我、魔法科高校ニテ教鞭ヲ執ル   作:HBata

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第十話

 

 

 クラブ活動収入部員勧誘期間が過ぎ去った第一高校はお祭りのようなバカ騒ぎが過ぎ去り本来の静けさを取り戻していたが、一途を取り巻く現状は平穏とは言い難かった。

 

 帰宅を狙い尾行してくる何人もの男たち。それは一途が逃げ果せれば逃げ果せるほどに人数は増え、包囲網は狭くなっていった。

 

 スカサハに頼りっきりという現状。スカサハは一途に頼られるという事になんやかんや言いながらも気分を良くしていたが、流石に毎日これではいかんとして打開策を考えたが脳筋ケルト戦士が集まっても文殊の知恵とは行かず、こうなれば正面突破だという結論に至る。

 

 

「というわけで小野先生。尾行をやめて頂けませんか?」

 

「……えぇっとぉ、一体何のことですか求道先生? 私には一体なんのことだかさっぱりで——」

 

「しらばっくれるのも大概にして下さい小野先生。先生が自分をここ一週間に渡って尾行していることはバレバレです。どうやら先生は隠密に際して驚くほど高い魔法力をお持ちのようですが、技術が急造ですので気づいてくれと言わんばかりです」

 

「九重先生に教えを賜ったのに急造とは……いや確かにそんなに習ってはないけどこれはショック、ヨヨヨ……チラっ?」

 

「泣き落としなど自分には一切通じませんのでご安心を。これでも配慮しています。腕の一本や二本貰おうと思いましたが辞めていただけるのであればこれで手打ちといたします。手荒な真似はいたしません」

 

「またまたご冗談を、腕の一本や二本って……本気ですか?」

 

「本気です。私にとって倫理や道徳は確かに重視せねばならない物ですが、師との生活を脅かすのであれば誰であっても排除致します。こうして共に同じ職場についているので、出来れば自分も小野先生を殺したくはありません。如何しますか?」

 

 

 真正面から殺すと言われ遥は一途の言葉を冗談とそう取りたかったが、あまりに変わらぬ表情で言われた事によって真顔でこんなことを言えるのかと戦慄を覚え、この案件は本気で退くべきなのではと考え込んでしまうほど。

 

 遥にとって公安組織に従っているのは不本意極まりないことだがこれは彼女の過去の罪状をもみ消すための”協力”となっている。その為トカゲの尻尾切りのように遥を切り捨てる事も公安組織は可能なのだ。

 

 フェアとは言い難いこの関係性。遥は目を回しながら必死になって考えて、ジッと一途の一挙手一投足を観察する。

 

 

「小野先生、ご決断を」

 

 

 一途の表情に変化はない。驚くほどに変化はない。だがその目の輝きを見てしまって、遥は一途が本気だと否応無しに気付かされた。

 

 

「……私には手を出さないのね?」

 

「えぇ。これは約束です。師の教えの中に誇りあるアルスターの戦士は約束を違えないというものがあります。自分も師の教えを授かった者として、約束を違えませんし小野先生を傷つけるようなことは一切しません。その代わり、小野先生は自分の身辺調査から全面的に手を引いてください」

 

「求道先生にとって、よっぽど大切なお師匠様なんですね」

 

「えぇ、敬愛し奉るに相応しくいつまでもそばに居たいの思える愛しい人です」

 

「……そういう惚気はいりませんから……はぁ、上司になんて言ったらいいのかしら」

 

「私に脅迫されて仕方なくと言えばよろしいかと」

 

「いいの? こう言っては何だけど貴方の立場が更に悪くなるだけだと思うんだけど」

 

「構いません。そうすれば小野先生のお立場は守られるでしょう?」

 

 

 容易く遥の殺害を口にする狂気と、遥の立場の安否を慮る善良さ。長く人を観察してきたカウンセラーとしての遥の直感としてどちらも正しく求道一途だと見抜いた彼女はため息を再びついた。

 

 

 

 

 

 

 小野遥に対して脅迫もとい警告に来た一途であったがその後は少々残ることはあれどすぐさま帰宅する事にした。肩掛けカバンを手に取って今日も今日とて尾行されるのかと嫌気がさすのを感じていたが、後ろから早足で駆け寄ってくる気配がある事に気づく。

 

 

「求道先生、今お帰りですか?」

 

「えぇ、司波さんは生徒会の用事ですか?」

 

「はい。生徒会の備品を買ってくるお仕事があります。もしよろしければ途中までですがご一緒しませんか、求道先生」

 

「それは感心ですね。いいでしょう。自分でよければ途中まで付き添わせていただきますよ」

 

「はい! それではよろしくお願いしますね。ふふっ」

 

 

 深雪の喜びから生まれた花のような笑顔は下校しようとした生徒が思わず惚けて立ち止まってしまうほどの破壊力であったが、一途にはとんと効果が無く、彼は薄く微笑むと深雪を先導するように半歩前に出て歩いていく。

 

 少女である深雪に歩幅を合わせる気遣い。それが深雪の心を晴れやかにした。歩幅を合わせるという行動はなかなかできるようで出来ないもので、しかもそれはさりげなくごく自然な動きで行われた。

 

 だからこそ深雪は嬉しく、それ以上にもどかしく悲しかった。

 

