火の海が、町を赤に染め上げていた。
その中で奏でられるのは、怒号と、恐怖と、絶望と。
まさしく地獄絵図。あらゆる不幸を
肺を焼くような熱気と肉を焼く臭いに、少年―――グレイは目を醒ました。
「ウソ……だろ? なんで、こんなことに……」
絞り出した声さえ燃え盛る炎の轟音にかき消された。
目の目にあるのは建物を燃やす業火。鼻腔に充満するのは骸が燃やさる悪臭。肌に張り付くのは皮膚を焼かんとする灼熱。
そこには生者の気配など存在しなかった。
熱い、痛い、苦しい。
現在進行形で焼かれる肌。深度を増す火傷に、彼の心は折れた。
「やっぱり……無理なのか……?」
空を見上げる。そこにあるのは地獄の創造主である悪魔。
建物ほどの巨体。しかしその程度のサイズには収まらない。むしろ小さすぎるくらいだ。
悪魔の名前はデリオラ。イスバン地方を徹底的に破壊し、グレイの両親を始め、多くの人々の命を奪い去ったである。
この悪魔がいると聞いてグレイは闘いを挑んだ。父と母を奪った憎い悪魔。今度こそお前を殺して両親の無念を晴らす。そう意気込んでいた。
だが結果は見ての通り。戦いにすらならなかった。まるで虫けらを潰すかのように―――いや、デリオラにとっては虫けら以下なのだろう。現に奴はグレイを認識すらしていなかった。
こうなるのは最初から分かっていた。分かっていたんだ。
彼の師匠であるウルさえもデリオラには勝てなかった。師匠の力を十とすれば、自身の力は一にも満たない。そんなウルですら手も足も出ないのだからこうなるのは必然である。
ああ分かっていた。けど抑えられなかった。頭では分かっていても感情はまた別。デリオラがいると聞いて衝動を抑えられなかった。
そして、その代償は高くついた。
「ごめん…なさい……!」
自分のわがままのせいでウルは……師匠は足を失うことになったのだから。
「……謝ることはない、グレイ。誰だって家族を失えば絶望するし悲しみに沈む。私でも一時は死を望んだんだ。ましてや、相手がいると分かれば復讐するのも当然だ」
自身の血に濡れた手でグレイを慰めるウル。
「お前の辛い過去を先生が閉じ込めてやろう」
両手を前に突き出して魔力を編む。途端、ウルを中心に冷気が噴き出した。
冷気は周囲の火を消火。灼熱地獄の一部を極寒の地へと浸食する。
禁忌忌の術、永遠氷牢。自らの命を賭けて対象を永遠の氷結によって封じ込める最強の魔法。ウルは己の全てと引き換えにそれを放とうとした。
しかし、それもまた無駄になった。
「今度こそ死ねデリオラアアアアアアアァァァァァァァァァァぁぁぁぁぁ!!!」
「■■■■■■■■■■■■■■!!」
突如、上空から毒の嵐が吹き荒れた。
「……見つけたぞ」
怨念を絞りだすかのような声が漏れた。
「見つけた見つけた見つけた見つけたミつけたミつけたミツけたミツけたミツけたミツケタミツケタミツケタミツケタミツケタミツケタ!」
呪詛のように見つけたと吐き出す。
「見付けたぞデリオラアアアアアアアァァァァァァァァァァぁぁぁぁぁ!!!」
今度こそ処分してやるぞ巨大ごみが!
「クソが!また間に合わなかった!!」
焼かれる町を見つけて俺は悪態をついた。
最悪だ、また間に合わなかった。また奴の勝手を許してしまった。奴がまた歩き出しただけでも虫唾が走る!
