我、魔法科高校ニテ教鞭ヲ執ル   作:HBata

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第二話

 魔法科第一高校入学式翌日、求道一途は慣れ親しんだ戦装束ではなく堅苦しいスーツを着込み、先輩教員である中年の男性の百舌谷(もずや)の後をついて目的の場所まで向かっていた。

 

 

「どうですか求道先生。この第一高校は?」

 

「総じて良いんじゃないでしょうか? 1-Aのクラスしか見ていませんが皆、向上心が高いようですし学生として意欲が高いのは良い事でしょう」

 

「成る程、確かに意欲が高いのは学生として望ましい。求道先生は目の付け所が良いですね」

 

「それはどうも」

 

 

 先輩教員と新参の教員の会話ならこのようなものだろう。

 

 廊下を歩く二人の教員は時間を気にしながら目的地に向かう。この後、教員同伴の解説付き授業見学を目当てとする一科生の新入生が来るはずだ。その手筈を整えておかねばならない。

 

 

「ただ、どうにも足元がお留守なのは気になりますね」

 

「足元がお留守? それは一体どう言う事でしょうか?」

 

「それは百舌谷先生も気づいているんじゃないですか? 彼らの自信は最早過信です。そうなれば容易く足元から瓦解する」

 

 

 目的地である実験棟一階ロビーで立ち止まった二人。百舌谷は興味深そうに一途へと視線を向けるがそれに気づいているのかいないのか彼はじっと廊下の先に視線を向けたままだ。

 

 一途の姿勢は伏し目がちで黒ぶちの眼鏡でその視線はひどく分かりづらい。だが百舌谷はその態度を失礼なものとは取らずに彼の言葉に感じ入ったように顎に手を当てて何かを考え込む。

 

 

「……では、求道先生はそんな彼らの過信をどのように正すおつもりですか?」

 

「別に何もしませんよ。次第に彼ら自身自覚するでしょう。仮に自分が何かを言ったところで所詮は他人の言葉でしかない。彼ら自身が自覚しなければ意味が無いし実にならない」

 

「ふむ。どうやら求道先生は実践的な思考のお持ちのようだ」

 

「百舌谷先生。それよりも一科生の生徒が集まってき始めたようですよ」

 

「あぁ、では集まり次第演習室に入りましょうか」

 

「分かりました」

 

 

 1-Aの生徒が数多く集まって来た中で、一途はその集団の中から自身に向けられる視線を自覚した。

 

 視線の主は司波深雪であった。

 

 一瞬だけ向けた一途の視線であったが、彼女は目敏く気づいたようで小さく、だが確かに頭を下げて黙礼をする。それに対して一途は黙礼を返した。

 

 

「おや? 司波さんとはお知り合いですか?」

 

「顔見知り、程度の関係です。えこ贔屓などしませんのでご安心を」

 

「それは結構。しかし彼女は贔屓しなくとも優秀なので、ある意味贔屓しがいの無い生徒かもしれませんね」

 

「それは……確かにそうですね。彼女は、新入生総代ですから」

 

 

 百舌谷はそれ以上とやかく問わなかった。それ以上に授業見学の時間は察し迫っており、解説をしなければならない。彼自身次の授業を担当しなければならないので彼ら新入生にばかりかまけている余裕はないのだ。

 

 一途が開けた扉に従って百舌谷と一科生たちが続く。

 

 広いスペースの向かいの壁にガラス張りで階下の光景が見える。

 

 そこからは端末型のCADを手にとって、放射系統の魔法を駆使し空中放電をしている三年生の姿が見える。

 

 基礎的な魔法とはいえその規模と事象の改変力を魔法師の感覚として感じ取り、興奮の声を上げる一科生の新入生たちであったが百舌谷のジェスチャーによってすぐさま静かになる。

 

 魔法を使用している最中は、使用者の集中を乱さぬように大きな声を出さない、と言うのが既に彼らの中に叩き込まれているからである。

 

 

