〈凍結〉イナイレ×バンドリ 笑顔を護る英雄   作:夜十喰

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お待たせしました!今回からIH東東京予選編がスタートです!
皆さまから頂いたキャラたちの魅力を精一杯引き出せるような試合を書けるよう頑張ります!

今回は一回戦開始前までの話となります。長めになってしまいましたが、それではどうぞー!


アプローチ

「ハァ……ハァ……ハァ……」

 

IH予選当日、早朝、冷えた空気を少しずつ温め始める日差しとともに、俺は走っていた。大会当日でも、日課は忘れない。むしろ休めと言われそうだが、大会が待ち遠しく、体を動かしていないとウズウズして仕方がなかったからだ。

 

「ハァ…ハァ……ふぅ……っし!」

 

家から走って来た俺は、いつものランニングコースを外れ、山の上にあるお寺へと続く階段をダッシュで駆け上がる。

 

 

 

お寺へと続く階段を勢いそのままに駆け上がり、二百段近くあった階段をものの7分程で登りきった。登りきった先には、古びた少し小さなお寺が建っている。

 

「ハァ……ハァ……ハァ……」

 

俺は膝に手をつき、呼吸を整える。普段の練習で体力はあるものの、二百段近くある階段を駆け上がるのは、想像以上に足と体力にくる。

 

「ふぅ……」

 

数分使って息を整えた俺は、そのままお寺の前まで行き、目をつぶって手を合わせる。

 

「…………」

 

別に勝利を願っているのではない。勝負事において神頼みをするのは、俺はあまり好かない。俺は神様よりも自分の()()()()を信じているからだ。

 

じゃあ、何を願っているか、別段変わった事を願っているわけではない。

ただ………………

 

「(………っ)」

 

 

俺の瞼の裏に、去年の光景が映し出される。去年のIH、桐ヶ谷や暁たちを倒し、駒を進めた全国の舞台。誰もが憧れ、目指し、夢に見る最高の舞台。全国から集まったプレイヤーたちが、己の力の全てを出し切り、熱く激しい闘いを繰り広げる最もサッカーの熱い場所。

だが、俺の瞼の裏に映ったのはそんな華々しく、熱い光景ではなく、眩しすぎるくらいに俺を照らす蛍光灯の光と慌てた様子でその場を行き交う数人の白衣を着た人たち。更に、その蛍光灯の影になっていて見づらいが、大粒の涙を流しながら俺の名前を大声で呼ぶ悲痛に満ちた表情の美咲。そして、身体中がボロボロになり、満身創痍でベッドの上に仰向けになっている—————自分の姿だった。

 

 

 

「(もう二度と、美咲にあんな顔をさせないように。みんなを守れるように。特に何かしてくれって訳じゃないけど……どうか見守っていて下さい)」

 

咲真は心の中でそう言うと、顔を上げてゆっくりと目を開く。開いた彼の目には、燃えるような闘志と揺るぎない覚悟が宿っているように見えた。

 

「っし、そろそろ戻るか。今から帰ってシャワー浴びて飯食って、準備しますかね」

 

そう言うと咲真は、先ほど登って来た階段を降りて帰って行く。やれることは全てやった。後は、全力で試合に臨むのみだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜花咲川高校駐車場〜

 

朝8時ごろ、サッカー部の全員が花咲川高校の駐車場に集まっていた。全員が同じ白と黒を基調にし、背中に『花咲川高校 蹴球部』と書かれたジャージに身を包み、整列している。その前には、監督である本郷が立っており、その背後には大きめのワゴン車が停まっている。

 

「監督、全員揃いました」

 

咲真が全員の集合を確認し、問題無しと本郷に伝える。それを聞いた本郷は、一度深く頷き、言葉をかける。

 

「ああ。…よし、準備はいいな?お前たち。激励などは後にして、とりあえず会場に移動するぞ。くれぐれも車の中ではしゃぎすぎるなよ」

 

「「「「「はい!!」」」」」

 