しかも、今回は運も悪かった。
「最悪だ、まさか寄りにもよって龍脈から外れた場所に現れるなんてよ!」
そう、ここは龍脈から大分外れており、その恩恵を受けられないのだ。
龍脈操作は無条件に使えるわけではない。龍脈がある場所と無い場所があるし、龍脈にも良し悪しがある。
よくも悪くも龍脈に左右される。それが龍脈操作の欠点だ。
だが、何も出来ないわけではない。
俺の体内には毒竜のラクリマが埋め込まれている。これを使えばアイツを倒せる……かもしれない。
癪だがあの巨大ごみは強い。魔力面も身体面も俺を大分上回る。地力が違いすぎるのだ。
故に、俺はズルをするしかない。弱者が強者に逆襲するには策略や小細工が必要だ。
「……ドラゴンフォース」
周囲のエーテルナノを吸収して魔術回路に流す。腹に埋め込まれているラクリマも活性化し、二つの力が相乗し合い、莫大な魔力を生み出した。
身体面も変化した。俺の体のあちこちに紫色の鱗が形成される。
これが俺の奥の手の一つ、ドラゴンフォースだ。
「
周囲のエーテルナノを取り込んだ一撃。前回のものと比べると劣るが、それでも毒竜の咆哮よりも高い性能を誇る。
「■■■■■■■■■■■■■■!!?」
着弾点を右腕で抑えるべリオラ。俺の存在に気付いた巨大ごみは口から炎を吐く。
「
収束された毒の咆哮が灼熱の炎とぶつかり合う。
瘴気と熱気が、酸と炎が、病魔と災厄が。違う属性同士が互いを滅ぼさんと飲み込みあう。
勝利したのは毒の咆哮。毒の流水は炎の波を貫いてデリオラの肩へと直撃した。
しかし俺も無傷では済まなかった。散った炎が氾濫し、町中を飲み込んだ。無論、それは俺も入っている。
「硫酸の城壁!」
酸の盾を作って攻撃を防ぐ。今度は守る対象が俺だけなので大きさを最低限に。
硫酸と炎がぶつかり合う。しばらくの拮抗を保つも俺の盾が先に限界を迎えた。
それを事前に察知していた俺はその場を抜け出してやりすごす。俺の背後に爆発音と酸が蒸発する匂いが広がる。
それからも俺は攻撃を続ける。毒龍の咆哮を浴びせ、毒ガスをばら撒き、劇薬を垂れ流す。そうやって奴の体力を奪おうとした。
しかし、そんなチャンスも束の間。再びデリオラは攻撃を開始した。
しかもその規模はさっきの比ではない。どうやら俺は奴を本気にさせてしまったらしい。こりゃさっきのでは無理だわ。
「
全身に毒のオーラを纏っ炎から身を守る。今の俺には町を守るために魔力を割く余裕はない。第一、この有様ならもう生存者は……!?
「なッ!?こんな状況で生存者!?」
炎の中耳を澄ませると人の呼吸音が聞こえた。
呼吸音は二人。テンポからして一人は少年、もう一人は成人した女性だ。
クソが! こうしちゃいられねえ! 早く助けねと……。
「アイスメイク・シールド!」
突如、炎の中から氷の花が咲いた。
あれは確か氷の造形魔法。魔力を氷に変換させることで武器や動物などを再現する魔法だ。戦闘だけでなく芸術作品としても人気のある魔法だったはず。
しかしあれほどの魔法を瞬時に発動するとは。一体何者だ?
いや、今はそんなことなどどうでもいい。早く助けねえと!
「生存者がいるのか!? ケガの状態は……!!?」
術者の有様を見て俺は言葉をなくした。
足が取れている。幸い意意識はあるしそれ以外に目立った外傷はない。だがこれはあまりにも……!
「き、気にするな。それよりも早くデリオラを……!」
「助けてくれ! 俺の命もあげるから!だから……俺の師匠を助けて!」
ボロボロでありながら笑顔で話しかけるグラマーな女性と泣きじゃくる少年。
「待ってろ、すぐに傷を治す!」
「な……治るのか!?」
すぐさま薬を精製して足に塗る。これで止血はお灸処置できるが治るかどうかは……。
そんなことをしているとき、デリオラが俺たちに拳を振り下ろした。
「邪魔すんな!
毒竜の爪を象った腕で切り裂く。今は毒龍付属強化で更に属性攻撃が強化されている。これで押し負ける道理はない!
結果は俺が辛勝。一瞬の拮抗を生み出したが打点を反らし、相手の勢いを利用して小指を切り落とした。
こっちの必殺技があいつにとての通常攻撃と同じ威力。……なんつークソゲーだよこりゃ!?
若干フラつきながら着地する。あ~あ、こりゃ腕折れたな。
鎮痛剤を分泌して痛みを黙らせ、次の攻撃に移行した。
「
多量の毒の弾丸を吐き出す。
一つ一つが高い致死率を誇る劇薬の嵐。たとえ魔導士でも一撃で抵抗できず死に至る代物だ。
だが、それを食らっても尚立ち上がる。デリオラは肌が酸で焼け、傷口を菌に侵され、毒素に肺を蝕まれようとも進撃を続けた。
クソが! あいつは中も化け物クラスなのか!?
