我、魔法科高校ニテ教鞭ヲ執ル   作:HBata

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第九話

 

 

 それ以降、一途の周りでは特に大きな問題はなかった。

 

 時代錯誤の決闘まがいの模擬戦のような知らせはない。一科生と二科生による馬鹿馬鹿しい諍いもない。

 

 ただ両者の間に壁があり、両者が互いに差別を行うだけのいつも通りの第一高校があった。

 

 一週間ほど粛々と授業が行われた第一高校であったが、そんな彼らの鬱憤を晴らすかのようにお祭りのようなバカ騒ぎが始まったのであった。

 

 各部活動・クラブによる新入部員の獲得及びデモンストレーションが行われる新入部員獲得期間。

 

 多くの在校生が優秀な新入部員を獲得しようと躍起になる中、教員のする事はいつも通りだ。一科生の生徒に物を教えるだけだ。

 

 その現状に一途は早速嫌気がさしていた。だがここに勤めろと言ったのはスカサハの指示の元である。彼にとってスカサハとは愛すべき女性であると同時に敬愛すべき師でもあり、そんな彼女がやれと言ったことには基本的に一途は一も二もなく従ってしまう。

 

 惚れた弱みというものかもしれないがこの関係は客観的に見て奴隷と主人のようなものを感じさせるほど一方的に、そして盲目的に一途はスカサハを奉り愛していた。

 

 

 

 第一高校で馬鹿騒ぎが行われている中、一途は一目散に帰宅していた。1日にやる事は終わった。ならばこんな所にいる必要はないと、最寄りの駅までの道を早足で移動しながら一途は自身を取り巻く現状をどうするのか頭を悩ませていた。

 

 街並みはいつも通り活気に満ちているが、彼を尾行する数人が紛れ込んでいた。手練れだがスカサハに鍛え上げられた一途にとって自身に視線を向ける者や悪意を持つ者には敏感で容易く気づくことができる。

 

 そしてその中に女がいるのが一途の頭を更に悩ませていた。

 

 女だからと一途は侮るつもりは毛頭ない。それはスカサハを侮ることと同義であるからだ。現に女の隠形は素晴らしく、周囲に溶け込みその姿形は周りからは見えないほど。

 

 だが、一途には女の技を賞賛している暇はない。なぜなら尾行している者たちの目的は一途の先、スカサハであるからだ。

 

 東京の郊外にあるスカサハの館。

 

 巷では”幽霊屋敷”などと言われる場所で、出入りする唯一の存在がスカサハ以外に一途だけの事から尾行しようとしている者は館の実態を探ろうとしているのが容易に分かる。

 

 館の実状は建築された当時から不明。だからこそ知りたいのが人情というもの。

 

 駅にたどり着いた一途はスカサハに電話をする。コールは三回、スカサハはすぐに出てきた。

 

 

『ど、どうした?!』

 

「すみません。今、忙しかったですか?」

 

『いや! ……なんでもない……それで、何の用だ?』

 

「? まぁ、少し厄介ごとに巻き込まれまして……端的に言って尾行されてます。十中八九オレではなく、館と師匠の実態を知ろうっていう魂胆かと……」

 

『なるほど……転移させたほうが良いか? 何なら亡霊を向かわせて刈り取るか……私が仕留めても良いが?』

 

「いえ、穏便に済ませましょう。もう一度電話するのでその時に転移で拾ってくだされば助かります」

 

『あぁ……だがしばし待て! いいな! 女に恥をかかせるでないぞ!? いいな!?』

 

「は、はぁ……分かりました」

 

 

 なにやら電話越しからスカサハの激しい剣幕が一途の耳を打った。一体何事かと一途は思うも師の言いつけならばと、しばらく時間を潰そうと駅のホームの備え付けのベンチに座りタブレット型の端末を開きながらも足を小さく動かし床にルーンを描いた。

 

