにあんな事言われるのも癪だし、こうなったらライブやるしかない」

 

頭を悩ませつつ、あたしはスマホでハロハピメンバーに召集をかける。

 

「『緊急招集!羽沢珈琲店に集まるべし』……と」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜羽沢珈琲店〜

 

召集をかけた約30分後、5人がけのテーブルにハロハピのメンバーが全員集まった。突然の呼び出しにもかかわらず、全員が集合出来たのは、珍しい美咲の招集に、それぞれ思うところがあったのだろう。いや.....こころとはぐみに関してはそこまで深く考えていないのかもしれないが.....

 

「みんな、急に呼び出してごめん」

 

美咲からの急な呼び出しに、ハロハピのメンバーはそれぞれが自分の思った事を境なしに喋り出す。途中、美咲の要件をこころがミッシェルからの伝言だと勘違いしたせいで、はぐみと薫が全く違うところに話を持って行ってしまうというアクシデントに見舞われながらも、美咲は3人を落ち着かせ、手短に要件を伝える。

 

「ちょ、ちょっと落ち着いて。……コホン。みんな、よく聞いて」

 

「「「「…………」」」」

 

美咲の言葉を息を飲んで待つ4人。

 

「ライブ、やるから。2週間後!」

 

 

 

 

「ラ、ライブ……?」

 

私のいきなりの宣言に、花音さんが戸惑いの表情を見せる。

 

「いいわね、最高だわ!」

 

「「うん、最高!」」

 

心配する花音さんと違って、いつも通り3バカは何も考えずにただただ喜んでいる。

 

「ちょ、ちょっと待って3人とも!美咲ちゃん、場所とか、時間とかって………」

 

花音さんが慌てた様子で聞いてくる。まぁ無理も無い、これまで一度もあたしからライブをするなんて言ったことなんて無かったし、急に言われても準備や練習するにしても時間がない事も分かっている。それでも…………

 

「ごめん花音さん、まだ決まってないんだ。でも、2週間後のこの日、どうしてもライブ、やりたい」

 

それでも今回だけは、どうしても譲れなかった。

 

「あ……」

 

花音さんもあたしの中の決意を感じ取ってくれたのか、それ以上何も言わなかった。が、やはりまだ不安な様子だ。

 

「いいじゃない、花音。美咲がここまで言うのって珍しいわ。きっと何か考えがあるのよ。そうでしょ?美咲」

 

花音さんを不安をはらうと同時に、何か核心に迫るように聞いてくるこころ。ほんとこの子は…普段はあんなにはっちゃけてるのに、あたしたちのこういうちょっとした変化は絶対に見逃さないんだよね。

 

「ま、まあそんなとこかな。……とにかく、悪いけど協力してほしい。ライブをする場所はあたしが探してくるから」

 

その後、外もかなり暗くなってきたので今日は解散となった。とりあえず今日決まったことは、2週間後にライブを行うこと。そのライブにクラスメイトを呼ぶこと。そして、そのライブで新曲をやる事だった。

 

 

 

 

 

〜奥沢家〜

 

「はぁ……」

 

家に帰り、すぐに自分の部屋に戻ったあたしは、1日のため息量を大幅に更新するほどのため息を吐いていた。考えれば考えるだけため息が出てくる。時間が圧倒的に足りていない。ライブ会場にしても新曲にしても、2週間丸々なんてもちろん使えない。新曲作りは最低でも1週間、いや、6日で終わらせたい。それほどまでに、今は1日1日が惜しい。

 

「はぁ……」

 

またしても口からため息が漏れる。これもあの時、自分が口走ってしまったために起こしたことだ。そんな当人が真っ先に諦めるなんて絶対にダメだ。自分の心が、あの時の言葉から感じたモヤモヤと焦燥感に支配されるのを感じる。

 

「(ダメだ...全然進まない。このままじゃ……)」

 

 

「美咲?」

 

あたしが深く考え込んでいると、突然誰かがあたしの名前を呼びながら肩にポンを手を置いた。

 

「うあぁぁッ!!」

 

「オワッ!」

 

あまりに突然のことに、あたしは大きな声をあげて驚いてしまった。声の主もあたしがいきなり大声をあげたことに驚いたようで、あたし程までとはいかないものの、慌てたような声をあげた。

