〈凍結〉イナイレ×バンドリ 笑顔を護る英雄   作:夜十喰

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今まで一番長くなりました。でも、熱いシーンが書けたと思います。
もしかしたらこの話がこの試合のピークかも....w

それではどうぞ!


見えない枷

〜スタジアム 観客席〜

 

「見てみて美咲!咲真たちが点を決めたわ!」

 

花咲川高校の先制に、こころのテンションはいつも以上にヒートアップしていた。初めてサッカーの試合を生で観戦して、興奮が冷めやらないのだろう。こころは隣にいる美咲の手を握り、ブルンブルンと上下に力いっぱいに振り回す。

 

「分かった!分かったから!見てたから!そんなに振り回さないで!」

 

こころに手を引っ張られつつも、美咲も咲真たちのゴールが嬉しいのか声色が高くなっている。

 

「でもやっぱり凄いね...咲真さん。言葉だけでみんなの不安をいっぺんに払っちゃうなんて」

 

騒ぐ2人を横目に見て微笑ましそうにしていた花音が、改めて目の当たりにした奥沢咲真という存在にそんな感想を漏らした。花音も既に咲真のことはハロハピ会議や弦巻家での練習の時から知っていたが、それはあくまで美咲の兄としての彼を知っていただけで、サッカー部のキャプテンとしての彼を知らなかった。だから花音は、初めてみる咲真の1人のサッカープレイヤーとしての姿に、少し別人とも思えるような雰囲気を感じていた。

 

「お兄ちゃんの言う事って、いっつも自分勝手なことばっかりなんですよね。自分と他人の考えなんて違って当たり前なのに」

 

「美咲ちゃん?」

 

すると突然、美咲が花音にそんな話を始めた。こころの手をなんとかほどいた美咲は、首を傾げる花音の隣に腰を下ろし、花音が漏らした感想を聞いて、妹として知っている兄の事を語る。

 

「それなのに、お兄ちゃんが言うと不思議と力がもらえるんです。ダメだってわかってても、結局頼っちゃったりして....」

 

アハハ...と苦笑いを浮かべる美咲。しかしその顔は、とても幸せそうだった。

 

「まぁ何が言いたいかですけど、お兄ちゃんの言葉には人を動かす力があるんです。なんのひねりも、偽りも無い真っ直ぐな言葉だから、相手も自然に信じちゃうんですよ」

 

「あ...」

 

美咲の言葉を聞いた花音が、なにかを思いついたように小さく声を漏らした。そのままゆっくりと美咲から視線をずらし、観客席から身を乗り出して咲真に大きく手を振りながら応援するこころにその視線を向ける。それに続くように、美咲もまた同じくこころに視線を向ける。

 

「似てますよね。こころとお兄ちゃんって」

 

人の心を動かすなんて決して簡単なことでは無いけれど、それを平然とやってのけるお嬢様に、2人の視線が向けられる。花音が試合中の咲真を見て感じたものは、いつも自分がこころから感じているものと似ている、そう花音は思った。

初めてこころと出会った時、ドラムを辞めようと思っていたはずの自分の気持ちを簡単に変えてしまったこころと、たった言葉一つで試合の流れも、周りの空気も、味方の焦りの表情もひっくり返した咲真。理由や状況が違っても、2人は簡単に人に前を向かせられる。美咲の言葉に、花音はなんの迷いもなく答えた。

 

「そうだね。私もそんな気がするよ」

 

そう言って2人は一度向かい合うと、アハハと短く笑って再びこころの方へ目を向ける。こころはいつも以上に輝いているように見える笑顔で、咲真を応援していた。

 

「さくまーー!頑張ってーーー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さくまーー!頑張ってーーー!!』

 

「ん?」

 

コート内まで届いたこころの応援が咲真の耳に入る。1回戦とはいえ、多くの人の応援の声が四方八方から飛び交う中、咲真の耳と目は、こころの声とその笑顔で自分たちを応援してくれているこころを一瞬で捉えた。

 

「おう!サンキューこころ!」

 

大きく手を振るこころに、咲真も笑顔で右手を振って応える。咲真の振り返された手を見て、こころのテンションはますますアップようで、美咲と花音の手を引っ張り、応援するよう急かしているのが遠目からでもわかるほどだった。

 

 