全員が同時に返事をすると、次々にワゴン車へと乗車して行く。大きめの荷物を持った1年生たちが先に奥へ乗り込み、続いて、2年、3年と順番に乗車して行く。

全員が乗り込んだことを再度確認し、本郷がワゴン車を発進させる。

 

 

学校から試合会場までおよそ40分。ワゴン車の中では、一人一人がそれぞれのやり方で集中力を高めている。と、思いきや……………

 

「ぐぬぬ…………こっち!」

 

「……ニヤ」

 

「あーッ!またジョーカーだ〜!」

 

「へへへッ!!あめ〜な、茜!」

 

「うぅ〜〜……」

 

「だ、大丈夫だよ⁉︎茜ちゃん。まだチャンスはあるよ」

 

「う、うん……勝負はここからですよ」

 

茜、片桐、水瀬、シャロンの1年生女子4人は、車の中でトランプをしている。どうやら、茜が劣勢のようで、先に上がったであろう水瀬とシャロンの2人が、茜を慰めながら応援している。

 

「…………」

 

そんな緊張感の無い4人の声を聞いて、前の方に座っている日向が、イライラしているのか、目を閉じ、腕を組みながら、指をトントンと動かしている。

 

「これは少し説教が必要そうだな……」

 

そう言いながら目を開いた日向が、眉間にしわを寄せながら立ち上がろうとする。すると、日向の隣に座り、パンを口にしていた河野が、日向の腕を掴み、彼女を止める。

 

「まぁ落ち着け。いいじゃ無いか、緊張で硬くなるよりは....モグモグ」

 

「いや、確かにそうだが……」

 

「河野の言う通り、今はあのままでいいだろ」

 

すると、日向たちの一つ前の席に座っていた咲真が、背もたれから顔を出し、河野の意見に賛成する。

 

「奥沢まで……」

 

2人に止められ、日向は少しバツの悪そうな表情を見せる。

 

「そんな顔すんなって、大会の前であれだけ笑えるってのはいいことだぞ?まぁ試合になれば嫌でも身が引き締まるさ。それまでは自由にさせてやろうぜ?」

 

「はぁ…まぁお前がそこまで言うなら今回はそっとしておこう」

 

一つため息をついた日向だったが、咲真と河野の説得で席に座りなおした。

 

「それにしても、今年の1年は頼もしいな。茜と片桐はいいとして、水瀬とシャロンはもっとガチガチになると思ってたけど」

 

「どちらかと言うと、ああやって緊張を紛らわせてるようにも見えるがな....モグモグ」

 

日向が座ると、咲真たちはトランプに燃えている4人を見てそんなことを思った。

 

「まぁ頼もしいと言えば、あっちもそうだがな」

 

日向はそう言うと、4人とは違うところに目線を向ける。その目線の先には、蒼夜たち2年生がいるのだが…………

 

「スゥ……スゥ……」

 

2年の中の1人、佐々木が背もたれにもたれかかりながら、熟睡していた。

 

「これから試合だと言うのに、よくあれほど気持ち良さそうに眠れるものだな」

 

肝の座った佐々木を見て、日向はそんな感想を漏らす。

 

「まぁあいつはそこまでサッカーに熱を注いでるってわけじゃ無いからな〜。本人も、絶対に負けられないとかそう言う気負いを感じたことがないから緊張もしないって言ってたな」

 

「なんとも言い難い大物ぶりだな.....それに対して……」

 

眠る佐々木から視線を外すと、そんな彼とは対照的に、手元のタブレットを使い戦術を建てる蒼夜と彩瀬が映る。

 

 

 

「やっぱり相手の情報が無いのは厳しいな...戦術の建てようが無い」

 

「初出場とはいえ、不確定要素が多いのはこっちが不利だからね〜」

 

蒼夜と彩瀬は、対戦校である光ヶ丘の対策を建てるために2人で話し合っているのだが、相手の試合の情報が無いため、対策を建てようにも建てられない状態が続いていた。

 

「前半は相手の力量を見るためにも、キープ力の高いお前やキャプテンにボールを集めるのが妥当なところだな」

 

