そのための三大栄養素 あとそのための体? 糖質!脂質!タンパク質! 糖質!脂質!タンパク質!って感じで

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肉食レイプ!ヴィーガンと化した先輩!

――イキスギィ!!! イクゥイクイク……ア……ハ……ンアーッ!!

「うっ……ふう」

 それは、田所の日課である、深夜のホモビ鑑賞が終わった時のことだった。

「3章がちょっと味気なかったな」

 自室のパソコン前で、下していたズボンを上げた田所は、ほんの少しの空腹感を覚える。

 キッチンになにか、さくっと食べれるものでもなかったか。

 田所は自室を出て、一階に下りリビングに入ると、つけっぱなしのテレビが見えた。

「消してないじゃん。ちょっとたのむよ~」

 リモコンを手に取り、電源を消そうとしたそのとき、ふとテレビに映ってある文面を呟いた。

「ヴィ……ガンの、生き方?」

 特に気を引くものでもなかった。ただ、なんとなく、夜であったが眠気もなかったので、暇つぶし程度に見ていただけだった。

 だいたい、1時間程度の番組だった。

 最後に、画面の下部で流れていくスタッフロールを眺めていたときには、その頭の中で番組の内容を何度も反復していた。

 そして、田所は目覚めた。

 

 

 立教大学、1年である木村が空手部と書かれた部室のドアを開くと、畳部屋の奥、窓の外に向かい、両手を開いて立つ田所の背中姿が見えた。

「こんにちわ。どうしたんですか、田所先輩」

 木村は、田所の後ろで、パンツ一丁のまま胡坐をかいて座っていた三浦に聞いた。

「なんか田所はヴィーガンになったらしいぞ」

「ヴィーガン。ああ、ベジタリアンのことですか」

「ちょっと間違ってんよ~」

 田所は振り返ると、木村を見下ろすような目をしながらそういった。「ベジタリアンはただ肉を食わないだけ。我々は、牛乳もはちみつも食べない。いかなる動物からも搾取しないって、はっきりわかんだね」

 どうしてか、田所が身振り手振りで話している際のこまかなしぐさに、木村はイラっとした。

 いつも、喋っていてむかつく先輩ではあるが、今日は特別、癪に障る

「そうですか。勉強不足ですいません」

 面倒は避けたいので、とりあえず謝っておく。

「ヴィーガンになったら、なんかいいことがあるのか?」

 と三浦。

「当たり前じゃないっすか」

 田所は自信満々に答える。「まず健康になります。無駄な物をとらず体に必要な物だけを摂取するので、当然です。それと、イライラしなくなります。牛や豚が殺されるとき、アドレナリンが出て肉に染みて、それを食すから人は興奮してしまうんです。それによって心が清らかになり幸福感も上がるんで、幸せになります。それから、体から不要なものがすべて抜け落ちるから、電波を受け取れます。宇宙のはるか遠くから流れてくる、強大な意思を感じ取れるんです。そしてなにより、動物たちに優しいんです。人は他の生物を殺して、その肉を食そうとします。そんなのっておかしいですよね。もし、自分より大きな生き物に『お前はおいしい。だから殺す』っていわれて、急に殺されたらどうしますか」