 

あたしはすぐに振り返り、声をかけた人物を見た。そこにいたのは…………

 

「な、なんだ...お兄ちゃんか....」

 

あたしの実の兄、奥沢咲真だった。

 

 

「びっくりした〜。もう、ノックくらいしてよ」

 

「したぞ?したのに反応が無いから寝てるのかと思ってな」

 

「そ、それはごめんなさい。で、何の用?」

 

「晩飯できたってさ。行こうぜ………ってそれは?」

 

お兄ちゃんの視線があたしの机の上にいく。そこには真っ白な新品同然のノートが置いてある。

 

「あっ、えーっと、これはその………」

 

あたしは答えに困った。悩んでいることをお兄ちゃんに打ち上げれば、必ず力になってくれるだろう。自分のことそっちのけで。お兄ちゃんはそういう人だ。

だからこそ、あたしは簡単に頼れなかった。大会がすぐそこに迫り、お兄ちゃんはこの頃凄く頑張っている。早朝からランニングをやって、夜遅くまで学校で練習して、帰ってきてからも筋トレをしたり、机に向かって戦術を練ったり、休む暇なく動いている。あたし的にはあまり無理はして欲しく無いけど、お兄ちゃんのサッカーに対する想いがどんなものか、あたしは知っている。だから簡単に止められないし、これ以上無理をして欲しく無い。

 

「な、なんでも無いから!気にしないでほんとに……」

 

だからあたしは笑った。心配させないように、これ以上お兄ちゃんをあたしのわがままに付き合わせないように。

 

「…………」

 

お兄ちゃんは何も言わない。

 

あたしの部屋に長い沈黙が流れる。

 

その重い空気に耐えられなくなったあたしは、下を向き、お兄ちゃんと顔を合わせないようにする。

 

 

 

「美咲」

 

突然この沈黙を破ったのはお兄ちゃんだった。名前を呼ばれたあたしは、ゆっくりと顔を上げる。顔を上げて目に入ったのは、あたしの顔のすぐそこまで近づけられていた、お兄ちゃんの手だった。しかもその手は、中指が折られ、戻らないように親指で抑えられている。いわゆる、デコピンの構えだった。

 

「へ?」

 

自然と口から気の抜けた声が漏れた。次の瞬間、中指が弾かれ、あたしの額にお兄ちゃんのデコピンがクリーンヒットした。

 

パチンッ!

 

「〜〜ッ!!」

 

高い音と同時にきた痛みに、あたしは少し仰け反り、自然とデコピンをされた額を両手で摩った。

 

「な、何するの!お兄ちゃん」

 

あたしは少し涙目になりながら、お兄ちゃんを睨みつけた。でも、お兄ちゃんはなんの悪びれもなく、あたしと同じか目線になるように屈み、今度はあたしの頭に手を置いた。

 

「バーカ。何一丁前に俺に気なんて使ってんだよ。下手な嘘付きやがって」

 

「ッ⁉︎」

 

やはりお兄ちゃんには簡単に気付かれていた。あたしが心配かけないようにしてること、お兄ちゃんに気を使って相談しないようにしてること。

 

「俺がお前の事で気付かないなんてあるわけ無いだろ?何年お前のお兄ちゃんやってると思ってんだ」

 

いつもそうだ。あたしがどれだけ隠しても、偽っても、お兄ちゃんにだけはすぐにバレる。

 

「自分が相談したらまた俺に無理させるとか思ってるんだろ?ったく、お前は」

 

「っ!!」

 

図星を突かれてドキッとした。お兄ちゃんはいつも鈍いくせに、あたしの事になると途端に鋭くなる。それがあたしにとって嬉しくて仕方ない事だった。

 

「いいか?美咲。『無理をする』ってのは、出来ないかもしれない事を頑張るって意味だ。『今自分に出来ないこと』つまり『無理』を頑張ってやるから『無理をする』ってことになるんだ」

 

「…………」

 

あたしは黙ってお兄ちゃんの話を聞いていた。あたしの考えなんて、お兄ちゃんには最初っから全部お見通しだっんだ。

 