「おっ、蒼夜直々の任務だね〜。これは失敗出来ないな〜」

 

「失敗なんてしないだろ?お前なら」

 

ケロッと返した蒼夜の答えは、彩瀬への信頼そのものだった。真っ直ぐな目を向けられた彩瀬は、いつもの間延びした言葉遣いを忘れて、顔を赤らめる。

 

「えっ///ま、まぁたしかに、私ならそのくらい余裕だよ!うん!余裕余裕!///」

 

「ん?どうした?顔赤いけど、熱か?おいおい、しっかりしてくれよ、体調管理も器量の一つだぞ?」

 

急に慌てだした彩瀬を見て、何事かと首を傾げた蒼夜は、なんとも見当違いな発言をした。他人のそういう色恋沙汰には鋭い蒼夜だが、自分のことになると突然鈍くなる。そんな彼に好意を向ける彩瀬は、彼の発言にイラつきを覚え、ドンッという音と共に、彼の足を思いっきり踏みつけた。

 

「イッテェェ!!何すんだよ!」

 

「ふんだ!蒼夜なんか知〜らない。双子に挟み撃ちで刺されて死んじゃえばいいんだよ!」

 

「なんだその特定的な殺され方!」

 

そんな彼らの痴話喧嘩のようなやりとりを見て、後ろの席に座っていた猫神が、背もたれの上から顔を出して笑い出した。

 

「にゃはは〜!もう、氷川っちは相変わらずだな〜。ななみんが怒るのも無理ないよ〜。だよね?紅城っち」

 

猫神は、彩瀬の肩を持つ発言をすると、今度は通路を挟んだ反対側の席に座っていた赤城に話を振った。隣には花咲川の守護神である岩隈が座っていたのだが、猫神は明らかに彼の存在を無視するのだった。

 

「……氷川が悪いな。完全に」

 

赤城は首だけを動かし蒼夜たちの方を向くと、彩瀬側に立つ発言をした。

 

「おい猫神。なんで俺には聞かねえんだよ」

 

自分のことをスルーされた岩隈は、その理由を猫神に問う。

 

「だって岩隈っちも氷川っちと同じなんだもん。乙女心の分からない女ったらしの意見なんて参考にならないからね〜」

 

「なんだよそれ、わけわかんねえ.....」

 

猫神の言う通り、岩隈も複数の女性から好意を向けられている。しかも、その好意に本人は気がついていないのだ。いわば、岩隈は最初っから蒼夜と立場が同じなのだ。

 

「なんだよ、2人は七美の肩を持つのかよ....」

 

「「当然(だね〜)」」

 

息を揃えて自分の非を肯定された蒼夜は、短くため息を吐くと顔を伏せ、落ち込んだ様子を見せた。

加えて、流れ弾をくらった岩隈も蒼夜と同じように顔を伏せた。

 

それから眠る佐々木を除いた2年生4人は、少しいじけた様子を見せる蒼夜と岩隈の2人を無視して今日の試合について話を始めた。

 

 

 

そんなふざけ合いつつも、真面目に戦術について話し合う4人を見て、日向はどこか満足そうな表情を見せる。

 

「うんうん。やはりああではなくてはな」

 

「2年は氷川を中心にまとまっているからな。佐々木も氷川がいい具合に動かしているお陰で、口ではダルいと言いながらしっかり動いている。ほんと、氷川は優秀で助かる。....モグモグ」

 

2年をまとめている氷川を見て、彼の優秀さを改めて実感した河野も、日向と同じような表情をしながら、未だに口をモグモグさせていた。

 

「……なぁ河野?一体いくつパンを食べる気だ?」

 

先程から休むことなくパンを頬張る河野を見て、日向は胸焼けがするのか、少し気持ち悪そうにしながら河野に質問する。

 

「いやなに、以前奥沢のバイト先のパン屋の子が持ってきた差し入れのパンがとにかく美味しくてだな。すっかりハマってしまって。ここのパンなら10は軽くいけるな。モグモグ」

 