そんなこころたちの様子を確認した咲真は、まるで人が変わったかのように、今まで笑顔だった表情を真剣な表情へと変え、自分たちの今対峙している相手をしっかりその真剣な眼差しで見据える。その先には、先ほどの失点を感じさせぬほど、たくましく引き締まった表情をする光ヶ丘のメンバーたちがいた。

 

「向こうもかなりいい顔になってきたな。ここからが勝負といったところか」

 

彼らの引き締まった表情を見た日向が、咲真の隣に並びそんな事を言った。

 

「ああ、そうだな」

 

咲真は日向に簡単にそう返すと、口角を上げニヤっと笑う。

 

「やっぱり試合はこうじゃないとな。やるぞ日向。容赦も油断も無しだ」

 

そう言う咲真の瞳には、羽丘との練習試合で見せたような執念のようなものが込められていた。

 

「ああ、もちろんだ」

 

日向はそう言うと、自分のポジションへ戻って行く。戻るときに一瞬見えた日向の顔には、僅かながらに笑顔が見えた。

 

 

 

 

 

ピーーーーーッ!!

 

 

 

日向が自分のポジションに戻ってすぐに、試合が再開された。光ヶ丘は先ほど同様、ペースの速いパスを回しながら全員で上がって行く。ただ、先ほどと明らかに違うのは、試合開始直後と比べて選手たちの走っている時間が短くなった事だ。先ほどとは違い、それぞれのペースを保ったまま攻める光ヶ丘。

 

「さて、次はどう来る?何か別の作戦でもあるのか?」

 

彼らの様子をじっくり観察する蒼夜。彼の頭の中では、先ほどまでの作戦を辞めたのか、何か別の作戦を準備していたのか、と思考が繰り返されていた。

 

 

 

 

しかしそこから光ヶ丘は、時間をゆっくりと使い。試合時間はすでに30分を回っていた。

 

「あれから随分経つが、目立った動きはないか...不気味といえば不気味だな」

 

動きのない光ヶ丘に蒼夜さらに警戒の色を強める。

 

現在ボールはセンターラインから5メートルほど離れた位置にあり、それぞれが光ヶ丘の動きを警戒しながら相手の動きを見つつ、ボールを奪うタイミングを見計らう。

 

「(やっぱりそう簡単に奪いに来ない。俺たちの動きを警戒してる。俺たちを下に見てる連中ならすぐに奪いに来るのに....この人たちはやっぱり俺たちに“本気”を向けて来てくれている)」

 

花咲川の警戒する動きを見て、桔梗は咲真たちが自分たちに対して本気で相手をしてくれているという事実に、僅かばかりの感謝を向けていた。

 

 

今までして来た練習試合でも、対戦相手は自分たちを見下し、ただ力の差を見せつけるようなプレーをするだけで、自分たちを“敵”だと認識していない。そんな相手について行くのがやっとな自分たちにも呆れるが、それ以上に舐められるているのが気に入らなかった。確かに自分たちは出来たばかりの部だし、1年生しかいない。それでも、サッカーというものに憧れたのは同じだ。だから、今回の大会は初出場という事以上に、そんな自分たちを見下す連中を見返したいと思い臨んだ。その結果、初戦でいきなり前回王者と当たる事になってしまったわけだけど。本当はまた見下されると思っていた。舐められ、手を抜かれ、“敵”として見てもらえない。そういう思いが、心の奥底にこべりついていた。でも、実際に対峙してみてわかった。試合開始から僅か十数分でも、彼らが本気だという事、自分たちを他の高校と同じように“敵”として認識している事に。

 

「(こんなに嬉しいことはない。前回王者に本気を向けてもらえるなんてとっても名誉なことだ。本来感謝を向けるような関係じゃないけれど。この本気に俺たちも応えたい!だから──────)」

 

 

味方からのパスを受け、ボールを持った桔梗が大きく息を吸った。

 

「こっちも全力で勝ちに行くぞォ!!」

 

突如桔梗が大きな声でそう叫んだ。何事かと疑問に思う咲真たちだったが、次の瞬間、光ヶ丘の選手たちが一斉に走り出した。

 

「なに⁉︎」

 

突然のことに慌てる花咲川メンバー、その一瞬の硬直の隙をつき、光ヶ丘の選手たちは一斉にゴールへと駆け上がっていく。

 

「頼むぞみんな!」

 

桔梗が前線に向けて大きくパスを出す。

 

「まっかせて〜」

 