「でもな、俺がお前の手助けをする事は『出来ないこと』じゃない『出来ること』なんだ。今自分に出来る事なんだよ。だから、それは無理をする事にはならない。むしろ、悩んでる妹をほっとく方が俺にとっては『出来ない事』だ。だから俺にとってはそっちの方が『無理をする』って事になるんだよ」

 

お兄ちゃんが言っているのはほんとに勝手な自分理論だった。こっちの気も知らないで、勝手な事を言う。でも、そんなお兄ちゃんだからだろうか。あたしも、自然と頼ってしまう。頭ではダメだとわかっていても、お兄ちゃんの助けを求めてしまう。その心配が嬉しいと思ってしまう。

 

「(やっぱりお兄ちゃんはズルいなぁ〜………そんな事言われたら、頼れなくなくなっちゃうじゃん…………)」

 

あたしは結局頼ってしまう自分に嫌気がさしながら、当の本人を前に、目をつぶって撫でられ続けるのだった。顔が妙に熱い気がしたが、まぁ多分気のせいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

それからあたしたちは一旦晩御飯を食べるために部屋を出た。お母さんに「降りるのが遅かったけど何かあった?」と聞かれ、言葉に詰まったあたしだったが、お兄ちゃんが咄嗟に誤魔化した。お母さん達にも心配かけたくないというあたしの気持ちに気付いてくれたのか、お兄ちゃんはその後も、お母さんたちの前では何も聞きに来なかった。

 

それからお風呂に入ってパジャマに着替えたあたしとお兄ちゃんは、お兄ちゃんの部屋に行き、そこで今日あったことを全部話した。こころたちとの関係を誤魔化してしまったこと、クラスメイトたちの言葉に反応して予定の無いライブを口走ってしまったこと、そのライブで新曲を披露する事になったこと。

 

「…………」

 

あたしが話している間、お兄ちゃんは何も言わず、ただ黙ってあたしの話を聞いていた。

 

「と、まぁこんな感じで、あたしのわがままで結構無理な状況になってるんだよね……」

 

全部話しきったあたしは、心の重りが外れたような気分になった。一人で抱え込むことがこんなにも重くのしかかるなんて思いもしなかった。しかも、それが人に打ち明けるだけでここまで軽くなることも、あたしは初めて知った気がする。

 

「そっか…じゃあ美咲はそのクラスメイトたちに何を伝えたいんだ?」

 

話を聞いたお兄ちゃんが、そんな質問をしてきた。

 

「あたしが伝えたいこと?」

 

「そうそう。俺には歌作りのことはあんまり分かんねえけど、美咲が伝えたいことをそのまま歌にすればいいんじゃ無いか?」

 

「あたしが伝えたいこと…………」

 

あたしは考える。一体何を伝えたいのか、どうして心がモヤモヤしたのか、どう思って欲しいのか。

 

「あたしは、やってもいないことをできないとか、見てもいないのに、良くないとか……」

 

言葉にするのは難しい、それでもあたしが今思っていることを全部口に出す。

 

「実際に、自分の目で見てやってみないと、そもそもわかんないんじゃないかなーって」

 

ポツポツとあたしの中から言葉が溢れてくる。

 

「なんでこんな風に思ったのか、自分でもよくわかんないけどさ。そういう……自由な考えっていうのかな。それができないのはもったいないって思ったんだ。……だから、もっと色んな人に世界の広さを知ってもらいたいみたいな」

 

「…………」

 

「あ、あはは〜、そんなこと思ってたり、なんて……」

 

「……そっか」

 

あたしの考えを聞いて、お兄ちゃんがそう言ってふッと微笑んだ。

 

「だったら、しっかり作らねえとな。そんな、誰かの世界を広げられる歌ってやつを」

 

『誰かの世界を広げられる歌』その言葉を聞いた時、何かが胸にストンと落ちたような感覚があった。まるで辺りを覆う暗闇の中から一筋の光を見つけたような感覚。

 

「……あたし、わかった気がする」

 

「え?」

 

忘れてしまう前にこの気持ちを歌にしたい。そんな衝動に駆られたあたしは驚くお兄ちゃんを尻目に、部屋のドアに手をかけた。

 

「美咲?どうしたんだ?」

 

ドアに手をかけたのと同時にお兄ちゃんから声をかけられた。あたしは勢いよく振り返り、お兄ちゃんにこう言った。

 