解説をしながらも、次々とパンを口に運ぶ河野。そんな彼女を見て、彼女にパンを売った本人である咲真も、少し引きつった表情を見せる。

 

「いや〜、前河野が来た時は驚いたが、まさかあれだけの量を買うとは思ってなかったな....。しかもそれを1日で全部食べたらしいし...」

 

「とてつもないな....」

 

河野の底なしの胃袋を見せつけられた咲真と日向の2人は、車の揺れも相まって、気持ち悪さが一気に来たようだ。後ろを向いていた咲真も顔を正面に向け、窓から遠くを見つめながら気持ち悪さを和らげる。

 

 

すると、咲真はふと隣を見た。そこには、我らが花咲川サッカー部のエースストライカーで部内一の熱血漢、水嶋葵がいた。いたのだが、その表情は、いつもの元気とやる気に満ちた表情ではなく、どこか不安で落ち着きのないように見えた。

 

「どうした?水嶋」

 

「あ、いや、なんでもないぞ」

 

俺のかけた言葉にも、少し遅れ反応する水嶋。明らかにいつもと違う彼の様子に、咲真は一つ心当たりがあった。

 

「緊張してるのか?」

 

「ッ⁉︎」

 

どうやら図星のようだ。

 

「い、いや〜。なんかな....大丈夫だってのはわかってるんだが....これが最後かも知れないって思うと...な」

 

らしくもない弱気な発言をする水嶋。普段熱い彼だからこそ、こういった場面で思うところがあるのだろう。1年の時から共に切磋琢磨して来た咲真、日向、河野、そして水嶋自身、彼にとって他の3人ははかけがえのない存在なのだ。それが、たった一度の敗北で終わってしまうかも知れない。過ぎるその考えが、彼の肩を小刻みに揺らす。

 

「……あはは、嫌になるな全く....俺ってこんなにも弱かったんだな」

 

そう言って苦笑いを浮かべる水嶋。すると咲真は、そんな彼にむかって慰めや励ましの言葉をかけると思いきや.....

 

「バカか?お前」

 

咲真の口から出たのは、シンプルな罵りだった。

 

「え?」

 

予想外の咲真の返答に、気の抜けた返信をして戸惑いを見せる水嶋。そんな水嶋を無視して、咲真は続ける。

 

「俺たちの関係がそんなもんで終わるわけねえだろ。ずっと切れねえよ。たとえこの先バラバラになってもな」

 

そう言って真っ直ぐに水嶋を見る咲真の目には、強い確信が込められていた。たとえ何があっても切れない繋がりが自分たちにはあると、そう彼は心から思っている。そしてそれは、他の2人も同じこと………

 

「全くだ。何を弱気になっている。お前らしくも無い」

 

「こんな濃い連中との繋がりがそう簡単に途切れるはずないだろう?」

 

突然背もたれから顔を乗り出した日向と河野が、咲真に続いて水嶋に言葉をかける。彼女たちの言葉にもまた、強い確信があった。

 

「……ぷッ!アハハハハッ!」

 

そんな3人の言葉を受けた水嶋は、数秒の沈黙の後、突然大声で笑いだした。

その声は車の中に響き渡り、1、2年生たちもその声に驚いて咲真たちの方に視線を向けている。

 

「ど、どうした?いきなり」

 

「いや〜、そうだよな。俺たちの関係がこんなとこで終わるわけないよな!すまんすまん、なんか弱気になってたわ。っし、気合い入れていこうぜ!」

 

どうやらいつもの調子を取り戻したようだ。この暑苦しすぎるぐらいが水嶋葵だろう。そうです思う咲真たち3年と何事かと首を傾げる1、2年生たちだった。

 

 

 

 

「よし到着だ。全員準備しろ」

 

車に揺られる事30分ほど、咲真たちは予算の会場であるスタジアムに到着した。

それぞれが自分の荷物を持って車から降りる。降りた先は、すでにいくつもの高校の選手でごった返しになっていた。

 

「うへ〜、凄い人〜。これが全員敵か〜!なんか燃えて来たかも!」

 