桔梗からのパスを胸でトラップし受け取ったのは10番を背負うストライカー城戸好太郎。ボールの勢いを完全に殺す見事なトラップで、流れるようにドリブルで上がっていく。

 

「行かせないよー!」

 

そんな城戸の前に猫神が行く手を阻む。

 

「王者相手に手を温存するなんて失礼だよね〜、僕も全力で行かせてもらうよ〜」

 

桔梗は地面についた右足に力を込める。すると突然、周り一帯が暗くなり、城戸の足が地面につくたび、そこを中心に小さく波紋が広がる。

 

「まぼろしドリブル!」

 

次の瞬間、城戸の体が2つに分身し、彼の通った後に彼の残像が現れては消えていく。

 

「えぇ⁉︎」

 

突然の摩訶不思議な光景に驚く猫神、そんな彼女を尻目に、城戸は自身の必殺技で彼女を抜き去った。

 

「城戸!」

 

猫神を抜いてすぐ、城戸は隣から自分の名前を呼ぶ声に聞き、声のした方へパスを出した。

 

「ほい!」

 

「ナイスパス城戸!」

 

城戸からボールを受け取ったのは、前線まで上がってきていた四十住だった。

 

「このまま2人手間一気に行くぞ!」

 

「おう〜!」

 

城戸と四十住の2人は、交互にパスを出し合いながら上がっていく。そして、遂にゴール前までたどり着いた。

 

「頼んだぞ城戸!」

 

左サイドから上がっていた四十住が、城戸に向けて低めにクロスを出す。ボールが城戸の足元へ来たその時、すでに城戸の足は大きく振りかぶられていた。

 

「いくよ〜!グレネードショット!!」

 

ボールが青いエネルギーに包まれ、城戸の右足から強烈なシュートが放たれる。青いエネルギーを纏ったボールは、そのまま一直線に花咲川ゴールへ向かう。

 

「「「いっけぇぇぇ!!」」」

 

城戸のシュートに、光ヶ丘の選手たちが気合のこもった声を上げる。ボールはその声に応えるように勢いよくゴールへ向かっていく。

 

「悪いがそう簡単に点はやれねえぞ!」

 

だが、ゴールの前には花咲川の守護神、岩隈がすでに万全の状態で構えていた。

 

「グレートバリアリーフ!」

 

岩隈が手を横に払うと、辺り一帯が透き通るような綺麗な海に沈み、水の抵抗力によってシュートの威力がどんどん下がり、ボールが岩隈の右手に収まった。

 

「くそ〜、固いな〜」

 

シュート止められたことに、城戸はわかりづらいが悔しそうな表情を見せる。

 

「次だ!切り替えていくぞ!」

 

城戸の後方から大きな声でそう叫んだのは桔梗だ。味方の士気が下がらぬよう必死に声を大にしている。

 

ボールを持った岩隈が、ボールを持つ手を大きく振りかぶり、思いっきり投げ飛ばす。

 

「ナイスセーブだ岩隈。よし、全員上がれ!」

 

岩隈からのロングスローを受け取ったのは日向。日向はトラップしてボールを保持すると、すぐさまドリブルで上がっていく。

 

「ッ⁉︎みんな戻れ!」

 

花咲川のカウンターに、普段クールな四十住から焦りの声が漏れる。慌てて指示を出す。光ヶ丘の選手たちは、今度は先ほどまで全力で走っていた方と逆方向に全力で走っていく。

 

「茜!」

 

日向から茜へパスが出され、ドンピシャのタイミングでパスが通る。

 

「さっすがお姉ちゃん!ナイスパス!」

 

茜はそのままトップスピードで右サイドから上がっていく。そんな茜に必死についていこうと走る光ヶ丘のディフェンスたち。だが、体力以前に、茜のスピードには誰もついて行けていなかった。

 

そのまま茜はペナルティエリアの真横まで到達していた。すでに中には水嶋と佐々木のFW2人がゴール前まで走ってきている。

 

「まずい!10番と9番だ!」

 

そんな2人にいち早く気づいたキーパーの工藤が大声で叫ぶ。その声に慌てて2人のマークに着くDF。だが、一歩足りず茜がクロスを上げた瞬間、佐々木がマークを押しのけ前に出た。

 

「佐々木先輩!お願いします!」

 

「はいよ」

 

ボールはそのまま佐々木のもとへ吸い込まれる。すると…………

 