「それは――」

「嫌ですよねぇ!」

 三浦が完全に返答する前に、田所はいった。「そうですよ、他の生物を搾取している人間がおかしいんですよ。本来、人はこうやって生きるべきなんです。分かりましたか」

 イカれた宗教信者のように、唾を吐きながら早口でいいまくるさまを見て、木村は少し――いや、かなり引いていた。

 田所は流されやすい人間だ。きっと、どこかで本を読んだか、深夜にやってる胡散臭い番組でも見たのだろう。

 あの説明でヴィーガンになろうなんて、ちっとも思わないが、

「なるほど、確かに田所のいう通りだゾ」

 三浦は、深く納得した様子でうなずいた。

 この人は池沼なので、まあこうなる。

「分かってくれましたか。じゃけん三浦さんも、明日からヴィーガンになりましょうね」

「お、そうだな」

「そうですか。じゃあ、さっさと部活動を始めましょうか」

 木村がそういうと、

「おっまてい」

 江戸っ子のような口調で、三浦はいった。「木村もヴィーガンになれよ」

「え、僕もやるんですか」

 そう答えるも、やっぱりか、と頭の中で舌打ちする。

 この手の話で、自分がまきこまれなかったためしがない。

 面倒になるな、と思っていたが、

「まあまあ、三浦さん、よしましょうよ」

 とまるで自分が神にでもなったかのように、余裕のある振る舞いで、田所が三浦の肩に手を置いた。「強制することはないです。俺たちだけでも、正しいことをすればいいんですから」

「おっそうだな」

 巻き込まれる心配はなさそうだと、木村はほっと一息つくも、やはり田所の振る舞いに苛立つ。

 自分のやっていることが崇高なもので、それを行っている自分も、他の人間よりえらいとでも思い込んでいんだろう。それが強烈な上から目線につながっている。

 思い上がりもいいところだ。その程度のことで他人を見下している時点で、人として劣っている。

 まあいいや、巻き込まれないんなら。それに、田所先輩のことだ。すぐに飽きるだろう。

 そう思いながら、木村は自分の柔道着に着替えていった。

 

 

「ヴィーガングッドモーニング」

 田所が突然にヴィーガンを始めた翌日、立教大学の教室で出会うと、朝から気分が悪くなるようなド癖のある挨拶を木村にかましてきた。

「おはようございます。なんですか、その挨拶」

「ヴィーガンの間で流行ってるんだよ。他の生物を尊重する人間だけがしていい挨拶なんだよなぁ」

「そうですか」

 適当にそう返して、木村は机に座る。

「お前さ木村さ、朝食はなに食ったの」

 ボケステハゲヴィーガニストは、そんな質問をしながら、断りもなく隣に座ってくる。

 ウンコ野郎が。面倒くさい。そう頭の中で悪態をつきながら「パンです」と答える。

「パンだけか?」

「いえ、チーズをのせて焼きました」

「チーズ!!??」

 予想通り、田所はわざとらしく、手を口や頭にわちゃわちゃ動かしながら驚く。「え!? え!? チーズ!!???!? 乳が使われてるチーズなんか食べてるの!!!?!?!!??!?! 冗談だろ?」

 よし、こいつ殺そう。

 カバンに入っていた筆箱から、ペンを握り閉めると、

「あ、三浦さん!」

 田所がやってくる三浦に手を振った。

 それを見て、木村はペンを置く。

 クソ、タイミングを逃した。

「三浦さん、ヴィーガングッドモーニング」

「なんだそれ」

 当然、三浦は首をかしげる。

「ヴィーガンだけが使える、神聖な挨拶ですよ」

「はえー、なんかカッコよくていいゾ~それ。ヴィーガングッドモーニング」

「いいっすねぇ。じゃあ三浦さんもヴィーガンラインに入りませんか? 入りましょうよ」

「お、そうだな」

 どうやら、ヴィーガンだけを集めたラインをやっているらしい。

「おい木村ぁ!」

 三浦が隣に座り、携帯の画面をこれ見よがしに見せてくる。「ほら、ヴィーガンライン、見ろよ見ろよ。うらやましいダルルォ!?」

「いえ、別に」

「意地はらなくていいって」

 田所が、木村の方に手を回す。「早く、人間として正しい食生活に戻ろう」

「木村ぁ~」

「なあ、木村~」

 二人からの不快な声を聞きながらも、木村はじっと耐えた。

 三日坊主の田所のことだ。もうそろそろ辞めるはずだ。欲望の権化である田所に、肉を食わないなんて不可能だ。

 そう自分に言い聞かせ、木村は目を閉じた。

 事実、木村の予想通り、翌日から田所は変わり始めた。

 さらに悪い方向へと。

 

