「……ッチ、もう嗅ぎ付けやがったか」
逃げる途中、唐突にイクマンは舌打ちした。
そこは魔動輪の中。簡単に言うとタクシーのようなもので、列車を逃した二人はそこに乗ってギルドへ向かっていた。
イクマンの隣にいるカナは寝ている。アクシデントが重なって疲れたのか、イクマンの肩に頭を預けて熟睡中である。故にこの異変に気づくこともなかった。
「(……数は大体100ほどか。いや、人間でない音も混じってるから断言は出来んか?)」
そう、イクマン達のいる車に闇ギルドの魔導士が接近したのだ。
おそらく先ほどのお礼参りであろう。報復は考えていたがまさかこんなに早く来ると思ってなかったイクマンは若干焦っていた。
「……仕方ないか」
このまま放置するのは危険と判断し、カナを残して車を降りる。もちろんちゃんと二人分の現金を支払ってからだ。
「運転手さん、もし彼女が目覚めたら俺は用事があるので少し残る。後でちゃんと帰るから心配するなって伝えておいてください」
「い、いいんですか? 何かヤバい事情なんですよね?」
「大丈夫です。すぐ終わらせますんで。それよりも先行っててください。追いつかれると厄介なんで」
「わ、分かりました」
運転手は若干ビクビクしながら車を発進させた。おそらく誰かが付けていることに気づいたのであろう。、一刻も早くその場から離れたいと言わんばかりにスピードを出した。
車が一般人の目では見えないほどの距離まで離れたのを確認する。それと同時にイクマンは目先にある森に向かって叫んだ。
「お前たちの目標は俺だろ! ならここにいるからかかってこい!」
「……やはり気づいていたか」
木の陰から人影が次々と現れた。
「我らの気配を感知するとは。新人にしてはなかなかやりますね」
「そりゃどうも。ついでにこのまま帰ってくれたらありがたいんだけど」
「それは出来ない相談だ。分かってて聞いているだろ」
「まあ…なっ!」
振り向いて毒の弾丸を後ろに放つ。紫の弾は草むらに潜んでいた魔導士に命中。弾丸は毒の煙へと変化しながら何百倍にも膨れ上がり、何十人もの魔導士を包み込んだ。
毒の煙が晴れる。包まれていた者は全員息絶えていた。
「何勝手に通ろうとしている。お前らは俺が狙いなんだろ?」
「……なるほど、これは手強そうだな」
男は真剣な顔つきになり、何かしらの魔法を発動させる。それと同時に森がざわめきだした。
潜伏している魔導士が魔法攻撃を開始したのだ。炎や電気、爆弾や岩などの直接的な攻撃はもちろん、中には紙などの攻撃に適してるのか疑問に思えるような攻撃も飛んできた。
イクマンは慌てない。攻撃が当たる前に上空へと飛び上がって回避。同時に魔法陣を展開して攻撃に移行した。
「」
イクマンの展開した魔法陣から吐息が複数噴き出した。それらは敵の攻撃を飲み込み、潰しながら魔導士たちに襲い掛かった。
毒の息が何十人もの魔導士に掛かる。息が晴れると、そこにあったのは原型まで溶けた布きれだけだった。
そのあまりの威力に魔導士たちは驚愕。一瞬ではあるが硬直してしまった。……それが致命傷になると知らずに。
「
次に霧状の毒が噴出した。
毒の霧は森を包み込み、地面を舐め回すかのように拡がっていく。その規模は森全土を包み込むほど。中にいるものたちは例外なく毒を浴びることになった。
草木も虫も動物も死ぬことはなかった。突然のことに驚いて逃げることはあっても、身体に異常をきたすことはなかった。
だが人間は別だった。森に潜んでいた魔導士たちは例外倒れ、痙攣し、泡を吹いて倒れた。
「何をしている!?さっさといけ!!」
男の号令に従って突撃する。何十人ものの魔導士たちが守りに入りながら。
それぞれが防御用の魔法を発動して一箇所に固まり、中心にいる魔導士たちが結界魔法を幾重も重ねて発動させる。
完全防備だ。亀のように守りに入って彼らは突撃した。
攻撃としてはアレだが防御面では全力だった。
「