「ここでは放出系統の魔法の基礎を学ぶ授業をしています」

 

 

 そう言って百舌谷と解説に入ると、一科生たちは真剣な顔つきとなって耳を澄ます。

 

 

「摩擦によらずに静電気を発生させて、空中放電で帯電状態を解消すると言う実験です。例えば……冬場の鉄製のドアノブなど静電気が溜まっていますよね? 手で触れればそこから静電気が流れ込んでしまいます。それを魔法で解消していると考えれば身近に考えやすいでしょうね」

 

 

 その説明は確かに彼らに身近なものであったようで微笑みさえ浮かべている者さえいたが、気をぬくには早い。百舌谷は集団を見渡しながら口を開いた。

 

 

「それでは理解も深まったようで、皆さんの中で放出系統の魔法について説明できる人はいますか?」

 

 

 ざわめく集団。それは彼らが質問をされるとはとんと頭に無かったようでその焦りようが容易く見てとれるほどだ。

 

 百舌谷はその心構えに苦笑いを浮かべつつも、その認識の甘さを正すべくこうして質問を投げかけることで新入生の気を引き締めようとしたのだ。

 

 

「求道先生、説明をお願いできますか?」

 

「放射線に作用する魔法で、正確にはこれ以上分けられない物である素粒子と、素粒子の複合体である複合粒子の運動と相互作用に干渉・作用し操作する魔法です」

 

「さすがに担当科目の分野ですしこれくらいはお手の物の様ですね。皆さん、求道先生の説明を聞いていましたか? 求道先生の授業で扱うことになる内容ですのでしっかりと復習しておいてください。それでは次の実験を見ていきましょう」

 

 

 百舌谷(もずや)は纏めると次の内容について解説していく。そして時間は経過していき授業見学は終わりを迎えた。

 

 

「それでは次の授業で私は席を外しますので、求道先生が解説をして下さいます。午後からの見学は13時40分から行われますので希望者は校庭側の実技棟入り口に集合するように。それでは求道先生、午後からよろしくお願いします」

 

「分かりました。それでは解散して下さい」

 

『ありがとうございました』

 

 

 授業見学は終わり、百舌谷から簡易的な説明を受け終わった一途が昼食をとろうと実技棟から出ようとして足を踏み出した時、側に深雪の姿があった。

 

 

「求道先生、お疲れ様でした。この後のご予定をお聞きしてもよろしいですか?」

 

 

 微笑みかける深雪はかくも美しく、彼女の動向に気を配っていた一科生は皆その笑顔に心を射止められてしまったが、その笑顔を向けられている存在が冴えない男性教員と言うのが立腹の原因となり男子生徒から厳しい視線が一途に向けられた。

 

 

「昼食をとった後に午後からの見学の打ち合わせに行こうかと」

 

「そうですか……もしご都合がよろしければ一緒に昼食は如何ですか?」

 

 

 新入生総代、司波深雪からの直接のアプローチ。

 

 それがまた授業時とは別種の興奮を生徒に与えた。

 

 

「兄も、求道先生にお会いしたいと……どうでしょうか?」

 

「兄? あぁ、少年か……確かに会っておくのがいいか……分かりました。昼食を職員室に取りにいくので先にお兄さんを呼んでいてくれますか?」

 

「はい! 兄は食堂にいると思いますので私も食堂の方でお待ちしております!」

 

「分かりました。それでは後ほど」

 

 

 多くの冷ややかな視線を集めながら一途は実技棟から退室する。その背を、ニコニコと深雪が見守っていた。

 

 

 

 

 

 第一高校内にある教員・生徒が食事をとることができる食堂で三年ぶりに二人の男は再会した。

 

 一人は幼い少年から精悍な少年に変化していた。

 

 

「お久しぶりです、求道先生……」

 

 

 男は、瞳に鋭さと力強さが増していた。

 

 

「あぁ。久しぶりだな少年。どうやら——心の置き場所はしっかりと意識できているようだ」

 

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