そう思ってた瞬間、突如氷がデリオラの足を止めた。
「!? 今だ!!」
それを見た俺は疑問を抱く前にチャンスと捉える。
「……
大気中の力をかき集め、魔法陣に集中させる。
力を収束させて圧縮。同時に離れた龍脈から魔力を補給。ラクリマもフル稼働させながら実行した。
「
十数秒後のチャージを完了した後、俺は毒の砲弾を発射した。
弾丸はデリオラの胸部を貫通。余さず身体へと入り込み、毒素で蹂躙した。
だが、その前に気になることがある。さっきの氷、いったい誰が……。
「そこの少年! 先ほど何度も命を救ってくれた礼だ。……私も助太刀しよう!」
デリオラの足を、誰かの魔法が氷で覆った。
魔法の発生源から術者を探る。それは片足の美人だった。
「(この氷……そうか、この美人がやってったのか!?)」
どうやらアレはデリオラとの戦闘でなった傷らしい。……あんな傷になってまで!!
「君のおかげで大分動くようになった。どうだ、私と協力してデリオラを倒さないか?」
「どけ、お前なんかいらねえよ」
俺は彼女の誘いを一蹴した。
「足のないお前がどうやって戦うんだ? 足手まといなんだよ」
「だが、君もその強化魔法は長く使えないんじゃないのか?」
「……」
そういわれて反論に困る。
龍脈操作やドラゴンフォースは長時間の戦闘に向かない。
本来自分の魔力よりも強大なものを取り入れ、それと同調、或いは逆に染め上げようとする術なのである。
その反動は大きい。自身よりも強大なものを飲み込もうとした蛇が腹を突き破られるかのように、術者は大きな力に手を出した報いを受けることになる。
「第一、君の魔法は対生物用。殺傷能力は高いが純粋な破壊には向いていない。それではデリオラには不利ではないのかね?」
「……なかなか嫌なこというじゃねえか」
舌打ちしながら答える。
ああそうだ。毒竜だろうが毒龍になろうが。俺の力は破壊には向いていない。
単純に攻撃力の問題だ。今まで魔力のごり押しでごまかしてきたのだが、毒竜は他の竜と比べて火力が少ない。……いや、他の竜よりも弱いと言っていい。
唯一優れているのは他生物を殺す能力。毒や病で相手を苦しめ殺すという点だ。
それは裏を返せば直接的な攻撃力は低いということ。ただの生物を殺すだけなら毒竜の力は大きいが、デリオラのような化け物にはその効果は半減する。
ああ認めよう。たしかにこの調子では勝てない。中途半端に龍化しただけでは到底敵いそうにない。
「……ちょっとこっち来い」
「?」
毒龍付属強化を解いて女を呼び寄せる。確か名前はウルだっけか? さっき戦いの際中にそう呼ばれてた気がする。
彼女は片足でこちらに近づく。そして俺は……。
「!!?」
俺は彼女の唇に自身の唇を合わせた。
舌で中をこじ開け蹂躙する。相手の舌に自分のを絡め、唾液を交換し、俺の魔力を流し込んだ。
数秒ほどの行為。それを終えて口から離すと、銀色の糸が俺とウルの間に零れた。
「な……何をする!? こ、こここ! こんな時に!?」
「黙れ。今からチューニングする。俺の毒で倒れちゃ困るからな」
俺の戦場では常に毒が蔓延している。ただでさえ拡散性が高く、すぐ蒸発したり霧散するのだ。故に、俺と一緒に戦う者もそれを浴びることになる。
俺の毒で倒れては連携にならない。故に、俺の魔力と同調させて毒に蝕まられないようにする必要がある。
ついでに解毒剤も注射したこれで大丈夫だろう。
「じゃあ行くぞ! 俺がお前の足になる!」
「あ…ああ!」
顔を赤くしてアセアセと動くも、冷静さを取り戻して俺の背中に乗るウル。
うおッ!? こ、これはなかなか……。いや、かなりデカい! めっちゃ柔らかくて背中でムニムニ形変えている! ……て、天国だ!
太腿も柔らかい! お肌スベスベでむっちり! お胸もお尻も凄まじい! もし場が場でなかったら確実に昇天していたでろう。
だが、そんな邪念も再び巨大ごみを目にすることで吹っ飛んだ。
俺が今なすべきことはあの化け物を殺すこと。乳繰り合ってる暇などないのだ。
故に殺す。あの化け物を物言わぬ肉の塊に変える。肉片に加工して大地にばら撒く。粉々にして田畑の肥やしに変える!
だが、その前に確認を取る必要がある。
「……奴を倒す策がある。だが、チームワークが必要な難しい作戦だ。しかも少しのミスで全てが水の泡になる。……それでも俺にかけるか?」
「無論だ。さっきの戦闘を見て確信した。君はやる男だ!」
さっきまでの初々しい態度はどこに行ったのか、凛々しく返すウル。
よし、それを聞けただけで安心だ。
「じゃあ行くぞ!」
「ええ!」
龍の翼を広げて敵に向かって飛ぶ。さあ、ゴミ掃除だ!
滅竜魔導士を全員女体化したいんですけどいいですかね~?
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yes
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no
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一部のみOK