「まだだ!」

 

佐々木の横へ、必死に戻ってきた桔梗が並んだ。

 

「嘘⁉︎」

 

「桔梗!」

 

桔梗追いついた事に驚く茜の声と間に合った事に歓喜する工藤。桔梗は必死に飛びつきボールをクリアしようとする。が…………

 

「え....」

 

ボールは桔梗の頭の前をスンと通り過ぎた。佐々木に並んでいた桔梗が届かなかったという事は、佐々木にもボールは届かないという事だ。桔梗は慌てて首を佐々木の方へ向けるも、たしかに佐々木にもボールは届いていなかった。

 

「なんちゃって♪」

 

桔梗と佐々木の前をボールが通り過ぎた時、茜は小さくそう呟いた。その呟きは誰の耳にも聞こえる事は無かったが、茜の顔はしてやったりと言った表情で染まる。

 

「なにを…………ッ⁉︎」

 

慌ててボールが通り過ぎた先へ目線を送った工藤。その先に映った光景に驚愕の表情を見せる。

 

茜が放ったクロスの先には、すでに彩瀬が完璧なタイミングで走り抜けてきていた。

 

「来た来た〜!」

 

走り抜けてきた彩瀬を見て、工藤は理解する。先ほど11番()クロスは、最初から逆サイドを走ってきていた6番(彩瀬)に向けて放たれたものだと。

 

だが、時すでに遅し。彩瀬の正面にはDFは誰もおらず、完全にキーパーと一対一となっている。

 

「アハッ!佐々木より先に決めちゃうよ〜」

 

そう言うと、彩瀬はボールを上に蹴り上げ、右手の指で輪っかを作ると、ピーッ!と口笛を吹く。すると、どこからともなく赤、橙、黄、黄緑、水色、青、紫の七色のペンギンが現れ、ボールへ突き刺さり吸収される。七色のペンギンを吸収したボールは、彩瀬の足元へ七色の輝きを放ちながら落ちてくる。

 

「皇帝ペンギン...7(セブン)ッ!!」

 

七色に輝くボールを蹴ると、シュートとともに、先ほどの七色のペンギンたちがボールから放たれ、ボールとともに凄まじい勢いでゴールへ襲いかかる。

 

「今度こそ止めてやる!」

 

自身に迫るシュートを前に、先ほどとは違い万全の体勢で構える工藤。すると、工藤の両拳が焔に包まれる。

 

「喰らえェ!マッハデストロイ!!」

 

焔を纏った拳で、工藤は何度もボールにパンチを叩き込む。怒涛のラッシュ。工藤は後ずさりながらも、必死にパンチを放ち続ける。

 

「オオォォォォ!!───ッ!!クソがッ!!」

 

だが、工藤の必死の頑張りも虚しく、工藤のパンチは彩瀬の放ったシュートの威力に弾かれてしまった。そのまま光ヶ丘のゴールへ七色のシュートが突き刺さる。

 

 

ピーーーーーッ!

 

花咲川 2ー0 光ヶ丘

 

 

試合開始から35分、カウンターから日向姉妹が繋ぎ、最後は彩瀬が確実に決め、花咲川に追加点が入った。

 

「やったな!七美」

 

決めた七美の元へ真っ先に来たのは、彼女の幼馴染である蒼夜だった。蒼夜は七美が自分より先に点を挙げた事に内心悔しさを覚えながらも、流石のプレーに素直にお褒めの言葉をかける。

 

「えへへ〜。ブイッ!」

 

蒼夜に褒められた彩瀬は、右手でVサインを作り、いい笑顔で返した。

 

 

 

『『『ウオォォォォーーーー!!』』』

 

花咲川の追加点に、観客席から怒涛の歓声が響き渡る。一回戦とはいえ、前回王者の試合だ。この会場の客席にはそれなりの量の観客がおり、コートにもかなり大きな歓声が聞こえてくる。

 

 

「………っ」

 

「「「「……………」」」」

 

明らかに相手側に傾く空気に、光ヶ丘のメンバーは圧倒されていく。

 

「だ、大丈夫!まだまだこっからだ!」

 

桔梗が必死に呼びかけるも、その顔には拭いきれていない不安と焦りが見て取れる。それは他のメンバーも同じ。2点を失ったという事実は、彼らの体以上に心に深く突き刺さった。

 

 

 

ピーーーーーッ!