 

「foo~気持ちぃ~」

 田所は陽気な声と共に目覚めた。

 早朝、5時半。健康的な肉体からなる、健康的な起床時間。

「寝起きからすがすがしい。それもこれもヴィーガンのおかげだって、ハッキリわかんだね」

 顔を洗い、屋上で朝日を眺めながら、ヴィーガンラジオ体操で体を清めよう。そう思い、脱衣所に入ったそのとき、

「……え?」

 鏡に映った顔を見て、田所は息をのんだ。「なんで……お肌、カサカサになってる」

 肌から潤いが消えていた。指で触ると、固い感触が指から感じる。頭もかさついており、小さなニキビもいくつか見えた。

 肌、顔、髪。女の子にとって、どれも重要なものである。田所も、しっかりとケアしていたつもりだった。

 だが、目の前にあるその顔からは、明らかな劣化が見てとれた。

「な……なんで。ちゃんと、体にも倫理にも正しい料理を食べているのに」

 洗面台に手をついた田所は、頭を垂れると何度も視線を左右に振った。

「もしかして、食べたのか……体に不純なもの」

 そうつぶやくと、脳裏に母親の顔がよぎる。

 田所の食べるものはすべて母親に任せているが、他の家族はヴィーガン食ではない、普通の料理を食べていた。

「他の料理の食材を、食べてしまったのか。ダトすれば、母さんがいれたのか、俺の料理に」

 偶然なのか、それとも故意なのか。そんなことはどうでもよかった。

「あの……あのババア」

 内からふつふつと、怒りが湧きたってくると、田所は足を踏み鳴らして脱衣所を出た。

 

 

「ぐ、ぐう……」

 空手部の部活動中。校舎の周りをランニングをしていたら、突然、田所が膝をついた。

「あ、大丈夫ですか。先輩」

「どうしたぁ~田所ぉ」

 それに気づいた木村と三浦が、ほぼ同時に足を止める。

「いや……ちょっと……なんか急に疲れて」

 肩で息をしながら、田所は苦しそうに答えた。

「当然ですよ」

 と木村。「ヴィーガン食では脂質は取りにくい。脂質は持続性のある運動に必要不可欠なエネルギーです、接種せずに走ればそうなりますよ」

「は?」

 田所は威圧感をもって、木村をにらみつける。「ヴィーガン食は筋肉の運動量を上げてくれるんだよなぁ。適当いうのはやめてくれよな~頼むよ~」

「そっちこそ、半端な知識で語るのはやめてください。計画性のない菜食で、体がしっかりと動くわけないでしょう」

「生き物殺して生きてるやつに、なにいわれても説得力ないんだよなぁ」

「それとこれとは話が――」

「うるせぇ!」

 怒りを含んだその声で、田所は木村の言葉を遮る。「昨日ちょっと寝てなかっただけだ。別に食事が悪いわけじゃない。俺はいくぞ!」

「あ、ちょっと」

 木村が呼ぶも、それを無視して田所は走って言った。

「ああ、いっちゃいましたよ。このままじゃ本当にいつか死にますよ」

「お、そうだな」

 まるで他人事化のように、三浦はそういった。

「そういう三浦さんも、ヴィーガン食でしょ。大丈夫なんですか」

「昨日の晩ご飯が唐揚げだったから、もうやめたぞ」

「……そうですか」

 昨日あれだけヴィーガンヴィーガンいってたくせに、すぐに辞めるのか。

「でも今後も月に何回か、ヴィーガンをしようと思うゾ。たまにやると、体調がよくなった気がしていいゾ~これ」

「うーん、なんか中途半端なように思えますけど、それが心にも体にも一番いいのかもしれませんね」

「それにしても田所はかなりのめり込んでるみたいで、心配だゾ」

「そうですね」

 そう答えつつも、最悪死んでもいいんだけどな、と思いながら、遠くに見える田所の背中を眺めた。

 