 複数のルーンを並べ、そこに隠蔽という意味を持つルーンの加護を発生させ一途は姿をその場に溶け込ませ、尾行してきた者達から目を眩ませた。数人の男達が辺りを窺う中で、尾行の女がただ一人静かな動きで一途が姿をくらませた場所から視線をずらさなかった。

 

 事実、女の読みは鋭く正確であった。

 

 一途のルーンの腕前はそれほどではない。スカサハであったなら高速で動いていても姿を隠蔽させられるほどのルーンの腕前だが、一途の場合動けばそれだけで効果が大きく減衰してしまう。その為一途は動くにも動けない現状であった。

 

 幾らかの時間が経った中、一途は頃合いと判断し、スカサハへと再びコールする。その瞬間一途の張った隠蔽のルーンは効果を消失し、男たちは慌てて一途を確保しようと足早に詰め寄ってきたが時は既に遅し。原初のルーンを手繰るスカサハのルーン魔術が一途を包み込み、彼は駅構内から姿を消した。

 

 転移魔術と高度な隠蔽は男達はおろか一途の姿を一瞬だけ世界から消失させるほどで、その結果一途は大胆不敵に追手から逃げおおせたのであった。

 

 

 

 

「手間を掛けさせてくれるな一途よ。全く……儂がいなければなにも出来ないではないか……ふふん」

 

「お手数をかけてしまって申し訳ありません師匠。ただ……一ついいですか?」

 

「む、なんだ? 儂の魅力に当てられたのか? 良いぞ。ケルトの男はそうでなくてはな」

 

「いや、オレはケルトの男ではないのだが……まぁいい。それで、何故、オレの服を着ているのか、説明してくれないか?」

 

「ぎくっ……こ、断るっ」

 

「はぁ。まさかとは思うがそれで——とは思うまいよ。ん?」

 

「女に恥をかかせるなと言うたばかりだと——きゃっ!? な、何をするこの馬鹿弟子めっ!」

 

「まぁ良いではないか。さて……月並みな台詞しか言えないが今夜は寝かせないとするよ。オレのスカサハ(ぱらいぞ)

 

「……この、馬鹿弟子めが……格好つけよってからに」

 

 

 

 

 

 

「——はい……逃げられました」

 

『そうですか。では引き続き調査をお願いします小野特別捜査官。良いですか? 多少強引でもターゲットから情報を引き出してください。あのターゲットのみが唯一、あの建造物の主人に繋がっているのですから』

 

「……はい。——はぁ……とは言ってもどうすれば良いのよ……。相手が突如姿を消すなんてそんなデタラメ、どう対処すれば良いのよ……」

 

 

 第一高校の総合カウンセラーであり公安組織の特別捜査官である小野遥はため息をついて、カフェでコーヒーを飲みながら頭を悩ませてその愛らしい顔に渋面を作っていた。

 

 小野遥は公安の特別捜査官とはいえその立場は彼女が好き好んで得た立場ではない。ほんの出来心からの行動が彼女に不本意な立場に縛り付けてしまったのだ。

 

 

「隠蔽……はSB魔法と仮定してもそれはおかしいわね。だって彼の能力値は優秀な魔法演算能力を備えていると見て間違いはないし……それは資料から分かる。でも転移って……そんなデタラメほんとどうすれば良いのよ……」

 

 

 コーヒーは甘めに作っていたはずだが小野遥にはとても苦く感じられた。ため息しか出ないこの厄介ごとだが、隠密の魔法が並み居る魔法師よりも歪なほどに特化している遥の隠密のSB魔法こそ尾行に最適なのもまた事実であった。

 

 

「でも……気づいてたわよねぇアレ」

 

 

 思わず机の上に突っ伏してしまったアラサー手前の総合カウンセラー。前途多難な小野遥。ターゲットが恋人と甘い蜜月を送っているのも知らずに盛大に頭を悩ませ、知恵を捻っていたのであった。

 

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