 

 

桔梗たちの不安が完全に拭えないまま試合が再開される。しかし、明らかに動きが鈍い。

 

「もらった」

 

そんな隙を見過ごしてもらえるはずもなく、簡単に奪われてしまった。

 

「まずい!戻れ!」

 

桔梗が声を張り上げるも、光ヶ丘の動きはバラバラ。全員が自分しか見えておらず、連携もまともに機能していない。

 

「なんか急に楽になったな」

 

前線でボールを受け取った佐々木が、そんな言葉を呟いた。先ほどまであった彼らの圧が急に消えたからだ。佐々木はそんなこと御構い無しにどんどん上がっていく。途中、光ヶ丘のディフェンスが立ち塞がるも、軽く交わしてしまう。

 

佐々木を止められない事に、更に焦る光ヶ丘。すでに彼らの視界には、ボールしか映っていない。

 

「落ち着けみんな!そっちじゃない!逆サイドから上がってきてるぞ!」

 

ゴールの前から必死に声を上げ呼びかける工藤。しかし、焦りからその声は届いていない。いや、届いていないというよりも…………

 

『いいぞー!さっすが前回王者!』

 

『10点決めちまえ!』

 

『そんな奴ら捻り潰しちまえ!!』

 

観客のそんな心無い言葉で、工藤の声はかき消されてしまっているのだ。工藤や桔梗の叫び声よりも、選手たちの耳には観客たちのそういった声が届いてしまう。

 

「…………」

 

観客たちの言葉を聞いた咲真は、一瞬だけ顔を伏せた。が、すぐに前を向き直し、佐々木に続いて上がっていく。

 

 

 

「(なんだこれ...足が思うように動かない。息苦しい....口が震える...)」

 

ボールを追いながら、桔梗は心の中で身体が言うことを聞かないのを自覚した。まだ前半、最初から飛ばしたとはいえ必死にしてきた体力づくりのお陰でまだ体力切れには遠いはず。なのに、そんな思いとは裏腹に、どんどん身体が動かしづらくなっていく。

 

「(ダメだ...負ける。やっとここまで来たのに...せっかく...みんなで頑張ったのに...)」

 

桔梗の心が次々に湧き出てくる焦りで沈んでいく。踠けば踠くほど深く、更に深くへと沈んでいく。

 

「(ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい……!!)」

 

 

『初出場で王者を倒すとか、夢見てんじゃねえよ!』

 

『寝言は寝て言えってな!あはははッ!」

 

そんな彼に容赦なく追い討ちをかけるように、桔梗の耳に入ってくる鋭利な言葉と笑い声。その中で特に大きく、胸くそ悪い言葉が聞こえてくるのは、彼らの後方。工藤が守る光ヶ丘ゴールの裏の客席からだ。そこには、柄の悪い連中がうようよと溢れていた。

その時桔梗は実感した。この声、空気、環境、それら全てが自分たちの重りになっているのだと。どれだけ必死に見て見ぬ振りをしても、どれだけ必死に平気と取り繕っても、その重りは少しずつ自分たちに巻きつき、少しずつ重くなって行く。

 

「ハァ…ハァ……────」

 

そしてついに、桔梗の足は動かなくなってしまった。

 

彼の足は...心は...完全に見えない枷によって自由を奪われてしまった。

 

それは桔梗だけではない。他の光ヶ丘のメンバーも次々と足を止めて行く。

 

「っ!お前ら何やってんだ!負けたいのか!」

 

戦意を喪失し始めた仲間たちを見て、四十住が怒りを含んだ声で怒鳴るように叫ぶ。しかし、誰も動こうとはしない。いや、動かないのだ。頭では分かっている。でも、観客の声と絶対に敵わないと自分で認識してしまった事に、身体は言うことを聞いてくれなくなっていた。

 

「………佐々木」

 

「どうしたんですか?キャプテン」

 

そんな彼らを横目で見た咲真は、現在ボールを持っている佐々木に突然話しかけた。

 

「悪いんだが、ボールくれ」

 

突然の申し出に驚く佐々木だったが、咲真の目を見て、一瞬で判断した。

 

「分かりました。どうぞ、お好きなように」

 

佐々木は咲真にパスを出すと、咲真から離れて行く。佐々木はここから先、全部を彼に任せる事にしたのだ。

 

「悪いな。助かる」

 