 

「おい! これバターの臭いするんだけど、なんでだよババア!!」

 晩飯時のテーブル。ほうれん草やキノコ類が炒められた料理を持ち、田所は叫んだ。

「え、バターは大丈夫じゃ――」

 母親がなにかいおうとすると、

「バターは乳製品だろうが!」

 田所は皿を床にたたきつけ、皿は砕け散り、料理が床に散乱する。

「キャ……ご、ごめんなさい」

「おい、浩二」

 テーブルで座っていた父親は、困惑した様子で言った。「ちょっとやりすぎだろ。それに、俺たちまでヴィーガン食にしなくたって。お前だけがすればいいじゃないか」

「は? 俺の食べる料理と、お前らの食べる料理。それぞれ同じキッチンで作ったせいで、俺の口に不純物が入って、お肌が荒れたんだろうが。そもそも、他の生物を搾取するというのがだな――」

そこから、田所は生き物の大切さを2時間も語り続けた。

 

 

 翌朝、最悪の目覚めだった。

 眠気がひどく、体が重い。

 食欲がなく、田所は朝食は取らずに家を出た。

 駅に向かう途中、ファックドナルドの店が見えた。

 ガラスに面するように作られた席に座る、小太りの男。

 男が大きく口を開け、美味そうにチーズバーガを頬張る。

 むしゃ、っという音が聞えたようなきがすると、肉のうまみ、チーズのコク、ソースの塩味、ブレッドのほのかな甘みが混じった極上の味が、田所の口の中に広がる

 男は何度か顎を動かすと、満足そうな顔でコーラを飲む。

 いつの間にか田所は足を止め、食い入るようにそれを見ていた。

 唾液が口の中にたまり、飲み込むと、異様にハンバーガーの食べたい衝動に駆られる。

 ダメだ! あんな動物の命をないがしろにした、下劣な食べ物なんて。

 そう思いながら、自分の腹を右手で強く掴んだ。だが、

「く……食いてぇ」

 無意識にその場でつぶやいていた。「肉……肉が」

 いや、やはりだめだ! あんな人間に成り下がるなんて。

 すぐに心に沸いた邪悪な心を振り払う。すると、田所は男を睨みつけていた。

 そもそもだ。俺はなにも悪くない。なんなら、誰よりも正しい。なのになぜ、俺がこんなに我慢して、つらい思いをしているのに、こいつらは楽しそうにしてるんだ……おかしいのはこいつらだろ。

 不意に、男が田所に気が付くと、さっさとハンバーガーを口に詰め込み、そそくさと席を立った。

 その背中姿を、田所は最後まで睨みつけていた。

 田所は悟った。最初の頃は、自分が正しいことをすればいいと思っていた。でも、それは違っていた。

 矯正しなければならかった、この日本を。

 正しく生きている人間が、障害なく生きれる社会に。

 

 

 田所がヴィーガンとなって一週間がたった。

 木村の見立てでは、もうやめている頃だったが、ことはさらにひどくなっていった。

『動物の命を守ろう!!』

 昼食時。立教大学の食堂では、受け取り口の隣で、田所がメガホン片手に叫んでいた。

『動物を殺すことはやめ、野菜や穀物を食べよう! 人間とは、長らく植物だけを食べてきた。だから、それが正しい食生活。そうすれば、誰でも健康かつ長生きになります。みなさん、動物を殺すのはやめましょう!』

 そう叫んでいる田所は、頬はこけ、動くたびに足がプルプルと、いまにも倒れそうに震えている。

 健康体には見えない。

「はぁー」

 木村はカレーをスプーンですくいながら、一つため息を漏らす。「まったく、なにをやっているんだか。このままじゃ、空手部の評判が悪くなっちゃいますよ。ただでさえウンコステロイドハゲとパンイチ池沼坊主がいるってことで、変な目で見られてるのに」