 だってそれは、一途という男が女性のエスコートに慣れているという何よりの証拠であったからだ。

 

 

「司波さん、どうかしましたか」

 

「……いえ、ひどく個人的な事です。求道先生のお手を煩わせることはありません……」

 

「その物言いは何かあると言っているようなものですが……貴女が良いと言われるのであれば自分は聞いていない事にします」

 

「……ありがとう、ございます」

 

「おや? 自分は何も聞いていません。それなのに礼を言うのは筋違いですよ司波さん」

 

「ふふっ、そうですね」

 

 

 そうしてたわいもない内容を話していく二人であったがそんな二人を尾行する男達。彼らは一途を尾行しているのだがその狙いは深雪にも及びかけていた。

 

 東京郊外に存在する謎の館。それにつながる唯一の手がかりが求道一途であり、その彼の交友関係にまで手が及ぶのは確かに道理に適っている。

 

 

「求道先生、尾行されていますが……?」

 

「分かっています。彼らは私を、その先を狙っています。司波さんに迷惑を掛けたくはなかったのですが……こうなっては仕方がありませんね」

 

 

 目的の店にたどり着いた深雪は一途の方に顔を向けることなく静かに尾行されていると告げ、一途は眉をしかめ面倒臭そうに背後へと意識を向けて振り返ることはない。尾行というものに随分と手慣れた二人は示し合せることはなく行動を開始する。

 

 深雪は備品を買いに行動し、一途は小さなメモ用紙にルーンの文字を書き連ねていく。それは暗示の魔術で無意識を一途に向けさせる魔術だ。

 

 

「これは?」

 

「暗示の魔術です。それを持っていてください。あの男達の意識を自分に逸らしてくれます」

 

「魔術……魔法とは違うのですね?」

 

「良い所に気がついた。さすがですね」

 

 

 そして外に出た二人に対して視線は全く別の場所を、二人を見失ったなかったかの様に、さも二人が見えないかの様に視線が彷徨った。魔術というもの未知に深雪は興奮を隠し切れそうになかったが、そこは何年も被ってきた淑女の仮面が勝り、深雪は無事に乗り切ることができた。

 

 

「!? 求道先生、キャストジャミングです!」

 

 

 さぁ帰ろう時になって深雪は何事かに気づいたように顔を上げて暗い路地裏の方へと一目散に走っていく。一途の行動も早く、一足で深雪を追い越し二歩目で路地裏に侵入。第一高校の制服を着た三人の女子生徒にナイフを振りかぶろうとしていた男の腕を弾く。

 

 

「何者っ!?」

 

「こいつも魔法師だ! キャストジャミングを使え!」

 

 

 一定の秩序をもって放たれる想子の波。それは全ての魔法師を苦しめ、魔法の発動を阻害する、わかりやすくいうと妨害電波の様なモノだが求道一途という男に、影の国の女王たるスカサハに鍛えら上げられた一途に非魔法師のキャストジャミングなど通用しない。

 

 ナイフが路地裏の壁にぶつかり転げ落ちる。その刹那にも満たない時間の間に、一途の俊足は瞬く間に四人の男達を一撃のもとにダウンさせた。

 

 

「求道先生! この人たちに心当たりはありますか?」

 

「ないですね……おっと、君達は無事ですか? 怪我は?」

 

 

 苦しげに頭を押さえていた三人の少女達に手を差し伸べた一途。だが少女達にとって直前まで謎の男達に襲われていたのがあり、大人の男である一途も恐怖の対象であった。

 

 そのため彼女達の安堵を引き出したのは一途ではなく遅れて駆けつけてきた深雪である。

 

 

「さて……この暴漢達をどうしますか自分としては公安組織に連絡しても問題は……いえ問題だらけですね。あまり取りたくない手なのですが——司波さん。彼女たちを連れて先に戻っておいてください」

 

「!? 何を……なさるおつもりですか? 求道先生……」

 

「貴女が知らなくても良いことです」

 

「…………では、私の方の伝手で対処させていただきますがよろしいですか?」

 

 

 意を決したように一途に対して譲らない意志を見せた深雪。

 

 深雪は一途の言わんとしている事が理解できた。彼はこの者たちを秘密裏に処理という名目で殺害しようとしていると。それは単純に邪魔だという理由で、自身の生活と深雪たちの事情、そして第一高校の生徒たちの安全を図るという理由で。

 

 

「ふむ。その伝手は――あぁ、手を煩わせてしまうとはオレもまだまだ未熟か……」

 

 

 一途は困ったように笑みを浮かべて深雪に問いかけて——そこで頭を掻いて普段は絶対に見せない素を深雪たちに見せた。

 

 

「何をやっている」

 

 

 その声は冷たく、寒気がするほどに美しい。

 

 深雪は思わず背中に氷柱を差し込まれてしまうようなものを感じてしまい、恐る恐る振り返る。

 

 そこには死の女神がいた。

 

 

「一途よ。私が自ら迎えにきてやったぞ」

 

「……たく、オレが連絡しなかっただけで来ないでくださいよ師匠……」

 

「うるさい! この馬鹿弟子が! 女を侍らせおって……浮気かこの馬鹿者!」

 

「いや、違う! オレは浮気など——」

 

「黙れ黙れ! この馬鹿弟子が! どこかで知った必殺の、一夫多妻去勢拳!!!」

 

 

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