一言礼を言った咲真は、更に足に力を入れ、力いっぱい地面を蹴る。咲真はそのまま、動きを止めた光ヶ丘の選手たちを尻目にゴールへ一直線に向かって行く。

 

「っ⁉︎おい!お前ら何やってるんだ!止めろ!」

 

「まだ終わってないんだぞ!ここで諦めるのか!」

 

四十住が必死に叫ぶも、彼らの閉じた心には響かない。キーパーの工藤も四十住同様全員の戦意を取り戻すために声を上げるも、焼け石に水。完全に止まってしまった足は、ピクリとも動いてくれない。

 

『ザマァ無いぜ!とっとと帰りやがれ!』

 

『サッカーにコールドが無いからって30-0とかやめてくれよなww』

 

『サンドバッグはサンドバッグらしくやられてろ!』

 

もはや彼らへの罵倒はとどまることを知らない。この罵倒を言っているのは観客席にいる観客の中でも一部だが、後ろから聞こえる鋭利な言葉は、桔梗たちに他のどんな声よりも大きく、そしてハッキリと聞こえてしまっている。

 

そして、その間に咲真がペナルティエリア内へ侵入。すでに闘う気力が消失してしまっているディフェンス陣は、咲真が目の前を通り過ぎるのを目で追うことしか出来ない。

 

「っ⁉︎工藤!7番(咲真)が来てるぞ!ここで決められたら終わりだ!死んでも止めろ!!」

 

ここでキャプテンのシュートを止めるという空前の灯火とも言えるような最後のチャンスに、四十住は喉が潰れんばかりの声で工藤にかろうじて繋がっている糸を切れさせぬよう必死に託す。

 

「オォ!手足がぶっ飛んでも止めてやらァ!!」

 

気合いを入れ直す工藤。その目の前では、咲真が既にシュートの体勢に入っていた。

 

「……!」

 

咲真はボールを踏みつけることで、ボールを上げバックスピンをかける。するとボールが青いエネルギーに包まれ、咲真はそれをオーバーヘッドの要領でシュートする。

 

「ブレイブ..ショット!!」

 

青いエネルギーを纏ったボールは、桁違いの威力でゴールへ向かう。

 

「っ⁉︎」

 

あまりの威力に工藤は一瞬怯むも、両足をしっかりと地面につけ、気合いで耐える。

 

「決めさせてたまるかー!!」

 

工藤は先ほどと同様に、拳に焔を纏わせ、パンチの構えを取る。しかし、突如シュートの起動がずれ、なぜかボールはゴールの頭上を越えていった。

 

「なっ⁉︎どうなってる!」

 

工藤は慌ててボールを目で追う。すると、ボールは凄まじい威力そのままに、ゴール裏の観客席へと真っ直ぐ向かって行っていた。

 

『お、おい…こっちに向かって来てないか……?』

 

『ま、まじだ!ヤベえぞォォ!』

 

『『『ウワァァァーーー!!』』』

 

あまりに突然で、予想だにもしてないかった事に、シュートの先にいる観客たちは、みっともない叫び声を上げる。

 

 

ドオォォォォン!!

 

 

咲真の放ったシュートは観客席の壁に激突し、壁に深くめり込んでしまっていた。スタジアムにとてつもない轟音が響き渡り、スタジアムを僅かに揺らす。

 

「「「………………」」」

 

スタジアム内が、とてつもない静寂に支配され、その場にいる誰もが事を起こした張本人である咲真に視線を送っている。その時…………

 

 

ピッ!ピーーーーッ!

 

 

前半終了を告げる笛の音が、静寂に包まれたスタジアムに盛大に響き渡る。

 

 

 

「悪い、ミスった」

 

 

 

咲真は、チームメイト側の方へ振り返ると右手を上げて、何の悪びれも無くケロッとした態度でたった一言謝った。

 

咲真の一言に、その場にいた全員が口をあんぐりと開け、目を見開いている。

 

「悪い悪い。次は決めるから」

 

しかし当の本人は平然とした態度で、自分のポジションへ戻って行く。だが、彼の勝手さに当てられたメンバーは、誰一人としてその場を動かずにいた。

 

「ん?どうした?」

 

何の反省も悪びれもない咲真の態度に、怒りで真っ先に我を取り戻したのは、チームの規律にして厳格な副キャプテン、日向灯里だった。

 