「お、そうだな」

 対面に座る三浦が、おにぎり片手にそういった。「ところで、パンイチ池沼坊主って誰のことだゾ?」

「さあ、噂で聞いただけなんで。それよりどうしましょうか。いくとこまでいけば、空手部廃部にもなりかねませんよ」

「さすがにそれは大丈夫――」

『おい! そこぉ!!』

 突然、田所の怒号が飛んだ。『なんだぁそれは! なんだぁそれは!!』

 座っている気弱そうな学生にガンを飛ばし、鼻息荒く迫っている。

『ハンバーグか? ハンバーグなのか!?!? 動物を殺し、その肉をぐっちょぐちょのミンチにして、固めて焼いたハンバークというやつなのか!!?!?! どうしてそんなものが食える! お前の血は何色だ!!!』

「ひぃ! ごめんなさい!」

 学生は机に置いた料理はそのまま、席を立って逃げていった。

「廃部……ありうるゾ」

 三浦はらしくなく、深刻な表情でいった。

「しかし、どうしましょうか。あの状態じゃ、僕らの話なんて聞く耳持たないでしょうし」

「お、そうだな」

「そうだな、じゃなくて三浦さんも、なにか考えてくださいよ」

「空手部において考えるのは木村の役目だゾ。俺はおにぎりを食べるゾ~これ」

 クソ、パンイチ池沼坊主め。

 そう思いながら、木村は手を顎に置いて考える。

「そもそも、どうして田所先輩は急にヴィーガンになったんでしょうか」

「なんか深夜番組みたっていってたゾ」

「やっぱり、そんなことでしたか……なら、ちょっと手伝ってもらえませんか」

 

 

「ふう、今日も動物たちの命をまもったぞ」

 田所はげっそりとしながらも、満足そうにそういって家に帰った。

「ん? なんだこれ」

 カバンを置いて机の上に目をやると〈田所浩二様へ〉と書かれた、少し大きめの茶封筒があった。

 封を開けると、中には一冊の本が入っていた。

「原始食事と体?」

 タイトルにそう書かれた本を、何気なく読んでみると「肉食こそが人間本来の食事? 炭水化物は寿命を縮める? そんな、めちゃくちゃな……」

 1ページ、2ページ。一度読みだすと、手は止まらなかった。

 書かれていたものは、いままで自分が信じ、行ってきたことを、全否定するようなものだった。

 野菜の食べ過ぎは様々な病気を引き起こす。炭水化物は人体に毒。肉を食べれば、人は健康でいられる。

 肉こそ人が食べるもの。他の食べ物は必要ない。

 荒唐無稽な内容だったが、羅列されるなんか小難しくそれっぽい単語と、出所の不明な数字。そして見たことないし、名前も聞いたこともないが、白衣を着ている頭よさげなおっさんの顔写真。

 田所の信仰を変えるには、十分な情報たちだった。

 最後の一ページ。たいしたことの書いていない、著者のプロフィールを何度も読み返し、本を閉じた。

 そのとき、田所は目覚めた。

 

 

 木村が空手部の部室に入ると、奥の畳の部屋で、真っ黒に焼けた上半身をむき出しにし、謎のボディービルダーのようなポージングを窓の外へきめている、田所の背中が見えた。

 うまくいったか。

「どうしたんですか、ポージングなんてきめて」

 木村がそういうと、

「やあ木村! 今日も肉食ってるかい?」 

 田所は振り返り、テカテカの笑顔でそう返す。

「適量食べてますよ。田所先輩はヴィーガンだから、食べないんじゃないんですか」

「なーにいってるんだよ」

 田所は上腕二頭筋をアピールしながら首を横に振った。「やっぱり人は肉だよ、肉。肉食べなきゃ生きられないだろ。だから生き物たちに感謝しつつ、今日もステーキを食べるのさ。炭水化物なんてクソだよ、クソ」