そんな凄まじい人だかりを見て、茜はますますやる気になったようだ。他の高校の選手たちを見て立ち止まり、目を爛々と輝かせている。

 

「ほら行くぞ茜。止まってないでさっさと動く」

 

「うぇ、はぁーいお姉ちゃん」

 

日向は立ち止まる茜の首根っこを掴み、他の選手たちに向けていた意識をこちらに向けさせる。日向に言われ、駆け足で咲真たちが向かった方へ急いで向かう。その途中で茜は、自分たちに向けられる数多くの視線に気がついた。

 

「ねぇお姉ちゃん、ボクたちなんか凄く見られてない?」

 

「それはそうだろう。私たちは去年の優勝校だ。どこも警戒しているはずだ」

 

日向の言う通り、咲真たちに向けられている視線は、単純な興味などとは違い、明らかに敵意が込められたものがそのほとんどを占めている。どの高校も自分たち以外が敵なのは変わらないが、前回王者である咲真たちに向けられる敵意は、他の高校に向けるものとは全く異なるものなのだ。その敵意を全方向から受けるプレッシャーは、計り知れないものになるだろう。

 

「お、お兄ちゃん....」

 

そのプレッシャーに完全に萎縮してしまったシャロンは、兄である岩隈の腕にしがみついて離れなくなってしまっている。

 

「大丈夫大丈夫」

 

そんなシャロンをなだめるように、頭を撫でる岩隈。撫でられたシャロンは、腕にしがみついたままだが、少し安心した様子に変わった。

 

だが、こういった経験の少ない1年生たちは、シャロンと同じように少し萎縮しているように見える。そんな彼女らを見て、咲真は奮い立たせるように全員に声をかける。

 

「なに辛気臭い顔してるんだよ。いいか?敵意を向けられることは怖いことじゃ無い。それだけ俺たちを警戒してるってことだ。俺たちには警戒するだけの価値があるって向こうから言ってくれてるんだよ。だから、向けられる敵意は全部俺たちを賞賛してるって思っちまえばいいんだよ」

 

咲真の口から出た勝手な自分理論。彼がよく口にするそんなポジティブ思考な考え方は、いつも自分勝手でついていけない部分もあるが、聞くと不思議とそう思ってしまう。

 

「ふっ、そうだな。自身を持て、お前たちは花咲川に相応しいプレイヤーだ。それは私たち先輩が保証する」

 

咲真に続いて日向も、1年生たちの気持ちを奮い立たせるような言葉をかける。キャプテンと副キャプテン、その2人からの言葉を聞いて、先ほどまでの緊張や不安感は何処へやら。彼女たちの目は、ギラギラと輝くやる気で満ち満ちていた。

 

「さ、もうすぐ開会式だ。さっさと行って準備しよう」

 

そう言ってスタジアムへ向かう咲真。その後ろには、闘志で満ちた彼の仲間たちが続いて行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数十分が経ち、開会式を終えた咲真たちは、自分たちの試合の前に、スタジアムの外でアップを行なっていた。

 

「ストレッチはいつもより念入りにやっておけよー。誰しも少なからず緊張して体は硬くなるからな。少しでもほぐしておけ」

 

咲真の指示通り、各々がいつもより念入りにストレッチをしている。すると、そんなストレッチをする咲真たちの元へ、駆け足で向かってくる人影が見えた。

 

「ん?」

 

咲真は目を細め、向かってくる人影をよく観察する。すると見えたのは、太陽のように明るい笑顔を向けながら、こちらに向かってくるこころだった。

 

「こころ⁉︎」

 

「さ〜くまッ!!」

 

もうおきまりの流れになりつつあるこころのダイビングハグに、咲真は驚きつつも慣れた様子でそれを受け止める。

 

「応援に来たわよ。咲真♪」

 

こころは咲真に抱きつくなり、いつものように明るい笑顔でそう言った。すると、こころが走ってきたのと同じ方向から、誰かが慌てた様子でこっちに走って来るのが見えた。

 

「んも〜〜、こころ...ハァ...速いって...ハァ....」

 

「美咲?」

 