「『どうした?』……じゃ無いだろ!何やってるんだ貴様ァァ!!」

 

ゴツンという鈍い音を立てて、日向は咲真の頭を思いっきり殴った。

 

「イッテェな!何すんだ!」

 

「それはこっちのセリフだ!観客席に向かってシュートを打つとはどう言った了見だァ!」

 

普段の冷静沈着な日向とは思えないほどに声を荒げ、自身の怒りを咲真にぶつける日向。それを見た周りのメンバーは、うんうんと頷き、日向の反応が正しい事を示している。また、日向の怒った姿を目の前で見た茜は、久しくみる姉のガチギレの姿に、体を震わせ怯えている。

 

「だからミスったんだって!さっき謝っただろ」

 

「お前があんなミスするわけないだろ!それが分からないほど浅い関係では無いぞ!!」

 

「そうかいありがとな!俺だってお前が見抜くくらいわかってよ!」

 

「それはどうもッ!!」

 

今にも掴みかかりそうな勢いで互いに意見を述べる両者。ヒートアップしすぎて、次第に何に怒っているのか論点がずれ始める。

 

「落ち着いて下さい2人とも!このままじゃ何も進みませんよ!一度深呼吸して落ち着いて下さい」

 

そんな2人の間に割って入ったのは、2年生リーダーの蒼夜だった。彼に止められた両者は、言われたようにゆっくりと深呼吸をする。

 

「落ち着きましたか?」

 

「まぁ....さっきよりは」

 

「おお、サンキューな蒼夜」

 

「いえいえ」

 

蒼夜のおかげで落ち着きを取り戻した両者。

 

「はぁ...言いたいことはあるが、まぁ今回はいい。私もムカついていたからな。しかし、もう2度とするなよ」

 

日向は咲真の行動に対して疑問に思った事がいくつもあったが、それも大体は理解出来ていたため、それ以上何も言うことは無かった。

 

 

 

 

 

「なんだったんだ...一体...」

 

未だに状況が理解出来ておらず、目をパチクリさせる光ヶ丘の選手たち。特に桔梗は、咲真の方を見て、呆然と立ち尽くしている。

 

「…………」

 

すると、そんな彼に近づいてく人物がいた。その人物は、桔梗のすぐそばまで来ると、彼の胸ぐらを強く掴み、自分の顔の近くへ彼の彼を引き寄せた。

 

「……おい、さっきのはどういうつもりだったんだ?」

 

「四十住.....」

 

桔梗の胸ぐらを掴んだ人物は、キーパーの工藤以外で、唯一最後まで戦意を喪失しなかった四十住臨だった。

 

「テメェ言ったよな?先へ進むって...勝ちたいって...なのになんだ!さっきのザマは…!」

 

四十住の声は、だんだんと低くなり、その威圧感を増して行く。

 

「相手への歓声に萎縮して、こっちへの罵声に心を折られて?テメェそれでもキャプテンかよッ!」

 

「ちょっ、落ち着きなって〜。顔が怖いよ?四十住...」

 

「そうです。冷静になって下さい...貴方らしくありませんよ....」

 

怒れる彼を止めに入った城戸と氷河。しかし…………

 

「テメェらは黙ってろ!今は俺がこいつと話したんだ。ビビって動けなくなったテメェらにとやかく言われる筋合いはねえ!」

 

四十住の口から出た正論に、城戸と氷河、そして工藤以外のメンバー全員が下を向き、何もいえなくなる。

 

「なぁ桔梗。テメェはキャプテンだろうが、どれだけ自分が苦しくても、キツくても、チームのために最後まで戦うのがキャプテンじゃねえのか!テメェが真っ先に諦めて、逃げて、それで俺たちは何をどうやって信じれば良いんだ!これまでテメェは何のためにここまでやって来たんだッ!!」

 

桔梗の胸ぐらを掴む力が次第に強く強くなって行く。よくみると、小刻みに震えているのがわかる。

 

この時桔梗はようやく理解した。未熟で、不完全で、弱い自分が何に支えられてここまで来たのかを。何のためにここまで来たのかを。

 

「(俺は...何やってたんだ。ここへ来たのは俺たちを見下した奴らを見返すため?違うだろ...俺らの存在を知らしめるため?違うだろッ!)」

 

桔梗は、自身の爪が手のひらに刺さり、今にも血が出そうなくらいの力で拳を握りこむ。

 