「そうですか。三浦さん、ちょっと」

 木村は三浦を、部室の外へ連れ出した。「どうやら効果あったみたいですね」

 木村は昨日、原始食の本を田所に渡すよう、頼んでいた。

「お、そうだな。家に忍び込んで本を置いといたかいがあったぜ」

「あの……別に忍び込めとはいってないんですけど、まあいいです。ともかく、これで当面は大丈夫でしょう」

「当面? これで問題解決じゃないのかゾ」

「無理ですよ。どうせ田所先輩のことですから、また体調崩してイライラしだして、周りの人間に強要するに決まってますよ」

「お、そうだな」

「バカみたいに同じ言葉で返答するのやめてください」

「ポッチャマ……」

 しょんぼりする三浦に、木村は続ける。

「ともかくですね、数日後、またさらに作戦を勧めます……次は――」

 

 

 4日後。

 

 

「ゲホ……ゲホゲホ」

 顔色を悪くした田所は、咳をしながら学校から家へと戻った。

 最近、とても体調が悪い。頭がぼーっとするし、体がだるく便も中々でない。

「な、なんでだ……ちゃんと肉を食べているのに」

 フラフラになりながらも自室に入り、バックを置いたとき、机の上にまた〈田所浩二様へ〉と書かれた封筒があった。

 封を開けると、一冊の本が入っていた。

「断食と悟り?」

 

 ――中略――

 

田所は目覚めた。

 

「人に必要なのは神へと信仰……そして愛。それさえれば、食事など必要ないのです」

 木村が入ってすぐ、畳の部屋で胡坐をかき、菩薩像(ぼさつぞう)を思わせる顔立ちをしている田所は、食の何たるかを語った。

「そうですか、すごいですね」

 感情の欠片もこもってない声で、木村はいった。

「大したことではない……ただ、人がいくべき場所にいっただけのこと。木村も、神を探求すすればいずれたどり着くだろう」

「へえ、楽しみにしときますよ」

「おい、木村木村」

 三浦が名を呼び、部室の外へと連れ出す。「あれ、田所は大丈夫なのか。なんか、取り返しのつかないことになってるきがするゾ」

「安心してください、もうすぐ元に戻りますよ……最悪の場合、死ぬかもしれませんけど」

「えぇ……」

 

 

 休日の朝。断食も3日目に差し掛かっていた田所は、太陽の光のもと、屋上で座禅を組んでいた。

 空腹感はもうほとんどない。常に体は軽く、頭の中が鮮明だ。

 神の境地を感じながら、田所は幸福を感受していた。

 その状態のまま、3時間が過ぎたころ、頭の奥が燃え上がるような痛みを感じた。

「あっつ……な、なんだこれは」

 痛みにもだえると、突然、地震が起こった。足元がぐらつき、同時に視界に入るすべてがぐにゃぐにゃになる。

 心臓が爆発音と思えるほどの音を上げ、動機が止まらなくなってくる。

 ふと、空から閃光が降ってきた。

 顔を上げると、逆光の中、三人の黒い影がゆっくりと田所へと降りてくる。

 瞬時に、田所は悟った。自分の置かれた状況と、影の主を。

 そうか、俺はこれたのだな。

「ついに……あなたの元へと」

 

 