「わかったかもしれない、あたしの伝えたいこと。歌にしたいこと、クラスの子たちに届けたいこと!」

 

あたしの言葉を聞いて、お兄ちゃんはただ「そっか」と微笑むだけだった。それでもその微笑みが、あたしのこの衝動が間違っていないものだと思える1番大きな核心だった。

 

「ここから先はあたし一人でやってみる。お兄ちゃんは自分の事だけやってて。絶対ライブ、成功させるから!」

 

そう言い残し、あたしは自分の部屋に戻った。戻ってすぐに机の前に座り、今さっき感じたことをノートに書き出して行く。

 

「(あたしが何を伝えたいのか、何をわかって欲しいのか、あたしの気持ちを全部込める)」

 

それともう一つ、あたしの中にあるモヤモヤ、クラスメイトたちと話した時に、こころたちとの関係をはぐらかしてしまったこと。それがずっとこころに絡みついて離れない。

 

だから、このライブを成功させれば分かると思った。

 

 

 

“あたしにとってハロハピがどういう存在なのか”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜数日後、ライブ当日〜

 

あれから数日が経ち、ライブ当日。なんとかライブの会場を抑えることができたあたしたちは、ライブ会場の楽屋で出番を待っていた。

 

「わーーーい!ミッシェルーーー!」

 

「ぐぇっ!……は、はぐみちゃ〜ん!急に抱きついたらダメだよ〜!」

 

ミッシェルを着たあたしに、はぐみが思いっきり抱きついてきた。なんとかその衝撃に耐え、これ以上抱きつかれないように注意する。

 

「ふっ、いけない子だね、はぐみ。じゃあミッシェル、私と本番前のワルツをどうだい?」

 

「えーっと……ミ、ミッシェルは、ダンスは苦手なんだよ〜!ごめんね〜!」

 

はぐみが離れたと思ったら、今度は薫さんがまた訳の分からない事を言い出した。

それをなんとか躱し、本番に向けて気持ちを落ち着かせる。すると、隣ではこころと花音さんが何やら話している。

 

「うーん、美咲ったらライブの直前になると、いっつもいなくなっちゃうんだから……」

 

「こころちゃん、だから美咲ちゃんは……」

 

姿を消したあたしを探すこころと、こころになんとかあたしがミッシェルだと説明しようとする花音さん。ほんと花音さんには苦労させてばかりだなぁ…………。

 

心の中で花音さんに頑張れと念を送っていると、ガチャッと楽屋の扉が開き、誰かが入ってきた。

 

「おっ、なんか盛り上がってるな」

 

入ってきたのはお兄ちゃんだった。

 

「ッ!!さ〜くまッ!!」

 

こころはお兄ちゃんの顔を見るなり、驚くほどのスピードで移動し、一瞬でお兄ちゃんの元へ行った。あまりに突然のことに、さっきまでこころと話ていた花音さんは、目をパチクリさせている。

 

「おお、こころ。相変わらずいつも元気ハツラツだな」

 

「ええ、あたしはいつだって元気いっぱいよ♪」

 

「……そっか。悪いな、最近あんまり手伝えなくて」

 

「全然構わないわ。咲真も頑張っているんでしょ?だったら、あたしはそれを応援するわ♪」

 

「……サンキューな、こころ」

 

「それより咲真、美咲を見なかったかしら?もうすぐ本番なのに、またどこかへ行ってしまったの」

 

こころにそんな事を聞かれたお兄ちゃんは、苦笑いを浮かべながら一度こっちを見てきた。あたしはミッシェルの首をゆっくり横に振った。それを見たお兄ちゃんは、あたしの気持ちを理解してくれたようで…………

 

「あ、あ〜...美咲ならさっきそこで会ったぞ?なんか凄え忙しそうにしてたから、楽屋には行けないって言ってたな」

 

「そうなのね……」

 

お兄ちゃんの嘘を聞いて、こころは少しションボリした様子を見せる。あたしはそんなションボリするこころを見て、心のどこかで嬉しいと思っている自分がいるのに気がついた。

 

「でも、ライブは見守ってるって言ってたから、しっかり頼むぞ。こころ」

 