走って来たのは、咲真の妹である美咲だった。

 

「こころちゃん!美咲ちゃん!待って〜〜!」

 

更にその後ろから、バテバテの花音が2人の後を追って来た。

 

「ん?花音?」

 

彼女の到着に反応したのは、彼女の幼馴染である岩隈だった。

 

「あっ、凌平君。応援に来たよ」

 

息を整えながら、岩隈に来た目的を伝える花音。そんな彼女を見て、岩隈は少し呆れた表情をしながらも、どこか嬉しそうに返すのだった。

 

「そっか。ありがとな。花音が応援してくれるなら百人力だ」

 

「えへへ///そうかな?…そうだといいな」

 

 

 

 

 

「美咲、こころ、来てくれたんだな」

 

「ええ、もちろんよ。だってこの大会は咲真にとって大切なものなんでしょ?だったら、それを応援しに来るのは当然だわ♪」

 

「まぁあたしは妹だし?お兄ちゃんの活躍はちゃんと肉眼で見ないとって思って」

 

「ほんとは薫とはぐみも連れて来たかったのだけど、2人とも今日は予定が入ってしまっていたの....だから、今日は2人の分まで咲真を応援するわ!」

 

「そっか、サンキューな」

 

そう言うと、自然と2人の頭を撫でる咲真。撫でられた2人は、頬を赤らめ、とても嬉しそうな表情を見せた。あたりにはほんわかした空気が流れ、周りにいた人たちはしょうがないな〜といった表情を彼らに向けている。

 

 

「…コホン」

 

「ッ⁉︎」

 

そんな彼らの空気を問答無用で切り捨てるように、一つ咳払いをしたのは、マネージャーで咲真に好意を向ける、和泉だった。

 

「奥沢君?楽しそうなのはいいけど、もうすぐ試合だよ?しっかりアップした方がいいんじゃないかな?」

 

優しい声色とは裏腹に、咲真になんとも言えないほどの冷たい視線を送る和泉。そんな彼女の視線に恐怖を感じた咲真は、彼女たちの頭からパッと手を引き、慌ててアップを再開した。

 

「そ、そうだな!!しっかりアップしねえとな!美咲、こころ、客席で見ててくれ、絶対勝つから」

 

「ええ、ちゃんと見てるわ!だから、笑顔で頑張ってね、咲真!」

 

「うん。頑張ってね、お兄ちゃん」

 

そう言うと、2人は花音を連れて3人で客席に向かっていった。彼女たちを見送った後、咲真たちはアップを再開し、万全の状態で初戦に臨むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜スタジアム 花咲川高校控え室〜

 

 

試合開始まで残り数分に迫り、咲真たちは自分たちの控え室でユニフォームに着替え、最後の準備を行なっていた。

ある者は靴紐をきつく結び、ある者は自分の頬を叩き気合を入れ、またある者は目を瞑り集中力を高めている。

 

 

そして、ついに時間が来た。左腕に黄色のキャプテンマークをつけた咲真が立ち上がり振り返ると、全員がその場で咲真の方を向いていた。

 

「よし、そろそろ時間だ。全員準備はいいな?」

 

「「「「「おう(はい)(ああ)!」」」」」

 

 

全員の返事を聞いて、目を瞑りながらフッと笑みを浮かべた咲真。目を開き、もう一度全員の顔を見回す。

 

 

「いよいよだ。俺たちの目標はただ一つ、日本一になることだ!他のチーム全員を蹴落として、頂に立つのは俺たちだ!」

 

 

咲真の言葉に、全員の表情がより一層引き締まる。

 

 

「—————さぁ、夢への登山を始めよう」




読んでいただきありがとうございました!
1回戦に応援に来たのは、ハロハピからこころ、美咲、花音の3人でした。沙綾やポピパのメンバーも描きたかったのですが、思ったより長くなってしまったので、二回戦に持ち越しとなりました。
美咲とこころは全ての試合の応援に来てもらうつもりですが、他のキャラたちは変わり代わりで出していきたいと思います。

それでは、次回をお楽しみに〜!
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