 目を開くと、病室の天井が映った。

「……えっ」

 あれ……神は……真の信仰者が行ける、ホモハーレム天国はどこに。

「やっと目がさめましたか」

 声がして、顔を横に向けると、木村と三浦が隣になっていた。

「木村ぁ、み、三浦さん……俺はいったい」

「家の屋上で倒れていたんですよ」

 木村は淡々と、田所が起きたことを説明する。「栄養失調です」

「え、栄養失調」

 神を信じる者として、あり得ない出来事だった。信仰が確かなら、そんなことにはならないはずだ。だが、いまの田所は冷静にその現状を理解し、受け止めていた。

「おにぎり食べるか? おいしいゾ~これ」

 三角のおにぎりを持った右手を、三浦は前に出した。

 池沼坊主のなにを触ったかわからない手から受け取るのは少々、不安だったが、とてつもなく腹が減っていた田所は、それを受け取り、一口すると。

「うっ……う――」

 うまい。

 その言葉すら発するのも忘れて、田所はおにぎりをむさぼった。

「そんなに美味いなら、もう一つ――」

 三浦がカバンからもう一つのおにぎりを取り出そうとすると、田所はそれを奪い取るようにつかむみ、口の中に入れ、すぐに飲み込んだ。

「はあ、はあ……うまい」

 田所は肩で息をしながらそういった。「おにぎりってこんなにうまかったのか」

「当然ですよ、ここ2週間、まったく糖分を撮ってなかったんですから。それより田所先輩、もう偏食はこりましたか」

「ああ。人間の体に必要なエネルギーはたくさんあって、どれかが極端に不足したり、また過剰にとったりしていたら、体を壊す。ちゃんと様々な栄養素を、バランスよく食すのが健康にとって一番いいことだし、偏食するにしても、必ず専門知識を持ってやるべきなんだな」

「なんか妙に物分かりがいいのがちょっと怖いですけど、まあその通りです」

「いや、本当にバカなことしてたよ。いますぐ家に帰って、母親の作ったキャベツたっぷり添えたハンバーグを、米と一緒に食べたい」

「それは無理ですね、先輩のご両親は出て行きましたから」 

「ファ!?」

 衝撃の事実に、田所は思わず声を上げる。「ちょっと、どういうことだよ。変な冗談はやめてくれよ」

「冗談じゃないですよ。いままでクソみたいな偏食を強要していたのは、先輩じゃないですか。よく我慢した方ですよ。先輩が気を失ってチャンスと思ったんでしょう、夜逃げのような速さで消えましたよ」

「えぇ……じゃあ、俺は明日からどうすれば」

「ちなみに、病院からも入院費の請求が来ています。1919万円です」

「高スギィ!」

「まあ、ここの病院はぼったくることで有名ですから」

「なんでそんな病院に入院させたんだよ」

「さあ。ご両親に聞いてください」

「あ、そうだ」

 と三浦。「ちなみに田所の家は昨日、放火にあって全焼したゾ」

「ファ!? なんで放火なんかに会うんだよ」

「あれですよ、ヴィーガンです。先輩、急にやめた上に、肉食になったでしょ。だから先輩はヴィーガン達から命を狙われてるんですよ」

「ちなみに原人食もやめたから、アメリカ全土のネイティブアメリカンから狙われてるゾ」

「狙われスギィ! 死ぬ、し、死ぬ……ンアァー!!」

「じゃあ俺たちはもういくゾ」

「先輩、頑張ってください」

 二人は背中を見せ、病室の出口に向かっていく。

「ちょっと待ってくださいよ~。助けてくれよなぁ~頼むよ~。木村ぁー! 三浦さーん!」

 二人はちらりとも田所の方を振り向かず、病室から出て行った。

「酷い……酷過ぎるだろ。俺がなにしたっていうんだ……うぅ」

 ともかく、病院を退院しないと。それと、ヴィーガンとネイティブアメリカンのためにボディーガードも雇わないと。

 そのためには……。

 

 

「じゃあまず、年齢を教えてくれるかな」

 ガンボリア宮殿の一室、カメラを回したバッドマンは、黒いソファーに座る田所へ質問した。

「24歳です」

「24歳? もう働いてるの?」

「学生です」

「学生? あ、ふーん」




*本作は浅い知識で偏食を行うもの、そしてそれを他者に強要するものを揶揄した娯楽小説であり、ヴィーガンを侮蔑する意図はありません。
そして、僕は兜合わせがだいすきです。

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