「(俺がここまでやって来たのは...)」

 

 

「…………からだ

 

 

「あ?聞こえねえよ」

 

 

()()()と本気で日本一になりたかったからだッ!!」

 

 

今の今まで忘れていた、自分がここに来た理由。自分の声で自分の気持ちを口にした桔梗の目には、先ほどの怯えは微塵もなく、揺るぎない闘志と覚悟が目の奥でメラメラと燃え上がっていた。

 

「わかってんじゃねえかよ...」

 

一言そう呟いた四十住は、掴んでいた手を離した。

 

桔梗は一度深く深呼吸をすると、メンバー全員の顔が見える位置に立った。

 

「……ごめん!」

 

次の瞬間、桔梗は綺麗に90度に体を折り曲げ、全員に対して謝罪をした。突然のキャプテンの謝罪に驚くメンバー。

 

「点を決められた時、本当なら俺が真っ先に声をかけるべきだった。1人でパニクった時も、もっとみんなを頼るべきだった!」

 

桔梗は謝罪とともに自身の後悔を打ち明けた。もっとこうするべきだった。あの時こうしていればよかった。もう後悔しても遅いけれど、次に同じ間違いをしないように、次こそキャプテンとしてみんなの役に立てられるように。

 

「ほんと頼りなくて、小心者で、ダメダメな俺だけど....最後まで戦ってほしい!俺に力を貸してほしい!」

 

それが、彼の気持ち、彼の思いの全てだった。

 

「…………」

 

頭を下げ続ける桔梗。そんな彼に、仲間たちから声がかけられる。

 

「顔あげてよ桔梗〜。気持ちはちゃんと伝わったよ〜。あとごめんね〜、負担かけすぎちゃったね。僕ももっと頑張るから、一緒にやろうよ〜」

 

「はい。キャプテンの思い心に響きました。それと、すみませんでした。私も、あの時完全に諦めてしまいました。だけど、私ももっと皆さんと戦いたいです」

 

「城戸....氷河....」

 

一度諦めた2人だからこそ、再び前を向いた桔梗に、自分たちより先に進む桔梗に引っ張られた。もうその顔に、不安も怯えも微塵も感じない。

 

「それで良い。一連托生、それでこそ俺たちだろ?キャプテン」

 

「四十住...」

 

「そうだぜ!お前が言ったんだ。ここはスタートラインだって。だったらどこまででも一緒に走ってやるよ!」

 

「工藤...」

 

桔梗の目に、キラリと輝くものが一瞬見えた。だが、桔梗はすぐに腕で擦りそれを拭った。

 

「ありがとうみんな...よしッ!後半、絶対逆転するぞーー!!」

 

「「「「おう!!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

ハーフタイムが終了し、それぞれのポジションについた両チーム。互いに向かい合い、後半開始の合図を待つ。

 

そんな中、日向は目の前に立つ光ヶ丘メンバーの顔を見て、咲真にこう話しかけた。

 

「お前のせいで、随分厄介な事になったではないか....」

 

日向の目には、揺るぎない闘志と覚悟をその瞳に宿した、光ヶ丘メンバー全員の姿がそこにはあった。

 

「ああ、これは楽しくなりそうだ」

 

「よく言う、相手のレベルを底上げしたのはお前だろう」

 

「そんなこと言って、お前も嬉しそうな顔してるじゃねえか」

 

咲真の言う通り、日向の表情には、僅かながらに笑みが浮かんでいた。

 

「この3年で、お前が移ったのかもな」

 

「人を病原菌みたいに言いやがって...クハハッ」

 

「フハハッ」

 

他愛もない会話に、2人は同時に笑みをこぼした。そして笑い終わると、同時に前を向く。

 

「やるぞ、日向」

 

「ああ、勝つぞ奥沢」

 

 

そして遂に、それぞれの熱い思いを秘めた後半戦がスタートする。




いやー、言葉を選ばない観客って嫌ですね〜。自分で書いてて少しイラっとしました。


突然話は変わりますが、ガルパで星4の数が少しずつ、でも着実に増えていく中、推しの美咲が全く当たりません.....呪い?
だから思うんですよね、キャラの誕生日にそのキャラだけが当たるガチャとか実装されませんかね...

いきなり話を変えた挙句、関係ない話で申し訳無いです。読んでいただきありがとうございます!
評価、感想、お待ちしております。
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