「ッ!ええ、もちろんよ♪ライブ会場にいるみんなを笑顔にして見せるわ!だから咲真も見ていてね?」

 

「おう。ちゃんと見てる」

 

そういうとこころは元気よく部屋を出て行く。それに続いて薫さん、はぐみ、花音さんも部屋を出てステージへ向かって行く。

 

「これで良かったのか?」

 

あたしもステージへ向かおうとした時、横に来たお兄ちゃんからそんな事を聞かれた。

 

「…うん。言うのはちゃんと自分の口から言いたいから」

 

「そっか」

 

お兄ちゃんはそれ以上何も聞いてこなかった。すると突然、あたしはポンッと背中を押された。

 

「じゃあ、あいつらのこと頼んだぞ。()()()()()

 

「うん。行ってきます」

 

あたしはミッシェルを着て、ライブステージへ駆けて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんな〜〜!おまたせ〜!ハロー、ハッピーワールドよ♪今日はとことん楽しんで行ってね〜〜♪」

 

こころの掛け声とともに、ライブがスタートした。こころは相変わらずハチャメチャにステージの上を駆け回りながら歌い出す。

 

 

「ん〜〜〜!やっぱりライブって最高だわ!」

 

「(ここらは今日も相変わらず……すっごい楽しそう。あはは。見てるこっちが楽しくなっちゃう)」

 

 

「ステージを彩る花に、会場に咲き誇る笑顔の花……私は……自分を隠すことができない!」

 

「(薫さんも……うん、いつも通り。今日もキレッキレだ)」

 

 

「かのちゃん先輩!ここのリズム、一緒に〜!」

 

「う、うん!はぐみちゃん、良い感じだね!」

 

「(はぐみも花音さんも、一生懸命頑張ってる。あはは。自分達が一番ライブを楽しんでるかも)」

 

 

ライブが進み、お客さんたちからも楽しんでいる声が聞こえてくる。そんな声に耳を傾けていると、あたしの目に、あたしが呼んだクラスメイトたちがいるのが見えた。

 

「(——あ。あそこにいるのは……)」

 

「ねぇ、奥沢さんに呼ばれて来たけど……」

 

「……な、なんかすごいね……」

 

「弦巻さん、学校よりも勢いあるし……」

 

「(あはは。そうかも)」

 

 

 

そして、いよいよ次が最後の曲。あたしたちが誰かの世界を広げたいと思って作った曲。

 

「次が最後の曲よ。———はぐみ」

 

「この曲は、はぐみ達の仲間の一言から生まれた曲です」

 

本来なら、このまま最後の曲に行くはずだった。が、突如、こころの合図とともにMCが始まった。

 

「(あれ、こんなMC……予定してなかったけど……)」

 

戸惑うあたしを尻目に、MCはどんどん続いて行く。

 

「人は誰しも、気づかぬうちに自分の世界の広さを決めてしまう。だが、そう……この世は舞台、人はみな役者」

 

「わ、私達は、少しのきっかけで、考え方や行動を変えることができるんです。……私達がそうだったように」

 

「だから、みんなもっと、自分の可能性を信じて欲しい!きっかけから、目を背けないで欲しい!」

 

「———何もしなかったら、何も起こらない」

 

「そ、そういう……曲です」

 

「(みんな……)」

 

「それじゃあ最後の曲、『せかいのっびのびトレジャー!』」

 

こころの合図で、曲がスタートする。あたしたちがつくった世界を広げる歌。閉じこもっていた世界から抜け出せるように、自分の中の世界だけが全てじゃないと知ってもらえるような、そんな歌————————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、ライブは無事大成功を収めた。会場にいる全員が笑顔になって、クラスメイトの子たちも喜んでくれたみたいだった。

 

「んーーー!今日のライブも最高だったわね!」

 

楽屋でみんながそれぞれの感想を述べている。と言っても、「最高!」とか「楽しかった!」とかいつも言っているような事しか言ってないのだが、それが今はあたしにとって、その言葉が今までで一番身近に感じられた気がする。

 

そんな風に思っていると、ミッシェルに入っていることも忘れて、自然と口から言葉がこぼれた。

 

「みんな、ごめん。勝手にライブ決めて、すごく無茶言って……その……みんなに負担かけたけど……」

 