今度は収束された毒の激流が放たれた。
毒の水流はホースで虫の大群を蹴散らすかのように魔導士を押し流した。結界を貫き、防御を崩し、フォーメーションを潰し。魔導士の集団を例外なく飲み込んだ。
地面に落ちた飛沫がジュウジュウと音を立てて石を溶かす。飛び散った水滴が草木を枯らす。直撃した魔導士の命を一人残らず回収した。
「
途端、風が吹いた。それはイクマンから全方向に吹き、イクマンを死角から狙っていた敵を一人残らず包み込んだ。
「なっ!?」
「俺の隙をコソコソ伺ってたろ。気づいてんだよ」
風を浴びたものが倒れだした。咳をする者、体の痛みを訴える者、苦しそうなうめき声をあげる者。反応はそれぞれ違うが、風をわずかに浴びた者でも皆例外なく毒はその身体を蝕み、彼らを無力化させた。
それだけではない。撒かれた毒はその場から離れた者にまで遅いかかった。まるで意思があるかのように、或いは誰かに操られているかのように。
「さて、これで残りはお前だけだ。それで、お前はどんな芸を見せてくれるんだ?」
「……クソ!!」
男は唇を噛みしめた。
なんだコイツは。情報ではまだギルドに入ったばかりの新米、魔導士のガキというではないか。なのになんだこの強さは聞いてないぞ。
こっちは百人以上いたんだぞ。なのに一人で、数分も経たずに、たった魔法を4回使われた程度で全滅だ。悪い夢なら覚めてほしい。
「クソが!! どいつもこいつも役立たずばっかだ! だったら俺がやってやる!」
男は飛び上がってポケットから一枚の紙を取り出す。それを開くと魔法陣が展開された。
「ハハハハっ! いざという時のために切り札をとっておいたんだよ! 本来ならばテメエみてぇな新米にゃ使わねえ魔法だ! ありがたく思いな!」
その魔法はアビスブレイク。大破壊魔法と呼ばれる大規模破壊魔法であり、聖十クラスの魔導士でも入念な準備を必要とする魔法である。
本来ならば彼レベルの魔導士が一人で即興に出来るものではない。しかし彼の得意魔法がそれを可能にした。
彼の得意魔法はストック。あらゆるものを紙に封印して持ち運ぶことが出来る魔法である。それによって予め準備したアビスブレイクの魔法陣を封印していたのだ。
後は自分の魔力を注ぐだけ。それだけで魔法のスイッチが入る。
「
「
男の発した魔法と同時にイクマンも魔法を放つ。
バカめ、こっちはベテランの魔導士が数百単位で準備した魔法なんだよ。たった一人の一人の魔力で、たった数秒しか貯めてない魔法陣で、たった数年の経験もない分際で。この魔法が敗れるはずがないだろうが!!!
魔力の束がぶつかり合う。赤と紫の魔力砲。それらは一瞬だけ拮抗した後に障害を貫いた。
「ば…バカな!!?」
男は頭が真っ白になった。ありえない、こんなことあるはずがない。悪い夢なら覚めてくれ。
何故だ、何故俺たちの最大魔法がこんなあっさりと破られる。こんなガキにやられていいはずがない。
彼は必至で否定する。目の前の現実を受け入られなかった。
「ぎゃあああああああああああああああああああ!!!」
どれだけ否定しようとも現実は変わらない。毒の咆哮は男を飲み込み、毒と酸と病で肉体と精神を蹂躙した。
「く……クソ……」
毒の
「さて、さっさと帰るか」
何百人も殺したというのに何事もなかったかのように呟くイクマン。
イクマン暗殺部隊が絶滅するのに経過した時間はたったの5分。某巨人が戦うには少し長いが、個人が殺戮するにはあまりにも短い時間であった。
滅竜魔導士を全員女体化したいんですけどいいですかね~?
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yes
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no
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一部のみOK