「ん?なんでミッシェルが謝るのかしら?」

 

ミッシェルがあたしだと気づいていないこころは、あいも変わらず理解してくれない。でも…………

 

「ううん、美咲ちゃんからみんなに伝言だよ。ライブ、勝手に決めちゃったけど、一緒に頑張ってくれてありがとうって」

 

あたしも、ミッシェルの中でなら、普段言えないことも言える気がするから。正面から言うのは恥ずかしい事も、スラスラっと言葉に出来てしまうから。

 

「あと、美咲ちゃん、ハロハピのこと、前よりずっと大切だって」

 

だからいつのまにか、自分の意思とは関係なく言葉が漏れてしまった。

 

「(……あれ、こんなこと、言うはずじゃ無かったのに……)」

 

「「———!」」

 

漏れた言葉を聞いて、薫さんとはぐみがより一層嬉しそうに目を輝かせる。

 

「美咲ちゃん……」

 

花音さんも嬉しそうに微笑みながらこっちを見つめている。

 

「ミッシェル、美咲の気持ち、伝えてくれてありがとう」

 

こころは意外にも、少し落ち着いた雰囲気でミッシェル(あたし)にお礼を言ってきた。

 

「でも、そんなのお礼をお礼を言われるようなことでもないわ」

 

当たり前だというような確信を持ったこころの言葉が、あたしの中に届いて行く。

 

「美咲が笑顔にしたい人がいたのなら、その人を笑顔にするために一生懸命に頑張るなんて、当然じゃない」

 

「“あたし達は、一人の力じゃなくて、みーんなで世界を笑顔にするんだから!“」

 

その言葉が、あたしとってとにかく嬉しかった。今までほどほどに一人で過ごしてきたあたしに、こんなに騒がしくて、面倒で、ハチャメチャで、ほっとけなくて、一緒にいるのが楽しくて、当たり前で、大切で…………そっか………

 

「(そっか……あたしの中で、ハロハピって思ってるより……ずっと大切だったんだ……!変われたのはきっと……)」

 

あたしはそう思いながら4人の顔を改めて見た。

 

「(大切なものがあるから………)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、あたしたちは解散となり、あたしはお兄ちゃんと合流して一緒に帰っていた。

あの後楽屋に来たクラスメイトたちから賛辞の言葉を貰った。みんなほんとに楽しそうで、誘った甲斐があったと思った。ほんとはあの子たちに自分がミッシェルだって伝えるつもりだっんだけど、あの笑顔を見ていたら自分がミッシェルかどうかなんて些細なことだなって思ったから。あの子たちが偏見なくハロハピを見てくれた、それで、ハロハピのステージを楽しんでくれたみたいだから、それでいいやって思えたから。

 

「なんか嬉しそうだな」

 

突然隣を歩いていたお兄ちゃんからそんな事を言われた。

 

「え?そうかな?」

 

「今まで以上に楽しそうな顔をなってるぞ」

 

「え⁉︎嘘⁉︎」

 

あたしは慌てて自分の顔に触れる。無意識のうちに顔がそんなになっていたなんて....恥ずかしい。

 

「でも…良かったよ。美咲が楽しそうで」

 

「え?」

 

「美咲に心配かけ続けた俺が言うのも何だけどさ、今日みたいな笑顔が見れて良かった」

 

「お兄ちゃん……」

 

「これもこころたちのおかげかね?」

 

「もう…台無しだよ……でも、そうだね、半分はそれかも」

 

「もう半分は?」

 

「半分は……」

 

あたしはそう言ってお兄ちゃんの顔を見た。理解していないお兄ちゃんの顔をキョトンとしていて、思わず笑みがこぼれてしまう。

 

「なーいしょ♪」

 

 

 

今日はあたしにとって特別な日だ。あたしが、あたしの“大切なもの”に気づけた、そんな大切な日。今日をあたしはきっと忘れないだろう。いや、忘れたくても忘れられない。こころたちに会うたびにきっと……今日を思い出すから。




お待たせしました!次回からついにIH東東京予選編がスタート致します。読んでいただいている皆様を熱く出来るような、そんな試合に出来るよう精一杯頑張る所存です!

ではまた次の話で〜!読んでいただきありがとうございました!
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